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〜Lv.3〜 霊界へ……霊界航空で行く、サンズリバー空港への旅②

「それでは、東館の転生課窓口でこちらの番号札を渡してください。こちらの冊子に注意事項が書いてありますので、転生前に必ず目を通してください」

「ありがとう」


 職員から“転生の手引き”と書かれたパンフレットと番号札を受け取ると、軽く会釈して足早に総合案内カウンターから立ち去った。


 ここは霊界、サンズリバー空港。

 天界と下界の中間地点にある休憩所のような場所だ。


 少し胡散臭(うさんくさ)さの漂うこのサンズリバー空港だが、こう見えて、ここは極めて重要な業務を担う霊界の政府機関だ。


 その上、ここ霊界に暮らす『霊界人』の生活拠点としての役割も担っているため、久しぶりに来た空港ロビーは、相変わらず多くの人々でごった返していた。


 そのロビーの一画に儲けられたラウンジには、煌びやかな店舗やさまざまな屋台が並び、ちょっとした観光地さながらの活気に溢れている。


 これだけ人が多いと知り合いがいたとしても気付けないだろうなぁ……ま、そんな事より高速転生だ。

 早速、転生課へGOだ!!


「ねえガーラ、たまには霊界でゆっくりしていこうよ。私、お買い物したい!」


 シャツのポケットから飛び出したアルが、ボクの周りを飛び回りながらラウンジの屋台を指差した。


 連なるように並んだ屋台には、主に下界の商品が並んでいる。


 観光地によくあるペナントや、霊界航空のロゴが印刷されたTシャツ、どこかの部族の儀式で使われていそうな仮面や腰巻……


 いや、絶対使わないよね?

 その場の雰囲気で衝動買いする『観光地あるある』で、亜空間の肥やし確定の代物だ。


 アルの趣味を否定するわけでは無いけど、何とか無難な言い訳は……


「……転生して下界に行けば手に入る物ばかりじゃないか。“時間を削って”まで手に入れるものじゃないよ」

「ガーラは下界で自由にお買い物できるからそんなこと言えるのよ。私はいつもガーラの中で眠ってるだけなんだもん……あ、」


 ちょっと拗ねた顔でボクを見つめていたアルが、急に表情を明るくした。


「そーだ! ねえ、ガーラ。今度は女の子として転生してくれない?」

「え?」


 今、何て? 空耳かな?


 歩みを止めてアルの顔をジッと見つめると、アルはワクワクと期待に満ちた顔でこちらを見つめ返してくる。


 どうやら聞き間違いじゃないみたいだ。

 でも、買い物のダメ出しから、どうして女の子に転生ってことになるの?


「そうすれば”私“が表に出ていけるじゃない。もちろんずっとじゃなくていいの。ショッピングとか、オシャレしたい時だけ変わってくれればいいから!」


 どうやら、ボクを通して下界で買い物を楽しみたいってことみたいだけど……


 とりあえず、アルが言うような場面を想像してみよう。アル好みの少女趣味な服装をした自分……


 パステルカラーの半袖シャツや、ふんわりとした短めスカートから覗く筋の浮いたゴツい腕や脚……


 うわっ、捕まっちゃうよ、コレ……


 なぜか想像上の自分は男のままだけど、イメージが湧かないんだから仕方がないじゃないか。


「い、今まで通り、男でいいじゃないか……表に出たければ、その時に言ってくれればいいし……」


 自分で想像した女装姿にショックを受けながらアルに告げた。


 ボクは今までLv.上げの観点から、効率よく立ち回れる“男”として転生を続けてきた。

 理由はそれだけで、特に男女のこだわりがあった訳では無い……と、自分では思っていたんだけど、やっぱり男での転生を長年続けてきたから、そういう変化を求められるとちょっと尻込みしてしまう。


 だって……今までの記憶があるからね。


「ガーラが良くても私が嫌なの! いくら美形でも、男の子じゃなくて女の子がいいの! 女の子らしい服を着て、オシャレなカフェで美味しいケーキを食べーー」


 マズイ! アルはいったん火が付くと突っ走っていく性格だから、このままにすると押し切られてしまうっ。


「ま、まあまあ、ひとまず落ち着いて? 急に決められることじゃないしっ。そそ、そんなことよりアル! あれを見てごらん!!」


 ボクは、アルの気をそらせるために、劇団俳優のような派手な身振りで、今、持てる全ての演技力を総動員して明後日の方向を指差してみた。


 アルは、ボクの演じるこの『王子様風』な動きがお気に入りだ。

 だから少々ワザとらしくても、移り気な性格のアルなら興味を持ってくれるはず。

 それに、あわよくば、さっきのことも忘れてくれるかも……


 にしても、周囲が少し騒ついているような気がする。拍手も聞こえるけど、……まあいいか。


 ボクが適当に指差した先にあった到着口から、絶妙なタイミングで空港職員に連れられた団体客が出てきた。


 よかった、流れ的に不自然じゃない感じに持っていけた。


 ガイド役の職員はメガホンを口元に当てると、到着したばかりで不安そうな顔をした転生者集団に向かって喋り始めた。


「長旅、お疲れ様でした。こちらでの滞在可能期間は一週間となっております。期間内はラウンジにて買い物を楽しんでいただいても、空港外へ出ていただいても構いません。期日までに天界の入国審査を受けられるか、転生されるかお決めになって、各窓口で手続きを行なってください。期日を過ぎると”消滅“してしまいますのでお気をつけください」


 『消滅』と言われて戸惑っている集団を尻目に、ガイド役の職員はその場を去ってしまった。


「相変わらず大雑把な説明ね〜。買い物を勧めてるくせに、支払い方法のことを言わないだなんて」


 支払い方法……それは霊界での支払いが“滞在時間”であるということなんだけど、アルは、その説明がなっていないことに対して文句を言い始めた。


 よし! 目論見通り話を逸らすことに成功した! このまま性別選択に関することには触れないように気をつけよう。


 アルの話に適当に相槌を打ちながら集団を眺めていると、そこから一人の女性が抜け出してきた。


 みんなを案内するような動きを見せながら、ラウンジの中でも一際華やかな店舗に入っていく。


 集団心理が働いたのか、大半の人たちが戸惑いつつも楽しげな雰囲気のその店に入っていってしまった。


 (あの繁華街、相変わらず客引き紛いなことしてるんだなぁ……)


 あの店舗は、片道三日ほど離れた『サイノカ街』に通じる転移ゲートだ。交通の便の悪さから、あのようなグレーゾーンな商売を頻繁にしている。


 (帰りも潜らないと帰って来られないのに、『ご利用料金は三日分です〜』なんて言われて焦ったんだよなぁ〜)


 ボクも過去に引っかかったなぁ、と、遠い目をした。


「ーーからね、私は顧客に寄り添ったサービスを提供してこそ成功すると思うの。ガーラはどう思う?」

「っ、そうだね、アルのいう通りだと思うよ。それじゃ、そろそろ行こうか」


 アルの話は最終的に、サービス業界での成功の秘訣にまで及んでいた。ほとんど話は聞いていなかったが、それらしく返事をするとアルは納得したようだった。


 さっきの集団から消滅者が出ないことを祈りつつ、二人で東館に向かって歩き出した。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 東館の入り口付近には、黒山の人だかりが出来ていた。


 この東館には天界入国口があるため、普段から入国希望者が絶えず訪れている。

 しかし、今日は一段と希望者が多い。入国審査口から伸びた列が、入り口付近で密集状態になっていた。


 (この人たち、全員天界入国希望者なんだ……天界は相変わらず大人気だなぁ)


 人の多さに圧倒されている間にも、入り口を埋め尽くす勢いの人の列は、さらにその距離を伸ばし続けている。


 でも、ボクの目指す転生課は、転移ゲートフロアを通り過ぎた先。廃れた通路の突き当たりにある小さな転移ゲートを潜った先にある。


 だから、この列に用はないのだ。ってことで、まずはここを突破しなければっ! いざ!!


 とりあえず、目の前にいた小柄な女性に声をかけた。


「すみません、少し通してもらえませんか?」

「後から来て何なのっ!?……っ、えっ……」


 うっ、ものすごい剣幕で怒鳴られてしまった……小動物のような雰囲気とのギャップで迫力倍増だ。


 振り返りざまに飛ばされた眼光が怖すぎるっ! しかも、こっち睨んだまま固まってるし……


「っ、いえっ! ボクは入国審査を受けに来たのではありません。奥に用事があるんです」

「………………」


 な、なんで無言……? なんで凝視してくるの……? そんな真っ赤な顔で激昂(げきこう)しなくっても……って、うぅ、ダメだ、心が折れそうだ……


「あっ、だ……大丈夫です、もういいです。ゴメンなさい」

「あ、まっ……」


 さっきの女性が何か言いかけてたみたいだけど、ボクは素早くその場を後にした。


 (い、一時退却だ、逃げたんじゃないよ……そ、そう、これは戦略的撤退だよ……)


 心の中で言い訳しながら少し離れたところまでやって来ると、東館を振り返って、徐々に増えつつある入り口付近の人だかりを見つめながら、突破方法を考えた。


「さっきの人、ガーラのこと見惚れてたわね」


 アルが、まるで見当はずれなことを言い出した。

 どこにそんな要素があったんだろうと思う。アルも一緒に見てたから分かっただろうに。


「?? あれは、睨みを効かせてたっていうんだよ?」

「うーん。まあ、ガーラはそのままで良いかな」

「?……何が?」


 アルに、『まあ、仕方ないわよね』といった感じで苦笑いをされてしまった。


 (何だろう? この、子供扱いされたような気分は……っと、それより突破方法を考えないと……って、もういいや、スキル使っちゃえ!)


 右手を軽く振って『認識阻害』を自分にかけた。

 これで気づかれずに進んでいける。最初からそうしてればよかった……


 人混みを避けて進み始めたその時、入国審査カウンターから男の怒声が聞こえてきた。


「なっ、そんなの知らねえよ! っざけんな! なんで俺が地獄に送られんだっ!」

「ただの低Lv. 者の方は転生措置でいいのですが、あなたのLv. はマイナスです。天界への入国はもちろん、一般的な転生もさせられません」


 職員が説明しながら合図を送ると、どこからか二人の警備員が現れて、男の両腕を素早く拘束した。


「地獄でLv. のリセットが終了しましたら、自動的に転生となりますので安心してください」

「なんでっ、死んだ後までムショ暮らししなきゃなんねーんだ! おい、コラ離せや、触んじゃねえ!」


 警備員たちは、なりふり構わず暴れる男を軽く抱えて、流れるようにその場を去っていった。


 (おぉ〜、さすが手際がいいな)


 大半が転生措置となる中、滅多にいない地獄行きが出て、その場は騒然となった。同時に、Lv.制度について情報収集する声があちこちから聞こえてくる。


 効率のよい経験値の稼ぎ方はいろいろあるけど……


 (経験値は現世でしか稼げないんだよなぁ。……まぁ、転生したらそんな知識も忘れちゃうんだけどね……)


 ボクは、騒つく入国審査カウンターから静かに離れた。


 (皆んな、なんで忘れちゃうのかな……)


 どういうわけかボクは他の皆んなと違って、過去の記憶や能力を引き継いだまま転生を続けている少々規格外な存在だった。


 でも、そのおかげで、霊界で得た知識『Lv.上げのコツ』を活用しながら、数え切れないほど転生を繰り返し、今ではさまざまな能力を身につけている。


 (厨二病の熱に浮かされて無双をしたこともあったっけ……時空が歪んで世界が亜空間に吸い込まれそうになったなぁ。……で、修復作業に一生かかって、結局Lv.は上がらなかったな……)


 この黒歴史を教訓に、世界の理から外れた能力は極力使わないことにしている。


 さて、ボクが転生課にこだわるのは、只々、ボクが高レベルだから、という理由だ。


 『マイナスLv.者』が転生させて貰えないのは下界に悪影響があるからだけど、『高レベルすぎて影響力が強すぎる』なんて言われて、転生を止められてしまっては困る。

 実際、黒歴史の事もあるし……


 なので、いつも詳しく調べられる前に転生課に直行している。


 この転生課、霊界政府の中でも出世街道から外れた職員たちの流れ着く部署で、いい感じにアナログで検査もゆるい!

 Lv.測定もプラスかマイナスを見るだけだし、隠れた穴場なだけに人なんか来ないからすぐ対応してもらえる。


 そんな訳で、今回も転生課へ向かっていたのだが、途中にある転移ゲートフロアの前で、ひどく慌てた様子の職員達とすれ違った。


 各方面へ散らばるように走り去る彼らに、何か引っかかるものを感じたが、大規模な機関なのでいつもどこかでトラブルは起きている。


 大したことはないだろう……と、気に留めることなく、ボクは転生課へ向かって歩き出した。

誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。

((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

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