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〜Lv.10〜 天界への強制連行と就職試験④

 ティーカップに新たな紅茶が注がれて、芳醇な香りに満たされた応接室。


 その、豊かに香り立つ紅茶に手を付けることもなく、ソファーに横並びに腰掛けて、ボクに宿()()()()()のアルが、レファスと楽しげに談笑を交わしている。


「ねえ、パパ。ここ一世紀ほどの天界ファッションは、まだ『フェアリーズ』が主流なの?」

「そうだね、最近は『エンジェリーナ』に押され気味だけど、やはり天界最大手のファッションブランドだから、すぐに巻き返すんじゃないかな?」

「そっかぁ〜、新手の『エンジェリーナ』ブランドも気になるけど、やっぱり女の子の憧れは昔から『フェアリーズ』よね!」


 (ふぇありーず? エンジェ……? それって、アルが好んでよく着ている少女趣味な洋服のこと?)

 (ガーラ、ごめん、ちょっと静かにしてて? 今、良いところなの!)


 心の中で話しかけたら、アルに叱られてしまった……


 あの後、『パパ』呼びの許可を得るほどにレファスと意気投合したアルは、現在、ボクには全く分からない『天界のファッションブランド』の話で盛り上がっている。


 その一方で、ボクは『お喋りに集中したいから静かにしてて?』というアルのお願いを聞き入れて、体の主導権をアルに譲って口を噤んでいる。


 ボクが『スキル』や『Lv.』の話でランスと盛り上がったのと同様、アルも自身の趣味である『ファッション』について思い切り話せるこの状況が嬉しくてたまらないみたいだ。


 その気持ちは分かるんだけど、さっきからアルがはしゃぐ度に『きゃっ!』なんて言いながらボクは可愛い仕草を取らされていて、かなり精神的にきている。

 ……ぐうぅ、この状態って一体いつまで続くんだ。


 そうこうしている間にも、二人の会話は進み……


「それに『フェアリーズ』はこの秋、新しくアクセサリー部門を立ち上げるそうだから、業界では今、凄く注目を集めているよ」

「キャッ! 『フェアリーズ』ってアクセサリー部門にも進出するの!? イヤ〜ン! 絶対欲しい〜!」


 レファスが『フェアリーズ』の『アクセサリー部門進出』へと話題を振ったことで、アルが歓喜の声を上げた。


 (ぐあぁっ、まただ!……しかも今度は『イヤ〜ン!』なんて言っちゃたよぉ)


 ボクはアルに操られる形で両手で頬を押さえると、『体をくねらせながらオネエ言葉で(はしゃ)ぐ細マッチョの青年』という、かなりシュールな姿を晒してしまった。


 そんなボクを、不死鳥のフィオナが壁際で存在感を消しながら静かに見守っていて……し、視線が痛い。


 そんなに嫌なら『分身』するか断れば?って思われそうだけど、そういうわけにもいかない。


 だって、アルの存在感が薄まったそもそもの原因が、『分身』させられそうになった『精神的ストレス』だからね。


 だから、アルにストレスを感じさせないよう、今の『融合状態』を保ったままで『アルの願い』を聞いてあげないといけないんだ。


 うん、分かってる……分かってはいるんだけど……くうぅ……


「——でもね、パパ! ガーラったら、ず〜っと男の子にばかり転生するんだもん。私は、それがすっごく嫌だったの!」


 ボクが、『理性と感情の狭間(はざま)』で葛藤しているうちに、アクセサリーの話で盛り上がっていたはずのアルが、ボクに対する愚痴をこぼし始めた。


 どうやら、そのアクセサリーを活かすことができない現状に対して、アルの不満が溢れ出してしまったみたいだ。


「そうだったんだね。うん、それは嫌だったね」


 そんなアルの心情に寄り添うように、レファスが、とても柔らかな声でアルのことを慰め始めた。


 そっ、それについては、ボクも少しは悪かったと思うよ? だけど『女の子』だと、女人禁制とかで『聖域』(経験値倍増ポイント)に入れなかったりするから……


 でも、それを言うと、『そんなことで『女の子』になれなかったの!? このLv.オタクッ!!』って怒られそうだ……


 やっぱりここは、言い訳するのは諦めて大人しくしていよう……


「一度くらい、女の子になってくれてもいいのにね?」

「そう! そうなの!!」


 レファスの慰めに勢い付いたアルは、拳を握りしめながらソファーから立ち上がった……が、すぐ脱力したように座り直すと……


「でも、私は分身体だから……だから、ガーラの中で大人しく眠ってるしかなくって……」


 そう言って、内股になりながら弱々しく項垂れると、どことなく憂いを帯びた庇護欲をそそる可愛らしい仕草で、シュン……と落ち込んで見せた。


 ア、アルゥッ! この仕草っ、ボクもやらされてるってこと、忘れてない!?


 ボクは、分身体のアルのように意識を切り離して眠りにつくことが出来ない。

 だから、どうしても、アルの一連の言動や行動に振り回されてしまう。

 

 ということで、ボクのライフ(精神力)は、そろそろ限界なんだけど!?


「辛かったね、アルちゃん。でも、今度は、女の子になる約束をしてもらえてよかったね」


 レファスは、穏やかで落ち着いたバリトンボイスを響かせながら、アルの頭をやさしく撫でた。


 頭を撫でられたアルは、そんなレファスを潤んだ瞳でじっと見つめたかと思うと……


「うん!!」


 ……と、弾ける笑顔を向けながら、可愛らしくレファスに返事を返した。


 グハッ!!……も、もうダメだ……これ以上は耐えられない!


「ぐっ、……ぬうわぁーっ! 限界だ! アル、ちょっと待って!」


 あまりの恥ずかしさに、自分を抑えることができなくなったボクは、思わず大声を出してアルの行動を止めてしまった。


「レ、レファス様、すみません! ちょっと、時間をくださいっ!」


 言うが早いか、ボクは赤く染まった顔を覆い隠すようにテーブルに突っ伏すと、気持ちを落ち着けるために、深呼吸をしたり瞑想を試みたりしてみた。


 けれど、困ったことに、恥ずかしさは一向に収まりそうもない。


「ふふふっ、大丈夫かい? ガッロル君。いや、これからは女の子として慣れないといけないから、『ガーラちゃん』って呼んだ方がいいかな?」


 そんなボクの様子を楽しそうに見つめていたレファスが、揶揄(からか)うように軽口を叩いた。


「……勘弁して下さい。今回の転生が終わったら、また男に戻るつもりですから」


 ボクは突っ伏した状態のまま、首だけ動かして横を見ると、面白そうにボクを見つめているレファスにジト目を向けた。


 天界の高官に向かって、かなり失礼な態度を取ってしまったわけだが、そんなボクの振る舞いなどレファスは全く気に留める様子もなく、逆にちょっと申し訳なさそうに首を傾けて困ったように笑うと、ボクの言葉を否定してきた。


「ん〜〜、ちょっと無理かなぁ。残念だけど、次のは『転生』じゃなくて『降臨』だからね。……もう、変更は効かないんだよね〜」

「……ぅえっ!? 」


 想像もしていなかったことを言われて、ボクは素っ頓狂な声を出しながら慌てて跳ね起きた。


「へっ、変更が効かない!?」(う、 嘘だよね!?)

「申し訳ないんだけど、転生だと、どうしてもロスタイムが生まれちゃうからね。赤ん坊から、なんて悠長なことしてられないし。だから、君には『天の使い』として地上に降りてもらうつもりなんだよ」


 『ボクの解釈が間違っているだけかも……』という淡い期待も虚しく、レファスは『性別固定は当然のこと』とした上で、話を続けた。


 つ、つまり、天の使いとして降臨すると、それ以降は転生による『性別変更』ができない……ってこと?


「アア、ア、アルっ、お願いがっ……「ッ絶対ダメーー!!」……うぐぅっ」


 性別の件をお願いしようと、ボクが声を震わせながらアルに話し掛けた瞬間、『問答無用!』とばかりに、アルに激しく拒否されてしまった。


 ゔうっ、話くらい聞いてくれても……


「まあ、良いじゃないか! そもそも、分身スキルで生まれたのがアルちゃんだってことは、君の本質は元々『女の子』だったんじゃないのかな?」

「そ、そんなはずは……」


 レファスは『女の子も良いものだよ?』と言うと、爽やかに笑いながらボクの肩を軽く叩いた。


 何だか、納得のいかない推理で、レファスに話をまとめられてしまった気がする。


 2:1の、そんな劣勢な状況を打開したくて、ボクは、壁際で存在感を消して佇むフィオナをジッと見つめた。


 だけど、フィオナからは同情の眼差しを向けられた後、静かに目を閉じられてしまった……ゔうっ……



 ◇◆◇◆◇



「さあ、そろそろ下界に降臨するための準備に取り掛かろうか。今、霊界政府に、君の番号札を送るよう、連絡を入れてあるから間も無く届くはずだよ」


 レファスは、そう言いながらソファーから立ち上がると、『付いてくるように』といった感じに、促すような視線をボクに向けた。


 ああっ! そうだっ。番号札のことをすっかり忘れていた!


 着実に『性別固定』に向かって追い詰められている、という焦りで忘れていたが、レファスから『番号札』という単語が出てきてギクリとしてしまった。


「あっ、その、……番号札なのですが、実はアルが霊界の職員から受け取っていまして……で、今はボクが持っているんです」


 ボクは、しどろもどろと、番号札についての事情をレファスに語った。


 もちろん、悪い事をして手に入れたものではないけれど、天界政府が探している番号札を、今、自分が持っている、という事実に不安を感じてしまって、どうしても恐る恐る、といった態度になってしまう。


 すると、レファスの態度が、急にギクシャクとしたものに変わった。


 ハッと目を見張ったかと思うと、「そ、そうなんだね。うん……」と狼狽え気味に返事をした後、落ち着きなく視線を彷徨わせ出した。


 レファスのその様子を見て、『これは、自分が思っている以上に重大なことなのでは……』と、不安が広がった。


 ボクにとって、番号札は『転生周回のための道具』としか思っていなかったけど、考えてみたら、コレ、ものすごく貴重なモノだったりして?


 (一人に一つずつ、全ての魂に割り当てられた替えの利かない代物って考えたら……うあっ! きっとそうだ! どうしよう……知らなかったとはいえ、このことで転生課に迷惑をかけてしまったら……)


 そう思い至ったボクは、自分の顔からサッと血の気が引いていくのが分かった。


「も、もしかして……持ち出してはいけない物だったのですか? この事で、その、……転生課の職員が罰せられたりはしませんよね?」


 ボクは、チラチラと上目遣いにレファスの顔色を窺いながら、ビクビクと質問を投げかけた。


「うっ……ま、まあ、ね……でも、多少のお咎めは、あるかも知れないね……」


 レファスは、落ち着きなく視線を彷徨わせながら、『お咎め』という言葉を口にした。


 ボクは、その言葉を聞いて冷や汗をかいた。


 だって、転生課はリストラ対象者の流れ着く部署だ。ただでさえ立場が悪いのに、そんな事になってしまったらきっとただでは済まないだろう。


 ダ、ダメだ! ランスに迷惑はかけられないっ。


「お願いします! どうかそこは、不問にしてもらえないでしょうか! ボクの『転生したい!』という気持ちが、知らず知らずのうちに、職員に対して圧力となっていたのかも知れませんから!」


 (ボクの真剣な思いを伝えるためにも、ここは『強めの眼力』で!)


 そう思ったボクは、真摯な思いを目力に込めて、ジッとレファスを見つめ続けた。


 するとレファスが、何故か急にあたふたとし始めて、そして……


「わっ、分かったよ。その様に連絡を入れておくから。だから、ほら、そんな顔しないで?」


 ……と、気遣う様な優しい言葉と共に、ボクにハンカチを差し出してきた。


 訳が分からなくて、しばらくの間、目をパチクリさせながらそのハンカチを見つめていたが……(もしかして、これで涙を拭けってこと?)……と、いう結論に思い至った。


 確かに、目力を込めすぎて少し目が潤んだような気はする。だけど涙を流すほどではなかったはずだ。

 にしても、アルならともかく、まさかボクが泣き出すと思ったの?


 そう思うと、この状況が次第に可笑しくなってきた。


「ふ、ふふ、あははっ、あ、ありがとうございますっ。でも、大丈夫ですよ?」


 そう言って、ボクはレファスに笑顔を向けた。


「……君は、……アルちゃん……ではない……よね?」

「ん? はい、違いまっ……「ッ、パパ! 間違えちゃイヤよっ? 私はここよ!」(ぐはぁっ!)」


 番号札の話題が出てから、ずっとダンマリを決め込んでいたアルが、唐突に表に現れると、プクッとほっぺを膨らませながらレファスに詰め寄った。


 もちろん、プン!って感じに、可愛く腰に手を当てることも忘れていない。


 すっかり油断していたところに現れたアルに、ボクは会心の一撃をお見舞いされてしまった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

おまけ・『その時フィオナは』

(フィオナの脳内)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



——壁際で静かに控え、事の一部始終を静観していた不死鳥フィオナは、先のやり取りを真剣な表情で思い返していた——


 初撃の『庇護欲をそそる不安げな眼差し』……


 第二撃の『ちょっと青ざめた顔で子ウサギの様にビクついて送る上目遣い』……


 それに続く、第三撃の『純真な、潤んだ瞳で懇願』する様は、それだけでもKO級なのに『キョトン顔』からの『無邪気なエンジェルスマイル!』は反則よっ!


 アルちゃんは『小悪魔系女子』だけど、ガッロル君は『清純派、天然無自覚タラシ』ね!


 さすが主人格……胸キュン破壊力が半端ないわ。

 男の子でこれほどの破壊力なら、女の子になったら、とんでもない事になるんじゃないの? やだっ、見てみたいわっ!




——クールビューティーとして知られる彼女は、その印象とは打って変わって『熱狂的恋愛脳』の持ち主だった——

誤字脱字の報告、並びに言い回しの修正をしていただけると助かります。

((。´・ω・)。´_ _))ペコリン

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