別れと出会いのアルコール事変
コインホルダーからシュシュシュとコインを取り外すと、自動販売機へカチャリ、カチャリ、カチャリと投下をしていく。シンと静まる空間での行動は、一つ一つがヤケに大きく聞こえてしまう。
こんな薄暗い通りにある自動販売機まで出向いたにはちょっとした訳がある。
「すみませーん、ちょっとアルコールコーナーは閉鎖中でーす」
「あっ、そう……んなっ!? なんでなんですか店員さん!? わざわざ寒空の中来たお客様ですよ!?」
「えーそう言われましてもー当店の決まりですのでー」
「去年まで、そんな規制も何も無かったじゃなの!? 何、天変地異でも起きちゃった訳? それとも何、アタシに対する嫌がらせ、ええ?」
「今年からみたいですよー。後、他のお客様の邪魔になるので何も買わないなら騒がずお帰り下さいませ」
「へっ、こんな時期にバイトたぁ、寂しい奴だなぁ! ハハッ!」
「あっ、ミッちゃん! もうすぐシフト終わるだろ? 店前で待ってるからね」
「うんっ!」
ブンブンと手を振り合う二人を交互に見る。
「あっ、こんな時期にお酒をお売りできなくて、ごめんなさいねー。てんちょー、そろそろあがりまーす」
「おーう、お疲れさん」
「お待たせぇ……」
うん、このコンビニは二度と来てやらねぇ、アタシはそう心の中で誓い次なる一手を模索する。
「本当、スマホって便利よね……はぁ」
思わず吐くため息がふわりと白く輝き、消えてゆく。コンビニのライトを背後に、アルコールを販売している場所をサーチしていく。
おっ、あったあった。
アイコンが指す場所はここから徒歩三分程の歩道である。
地図アプリでどんな場所か確認すると、酒屋とその隣に設置された自動販売機が表示される。
こんな近場に酒屋があったんだ。ちょっと行ってみますか。
こうして訪れたこの場所が、薄暗い通りにある自動販売機前ってわけで。
酒屋はシャッターを下ろし、今日はあいてないようだったけどこの自動販売機が稼働してくれていて本当に助かった。
ホント、アタシを放って仕事だ飲み会だの、本当にアイツはわかってない。こっちから願い下げだし! アーモゥ! こんな時は飲むしか無いじゃない!?
半年間も相手の性格に気づけなかったアタシは本当にどうかしていたわ、恋は盲目なんて鼻で笑っていた頃の私に言い聞かせてやりたいわ、盲目になっている事すら気が付けないから注意してって!
手に取ったビール缶のプルタブを開けると、一気に喉へとその魅惑の液体を流し込んでいく。
シュワリとした刺激が、そのまま問答無用に喉を通り、胃の中へと堕ちていく。
普段飲まないアタシが、こんな道端でビールを飲むなんて思いもしなかった。目に涙が溜まるが、これは飲み慣れないアルコールをいれたことで、ちょっと苦くて涙が出ただけ。
決してアイツの事を思い出しての事じゃないんだから。
「うー、苦いし寒いし……アタシ、何やってんだろう」
自室では今頃、煌々と輝く明かりの中、テーブルに置かれたホールケーキとハーブティ、チキンや自家製ポテサラとか、他にも沢山用意したアレやこれやが机を占拠して、トドメのプレゼントボックスをテーブル下へ仕込んで準備万端! 後は帰りを待つだけだわ、えっへんとテンションをあげて待機しているハズだったのに。
「あー、今日はシゴト遅くなるわ。後、飯もこっちで済ませるから」
「ちょっと!? 何いってんのアンタ! 遅くなっても良いから、アタシのうち来るんでしょ?」
「いや、でももう約束しちまったし?」
「サイッテェ! 何? 馬鹿なの? 何でそんな事当日に言うの? アタシとの約束」
「会議始まるから、それじゃ!」
「あっ、こら・・・」
無情にも途切れる連絡。
スグに連絡をいれるも、繋がらない。
コレはアレか? ブロックされた という現象なのでは? そんなまさか、そう思い何度もコールを試みるが繋がらない。
「何よ、それ……」
最低......
さんざん涙を流し、それでもお腹は減り。
でも、テーブルの上の物は全てゴミ袋へ投げ入れ既に処分した。
アイツが残していった歯ブラシとかも一緒に捨ててやった。
煌々と輝く部屋の明かりだけが、無機質な部屋とアタシを照らし続けていた。
過去に数回しか飲んだことのないアルコールが、無性に飲みたくなった。
全て忘れてやる、忘れてやるっ!
「飲んでも、呑んでも何も忘れないじゃん……」
時刻は既に23時を過ぎている。
こんな最低なクリスマスイヴは人生で初めてだ。
一缶目を飲み干すと、更にコインを投入して二本目を購入。
何も忘れられないのは、きっと何の特殊な表記が無いアルコールだったからに違いない。
だから、アタシはもっと酔えそうな、何もかも忘れてしまえそうなストロングと書かれたパッケージのアルコールを購入した。
ビールの方がきっとアルコールは強いのだろうけど、アタシは何も知らないまま巨峰のストロング缶を開封した。
「クッ、クッ、クッ」
喉を小刻みに焼きながら通っていく巨峰の香りに、アタシは何だか少しだけ気持ちが穏やかになった、そんな気がした。何だか立っているのもめんどくさい、何もかも嫌になってきた。
「はぁ、本当に最低……」
そして二口目をつけた時、世界の色が変わった。
いや、正確には世界がグルリと回転したかと思うと、薄暗い景色が一転晴れた青空が私の瞼を照らしていた。
「あ、ぅ、痛い、、、」
体中が痛い、頭も痛い。
気分は下の下の下。
一体全体、私は何故外で青空見ながら寝ているのだろうか?
少し重い体を起こしつつ、頭痛に頭を押さえながら周囲を見渡す。
「あー、そういえば私……」
昨晩の事を思い出そうとするも、不思議な事に何一つ思い浮かばない。
「あれ、何でこんな場所に来たんだったかしら。うぅ、頭が割れそう」
思考を放棄して、一旦頭の痛みが治まるまで体育座りで精神を落ち着かせる。
しかし、はて私は一体なんでこんな場所に? そして今日は一体いつ?
思い出せない。思い返せない。
両膝に頭を預け、蹲っていると突然ガシャンと近くで音がする。
「あぅ、いったぁい」
思わず音の元凶に涙目な目線を向けると、そこには水のボトルを握った一人の少年が居た。
「ほら、飲みなよ」
「えっ、貴方何?」
「今頃それを聞くのかよ……それよりほら、先に飲め」
「……いただきます」
コクッ、コクッ、コクッ。
喉を通る新鮮なミネラルに、まるで生き返るような気持ちよさを感じる。
「ぷはっ。あー、ありがと」
「何を今更。まぁお互い様って事だし気にしないでくれ」
「お互い様?」
ん-、何回見ても、上から下まで観察してもどーしても、初対面なのよねぇ?
「俺、そろそろ帰るけど、お姉さんは大丈夫? 一人で帰れるか?」
「ん-うー、ちょっと自信無いかも」
「……ったく、ほら、立てるか?」
差し出された手を取ると、思った以上に強い力で私を立ち上がらせてくれる彼。
「ありがと」
「ちゃんと感謝の言葉を伝えれるってのは良い事だ。ほら」
肩に手を回すと、私をしっかりと支えてくれる。
足元がおぼつかない私にとって、彼は命綱レベルに頼れる存在だ。
「で、家はどっち?」
「ぅ、あっち」
指先だけで方角を指すと、ゆっくりと歩き出す。
そして、歩きながら私は彼に尋ねる。
「何で私、あんな場所に居たのかしら?」
「知らねぇよ! そんな質問が来るのがビックリだよ!」
「ぁぅ」
「すまん、大きい声出しちまった。本当に何も覚えてねぇのな」
「ごめんなさい」
「いや、それはそれで良いのかもな。ほら、次どっちだ?」
「こっち」
「了解」
記憶の無いクリスマスは、こうして時を刻みだした。