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〜Lv.57〜 それぞれの覚悟①

「ガーレリア、今日は1日この研究棟から出ちゃいけないよ?」


 レファスは、ボクを研究棟の一室『本体融合』の時に入院(?)していた巨大ベットの部屋へ連れてくると、そう言い残してサッと部屋から出ていってしまった。


「ま、待ってパパ! 話を——」


 立ち去ったレファスを追いかけようと、部屋の出口に駆け寄ったボクの目の前で、自動扉はシュン!っと軽い音を立てて閉まってしまった。


 目の前のその扉がまるで、『聞きたくない!』と言う今のレファスの心の声を表しているかのようで……


 決して、監禁されているわけでも、軟禁もされているわけでもなかったけど、とてもその扉を開けてまでレファスを追いかける気になれなかった。


 それに、これ以上レファスに追い(すが)って説得を試みるという行為は、かえって逆効果になってしまうような気がした。


 ボクはしばらくの間、その自動扉を茫然(ぼうぜん)と見つめていたが、トボトボと巨大ベットへと引き返すと、そのベット上にボスンッ!っと顔面から倒れ込んだ。


 (はぁ……どうしよう……こんなことになるなら、すぐに返事しておくんだった……)


 変に恥ずかしがって先送りにしたばっかりに、今、ヴァリターとの『(えん)』そのものが切れてしまいそうになっている……


 ボクは枕を抱きしめると、ゴロリと仰向けに転がりながら考えた。


 (とはいえ、ボクはまだ諦めたわけじゃないよ? いざとなれば、降臨ゲートを使わずに降臨する方法が無いわけじゃないんだ)


 だけど……後始末が大変なこの方法は、できれば使いたくはないんだよね。


 それに、ここまで知られちゃったんだもん。やっぱりパパにはきちんと認めてほしいっていうか……い、いや! その、プ、プロポーズを受けるって意味じゃなくって、これからもヴァリターとは付き合っていきたいて意味……って、うわわっ、つ、付き合うって言っても恋人同士のとかじゃなくって!……って、さっきから何を考えているんだよ! ボクはっ!


 さっきから、ヴァリターのプロポーズを受け入れている自分の姿や、恋人同士のようにヴァリターと手を繋いで歩く自分の姿が頭にチラついて……


 恥ずかしくなって、自分の妄想で真っ赤になった顔を枕に埋め、巨大ベットの上をゴロゴロと転がりまわっていた時だった。


「うふふっ、ついにガーラにも春が来たのね〜。あんまりにも男の子にばかり転生していたから、ちょっと心配だったのよね〜」


 ボクの口から衝いて出た『ボクのものではない』その言葉に、ボクはピタッと動きを止めた。


「…………ママ……これってプライバシーの侵害だよ……」


 その声の主は、常にボクと共にあり続けている『アル』のものだった。


 ボクがレファスのことを『パパ』と呼ぶようになった時から、アルに『レファス(パパ)ばっかりズルい! 私のこともママって呼んで!!』ってゴネられて……それ以来、ボクはアルのことを『ママ』と呼んでいる。


 まあ、長年『アル』呼びだったから違和感が凄かったけど、最近やっと違和感なく『ママ』と口から出てくるようになったばかりだ。


 そのアルだが、ギラファスの(ほどこ)す『消滅者治療』の甲斐あって、完治はしていないものの、ここ最近の症状はすっかり安定している。


「うふふっ、ごめんね? でも、娘がちゃんと男の子に『恋』してるって分かって嬉しくなっちゃって、つい……ね?」

「こっ!?……そっ! そんなんじゃ——」


 ボクはベットから跳ね起きると、アルの言う『恋』発言に対して反論しようと口を開いたのだが……


「ところで、ココって研究棟よね? ガーラ、どこか具合でも悪いの?」


 ……と、アルは辺りをキョロキョロと見回しながら、コロっと話題を変えてしまった。


 (むうぅ、何だか誤魔化されたみたいでモヤっとする……だけど、わざわざ話を蒸し返してまで言い訳するのも変だし……)


 結局、ボクは反論を諦めて、話を進めることにした。


「……大丈夫、体は何ともないんだ。……えっと、実はここへは『今日1日、この研究棟から出ちゃダメだよ』ってパパに連れてこられちゃって……」

「?……何だか訳ありな感じね、何があったのか詳しく聞かせてちょうだい」


 ボクはアルに促され、昨夜ギラファスから聞いた『求婚の儀』の制限時間のことや、レファスに降臨を止められて研究棟に連れてこられるまでの経緯をすっかり白状させられてしまった。


「……つまりガーラは、ヴァリター君のプロポーズは断るけれど、今まで通り『友だち』としての付き合いを続けたいと思って、その旨を伝えるために降臨しようとしていた……ってことね?」


 アルは、ボクの話を要約してそう話すと『うーん……』と考え込んでしまった。


「そうなんだ! ボクは『プロポーズを受けるつもりはない』って、ちゃんとパパに伝えたんだ! なのっ、ぶっ!?」


 きっと、アルはボクの考えに賛同してくれる……

 そう思いながら、レファスの暴挙を訴えていたボクの口を、アルは手で塞いで止めた。


 あまりにも突然だったから、びっくりして変な声を出してしまったが、アルはボクが口を(つぐ)むのを待つと、ゆっくり手を離して静かに喋り始めた。


「そういう考えなら、私もヴァリター君には会わないほうがいいと思うわ」

「なっ!!……何で!?」


 アルの口から出てきた言葉は、ボクの予想とは全く逆のものだった。

 動揺も露わに聞き返したボクに、アルが(さと)すように語りかけてきた。


「ガーラ……ヴァリター君の立場で考えてあげなさい」

「……ヴァリターの?」


 言われてみれば、確かにボクの選択は『自分にとって居心地の良い』ものであって『ヴァリターにとって居心地が良い』かどうかは考えてなかった。


 というか、自分のことで一杯一杯で、そんなこと考える余裕がなかった。


「そうよ、ヴァリター君は、ガーラが女の子になる前から思いを寄せていたほど『ガーラ自身』が大好きなのよ? そんなヴァリター君の『本気のプロポーズ』を、ガーラは断ろうとしているってことなの。断られるだけでもショックだろうのに、その上『友人関係のままで居続けて欲しい』だなんて言われたら『ヴァリター君の恋心』はズタズタになってしまうでしょうね」


 アルにヴァリターの心情を解説されて、ボクが如何に失礼なことをしようとしていたのかを思い知らされてしまった。


「っ!!……ボク、そんなつもりじゃ……」

「えぇ、分かっているわ。ガーラにはそんな気がなかったってことは。でも、もう分かったでしょ? だから、ガーラがヴァリター君のプロポーズを断るって言うのなら、ヴァリター君の心が傷付かないように、このまま『自然消滅』で忘れさせてあげるのも優しさのひとつだと思うの。そうすれば、ヴァリター君は『失恋』を引きずることなく『次の恋』に移ることができるわ」


 ボクは、神妙な気持ちでアルの話を聞いていたのだが、最後に耳に飛び込んできたワードに思わず固まってしまった。


 い、今、アルは何て言ったの?……


「……次の……恋……?」


 それはつまり、ヴァリターがボクではない他の人と親密になって、2人で寄り添って生きていくってことで……そこにボクはいないってことで……


 ボクはふと『見知らぬ女性と仲睦まじく腕を組んで正面から歩いて来るヴァリター』というシチュエーションを想像してしまった。


 見知らぬ女性と微笑みを交わし合いながら、向かいからどんどんと近付いてくるヴァリター。

 ボクのことに気付いたヴァリターは、ペコッと軽く頭を下げただけで、すぐに隣の女性に視線を戻し、何事もなかったかのようにボクの横をスッと通り過ぎて行ってしまう……そして、その場にひとり、ポツンと取り残されたボク……


 あまりにもリアルに想像してしまったため、かなりの精神的ショックを受けてしまった。

 そんな精神状態のボクを他所に、アルは更にボクを追い詰める言葉を口にした。


「そうよ? ガーラもだけど、ヴァリター君にだって、いつかは『次の恋』の相手が現れるのよ? その時のためにも……」

「…………やだ」

「……ガーラ?」


 ボクはアルの言葉を遮るように、否定の言葉をポツリと呟いた。


 確かにヴァリターのことを考えると、そうすること(自然消滅)が正しいんだろう。

 だけど、頭では分かっていても、ボクの心がそんな未来を拒絶していて、そのことを考えるだけで胸が苦しくなってしまって……


「何か嫌だ、ヴァリターの隣に、他の人が……い……るなんて……」


 うめく様にそう言うと、ボクは、堪え切れずにポロポロと涙をこぼしてしまった。

 そして、ここまで精神的に追い詰められたことで、やっとボクは自分の気持ちに気がついた。


 (あぁ、そっか……ボクもヴァリターのことが好きだったんだ……)


「あぁ、もう泣かないの……ガーラは『断る』なんて言ってたけど、もう、答えは出ちゃったんじゃない?」

「……ぅ……うん」


 『まったく、もう、世話が焼けるんだから……』と言うようにアルに『答え』を(うなが)され、ボクは気恥ずかしく思いながらもしっかりと頷いた。


 一度、自身の『恋心』を自覚してしまうと不思議と覚悟が決まってしまった。


 これは後に聞いた話だけど、アルはこの時、ボクに『恋心』を自覚させるために、わざと『次の恋』なんてキツイ言い方で荒療治に出たんだそうだ。


「うふふっ、そうなのね! それじゃあガーラ、今すぐ下界に出発するわよ!」

「あ……でも、パパのことはどうしよう……このまま下界に行っちゃうと、何だかパパを裏切るみたいで……」


 降臨ゲートフロアでの思い詰めた様なレファスの様子を思い出して、このまま下界に出発してしまうと、乱心したレファスが下界を攻撃してしまいそうで怖い。


「ん〜、確かにそうね……うん、ここは娘のために私も覚悟を決める時かもしれないわね! ガーラ、パパのことはママに任せなさい! そのためにも、今から研究室(ラボ)に行くわよ!」


 アルは、拳を突き上げながら大声でそう言うと、巨大ベットから飛び降りて、研究室(ラボ)目指して勢いよく走り出した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ——(レファス視点)——


「何!? 擬似体が無くなった!?」


 執務室でフィオナからそう報告を受けた時、脳裏によぎったのはガーレリアのことだった。


「まさか、ガーレリアが擬似体を使って下界に行ってしまったんじゃないだろうね!?」


 僕はすぐに執務室から飛び出すと、研究棟へ向かって走り出した。


 お披露目の式典以降、ガーレリアのことを知らぬ者はこの天界にはいない。だが、擬似体姿のガーレリアは一部の者しか知らない。


 その姿で門衛の目を欺いて、降臨ゲートを通過してしまったのでは?と考えたのだ。


「既に降臨ゲートは使用禁止にしておりますので、その心配はないかと……」


 すぐ後ろをついて走るフィオナが、淡々とした口調で報告してきた。


「そうか……それなら大丈夫だな」


 僕は、早足程度に速度を落とすと、ガーレリアがいるであろう『ガーレリア専用診療室』に向かった。



 ◇◆◇◆◇



「入るよ、ガーレリア!」


 自動扉が開くと同時にそう声をかけながら入った室内には、頭からすっぽりとシーツを被った『彼女』が立っていた。


 こちらに背中を向けているので顔は見えないが、そのシルエットは明らかにガーレリアのモノではなかった。


「!?……誰だ?……」

「レファス様? いかがなさいま……ハッ!?」


 警戒気味に問いかけた僕の後ろから遅れて入室したフィオナが、驚きにハッと息を呑んで口元を押さえた。


 !?……何だ? 少々のことでは動じないフィオナが、『彼女』を見て狼狽えている……危険性は感じないが……『彼女』は一体、何者だ?


 心当たりのない人物に訝しむボクの耳に、突然、その女性の底抜けに明るい声が響いて聞こえてきた。


「ガーラなら、自力で下界に降臨しちゃったわ。今頃、ヴァリター君に会ってるはずよ?」


 それは、とても『懐かしい声』だった。

 その声は、遥か昔の記憶の中の……そこでしか聞くことができないはずの……


「っ…………そ……そんな……」


 ……バカな……


 真偽を確かめたい。なのにそれをしてしまうと、この夢が終わってしまうような気がして、言葉を続けられなくなってしまった。


 言葉を無くし固まる僕に……


「あんまり過保護が過ぎると、ガーラに嫌われちゃうわよ? パパ?」


 ……そう告げながら、『彼女』はこちらへとゆっくり振り返った。


「……ただいま、レファス……遅くなっちゃってごめんね?」


 そう言うと、『彼女』は僕を真っ直ぐに見つめながらフワリと優しく微笑んだ。

 日だまりのような笑みを浮かべるその顔は、記憶の中のあの頃のままで……


「アルガーラ!!」


 僕は『彼女』……『アルガーラ』に駆け寄ると、流れる涙もそのままにその体を強く抱きしめた。

誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。

((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

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