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〜Lv.12〜 スカウトされて新人天使になりました①

 現在、レファス達はボクの『番号札』の件で、霊界政府と連絡を取るために席を外している。


 だから今、この広い応接室にはボクとアルの二人きり……


 なので、ちょっとくらい独り言が過ぎても大丈夫だろうってことで、ボクは気になっていたことをアルに聞いてみることにした。


「あのさ、『番号札』のことなんだけど、アルはいつの間にランスさんから受け取ってたの? そんな暇なんて無かったように見えたんだけど?」


 ランスが転生課に帰って来てからは、ボクはアルと別行動をした覚えはない。


 それに転生データだって、前回の物を参考にしたとはいえ、作成にはそれなりに時間がかかるはずだし……


 ……と、辻褄が合わず、スッキリしなかった気持ちを解消したかったからだ。


「あ、ランスのことが気になっちゃう? うふふ、心配しなくても抜け駆けなんかしないわよ〜」


 アルがイタズラめいた笑顔を浮かべながら、揶揄(からか)うように告げてくる。


 まったく……アルはすぐ、()()()方面に話を持っていきたがるから、話がなかなか進まないよ。


 ボクのランスに対する気持ちは友人としてのもので、決して恋愛感情じゃないってことぐらい、一心同体状態の今ならアルにだって分かるだろうに……


「そんなんじゃ無いってば。分かってて揶揄(からか)ってるんだろ?……もう、いいよ、そんなに重要なことじゃ無いし……」


 結局、転生はしないからデータは削除されるんだ。いつ入力したのかなんて誰も気にしないだろうし……


 そんなことを思いながら、素っ気ない口調でそう言うと、アルは慌ててボクの機嫌をとるように、『番号札』についての説明を始めた。


「あっ、拗ねないで? 機嫌直して? あの番号札はランスから受け取った物じゃあないの! あれを作ってくれたのはぁ、え〜っと……ほら、最初に窓口にいたあの職員よ!」


 アルが、「誰だっけ? 顔は分かるんだけどぉ〜」……と言いながら、頬に人差し指を添えて小首を傾けた。


 ……そんな可愛いポーズを、この体で再現しないでほしい……


「リオンさんが手続きしてくれたの? まあ、あの人も入国窓口にいるから手続きくらいはできるか」


 そういえば、アルがカウンターの向こうに飛んで行った時があったっけ。あの時に番号札の作成を頼んだのか……なるほど。


 なんとなく謎だった部分が分かってスッキリした。


 ……と、思っていたら、突然アルが、モゴモゴと口ごもりながら、言いにくそうに話し出した。


「えっと、あのね?……今さらなんだけど……あのデータ、……女の子の設定だったの……」

「ええっ!? あのデータって女子設定だったの!?」


 この話は終わったつもりでいた所に、アルから思いもよらなかった懺悔(ざんげ)を聞かされた。


 もちろん、女子が悪いわけではない……


 だけど、この騙し討ちのような状況に、ちょっとモヤモヤしたものを感じてしまう。


 もしあの時、ボクが誘惑に負けて転生用の転移ゲートを通過していたら……と思うと、なんとも複雑な気分になった。


 そんな訳で、二の句が継げなくなって黙り込んでしまったのだが、それをアルは、『ボクが怒ってしまった』と思ったみたいで、焦った様子で謝罪の言葉を口にし始めた。


「ゴメンなさいっ!……そのっ、あの時はいい考えだと思ったのっ!……女の子になっても、次は私が表に出て、ガーラが眠っていればいいんじゃないかと思って……」


 そう言うと、アルは、シュンと落ち込んでしまった。


 そんな寂しそうな様子のアルに、これ以上、責めるような言葉はかけられない。

 今更ながら、アルが『ずっと男の子ばかりで嫌だった』と言っていた言葉が思い出されて、ボクの胸に突き刺さった。


 (アルは、そこまで女の子として転生したかったのか……知らなかった。なのに、ボクはこんなにも長い間、アルに我慢させて……)


「ぁ、あー、いやその、こっちもゴメン。その……アルはボクの我儘に、長い間付き合ってくれていたのに……まぁ、でも、これからはずっと、その……お、お、……女の子でいられるわけだし……だから、今までのことは許して欲しいかな?……で、“その時”はボクがアルに頼ることになると思うから……さ」


 まあ、“その時”はアルの提案通りに眠っていたいんだけど、残念ながら今のように二人同時に覚醒した状態になるだろうな。

 あくまでも、アルは分身体で、本体を超えられないからね。


「!!っ、ガーラっ、ありがとう! 大好き〜!!」


 ボクは、歓喜の声を上げたアルにギュッと抱き締められた。


 だけど……


「うん、……いや、……えっと、……何なんだろ、コレ……」


 (コレ……、客観的に見ると、自分で自分を抱きしめてるよね?)


 左肩と右脇腹に回された自分の腕に、何だかナルシストっぽくて滑稽(こっけい)だな……と思ったことはアルには秘密にしておこう。



 ◇◆◇◆◇



「やあ、お待たせ。霊界政府にはフィオナが向かってくれたから、話を進めようか」


 軽いノックと同時に開かれた扉から姿を現したレファスが、にこやかに告げた。


「あ、パパおかえり〜、もう準備できたの? 転生? 降臨? どっちだっけ? まあ、いいわ。とにかくガーラの気が変わる前に早く下界に行きたいの!」


 アルはパタパタとレファスに走り寄って、レファスの右手を両手でキュッと握りしめると、その手を右に、左にと軽くスイングさせながら、小首を傾げ上目遣いで見つめる、といった『可愛いおねだりポーズ』を披露した。


 いや、『頼る』とは言ったけど……


 女の子になる覚悟を決めたとはいえ、こうも『女子力全開!』な感じで飛ばされると流石について行けない。


 ダメだ……は、恥ずかしくなってきた。


「……すみません、アルが暴走しました」


 赤くなった顔を見られたくなくて、ボクは俯いたまま謝ると、そっとレファスの手を離した。


「あれ? ガッロル君、何だかさっきまでと反応が違うね。どうしたのかな?」


 ボクの反応から何かを感じ取ったらしいレファスが、間髪入れずにそう訊ねてきた。


 レファスのその鋭い指摘に、思わず顔が引きつりそうになった。


 アルのために、今まで拒絶して来たモノにも慣れていこうと思っていたのは確かだけど……

 そんなに、分かりやすかった……かな?


「な、なんでもありません。そうだっ、降臨についての話がまだ途中でしたよね!? 早く始めましょうっ」


 この件には触れず、このまま流してほしい……


 そんな思いで、誤魔化すように仕事の話に持っていこうとしたのだが……


「ふ〜む、何か心境の変化でもあったのかな? それとも、アルちゃんとの融合が進んでるのかな?」

「ゔっ、…………」


 どうやら流してはくれないようだ……


 それにしても、ほんの少し喋っただけで、ここまで確信をついた答えに辿り着けるレファスに縮み上がる思いがする。


 これ以上喋るとボロが出そうなので、ボクは無言を貫くことにした。


 だけど、黙して視線を彷徨(さまよ)わせているボクのことを、レファスが楽しそうに見つめていて……とても居心地が悪い。


「『当たらずとも遠からず』って所かなぁ。ね、ガッロル君?」


 レファスに顔を覗き込まれ、(おど)けたような笑顔を向けられた。


 見透かされ過ぎていて恥ずかし過ぎる! かっ、顔が熱い!

 これ以上、この件でイジられるのは精神的に良くない……もう、素直に降参しておこう……


「ううっ、降参です。……もう、勘弁してください……」

「はははっ、君は本当に分かりやすいよね?」


 そう言って楽しそうな笑い声を上げたレファスに、ボクは肩をポンポンと軽く叩かれ、そのまま背中を押されてソファーへと誘われた。


「レファス様が鋭すぎるんですよ……」


 ボクは、対面のソファーに腰掛けながら、ささやかな抵抗でもって反論した。


「アルちゃんと上手に共生しようと努力しているように見えたからね。違うかい?」

「まぁ、約束しましたからね。さすがに固定されてしまうとは思いませんでしたけど……でも、これまでアルには長い間、我慢ばかりさせて来ましたから、今度はボクが我慢する番だと思いまして……」


 自分自身に対する決意表明のつもりでそう言った途端……


「!!っガーラァ〜、ありがとう! だ〜い好き!!」(うあぁっ!?)


 ボクはまたしても、アルに勢いよく抱きしめられてしまった。


 しかも、弾けるように勢いよく自身を掻き抱くその様は、究極の厨二病患者のようで……


 (むおぉっ……二人きり(?)だったさっきまでと違って、今はレファス様の目があるのに……)


 でも、これは、アルの感謝の気持ちからくる行動。だから、突っぱねるって訳にはいかない。


「ア、アル……き、急に出てこられるとビックリするから……」


 アルを傷つけないよう、やんわりとした口調で言葉に気をつけながらそう言って、ボクはそっと腕を解いた。

 ふぅ……やれやれ。


「うん、ガッロル君も大分その状態に慣れて来たみたいだね。降臨にも影響なさそうだ」


 レファスは穏やかな笑顔を浮かべながらそう言ったかと思うと、急にその表情を引き締めた。


 そして……


「実は、……そんな君に、もう一つ頼みたい事があるんだが、……いいかな?」


 ……と、声のトーンを落として語り出した。


 途端に、ピリッとした空気が室内に広がった。


 今までの明るい口調から一変、ガラリと変わったレファスのその雰囲気。

 荘重に語る今のレファスからは、人を従わせる王者の威厳さえ感じられる。


 (そうだった、この人は天界の高官。きっと、こっちの方が普段の姿なんだ……)


 今までのように気楽な態度ではいけないことを肌で感じて、ボクは背筋を正した。


「……まず、この話はギラファスと関係の深い話だから誓約書の対象になる」


 レファスは『誓約書』というワードを使って、これからの話の重大性を匂わせた。


 これから聞かされる話は、きっと先のギラファスの件よりも重大なような気がする。聞き逃すわけには行かない。


 ボクは、黙ってレファスの話に耳を傾けた。


「ギラファスに連れ去られた王女は保護された……って話したよね? でも、正確にはそうではないんだ。我々が奴を追い詰めた時、奴は『霊魂分離(スキル)』を使って王女の魂だけを連れ去ってしまったんだ」


 思いがけない話に、ぐっと息が詰まるような気がした。


 ——『霊魂分離』——

 生きたままの状態を保ちつつ、肉体から魂を分離する能力(スキル)。本来の使用目的は魂の保護で、一時的な処置に使われる場合が多い。


 『霊魂分離』は下界的に表現するなら、外科手術の時に使われる『麻酔』といったところだろうか。


 当然、『霊魂分離』にしろ『麻酔』にしろ、どちらも長期間使用するモノではない。というか、してはいけない。


 何故なら、意識が戻らなくなる……つまり、『霊魂分離』の場合、魂が肉体に戻ってこられなくなる危険性があるからだ。


 (『霊魂分離(スキル)』が使われたのって、王女様がまだ赤ん坊だった頃だよね? だとすると、スキル解除しても魂が迷子になってしまって戻ってこられないんじゃないの? ギラファスは何故そこまで……)


 生まれたばかりの赤ん坊に『霊魂分離(スキル)』を仕掛けたギラファス。

 その犯行動機が全く分からくて、ボクが考え込んでいたら……


「当然、魂のない状態では肉体は長く生きられない。そこで、魂を取り戻すまでの間、力のある天界人がその体に入ることによって、今まで王女の肉体を維持してきた」


 ……と、レファスは『魂を抜き取られた王女』の現状について話しだした。


 ギラファスの件については思うところがあるけれど、今はレファスの話に集中することにして、そのこと(ギラファス)についての考察は一旦置いておくことにした。


 で、レファスの言う王女の延命方法だけど、どうやらこれは『霊魂分離(スキル)』を応用した延命処置のようだ。

 確かに、それなら王女様の肉体を維持することができる。


 (でも、この方法だと『ドナー』の肉体に負担がかかっちゃうだろうから、長期間維持できるようなものじゃないと思うんだけど……)


 そんなボクの疑問に答えるかのように、レファスはさらに説明を続ける。


「我々は、魂の代わりを担ってくれている者を『心臓』と呼んでいる。『心臓』は他人の体に入る応急処置的なものに過ぎないから、長くは宿っていられない。長くて5年、短くて半年程しか持たない。さらに、一度『心臓』を担った者は肉体からの拒絶反応で、二度とその役目を担う事ができない。だから年々『心臓』を担える人材がいなくなっているんだよ」


 レファスはここで一旦言葉を切り、不安を抑え込むかのように目を閉じた。


 やはり思った通り、この方法は効率的ではないみたいだ。

 それに、ドナーの数も間も無く尽きようとしているらしい。


 タイムリミットの迫る王女の話で室内に妙な緊張感が漂い、下手に声をかけることができない。


 ボクは、思案に沈んでしまったレファスを、ただ静かに見守ることしかできなかった。


 何かの結論に達したのか、レファスがゆっくりとその目を開くと、ボクの目を真っ直ぐに見つめながら言った。


()はね、ガッロル君。君にも『心臓』を務めてもらいたいと思っている」


 公的な依頼を表すかのように、わざわざ『僕』ではなく『私』と言ったレファスの、剣呑な光を宿したその瞳からは『異議は認めない』という強い意志が感じられる。


 でも……


「……天界人のような高位者が半年〜5年であるのなら、ボクのような一般の転生者は半月も保たないのではないでしょうか? 」


 ボクはこの件に関して、考えられる最大の問題点を率直に質問した。


 魂との繋がりが切れてしまった肉体は著しく疲弊する。

 肉体はその疲れを『心臓』として宿った魂から補おうとするはずだ。


 天界人のように強靭な魂ならともかく、下界人の魂など持って数日だろう。


 さらに、今のボクは肉体を無くした状態だ。

 とても不安定で、『王女様の体の維持』という安定を要求される役目を果たすことができるのか疑問だ。


「そもそも『心臓』の役目を果たす事自体、ボクにできるのでしょうか?」

「それは、適性があれば承諾してくれると受け取ってもいいのかな?」


 ボクの疑問にそう返すレファスの言葉から、こちらの提示した問題点は初めからすべて分かっていて、それでもこの提案をしてきた、ということが分かる。


 どうやらレファスの中では、これは『決定事項』ってことなんだろうな……


 とはいえ、これは魂に関わる話だ。

 ボクの一存で決めるわけにはいかない。


「……アルは、どう思う?」


 もし、何かあれば、アルを巻き込んでしまう……


 そう思ったボクは、すっかり静かになってしまっているアルに声をかけた。


 いざとなったら『分身(スキル)』でアルを呼び出して、自分だけが『心臓』になろう。


 それほどの覚悟で問いかけたボクに対して……


「えっ!? 私? こんな重要そうなお話はいつもガーラが決めてるから真剣に聞いてなかったの。ん〜、でも、それって、お姫様になれるってことよね!? いいと思うわ!!……っ、ア、アルぅ〜」


 アルは、『プリンセスに憧れる、夢見る少女』と、いった感じの『うっとりポーズ』を取りながらお気軽な答えを返してきた。


 いや、お姫様になれるって……


 こんな時でも、やっぱりアルはアルだった。

 そういえば、アルの二つ名は『シリアス・クラッシャー』だったっけ……


 でも、そんなアルのおかげで、レファスとの間に張り詰めていた緊張感はなくなって、柔らかな空気感が室内に戻ってきた。


「ふふっ、さすがはアルちゃんだね。引き受けてくれてありがとう。それじゃ、適性の確認も兼ねて、君たちにはこれから擬似体に入ってもらおうと思っているんだけど、いいかい?」


 レファスが、待ち兼ねていたように、勢いよく話を進め出した。


「擬似体?……ですか?」


 心臓の話もさることながら『疑似体』という新たなワードの登場に、ボクは戸惑いながら説明を求めた。


「天界人の体に慣れるための簡易的な体だよ。下界人との最大の違いは背中の翼だね」


 レファスはそう説明してから(おもむろ)に立ち上がると、その背中から純白の翼を開いて見せた。


 翼の先が高天井に取り付けられたシャンデリアに触れて、クリスタルガラスがシャララ……と透き通った音色を奏でた。

 それに合わせるように、光の粒がキラキラと翼に煌めいて揺れている。


 立ち位置的にちょうど逆光になって、レファスが『天から舞い降りた救世主(メシア)』っぽい感じに見え……


 ハッ!? あ、危なかった……もう少しで厨二病を再発してしまうところだった!


 いきなり現実離れした光景を目の当たりにして、一瞬、思考力が低下してしまったよ。

 恐るべし……『天使の翼』


「この翼を上手く扱えるように、まずは『擬似体』で体を慣らしてほしいんだ」


 突然見せつけられた翼のせいで、フワフワした思考が抜け切らないボクに向かってレファスはそう言いながら、体の3倍以上はありそうな翼を畳み、背中に開いたスリットの中へと器用に引っ込めた。


「天界人にとっては重要な器官だから毎日の運動が必須なんだよ。君にとっては全く未知なことだろうけど、頑張って自由に動かせるようになってほしいんだ」

「……善処します」


 『心臓』に『疑似体』に『天使の翼』にと……

 色々と展開が早過ぎて頭が回らず、思わず歯切れの悪い返事を返してしまった。


 でも、『天使の翼』かぁ。

 転生を始めたばかりのあの頃のボクなら、浮かれて喜んだりしただろうな……


 厨二病を拗らせたことがある者は、誰もが一度は憧れる『天使の翼』……


 『ヒーロー変身(コスプレ)セット』に並ぶ、苦い思い出の詰まったそのアイテム……


 フッ、懐かしいな……

 だけど、もう、ボクはその領域からは卒業したのさっ!


 ボクが達観した大人の余裕に酔いしれて、一人静かにほくそ笑んでいたら……


「キャ〜!! カッコいい〜! ガーラっ、早く疑似体に宿って、私たちも翼を広げてポーズを決めてみましょうよ!」


 アルがテンションも高めに、あの頃のボクを彷彿とさせる勢いで大騒ぎを始めてしまった……うぐうぅっ……

誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。

((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

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