〜Lv.6〜 サンズリバー空港総合案内カウンターと転生課③
ボクに嗜められたショックが大きかったのか、ルーベンは椅子に座ったまま頭を抱えて、この世の終わりみたいな空気を醸し出していた。
「……ルーベン管制官は、別室に隔離した方がいいみたいですね。神気に対する感受性が鋭いとこんな感じになるみたいですよ」
ランスが顔を少し引き攣らせながら言った。
「そ……そうなんですね。なるほど、それで……」
2人の不可解な行動は神気に当てられてのものらしい。
ここまで見せつけられてしまっては、もう、認めるしか無い。
ボクから……神気が出ている、ということを。
ボクの発言に、二人が過剰なまでに反応したのも、言葉に神気が宿って言霊になった事が原因だったみたいだ。
それなら一刻も早く二人から距離を取らなければ……
そう考えて、ランスに二人のことをお願いしようとした矢先、たった今まで、ショックで天を仰いで啜り泣いていたはずのリオンがランスに告げた。
「じゃあ、ランス。ルーベン管制官を別室に案内してくれ」
(えっ? リオンさんも別室に行かないと。ルーベンさんほどじゃないけど、君も神気に当てられてるよ?)
そう言いたかったが、神気が漏れちゃうだろうから声にするわけにもいかない。
こういう場合って、本人は大丈夫だと思っている場合が大半なんだよね。まったく自覚は無いんだろうな。
とにかく、リオンも隔離対象であることに間違いない。
そこで、ボクはランスにアイコンタクトを送ってみた。
すると、ランスもボクの意図に気付いていたらしく、しっかりと頷き返してくれる。
よかった、後はランスに任せて大丈夫そうだ。
ホッとして、気を抜いたその時だった。
ランスとの間を遮るように、リオンがボクの目の前に割って入ってきた。
ボクより少しだけ背の高いリオンが、頭上からボクのことを舐めるような視線で見ている……ヒエッ!?
「後のことは任せてくれ。俺は、……ガッロル様に覚醒者についての説明をさせてもらうよ」
そう言って、リオンが今日、何度目かの熱い視線を送ってきた……ヒエェェッ!
(な、何だかちょっと近いんだけど!?……こ、心なしか、ジリジリ近づいて来ているような気も……?)
得体の知れない何かを感じて、ボクは気づかれないようそっと後ろに下がった。
なのにリオンもその差を埋めるように、スッと距離を詰めてくる。いや、何で!?
ミリ単位の攻防を繰り広げていたら、ランスがオドオドしながらも、リオンとの間に割って入ることで立ち塞がってくれた。
ラ、ランスさんっ! あなたは救世主だっ。
「リオンさん、あなたもかなり影響を受けてるように見えますよ?」
リオンを刺激しないよう、ランスは柔らかな口調で注意を促した。
「なんだと!? お前、そんなこと言って俺をガッロル様から引き離すつもりだろ!?」
ランスの言葉に過剰反応したリオンが、声を荒げてランスに詰め寄っていった。
(おぉう! ゾワァっとした! とっ、鳥肌が!? これ、神気の影響ってだけの問題じゃないよね!? なんか、絶対おかしいよね!?)
たとえ、影響力が強かろうが、言葉に言霊が宿っていようが躊躇っている場合ではないっ!
「 リ、 リオンさん!! ルーベンさんを連れて行ってあげて下さい。それで、二人とも、一度ボクとは距離を置きましょう!」
「ぐっ、…………分かりました」
リオンは、一瞬だけ体を硬直させて、抵抗するような素振りを見せたが、ノロノロと重い足取りでルーベンと共に別室へと消えて行った。
行った……やっと行ってくれた……
何だか長かったような、一瞬だったような……とにかくドッと疲れてしまった。
「は〜、終わった? すごいわねガーラ。あなたモテモテね」
少し離れた場所で存在感を消して、事の成り行きを見守っていたアルが、やれやれといった感じでガッロルの肩に腰掛けてきた。
「アル、……酷いじゃないか。黙って見てるだけなんて」
止めることは出来なくても、せめて近くにいて欲しかった。
「うん、……まぁ、……助けてあげられなくて少しは悪かったと思ってるのよ?……でも、あの中に飛び込んでいく勇気はなかったのよ」
「…………そうだよね」
確かに、あのカオスな空間に自ら近寄りたくはないよね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一段落し、静寂を取り戻した転生課。
「ガッロルさんは、今まで天界へ行こうと思ったことは無かったのですか?」
ランスが、カウンター脇にある棚からオレンジ色の冊子を取り出しなから尋ねてきた。
「考えたこともなかったです。……Lv.を上げたかったので、ずっと転生することしか考えてなかったです……」
自分で言いながら、ちょっと恥ずかしくなってしまった。
どんだけオタクなんだって思われないかな?……脇目も振らず転生ばっかりしてたから、その通りなんだけど……
「なるほど、それで覚醒者について全く知らないんですね」
ランスは納得したように頷くと、先ほど棚から取り出したオレンジ色の冊子をボクに差し出した。
表紙に は『天界入国の手引き』と書かれている。
あ、そうだよね……『転生の手引き』があるんだから、その他の手引き書だってあるよね……
ちょっと考えれば分かりそうなことなのに。うあぁ、恥ずかしっ、もっと視野を広く持たないと……
「詳しくは、すべてこの冊子に書かれてるけど、簡単に説明しますね。まず、覚醒者とは、天界の能力を自力で身につけた方のことを言います。天界の能力は本来、天界への入国が許された時に、初めて天界政府から与えられるものですから」
「天界政府から、スキルをいただけるんですか? すごいですね」
天界のスキル……きっと下界やボクの創作したスキルとは格が違うんだろうなぁ。
そう思うと、少しワクワクする。
「ええ、でも、与えられる能力は自分では選べないんですよ。だから、自分に合っていなかったりすることもしばしばあるんです」
それは、魔力のない者が魔力を必要とするスキルを与えられたりする、ということかな?
だとすると、それはちょっと悲しいかもしれない。
ランスの説明が一段落したところで、早速、受け取った冊子を開いてみた。
パラパラと流し読んだ限りでは、入国基準の説明から入国後の注意点までが記載されている。
(あっ、さっき言ってた天界の能力ってコレのことかな?)
目次で目についた『Lv.に対する付与能力一覧』のページを開いてみた。
下は、入国最低基準のLv.45から始まり、上はLv.69まで。
各レベルごとに3つの能力が記載されており、その中からランダムに選ばれた1つが与えらる、と記されていた。
「Lv.が上がっても、貰える能力は1つだけなんだ、……ん? Lv.が69までしか乗ってないけど、これは……」
一覧表の枠の下に 『Lv.70以上の方は、P156・覚醒者について をお読みください』と小さく記載された文字を見つけた。
「そうです。Lv.70以上の方は、覚醒者審査の対象なので管轄が変わるんです。だから、付与一覧に載っていないんです」
「あ、そうなんですね」
「ガッロルさんも、この審査を受けることになると思うけど、今のLv.って分かります?」
「うーん、ずっと昔に測った時はLv.57だったかな? サイノカ街で手に入れた簡易測定器で測った時のものだけど、 壊れちゃったからそれ以来、測ってないんです」
「それでも凄いですね。じゃあ、今は……」
「今のLv.はちょっと分からないなぁ……周回したかったから空港で測ってもらう訳にもいかなかったし……」
ランスとの会話は、特にかしこまった様子もなく、気安い感じでどんどん進む。
今まで、ボクの中でタブー扱いだったLv.絡みの話題も気兼ねなくできて、まるで霊界の友人ができたようで、つい口が軽くなってしまった。
アル以外の人と、転生や能力、Lv. について、ここまで明け透けに語り合えることがなんだか嬉しくて、普段は話さないようなことまで語ってしまう。
でも、こういうの……なんか、良いよね。
「そうなんですね、神気の発現に記憶の保持者ってところから、Lv.80近いんじゃないかと思いますよ。凄いなぁ、僕はLv.45で天界入りしたから」
そう言って、ランスは一覧表の中の1つの能力を指差した。
「ちなみに、これが僕の能力です」
Lv.45の中に記載された『状態異常無効』と書かれた能力を指差している。
「おぉ〜、凄いじゃないですか。大当たりですね」
デバフ系の魔法をすべて無効にする能力は、なかなかに優秀だと思う。
本心でそう言ったのだが、ランスは少し驚いた表情で見つめ返してきた。
「え、そんなこと言われたのは初めてですよ。ここでは、あまり活躍しない地味な能力ですし…」
ランスはそう言って若干、自虐的な笑みを浮かべた。
確かに、目に見える形で現れる能力ではないけど、さまざまな耐性能力の最上位に位置するのがこの能力だ。
そもそも、Lv.45ランクの付与能力に記載されていること自体が信じられない。
「なに言ってるんですか! この能力の素晴らしさに気付いていないんですか? デバフ系の魔法もそうですが、毒も、麻痺も、眠りも、精神攻撃も効かないんですよ?」
それでも自信なさげなランスに、どうにかこの能力の凄さを分かって欲しくて言葉を続けた。
「あ、それにランスさんは、ルーベンさんやリオンさんとは違って、ボクが出しているっていう神気の影響、まったく受けていないじゃないですか! だから、ほら! こうして間近にいても大丈夫な訳ですから……あっ……」
力説するあまり、思った以上に詰め寄っていたようで、ランスの顔がすぐ目の前にあった。
はっ、として慌てて距離を取ったが、何だか妙な空気になってしまった。
「す、すみません、つい……」
「い、いえ……」
少し頬を赤くして額の汗を拭うランスの姿につられて、こちらまで恥ずかしくなってしまった。
2人して頬をほんのり赤らめている……
そんな、なんとも居た堪れない空気の中……
「っ! ガーラ!! あなた……やっぱり新しい扉を!?」
両手を口元に当てて瞳を煌めかせたアルが、意味深な言葉を発した。
「い、いやいや、アル! そんなこと言うんじゃない。ランスさんに失礼だろ!」
「いいの! 隠さなくても分かってる。ンフフ〜、ガーラのそんな姿、初めて見たわ!」
アルが、照れたように両頬に手を当てて、身悶えするように体をくねらせている。
「なっ、なんて事を言うんだ!」
それに、その動きは何なんだ!? やめろ、止めるんだ!
問題発言連発のアルを捕まえようと手を伸ばすも、スルリと逃げられてしまった。
手の届かない天井付近まで飛び上がったアルは……
「そんなに必死になるなんて、よっぽどランスに嫌われたくないのね〜」
「アル! 降りてこい!」
(シーッ、静かにしろっ、変に誤解を招くような事を喋るんじゃない!)
口撃を続け……
「ウフフ、そんなに照れなくてもいいじゃない〜、そんなにお気に入りなのね〜、ガーラに初めてできた、大〜切なぁ〜……」
「こっ、コラ! 」
(だっ、黙れー。変なこと言うんじゃない、黙るんだ!)
最後に……
「お友だちが!!」
……と、オチをつけた。
誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。
((。´・ω・)。´_ _))ペコリン