表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/59

〜Lv.13〜 スカウトされて新人天使になりました②

 早速、ボクたち(?)は、レファスに案内されて『擬似体』があるという研究棟へやってきた。


 レファスが、とある研究室(ラボ)の前で足を止めると、『魂認証機能付き自動扉』のタッチパネルに手のひらを押し当てた。


 すると、ロック解除の軽い電子音の後、シュン!っと小気味良い音を立てて扉が開いたかと思うと、室内から複数の化学薬品の臭いが漂ってくる。


 それが、如何にも『秘密の研究室』って感じで……何だかワクワクする!


 実はボク、何を隠そう、こういうSFっぽいのが大好きなんだよね。


 (そういえば、文化レベルの低い世界にばっかり転生していたから、こういう技術力溢れる世界って久しぶりだなぁ)


 久しぶりの『高水準文化レベルな世界』にウキウキしながら、ボクはレファスの後について研究室(ラボ)に足を踏み入れた。


 通されたそのラボの壁面には、薄水色の液体で満たされた培養カプセルがズラリッと並んでいて……


 (おぉ! マンガやアニメに出てくるのと一緒だ! SFの世界観だ! テンションが上がるなぁ!)


 その近未来感あふれる光景に、『大いなるオタク心』をくすぐられたのも束の間……


 (ク……クローン的な……何か、かな?……おかしいな? こういうのは平気だったはずなんだけど……)


 よく見ると、その培養カプセルの中には、白や赤の肉塊が浮かんでいて、拍動していたり、ピクリと(うごめ)くものもあって……


 何だろ、……凄く気持ち悪い。


 (やっぱり、これってアルの影響を受けている……ってことのかな?)


 でも、これからは、覚醒状態のアルと共にいることになるんだから、こういう状態に慣れていかないといけないんだよね……


 とはいうものの、過去のSF好きの記憶と今の心理状況のズレに違和感を覚えてしまって少し困惑してしまった。


「さあ、こっちだよ!」


 レファスが弾むような声でそう言うと、部屋の奥へ向かってズンズンと歩きだした。

 その声にハッと我に帰ったボクは、慌ててその後を追いかけた。


 様々な装置や試薬の置かれた実験台の横をすり抜けて、部屋の奥までやってくると、そこに『魂認証機能付き自動扉』が隠されるように設置されていた。


 レファスがそのタッチパネルに手を翳しロックを解除して扉を開放すると、ボクはその薄暗い部屋へと招き入れられた。


 その部屋の中央。

 一段高くなっているその場所に、手術台のような寝台が設置されている……


「さあ、それじゃ早速だけど、これに入ってもらおうかな!」


 レファスに明るい声でそう告げられて、ボクはその寝台の上に横たわる白い塊の前に立たされた。


「えっ、これ……ですか?」

 (これが『疑似体』? 辛うじて、人っぽい型はしてはいる……けど……)


 子供が作った粘土細工のように表面は凸凹しているし、指もなければ顔もツルンとしたのっぺらぼうだ。

 それに、左右の手足のバランスも悪いし、背中から伸びたペラペラの翼?が、だらしなく寝台の脇から垂れ下がっていて……


「……何というか、その、……大丈夫なんでしょうか……?」


 その形状に一抹の不安を抱いて、ボクはつい、そんな失礼な質問をしてしまった。


「心配いらないよ。見た目はこんなだけど、その分、魂に寄り添うように出来ているからね」


 レファスは、ボクのその失礼な質問に気分を害した様子も見せず、『大丈夫!』とばかりに人好きのする笑顔を向けながら、ボクにサムズアップして見せた。


 ぬぅぅ……今ひとつ不安感は拭えないけれど、そこまで言い切られたら、これ以上、異議を唱えるわけにもいかない。


「はあ、そうおっしゃるのな……っ、ねえ、パパ! この体って、ちゃんと女の子なの?」


 不承不承ながら了承しかけたボクの言葉を遮って、アルが唐突に話し出した。


 おっとと……そうだった。アルの意見も聞かないといけないよね。確かに、アルが気にするのも頷けるような造形だし。


「そうだよ、アルちゃん。柔軟性のある体だから魂に近い姿になるけど、『王女の“心臓”用』に造られたものだから必ず女の子になるんだよ」

「そっか、うん、安心したわ。じゃあ、ガーラ早くしてね!」


 アルはその一点だけの確認で十分納得がいったのか、満足そうにそう言って、また静かに成り行きを見守る姿勢に戻った。


 それを見届けたレファスが、早速と言わんばかりに早口に喋り出した。


「それじゃ、ガッロル君! 『擬似体』の上に横たわってくれるかい?」

「エッ!? この上に!?……ですか?」


 見るからにブヨブヨとした擬似体。まさか、その上に横たわることになるなんて思わなかった。


 ボクが二の足を踏んでいたら、「大丈夫、大丈夫。心配いらないから!」と、レファスの明るい声がボクを追い立ててくる。


「……はい」


 レファスの圧に押されて渋々返事はしたものの、目の前の『疑似体』は培養カプセルに浮かんだ肉片を連想せさて……ゔゔっ、気持ち悪い。


 それでも寝台の上に這い上がり、見た目通りブヨついた擬似体の上にゆっくりと寝転んだ。


「しばらくすると、擬似体が君を包み込んでくるけど、驚かないようにね」


 レファスの言う通り、徐々に体が擬似体の中に沈むように飲み込まれてく。


 その体にまとわりついてくる感覚が……


「ゔぅっ、なんか……気味悪いですね」

「ふふっ、すぐに終わるから少しの辛抱だよ」


 ボクの体が、擬似体にすっかり沈み込まれた瞬間、ふわふわとした魂特有の感覚が無くなり、生前の肉体に似た感覚が戻ってきた。


 (……そろそろ、良いかな?)


 ボクはゆっくりと目を開けると、目だけで辺りを見渡した。

 うん、視界もいいし感覚も問題ない。


「……もう、動いても大丈夫ですか?」


 ボクは、傍らで見守っているはずのレファスに声をかけた。


「………………」

「レファス様?」

「………………」


 どうしたんだろう……さっきまで、あれほど饒舌だったレファスが一言も口を利かなくなってしまった。


 傍らに気配は感じる……のだが全くの無反応だ。

 とはいえ、いつまでもこうして寝転がっているわけにもいかないし……


 まだ許可は出ていないけど、ボクは慎重に体を起こすことにした。

 ……うん、大丈夫そうだ。


 首をひねって横を見ると、レファスはボクが擬似体に入る前と同じ場所で微動だにせず佇んでいた。


 ただ、その表情は、強い衝撃を受けた時のように驚きに目を見張っていて……


「レ、レファス……様?」

「………………」


 レファスのそのただならぬ雰囲気に、ボクはこれ以上、呼びかけることができなくなってしまった。


 しかし、ボクが口を噤むのと入れ替わるように、今度はアルがレファスに語りかけた。


「パパ? どうしたの?」

「アルガーラッ!!」


 アルが呼びかけた途端、レファスが弾けたように反応した。


 ボクは、『アルガーラ』の名を呼びながら飛びつくような勢いでやって来たレファスに、アッという間に抱きすくめられてしまった。


 しばらく呆気に取られて成すがままになっていたが、ボクの素肌に触れるレファスのジャケットの感覚で、自分が裸であることと……


 (む、むむむ、胸がある!?)


 ……自身の身体つきの変化に気がついた。


「のぅっわぁぁぁっ——!!」

「うぅっ、うぅぅっ……」


 ボクは、縋り付いてくるレファスを引き剥がそうとジタバタともがいたが、気ばかり焦ってなかなか上手くいかない。


 そんなボクのことを、レファスは嗚咽を漏らしながらますます強く抱きしめてきて……

 ボクの背中に回されていたその腕が、優しくボクの肩を撫で始めた。


『ぎゃぁぁぁー!!』


 驚き暴れるボクを押さえるように、今度は、(ウエスト)に回されたレファスの腕に力が込められた。


『ひぃぃぃっ!!』


 レファスがボクを押さえ込むその度に、否でも自身の体のラインを認識させられてしまい、ボクは声にならない悲鳴を上げた。


 (肩がっ、腕がっ、こ、腰も細いぃ!!)


 自分の『女性特有の華奢な体』にプチパニック状態で、何も考えられなくなっていたら……


 (ねえ、ガーラ。パパ、どうしちゃったのかな?)


 珍しく心に直接話しかけてきたアルの声にハッとして、ボクはやっと我に帰ることができた。


 そうだ! レファスがこうなったきっかけは、アルが呼びかけてからだ! なら、レファスのこの状況も、アルなら何とか出来るんじゃないだろうか。


 (アッ、アルッ! アルッ!! レファス様に声をかけてあげてくれっ!)

 (え、私が? ガーラじゃなくって?)

 (そうだよっ、頼るって言っただろ? それが、今なんだよっ!)

 (っ!! わ、分かったわ! まかせて!!)


 アルは、初めてボクに頼られたからだろうか、俄然やる気を見せながら、フンスッ!と鼻息も荒く、レファスに向き合った。


 ここはすべてアルに任せて、ボクは乱れた心を落ち着けることに専念しよう……


「パパ、大丈夫? どうして泣いてるの? 私、何か失敗しちゃった?」


 アルがレファスを抱きしめ返しながら、その背中をポンポンと軽く叩いて話しかけた。


 そして、そのままレファスの背中を摩りながら、彼が落ち着くのを黙って待っていた。


 しばらくして嗚咽の収まったレファスは、ボクからゆっくりと手を離して袖で涙を拭うと、涙痕の残ったままの顔でクシャリと笑って、アル(ボク)の頭を優しく撫でた。


「……アルちゃん、ごめんね? なんでも無いんだ……ちょっと取り乱しちゃっただけだから……」

「もう、平気? パパが悲しそうにしてると、私も悲しいもん」

「ありがとう。アルちゃんもガッロル君も驚かせて悪かったね。擬似体は上手くいってるから心配いらないよ」


 レファスはやっと平常心を取り戻したようで、擬似体との融合が上手くいったことを告げてきた。


 何がレファスを刺激してしまったのかは謎のままだが、とにかく、レファスが元に戻ってよかった。


 それにしても、今回は本当にアルに助けられた。アルがいなかったらどうなっていたことか……


 (ボクもまだまだだな、少し体型に変化があったくらいであんなに狼狽えるなんて)


 ただただ狼狽え続けて、何もできなかった自分が情けない……


 ボクは気を取り直して、アルに任せっぱなしだったレファスとの会話を再開することにした。


「さっきは凄……いえその、ちょっとビックリしました。一体どうされ……あっ」


 聞いてしまった後で、この質問がかなりプライベートな部分に言及するものだと気がついてハッとした。


 しまった! 初っ端からやってしまった。普段なら、こんな失言はしないのに……

 自分じゃ分からないけど、やっぱり、ボクはまだ動揺しているんだろう。


 ボクは、慌ててその質問を取り消した。


「い、いえ、何でもありません! すみません、いろいろありますよね!」

「そう言ってもらえると助かるよ、ありがとう」


 レファスが気分を害していないかと気になったが、当人はあまり気にしていないようで、ボクとしてはホッとした。


 すると、レファスがチラチラとボクを見ながら、何だか言いにくそうに口を開いた。


「あー、こんなことお願いするのも何だけど、その、……この件については……秘密にしておいてもらえないかな……?」


 そう言うと、レファスは少し照れくさそうに微笑んだ。


「もちろんです! 他言なんかしません!」


 ボクは、何度も深く頷きながらハッキリと声に出して宣言した。


 もちろん、誰にも言うつもりはない。なんなら、さっきの記憶を封じたって良い!……って、はっ! さっきの記憶といえば……


 そこまで考えて、はたと思い出した。そういえば、今のボクにはそれよりも気にしなければいけないことが他にあったんだ……


 ボクは寝台の上で体を丸めながらレファスに訴えた。


「えっと、その、レファス様、……何かその、羽織るものをいただけないでしょうか……?」


 そう……ボクは今、裸なんだよ。


 男の子時代なら、屋外での上半身裸だろうが集団で入浴しようが、まるで平気だったのだが、なにぶん女の子の体は初めてだ。


 だから、今の自分の体つきが何だか妙に恥ずかしい。


「あっ、ああ! そ、そうだよね、ゴ、ゴメンね?」


 レファスが、出入り口脇のポールハンガーに引っ掛けてあったローブを外すと、急いで頭から被せてくれた。


「あ……ありがとうございます」


 ローブから頭を出しモソモソと袖を通しながら礼を言うと、寝台から降り立ち、所在なげに裾を整えた。


「あー、えっと、こ、これからっ、ど、どうすればいいですか?」


 先程の騒動を、さっさと過去のものにしてしまおう!


 そうすることに決めたボクは、気恥ずかしさを堪えながら強引に話を進めることにした。


 それにはレファスも同意見だったようで、素早くボクの会話に乗ってきた。


「そっ、そうだね!……えー、少し……いや、随分と姿が変わっているから以前の感覚とのズレが心配だね! ちょっと手足や翼を動かしてみてくれるかい?」


 うぐっ……レファス様……ボクは女子になったことを意識したくなくて会話を進めたのに、『随分と姿が変わってる』なんて意識させるような……そういう言い方はしないでほしい……


 まあ、それはさておき、ボクはレファスの言う通り、慎重に手足を動かしてその感覚を確かめてみることにした。


 ……うん、問題ない……というより、何これ、体が凄く軽い!


 思い切り踏み切ったら、結構な高さまで飛び上がれそうだし、腕も見た目以上に力が強い。これなら全く問題無さそうだ。


 ただ……


「手足は特に問題ありません。でも翼の方は……ちょっと、よく分かりません」


 ……翼の感覚は掴めなかった。


 背中に微かな重みを感じているので、くっついてはいるのだろうが、やはり手足のようにはいかなかった。


「ん? 少し触るよ。……どうだい? 感覚はあるかい?」

「あ、はい、分かります。肩甲骨だったところですね」


 レファスが、ローブの背中に空いた翼用のスリットから手を差し込んで撫でた翼は、下界人の体でいう肩甲骨だったところだ。


 だとすると、……少し困ったな。


「うん、よかった。まずは、感覚が無いと話にならないからね」

「でも、動かせる気がしないのですが……」


 レファスは気楽な感じに言っているが、その場所は元・肩甲骨だ。

 なので、こちらとしては、そんな楽観視ができない。


 その証拠に、少し力を入れてみたのだが、翼はわずかに揺れるように動くだけで、まったく言うことを聞かない。


 折り畳まれた状態で固まっていて……そもそも、元が肩甲骨では、『広げる』というイメージができない。


「ふむ、……ちょっとだけ手伝ってあげるから伸ばしてみようか」


 レファスはそう言うと、何の気無しにボクの翼をスリットから引っ張り出した。

 その瞬間、ボクの背中に激痛が走った。


「っ、んぎあぁぁっっ!!」

「ご、ごめん、痛かったかい?  こういう事は初めてだったね。でも、もう少しだけ頑張ってみようか」

「……っ、……は、はい」


 うくぅぅっ、いっ、痛かった…… 本気で『骨折した!』って思ってしまった……


 でも、さっきは不意打ちで……心構えができていなかったから、情け無い悲鳴を上げてしまっただけで……

 だから、今度はきっと大丈夫……よし!


 ボクは、自分に言い聞かせて気合いを入れると、深呼吸して痛みに備えた。


「次は、ゆっくりと動かすから、なるべく力を抜いているんだよ」


 レファスがそう言って、ジワジワとボクの翼を引き伸ばしていく。


 気を遣ってくれているのは分かるんだけど、コレはコレで痛みが長く続くので辛い。


「っ、……くっ、……はぁっ……はっ、……うっ、……」

「頑張って、あと少し、もうちょっとだから」


 歯を食いしばって痛みに耐えているボクに、レファスが励ましの言葉をかけてくれる……が、もうダメだ! 限界だ! 痛すぎる!


「まっ、待って下さい、……くぅっ、少し、や、休ませて……」

「ココでやめちゃうと後が辛いよ? あと少しだから最後まで頑張るんだ」


 あまりの痛みに一旦中止を申し込むも、レファスのその一言で、ストレッチの続行が決定してしまい、ボクはこれから訪れるだろう痛みを想像して、ヒュッと息を吸い込んだ。


 そんなボクに構うことなく、レファスはグイッとボクの翼を引っ張った。


「うっ、くぅ、うあっっ!!」


 あまりの激痛に思わず声を漏らしてしまったが、レファスの言った通り、すぐに翼は真っ直ぐに伸び切った。


 すると、さっきまでの痛みが嘘のように消えてしまった。


 (よっ、よかった……これで、しばらく休憩させてもらえ——)

「よく頑張ったね。じゃあ、今度は左の翼を伸ばしてみようか?」


 ほぅ、と息を吐いて額の脂汗を拭っていたボクに向かって、レファスが鬼のようなことを言い出した。


 その優しそうな見た目とは違って、レファスは意外とスパルタだ……


「まっ、待って下さい。少し休憩させて下さい」


 呼吸も整わないうちにあの激痛をもう一度、と聞かされて……さすがに眩暈がする。


「こういうのは後回しにすると恐怖心が増すよ? 立て続けにやった方がいいんだよ!」


 (確かにその通りだけど……だけどっ! ボクの心の中は既に恐怖心でいっぱいだ!! だから、後回しにしてもしなくても同じってことで……だから、後回しにしてもいいんじゃないかってことでっ!!)


 そんな風に、ボクが頭の中でグルグル考えているうちに、レファスは「さあ! 始めるよ!」と言いながら、ボクの左の翼に手をかけた。


 その様子が少し楽しそうに見えたのは……気のせい?……だろうか?


 こちらの返事を待つ事なく、レファスは再びゆっくりとボクの翼を引っ張り伸ばし始めた。


 瞬く間に、ボクは激痛地獄へと突き落とされてしまった。


「うぁっ!……くぅっ、」


 痛みに喘ぎ、歯を食いしばりながら耐えていると、突然、過去に同僚から教えられた 『痛みを抑えられる方法』が脳裏に蘇ってきた。


 (こ、これだ! これを使えば、この苦痛から逃れられるかもしれない!)


 ボクは急いで、その『呼吸法』を実践に移した。


「……ヒッヒッ、フ〜、……ヒッヒッ、フ〜、……ヒッ……だ、ダメだ!」


 結果、その『呼吸法』は全く効かなかった。


 (全っっ然、効かないじゃないかあっ!!)


 ボクは過去の同僚を、心の中で責め立てた……

 飛んだ八つ当たりだということは自分でも分かっているが、そう思わずにはいられない。


「……ぷっ、くっくくっ、……それ、ラマーズ法だよね……」


 レファスが、笑いを堪えきれずにプルプルと震え出した。


 実に楽しそうだが、こちらはその振動で痛みが倍増した。


「……ゔぅ〜、……まだ、で……すか……」

「もう、ちょっとだね。ほら、頑張って。辛いなら、その寝台に手をついているといいよ」


 唸る元気も無くなってきた……もう、一思いにやってもらった方が楽なのでは?


 そう思ってしまったボクは、寝台に両手をつきながら……


「もう、一思いにやって下さい……」


 ……と、うわ言のように呟いていた。


 この時、ボクはあまりの痛みに、正常な判断ができなくなってしまっていたんだ。

 なのでこの直後、『何故あんなことを言ってしまったんだ!』と、激しく後悔することになる。


「いいのかい? 随分と苦しそうだよ?」

「……長引くより、一瞬で終わる方がまだマシです……」

「そうかい?……そこまで言うのなら……じゃあ、いくよ!!」


 その掛け声と同時に、レファスの翼を引く手にグッと力が込められた。


 決して強引では無かったが、今までの倍の速さで引き伸ばされた翼は、ボクの想像を超える強烈な激痛を訴えてきて……


「!!……うぐっ、……ぐああぁぁぁぁぁぁ!!」


 意識が飛びそうなほどの激痛に見舞われて、ボクが堪えきれずに叫び声を上げたちょうどその時……


 バタ———ン!!

「レファス様ぁぁぁ!!  いったい、何やってるんですかぁぁぁ!!」


 ……ボクの悲鳴を聞いたフィオナが、憤怒の形相で扉を蹴破って飛び込んできたのだった。







 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

〜閲覧注意のお知らせ〜

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ここより下は『フィオナ視点』のお話で、彼女の()()が爆発しています。

 読まなくてもストーリーに全く支障はありませんので『下ネタ』が苦手な方は、読まずに次の話へ行って下さい!


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 少し、時間を遡ること、十数分前。


 私こと”フェニックスのフィオナ“は、研究室(ラボ)の奥の間から聞こえてきた少女の叫び声にピタリと動きを止めた。


 今、まさに扉を開けようと、認証パネルに手をかざしかけた時の事だった。


『っ、んぎあぁぁっっ!!』

『ご、ごめん、痛かったかい?  こういう事は初めてだったね。でも、もう少しだけ頑張ってみようか』

『……っ、……は、……はい』


 聞き覚えのない少女の声に続いて聞こえてきたのは、間違いなく、我が(あるじ)であるレファスの声だ。


 何やら只事ではない気がして、そっと聞き耳を立てた。


『次は、ゆっくりと動かすから、なるべく力を抜いているんだよ』

『っ、……くっ、……はぁっ……はっ、……うっ、……』


 レファスの気遣わしげな声に対して、少女の苦しそうな呻き声が聞こえてくる。


『頑張って、あと少し、もうちょっとだから』

『まっ、待って下さい、……くぅっ、少し、や、休ませて……』

『ココでやめちゃうと後が辛いよ。あと少しだから最後まで頑張るんだ』

『うっ、くぅ、うあっっ!!』


 そこまで聞くと、私はヨロヨロと扉から後ずさった。


 (いっ、いったい何が起きているの!?)


 私は、自身が『熱狂的恋愛脳』の持ち主であることを自覚している。

 愛読書はもちろん恋愛モノ。


 そのジャンルは幅広く、純愛ものから略奪愛、ドロドロの不倫に至るまで、全ての分野をこよなく愛してやまない。


 昨夜も遅くまで、かなり過激な『歳の差恋愛モノ』を読み耽っていたため、どうしてもその世界観がチラついてしまう。


 余談だが、私のこういった趣向は、今は亡き王妃様に影響されたところが大きい……


 (冷静になるのよ、フィオナ! あれは架空の話! 現実的ではないからこその作り話なのよ!)


 自身の想像が間違いである、と言い聞かせながら、再び扉へと近づくと聞き耳を立てた。


『まっ、待って下さい。少し休憩させて下さい』

『こういうのは後回しにすると恐怖心が増すよ? 立て続けにやった方がいいんだよ』

『うぁっ!……くぅっ、』


 休憩を要求する少女の声と、それを却下するレファスの声。


 そして、ふたたび苦痛に満ちた少女の声が聞こえだすと、私は扉から耳を離した。


 今、私の脳内では、昨夜見た『歳の差恋愛モノ』小説の世界が展開されていて、その他の可能性を考えられなくなっていた。


 (そ、そんな、し、信じられない!  あの、レファス様が!?)

『……辛い……ら……寝台……をつ……ると……』


 距離を置いても、なお漏れ聞こえてくる声に、私は扉から跳ぶように後退ると、2人の声が聞こえないように両耳を塞いだ。


 (あっ相手は誰なの? ここには”心臓“用の擬似体があったはず……)


 そこまで考えて、一気に顔から血の気が引いた。


 (う、うそっ!?)

『!!……うぐっ、……ぐああぁぁぁぁぁぁ!!』


 ある可能性に気付いて、ハッと顔を上げた時、一際、大きな叫び声が聞こえてきた。


 次の瞬間には、私は反射的に扉を蹴破っていた。


 バタ———ン!!

「レファス様ぁぁぁ!! いったい、何やってるんですかぁぁぁ!!」


 扉を蹴破ったその先で、私が見たものは、……息も絶え絶えに寝台に突っ伏している美少女と、その少女の翼にストレッチ&マッサージを施しているレファスの姿だった。

誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。

((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ