〜Lv.18〜 元家族にアルの紹介をすることになりました
新章スタートです。
しばらく新たな舞台を整えるための説明回が続きます。
気長にお付き合い願えると嬉しいです。
窓辺を彩るカーテンの隙間から朝を告げる一筋の光が、ベットで眠るボクの枕元に差し込んでくる。
瞼越しに感じるその光に顔を顰めながら一つ大きな伸びをすると、ボクはベットから抜け出して、大窓のカーテンを一気に開け放った。
すると、部屋の壁に飾られた盾や剣といったボクのコレクションに、朝の爽やかな日差しが反射して、薄暗かった室内はキラキラと光溢れる空間に変わる。
いつもと変わらないその光景に何となくホッと一息つくと、テラスへ繋がる大窓をゆっくりと押し開けて外へ出た。
そして、爽やかな新緑の匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、ボクは日課の軽い運動を始める。
その後は、『用意されている服に着替えて食堂へと向かう』……というのが、ボクの朝のルーチンだ。
その、いつもと変わらない朝の光景に、つい失念してしまいそうになるけれど、ボクは昨日、葬儀を執り行ってもらったばかりの『故人』なんだよね……
天界政府からスカウトされて『新人天使』として生まれ変わったわけだけど、お仕事で下界に降臨中の現在、ボクは生前の実家であるシューハウザー家に身を寄せている。
とはいえ、数日前まで家族として普通にここで過ごしていたわけだから、ボクとしては『お世話になります』っていう改まった感じはしない。
だから余計にボクがもう、この世界(下界)の住人ではないっていう実感がわかないっていうか……
それはそうと、昨日は皆んなに色々と質問攻めにあって大変だった。
とりあえず皆んなには『天界からスカウトされて、新人天使になった』ことと、『下界のパトロールを担当することになった』ということだけ話している。
だって、詳しい降臨理由は誓約書の規定に引っかかるから言えないからね。
加えて、今のボクは『擬似・天界人ボディ』に宿った『”心臓“候補』。
天界の機密情報に直結する『歩くトップシークレット』状態だ。
些細な会話からその極秘情報がポロリ……なんてことになってはいけないから、ホントに大変だった。
とまあ、何かと最高機密に直結するこの体だけど、それで業務(ギラファスの捜索) に差し障りが出るのかと言えばそうでもない。
レファスに貰ったブレスレットのおかげで神気が漏れる心配をしなくてもいいし、身体能力は爆上がりだし、お仕事内容は『探知機のセットだけ』と、とてもお手軽だし。
なにより、空いた時間で経験値を稼ぐことができる!
天界政府に就職したことで、こうして堂々と下界へ降臨することもできるしと、まさに良いこと尽くめだ。
ただ一つ、気になることといえば……
これからボクは、アルの『紹介イベント』をこなさなければならない、ということだ。
昨夜、アルに『皆んなに、私のことを紹介して!』と迫られて、抵抗も虚しく、それを承諾させられてしまったんだよね……
なので、『一つの体に二つの人格が宿ったこの状態を、どう説明すれば、違和感なく受け入れてもらえるんだろう……』と、昨夜から考え続けているのだが、いまだに明確な答えを出せていない。
体を動かせば何か思いつくかもと思ったけど、結局は何も思いつかず、ボクはいつも通りの『ルーチン』&『新たな日課』である翼のストレッチをこなし終わってしまった。
「さあ、ガーラ急いでっ、お父様とお母様に挨拶に行くわよ!」
待ってましたと言わんばかりに、ボクは可愛い服に着替えさせられた後、アルに急かされながら、元両親の待つ食堂へと向かうことになった。
ボクが食堂へと続く長い廊下を歩いていると、向かいからやってきた我が家の執事 (その名もセバスチャン) が笑顔で声をかけてきた。
「おはようございます、ガッロル様。昨晩はゆっくりとお休みになられましたか?」
「うん、おはよ。やっぱり我が家は良いね。えっと、父さんたちは? もう食堂?」
「はい、みなさま全員お揃いでございます」
妙に『みなさま』の部分に力を入れながら、にこやかに答えたセバスチャンは、「それでは」と言い置くと、軽く一礼してその場を去っていった。
それを笑顔で見送った後、何となく前庭に視線を移したボクは、よく手入れされた植え込みを見つめながら軽くため息をついた。
ふぅ……さて、どう言って説明しようかな……
アルの生い立ちを説明する上で欠かせない『魔法』の概念がこの世界には無い。だから、それをどう伝えればいいのかが悩ましい。
『魔法を使って——、分身スキルで——』なんて言い方だと、信じてもらえないんじゃないだろうか。
うーん、困ったな……じっくり考えるためにも、やっぱり今日はやめた方が……
(ガーラ、何してるの? ふふっ、早く食堂へ行きましょうよ!)
(あ、うん……)
アルの、『楽しみでたまらない!』といったその声で、ハッと我に返ったボクは、再び食堂へ向かって歩き出した。
そういえば、今、着ている服も『お父様とお母様に初めて会うんだもの! うんとオシャレしなくっちゃ!』と、アルに着替えさせられたんだっけ。
こんなに楽しみにしているアルに、『やっぱりやめない?』とは言えないよね……
◇◆◇◆◇
明るい食堂にはセバスチャンに聞いていた通り、皆んなが揃っていた。
その光景を見て、ボクはパッと笑顔を浮かべながら朝の挨拶をした。
「父さん、母さん、おはようございます。それに、兄さんたちも!」
そこには両親のほかに、独立したはずの二人の兄の姿があった。
どうやらボクを喜ばせようと、サプライズで集まってくれていたようだ。
成人すると共にサッと独立してしまった二人の兄たち。こうして顔を合わせるのは実に久しぶりだ。嬉しいな。
「ゴホン!」
ボクがフワフワした気分で兄たちに微笑みかけていたら、父さんが突然、皆んなの注目を集めるように大きな咳払いをした。
その空咳を聞いて、皆んなはハッとしたように父さんに注目した。
途端に、食堂にピリッとした空気が漂い出した。
その皆んなの視線の先……トレードマークのカイゼル髭をひと撫でし、ボクをジッと見詰めているこの人は、前世のボクの父親、バルナルド・シューハウザー。
一言で言うと、堅物と言われるほど『厳格』な父親だ。
……って、ハッ! そうだった!
昨日は何も言われなかったけど、ボクはそんな父さんがコネを使ってまで捩じ込んた騎士団長の職務を全うすることなく、若死にしてしまったんだっけ!
(やっぱり……そのことで、今から叱られる……のかな……?)
ボクは『まな板の上の鯉』になったような気分で、ゴキュッと固唾を飲んで父さんの言葉を待った。
すると次の瞬間、父さんはその顔を今にも蕩けそうな柔和な笑顔に変えると……
「おはよう、ガッロル。昨夜はよく眠れたか? 部屋が暑すぎたり、ベッドが硬すぎたりはしなかったか?」
……と、柔らかな声音で語りかけてきた。
「!?……は?……あっ、は、はい! だ、大丈夫っ……です?」
「うむ、そうか? でも、少しでも不便を感じたら、すぐに言うのだぞ?」
てっきり叱られるものだと思って身構えていたから、ちょっと拍子抜けしてしまった。
でも、どうしてだろう?……うーん?
……やっぱり、ボクが女の子になったから……なのかな?
「おはよう、ガッロルちゃん。うふふっ、私にもついに念願の娘ができたのね」
ふんわりとした雰囲気でそう話しかけてきたのは、『良家の箱入り娘』感が抜けない前世のボクの母親、カロリーヌ・シューハウザー。
父さんと違って、ボクに対するその態度は以前とさほど変わらない。
それほど変わりはしないんだけど、さっきから夢見るような顔でボクのことを見つめ続けていて……何だかイヤな予感がする。
……何故かって?
それはボクが子供の頃、母さんに泣き落とされて一度だけ『着せ替え人形』になったことがあったんだけど、『ドレスを身に纏ったボク』を見つめ続けるあの時と、今のその様子が全く同じなんだ。
朝食後に、ドレスルームに連れ込まれる予感がしてならないよ……
ボクが引き攣った笑顔を母さんに向けていると、その隣に座っていた下の兄が徐に席を立ち、ボクの傍らまでやってきた。
「やっと来たか、久しぶりだな! しばらく見ない間に随分変わったなぁ?」
冗談めかしてそう言うと、ニヤッと笑ってボクの頭を少し乱暴な感じでクシャクシャと撫でた。
彼はボクと5つ違いの兄、ヨヴァン・シューハウザー。
貴族にしては粗野な言動が目立つ彼だが、その内面は歳の離れた弟の面倒をよく見てくれる優しい兄だ。
「うわっ、あはは、やめてよ兄さん」
ヨヴァンの手荒な歓迎に、ボクは戯れるように抗議の言葉を口にした。
ヨヴァン兄さんはいつも通りに接してくれるから、気兼ねが無くて良いな。
「……ヨヴァン、やめろ。ガッロルはもう頑丈な男ではないんだぞ。もっと優しく扱ってやらねば壊れてしまうではないか」
そんなボクたちの様子を見つめていた1番上の兄が、父さん譲りの厳格さを漂わせながらヨヴァンに注意を促した。
ボクとは七つ歳の離れた兄、グレンダール・シューハウザー。
年が離れ過ぎていたせいもあり、ヨヴァンほど近い感じではなかったけど、グレンダールは公平な判断のできるとても頼りになる人だ。
ヨヴァンはグレンダールに注意されて、明らかにムッとした表情を見せていた。だけど二人の兄たちはこう見えて結構仲が良いから心配はいらないだろう。
「お久しぶりです。兄さんたちはお変わりない様で安心しました。それと……今回はこんな事になってしまって、本当に申し訳ありませんでした」
ボクは皆んなに向かって頭を下げた。
こうして頭を下げながら思うのは、昨日の葬儀でのこと……
棺の中で青白い顔で眠る自分……
ボクはそんな姿を家族の皆んなに突きつけてしまったんだ。
そう思うと本当に、『ボクは何て親不孝な事をしてしまったんだろう』って気持ちが込み上げてくる。
「うむ……これからは、あの様な無謀な事はするんじゃないぞ?」
父さんの言葉に、家族の皆んなが頷いている。
皆んながボクを心配している気持ちがひしひしと伝わってきて、それをありがたいと思いながら、ふと考えてしまった。
今は天界のお仕事で降臨中だから、こうして皆んなに会えているけれど、本来なら二度と会うことは叶わなかったんだ……
今回の里帰り(?) が、きっと皆んなと過ごせる最後の機会になるんだろうな……
そう思ったら妙に、胸にグッとくるものを感じてしまった。
「ハイ! この話はここまでにしましょう! さあさあ、席について! 皆んなで朝食をいただきましょう!」
しんみりしそうになった空気を掻き消すように、母さんがパンッと手を叩きながら明るい声で皆んなに呼びかけた。
「おぅ、ガッロル! お前も早く座れ!」
母さんの呼びかけで着席したヨヴァンが、隣の席の椅子を引いてボクを呼んだ。
「うん!」
ボクがヨヴァンの手招きに頷いて足を踏み出したその瞬間……
(ねえっ! ガーラッ! まだなの!? 早く私のこと紹介してっ!)
アルが心の中で、少し声を荒げながら話しかけてきた。
伝わってくるその感情は、少し……いや、結構イラついている。
あわわっ、わ……忘れてたっ!! 大変だ! 早くしないと、紹介する前に勝手に話し出しちゃうよっ!
(ゴッ、ゴメン!! い、今から! 今から言うつもりだったんだっ! だからもう少しだけ待ってて? ね?)
胸に手を当てて心の中で必死にアルを宥めると、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をしてからボクは話を切り出した。
「あ、そ、の……ちょっと、は……話があるんだけど……いいかな?」
深呼吸の効果はあまり無かった。
何とも『しどろもどろ』といった感じになってしまったけど、まあ、それでも何とか話を切り出すことはできた。
ボクが緊張気味に皆んなの様子を窺うと、なぜか皆んなは驚いたようにその目を大きく見開いている。
(えっ??……あっ!)
そうだ! 父さんに言われてたんだ!『自信なさげな態度は部下を混乱させるから厳格な態度を崩さず常に堂々としていなさい』って。
さっきの『自信無さげな態度』がよくなかったんだ……どうしよう、話を始める前から失敗したかも……
その考えに思い至って、一人でアワアワとしていたら……
「うっ、うむ、なな、何だ? い、言ってみなさい?」
……と、父さんが瞳を彷徨わせながらも続きを促してくれた。
『絶対、注意されるっ!』と思っていただけに、許してくれたことで随分と心が軽くなった。
(よかった、怒ってはいないみたいだ。でも何て説明しよう……『分身』なんて言っても分かんないだろうし……ゔうーん……もういいやっ、当たって砕けろだ!)
ちょっと悩んだけれど、口下手なボクができることといえば愚直に説明することだけだ。
ボクは覚悟を決めるとノープランのまま、アルについての説明を始めた。
「実は、ボクの中にはもう一人のボクがいるんだ……あ、いや、何て言えばいいかな……えっと、その、もう一人のボクは『アル』って言うんだけど、アルが皆んなに挨拶したいって言ってるんだ……けど……」
『分身』に絡めた説明ができないから、何ともグダグダな感じになってしまった……
(うくぅっ……話し方が5歳児レベルだ……これじゃ自分でも何言ってんだか分かんないよ……)
だけど、ボクにはこれ以上の説明が思い浮かばない。
皆んなの顔を見ていられなくなって、ボクは足元の絨毯に視線を落とすと、誰かが反応してくれるのを静かに待った。
「あー、ガッロルの中にアル?ってやつがいるのか? そいつが挨拶したいってことで合ってるか?」
「!?……う、うん! うん、そうなんだ!」
俯いてしまったボクに、ヨヴァンが助け舟を出してくれた。
ヨヴァンは、ぶっきらぼうだけど面倒見のいい兄だ。だからこうして、いつもボクの味方をしてくれる。
こんなメチャクチャな話でも理解しようとしてくれて……あ、マズい。ちょっと泣きそうだ……
「ちょっと驚くかもしれないけど……いいかな?」
感動で潤んでしまった目から涙がこぼれないよう少し大きく目を見開きながら、ボクは家族の反応をジッと伺った。
すると突然、皆んなが一斉に息を呑んだ。
えっ!?……そ、そんなに、アルのことは受け入れにくいものかな?
そんなに……
「ダメ……かな?」
「ダメな訳ねぇだろぉぉ!! とと、父さんたちもそうだろ?」
ヨヴァンが、声高な声で叫びながら立ち上がった。
立ち上がった拍子に、繊細な彫刻が施されたそれなりに高価な椅子が派手な音を立てひっくり返った。
「うむ、もも、もちろんいいぞ。な、母さん」
「そそ、そうね! アルちゃん?とご挨拶するのね!」
「ゴホッ、い……いいんじゃないか? 俺はいつでもいいぞ」
ヨヴァンの気迫に押されてだろうけど、それでも皆んな許可してくれた。
よかった、皆んなに受け入れてもらえて……これで、やっとアルを呼び出せる。
(ねえ、ガーラ。今、自分でスッゴイことしちゃったって自覚、ある?)
(?……何が? それより、ほら! 挨拶したいんだろ? 苦労して説明したんだからさ!)
(う〜ん、無自覚もここまでくると罪深いわね……)
(?)
アルに、そんなよく分からないことを言われてしまった……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これより下は上記の出来事を(ヨヴァン視点)で書いてみました。
あくまでも “おまけ„ なので、読まなくても差し障りはありません。
長い!と感じたら、次話へ飛んでくれて大丈夫です!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇
——(ヨヴァン視点)——
俺の弟が妹になって帰ってきた翌日、久しぶりに家族揃って朝食を取ることになった。
ただし、今朝ここに家族全員が集まっているってことは、ガッロルには内緒……いわゆるサプライズだ。
もちろん、この提案をしたのは俺だ。
家族からは『いい歳して子供っぽいことを』って言われたが、あいつは俺と同じで、こういった『お祝い系サプライズ』が大好きだから、きっと喜んでくれるはず。
それに昨日は、ガッロルの周りに第三騎士団の連中や国王、国の重鎮なんかが押し寄せていて、俺も兄貴も、話かけるどころか近づくことすらできなかった。
だというのに、宰相や重鎮たちが『天界の使者であらせられるのだから』とか言って、ガッロルを王宮に連れて行こうとしていたから、兄貴と一緒に猛抗議していたんだ。
ま、本人は、そんなこと知らないだろうけど。
とにかく、そんなことがあって、俺たち兄弟はガッロルと顔を合わせるタイミングを逃してしまったんだが、そのことを逆手に取って考えたのが、今回の『サプライズ朝食会』だ。
今からガッロルの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ!
◇◆◇◆◇
(う、嘘だろ……スッゲー可愛いじゃないか……)
食堂に現れたガッロルは、この世の者じゃないくらいに、本当に可愛い女の子になっていた。
打ち合わせでは、俺が口火を切ってこの場を盛り上げるはずだったんだけど……何だか、変に意識してしまって言葉に詰まってしまった。
「父さん、母さん、おはようございます。それに、兄さんたちも!」
俺がグズグズしている間に、ガッロルが、嬉しそうに微笑みを浮かべながら、朝の挨拶を述べた。
(はっ! 声まで可愛いって……)
『鈴を転がすような声』とはよく言うけれど、現実にはそんなモノあるわけない、と思っていた。この声を聞くまでは……
微笑みを浮かべるガッロルに釣られ、半ば微睡むような気持ちで微笑みを返していたら……
「ゴホン!」
父さんが、不意に咳払いをしてその場の空気を引き締めた。
その咳払いで、俺はハッと我に返った。
(そ、そうだっ! 俺が取り仕切るはずだったのに!)
慌てて父さんの方へ視線を向けると、父さんは、チラリと俺に向かって視線をよこしてから、カイゼル髭をひと撫でした。
この『髭を撫でる仕草』は、父さんが何か重要な話を始める時の合図だ。なので、俺は黙って父さんの言葉を待った。
すると……
「おはよう、ガッロル。昨夜はよく眠れたか? 部屋が暑すぎたり、ベッドが硬すぎたりはしなかったか?」
父さんが、今にも蕩けそうな顔で微笑みながら、聞いたこともないような穏和な声でガッロルに話しかけた。
普段は厳格だの何だのと、硬いことばかり言っている父さんのこの変わりように、俺は凄く驚いてしまった。
その後も父さんは、戸惑うガッロルに構うことなく、過保護な発言を続けていて……
まるで、家具一式すべてを買い替えてしまいそうな勢いだ。
しかし……
(そうか、俺もこんな感じになるところだった……)
さっきまでの自分の心情を具現化すれば、まさに父さんのその姿と被るものがあった。
そのことに気付いた俺は、以前と変わりない態度で接してやる、と心に誓った。
そうだ、俺は……普段通り接してみせる……
「おはよう、ガッロルちゃん。はあ、私にもついに念願の娘ができたのね……」
可愛いものに目がない母さんは、いつもの『可愛いものを見つめる目』で、ガッロルをロックオンし始めた。
その様子を見ていたら、ガッロルが小さい頃、母さんがガッロルを女装させていたことをふと思い出した。
今回はガチの着せ替え人形にするんだろうな……
そんなことを思いながら席を立つと、いまだに入り口付近に佇んでいるガッロルの元まで歩み寄った。
「やっと来たか。久しぶりだな、しばらく見ない間に随分変わったなぁ?」
(よし、いつも通りに振る舞えたぞ。とどめに頭でも撫でとくか……)
俺はいつも通り、ちょっとだけ乱暴にガッロルの髪の毛をかき回した。
「うわっ、あはは、やめてよ兄さん」
抗議はしているが嬉しそうな声を上げているガッロル。
いつも通りの反応だが、俺の方がいつも通りじゃなくなった。
(うっわ、髪の毛サラッサラじゃないか。なんかいい匂いもするし……って、だ、だめだ! 変なことを考えるな、ヨヴァン! こいつは弟だ! 変なこと考えるじゃない!)
俺が心の中に湧き上がる正体不明の感情と必死に戦っていた時……
「……ヨヴァン、やめろ。ガッロルはもう頑丈な男ではないんだぞ。もっと優しく扱ってやらねば壊れてしまうではないか」
兄貴から至極真っ当な注意を受けて、スンッ……と、一気に冷静さを取り戻すことができた。
でも同時に、知られたくない心の内を見透かされたような気がして、ちょっとムッとしてしまった。
「お久しぶりです。兄さんたちはお変わりない様で安心しました。それと、今回はこんな事になってしまい申し訳ありませんでした」
「うむ。これからは、あの様な無謀な事はするんじゃないぞ?」
ガッロルが改まってみんなに向かって頭を下げた。
フニャついた顔をしていた父さんも、この時ばかりは顔を引き締めている。
確かにあの時は、嘘だろ?って思った。
あの、フワッとしたガッロルが、そんな剛毅なことできるわけない、人違いだって。
連絡を受けて駆けつけた王宮で、変わり果てたガッロルを見たあの時の衝撃は、多分、一生忘れられないんだろうな……
「さあさあ、みんな! 席について朝食をいただきましょう!」
母さんが、気を利かせて明るい声を上げた。
そうだな、重い話はやめやめ。家族団欒を楽しまないとな!
「おぅ、ガッロル! お前も早く座れ!」
隣の椅子を引き、手招きしながら呼ぶと、ガッロルは嬉しそうに頷いた。
しかし、ガッロルは二歩ほど歩いて急に歩みを止めたかと思うと、胸に手を当てて不安げに瞳を揺らし出した。
「あ、そ、の……ちょっと、は……話があるんだけど……いいかな?」
(え……な、なんだ? 今の……か、かわいっ)
見た目じゃなくて……いや、見た目も可愛いんだけど、上手く言えないけど、その……醸し出す雰囲気っていうのか? あえて言うなら小動物。そう、ちょっと怯えた小動物みたいで……
「うっ、……うむ、なな、何だ? 言ってみなさい?」
父さんの上ずった声が、またしても俺を冷静にさせた。
(はっ!? あ、あぶねぇ……けど、何だ? 今の感じ……)
自分がよく分からない高揚感に見舞われていたことに気がついて、俺は動揺してしまった。
俺とは対照的に、ホッとした顔をしていたガッロルだが、すぐ表情を引き締めると背筋を正して話し出した。
「実は、ボクの中にはもう一人のボクがいるんだ……あ、いや、何て言えばいいかな、えと、その、もう一人のボクはアルって言うんだけど、アルがみんなに挨拶したいって言ってるんだ……けど……」
ガッロルはそう言うと、見る見るうちに自信なさげに俯いてしまった。
これは、一生懸命に説明しようとして上手くいかなかった時に見せる、口下手なあいつのお馴染みの仕草だ。
でも、いつもと違って儚い? 繊細? な空気が漂っていて、守ってやらないとって気にさせられる……
だからってわけじゃないけど、ここは兄として、俺が何とかしてやらないといけないな。
何しろ、ガッロルのことを1番分かっているのはこの俺だからな!
ってことで……えーと? ガッロルの中の『もう一人の』ってのはよく分かんないけど、まあ、『天使』になったくらいだし、常識外れなことがあっても不思議じゃないよな?……で、要するに挨拶がしたいって事だから……
「あー、ガッロルの中にアル?ってやつがいるのか? そいつが挨拶したいってことで合ってるか?」
「!?……う、うん! うん、そうなんだ! ちょっと驚くかもしれないけど……いいかな?」
ガッロルが弾けたように顔を上げ、俺を真っ直ぐに見つめてきた。
その一生懸命な眼差しが、徐々に潤んで輝きを増してゆく……
な、何だ!? この吸い込まれそうな瞳はっ!
キラキラなんてもんじゃない……キラッッキラだ!
ぐっ、そ、そんな目で見つめられると……っえ!? な、何だ!? む、胸が!?
突然、キュンとするような謎の胸痛に見舞われて、俺が焦っていると……
「ダメ……かな?」
ガッロルが、首をちょっとだけ傾けて伺うような仕草をしてみせた。
潤んだ瞳で上目遣いのまま小首をかしげたその姿を見た瞬間……
「ダメな訳ねぇだろぉぉぉ!! とと、……父さんたちもそうだろ?」
早鐘を打ち始めた胸の動悸を誤魔化すように、俺は大声を出しながら立ち上がった。
「うむ、もも、もちろんいいぞ。な、母さん」
「そそ、そうね! アルちゃん? とご挨拶するのね!」
「ゴホッ、い……いいんじゃないか? 俺はいつでもいいぞ」
立ち上がった拍子に椅子が壊れたんじゃないかってくらい激しく倒れたけど、誰にも注意はされなかった。
誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。
((。´・ω・)。´_ _))ペコリン




