〜Lv.11〜 天界への強制連行と就職試験⑤
よし! これ以上、面倒な事になる前に、この件を軽く流してしまおう!
そう思ったボクはサッと腕を振って『 “亜空間” 収納庫』を開くと、素早く腕を突っ込んで、そこから『番号札』を取り出した。
「レファス様、番号札です。既に転生データが入っていますから、一度初期化した方がいいと思います」
そう言って、何食わぬ顔でレファスに『番号札』を手渡すと、手首のスナップを効かせながらサッと背後の『収納庫』を閉じた。
ふう、これで『番号札』の件も片付いたことだし一安心だ!
しかし、安堵のため息を漏らすボクの目の前には、驚いたように目を見開いているレファスの顔が……
ん? どうしたんだろう? 滑らかな動きで『番号札』を手渡されたからビックリしちゃったのかな?
しばらくの間、レファスは呆気に取られたような顔でフリーズしていたが……
「ガ、ガッロル君! ちょっと待った!! 君のナチュラルな行動で何気にスルーしそうだったよ! さっきのは『空間収納』だよね? 『分身』のスキルといい、君は一体いくつのスキルを習得しているんだい!?」
……と、夢から覚めたような顔でボクに詰め寄ってきた。
おぉう……
すごい勢いだったから、一体何を聞かれるのかと身構えてしまったけど、何の事はない。習得スキル数についての質問だった。
厳密にいうと、ボクの『収納庫』は『空間収納』のスキルとは、ちょっと違うんだけど……
まあ、用途は同じだからその説明は省略してもいっか。
それより、習得スキル数かぁ……隠すようなことでもないからいいんだけど……えぇっと、いくつだったっけ?
「うぅ〜ん、いちいち数えたりしていませんから正確な数はちょっと……でも、下界のスキルは全部持ってるはずです。後は、ボクが考えたオリジナルのスキルがいくつかですね」
ボクがそう答えると、レファスが急に真顔になってしまった。そして……
「下界……オリジナルスキル……」
……と、抑揚のない声で呟くと、ボクのことをジッと見つめ出した。
ん??……あっ、そうか。
きっと『オリジナルスキル』って単語に反応したんだ。
うわっ、『オリジナルスキル』なんて言っても大した事ないものばかりなのに……
変に期待されちゃったら大変だ。早く説明しておかないと……
「あっ、いや、オリジナルって言っても、下界のスキルを応用した程度の大したことないものがほとんどですよ? 壊れた食器を巻き戻して直すとか、朝食を創り出すとか……って、あっ、そうだ! 一つだけ凄いのがありました!」
説明しながら、ふと、思い出した。
ボクにも唯一、自慢できるスキルがあったということを。
ふっふっふっ……似たようなスキルはいくつもあるけど、これだけの性能のものは無いと自負しているっ!
「君が言うくらいだから、相当なスキルなんだろうね。一体……どんなスキルなんだい?」
レファスがやけに真剣な、それでいて妙に落ち着いた口調で聞いてきた。
途端にその場に漂い始めたピリッとした空気感……
そんなレファスの様子も、空気感も、感じていないわけではなかったが、ボクはそれを軽く受け流してしまった。
何故なら、この時のボクは『嬉しい!』って気持ちの方が上回ってしまっていていたから……
そう、ボクは完全に舞い上がってしまっていたんだ。
だって、自身が開発したスキルについて誰かに聞いてもらえる機会なんて、今まで全く無かったんだもん……
「完全防御です!!」
「……えっ?」
ふんすっ!とボクが鼻息も荒く発表したスキル名に対して、レファスの反応は今ひとつだった。
そりゃあ、ボクに名付けのセンスが無いってことは知ってるけど、その名から、どんなスキルかくらいは分かるだろうに……
そう! ボクが下界で姫さまにかけた、この『完全防御』
コレこそ、ボクの一押し『オリジナルスキル』だ!
その効果は10年継続! 高い防御力を保ちつつ、日常生活に違和感を感じさせない絶妙なバランスで、あらゆる攻撃を弾き返す優れものなのだっ!
「だから、『完全防御』なんです! どんな攻撃も効きません! たとえ、ガスの充満する火山でマグマの中に落とされても、水圧地獄の深海に沈められても、宇宙空間に放り出されたって平気です! 常に快適空間を維持できる優れもので、浄化・治癒機能もあるので病気や怪我、毒にも対応しています!!」
何だか深夜の通販番組みたいな言い回しになってしまったけど、ここまで説明すればさすがに分かってくれるだろう。
言いたいことを言い尽くしたボクは、再びレファスに、ふんすっ!と、ドヤ顔を向けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
——(レファス視点)——
自身の『オリジナルスキル』について語り終わったガッロルが、まるで人懐っこい仔犬のようなキラキラとした瞳で僕を見つめている。
その瞳が、『褒めて?』と言っているようで……
この子は、自分の能力がいかに優れているか分かっていないらしい。
始めは、天界版の『分身』スキルを習得したことで覚醒者になったとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。
先程、ガッロルが使っていた『空間収納』だが、このような収納系のスキルは全て下界のスキルだ。
しかし、下界のスキルは肉体に付随するものばかりなので、天界で使うことはできないはずなのだ。
そんな、肉体に付随するはずのスキルを、この子は魂だけの状態で使いこなしている。
しかも、聞けば下界のスキルを全て習得しているという。
それだけでも規格外なのに、それを応用してオリジナルスキルまで創造してしまうとは……
天界人の中ですら、これほどの能力を持った者は数えるほどだ。
「…………君、そのスキルは常識を覆すほど凄いものだってこと、分かっているかい?」
ガッロルのその軽い認識を改めさせるために、十分な間を開けて、真剣な声音で問いかけてみた。
しかし……
「ありがとうございます!!」
ガッロルは『これ以上ない!』というほどに、嬉しそうな笑顔を僕に向けた。
「………………」
ダメだ、通じない……
今のガッロル君の心には、『完全防御』が発動しているみたいだね……
◇◆◇◆◇
「それじゃ、ちょっと待っててくれるかい? すぐに帰ってくるからね」
僕はそう言って、応接室にガッロルとアルの二人(?)を残して外へ出ると、使徒のフィオナと共に、大理石で出来た長い廊下を足早に歩き出した。
コツコツと硬質な靴音を響かせながら考えるのは、霊界より召喚した彼……ガッロルのことだ。
当初の計画では、ギラファスの捜索にガッロルを天使として降臨させるつもりだった。
しかし、応接室で面会したガッロルは、僕の想像を上回る大きな力を持っていた。
そんな逸材の彼を、ただの天使としてしまうことに躊躇いを感じてしまい、ここにきて、どうするべきか悩み始めてしまった。
結局、応接室では結論を出すことができず、二人(?)には『番号札の件で霊界政府に連絡を入れてくる』と言って、フィオナと共に部屋から出てきてしまった。
「フィオナ、君の目にはガッロル君はどう映った?」
ガッロルたちの前で見せていた軽い雰囲気を無くすと、『真実を見抜く目』を持つフィオナに問いかけた。
「はっ、下界での影響を感じさせないほど、透明度の高い純真な魂をされていました」
「やはりそうか。強い魂の転生者はこれまでにも何人かいたが、今回ほど強くて純粋な者はいなかった……」
(悩んでいる……と言いながら、本当は『どうするか』なんて、既に決まっていたのかもしれないな……)
そんな風に考えながら、僕は自嘲気味に笑うと歩みを止めた。
同時に大理石の廊下に響いていた靴音も止まる。
「フィオナ……僕は彼に『心臓』として、『あの子』に入ってもらおうと考えている」
『心臓』と聞いたフィオナの息を呑む音が、しんと静まった大理石の廊下にかすかに響いた。
「……レファス様、本気ですか?」
普段の彼女からは想像もつかないほどの、低い静かな声で問いかけられた。
「先の『“心臓”役』の者がそろそろ限界なんだ。だいぶ精神に影響が出始めているから、そろそろ解放してやらないといけないんだ……」
言いながら、ボクは後ろめたさを誤魔化すようにフィオナから視線を逸らすと、窓の外にある常緑樹に目を向けた。
そう、これは事実であり、事実では無い……
『“心臓”役』の者に影響が出ているのは事実だが、そこまで重症なのかというと、実はそうでもない。
だからこれは、僕の中では既に決定事項として処理されている『ガッロルの”心臓役“案件』を実行するためのただの口実だ。
僕はやましい気持ちを押し流すように、さらに話を続けた。
「そんな訳だから、ガッロル君には、まず、『擬似体』に入ってもらおうと思っている。その体をうまく扱えるようになったら、本体の『“心臓”役』の者と交代してもらうつもりだ」
本人のいない所でどんどん話を進めていくが、僕はこのプランを取りやめるつもりは無い。
「では、下界での捜索はどうされるのですか?」
フィオナが至極当然の質問をした。
彼女の疑問は最もだ。そもそも、ギラファスの手掛かりを掴む有力な人材として彼を呼び寄せたのだから、そう思われるのは当然のことだろう。
そのうえ、この事件を解決に導くことこそが、『心臓』問題の解決にも繋がるのだから尚更だ。
「それも同時進行するつもりだ。ガッロル君には、『擬似体』に入ってもらったまま、下界に降臨してもらう。体を慣らしながらギラファスの捜索を進めてもらい、奴を発見し次第、神力キャンセラーで神力を無力化。そこへ、天界から派遣した精鋭隊でギラファスを確保。その際『あの子』を見つけ出すことができれば、……いや……」
フィオナに今後の計画を説明しながら、ふと、口走ってしまったその甘い考えに、思わず苦笑いを浮かべてしまった。
(さすがに、それは考えが甘いか……ギラファスですら、未だに見つけ出せていないっていうのに……)
僕は、その希望的観測を頭の片隅に追いやると、早口に自身の考えを語った。
「……とにかく、僕はこの『心臓案件』を組み込んだ上で、予定通り『ギラファスの捜索計画』を遂行するつもりだ。この方法なら事件解決後、上手くすればガッロル君の気にしていた『性別固定問題』も解決できるからね。だが、これについては一切の保証がないから、本人には下手に話さない方が良いと思っている」
『事件解決後、上手くすれば』とは言ったが、『幸福な結末』を迎えるには、あまりにも時間が経ち過ぎてしまっている……
フィオナを始め、部下たちは皆、何も言わないが、『もう、無事に解決できる保証は一切ない』ということは、自分でも分かっている。
(その時は、ガッロル君に……いや、流石にそれはダメだ……)
思いかけて、僕は慌ててその考えに蓋をした。
「フィオナ。そういう事だから、これは霊界に帰しておいてくれないか?」
『天使降臨』に使うつもりだった『番号札』をフィオナに差し出しながら、ガッロルに頼まれていたことを、ふと思い出した。
——『そこは、不問にしてもらえないでしょうか』——
そう言って、真っ直ぐに僕の目を見つめながら、懇願して来たガッロル……
天界人であっても、まともに目を合わせることが困難なほど、ボクの放つ神気は強烈だというのに……
あの子は、そのことを自覚しているのかな?
そう思うと、やはりあの子には何かしらの期待をしてしまう。
「それと、今回の番号札の管理体制の件だが、転生課に対して一切の責任を追求しないように伝えてくれ」
「かしこまりました」
フィオナは番号札を受け取ると、テラスへと続く扉を開けて本来の姿……フェニックスに戻り、翼を広げたかと思うと、あっという間に霊界へと飛び去った。
「さて、ガッロル君にはどう話せばいいかな……」
一人、取り残された廊下で、開け放されたままの扉を眺めながらポツリと呟いた。
誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。
((。´・ω・)。´_ _))ペコリン




