〜Lv.1〜 今世ではちょっと色々ありました
この度は、ここ『ヘビロテ転生周回中 〜スカウトされて新人天使になりましたが、仕事先(下界)で無自覚に色々やらかした結果、大変なことになりました〜』のページを訪れて下さり、誠にありがとうございます。
初執筆、初投稿の素人作品ですので、語彙力も表現力も文章力もありませんが、その辺りは読者様が察しながら読んでいただけると助かります。温かい目でご覧ください。
これより17話目までは、この特殊な物語の世界観や設定を知っていただくための“前振り”的な話がまったりと続きます。
ですので、気長にお付き合い頂けると幸いです。
花京院 依道
突然だけど、みんなは前世の記憶があったりする?
大半の人は無い、もしくは薄っすらとある程度だと思う。もちろん、それが当たり前で、自然な事で、おかしなことは何もない。
しかし、ボクにはその当たり前が当てはまらない。前世どころか、ずっと昔から記憶が残っている。
羨ましいって思うでしょ?
ところが、これがとんでもない! 考えても見てよ。たった一人だけ記憶があっても、それを共感できる人がいないんだよ?
それに変に知識が豊富だと、その『未知なる知識』を手に入れようとする国家に監禁されそうになったり、機密事項の漏洩とか窃盗の疑いなんかを掛けられたりして、……本当に面倒事ばかりで嫌になるよ。
だからボクは、転生して前世の記憶や能力を引き継いでいても、それをなるべく使う事なく、人とも深く関らず、いつも無難に埋没人生を送っている。
そんなボクの唯一の生き甲斐は、天界政府発案の新制度、Lv.化政策によって始まった『魂のレベル上げ』をすること。
『Lv.化政策』とは、天界の偉い人たちが考えた『人々にLv.の概念を植え付け、自発的な能力向上を促す』ことを目的としたゲーム色の強い政策なんだ。
主に天界の入国審査などに使われていて、Lv.が高いほど天界での充実した行政サービスが受けられるものらしい。
下界ではあまり浸透していない……まあ、忘れちゃうから当たり前だけど……って、えっと、どこまで話したっけ?
そうそう、このLv.ってやつは魂にくっついてくるから、転生して別人になってもそのまま引き継がれる。
これ、周回したらめちゃくちゃLv.上がるんじゃない?と思ったのが周回を始めた切っ掛け。
……で、結論として……世の中、そんなに甘くなかった!
ゲームと同じで、Lv.が上がると次のLv.までに必要な経験値も増える。
なのに、ゲームと違って経験値の多い敵キャラなんかいないって事で、周回を重ねても、ある程度のところでLv.は落ち着いてしまう。
何!? この無理ゲー!!……と、大半の人は思うはず……
しかし、その無理具合が、ボクのオタク魂に火をつけた! 今こそ記憶保持者の特権を活かす時!
ボクは効率よく多くの経験値を稼ぐために、ありとあらゆる試行錯誤を繰り返した。
そして、血の滲むような検証の結果、あまり文化レベルの高くない世界であれば、経験値が底上げされることが判明!
以来、ボクは文化レベルの高くない世界ばかりを選んで転生している。
ちなみに、悪行を働くと経験値は下がる。
と、いうわけで、ボクは結構高レベルだったりするんだけど、そこはオタク魂的に行き着くとこまで行きたいんだよね。
だから、相変わらず地味〜に人生を繰り返していたんだけど、今世ではチョット思うところがあって感傷的になっていたところなんだ。
今世……そうなんだ、ボクはついさっき人生の終焉を迎えたばかりで……
てことで、あの世に到着するまでのほんの少しの間で構わないから、今世でボクの身に何があったのか聞いてくれないかな?
そう……あれは、ちょうど今から2日前の深夜のことだったんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
隣国との国境に広がる大森林。
その月明かりすら届かない密林の中、ボクは騎獣に跨がり 、藪蚊の大群に襲われながら道なき道を突き進んでいた。
何で、こんな深夜にこんな密林にいるのかって?
それは、反王家勢力『トルカ教団』によって攫われた我が『ルアト王国』の王女様を救出するため、奴らのアジトが隠されているという、この大森林の中心部へと向かっている途中だからさ。
教団が姫さまを誘拐してもうすぐ半日……ボクは姫さまの安否が気になって仕方がなかった。
だって奴らは、我が国の王女……姫さまを、事もあろうに『邪神召喚の儀式』などと称して生贄にしようとしているから。
誰もが姫さまの行方を掴みきれない中、奴らのアジトを突き止めることに成功したボクは、姫さまを救出するのために一人でその場所を目指して騎獣を走らせている。
そんな大変な事態なのに、なぜ単騎なのかって?
それは、こんな人気のない場所で、騎士団のみんなを引き連れて救出作戦に向かえば奴らに気付かれてしまうと思ったから。
(それにしても、奴らめ。こんな所にまで姫さまを連れ去るなんて……)
枝葉に体を引っ掻かれ、眼前に群がる藪蚊を追い払いつつ森の中を進んでいると、木々も下草も無い不自然に開けたエリアに行き当たった。
この地点こそ、ボクが目指していたトルカ教団のアジトがある場所だ。
眼前には、中世ヨーロッパを彷彿とさせる誰からも忘れ去られた古びた洋館が、密林を背にして異質な感じで立っていた。
(おぉ……この『邪教集団の秘密のアジト』って感じが、いかにも奴らが好みそうなシチュエーションなんだよね)
だけど、想像以上に大きな屋敷を見て、ちょっと失敗したかな……と思ってしまった。
せめて、ヴァリターにだけでも打ち明けて、一緒に来てもらえば良かったかも知れない……
少し弱気になりかけた時、夜風に乗って赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
(!! よかった、まだ生きてる!)
そうだ……気後れしている場合じゃ無い。姫さまも頑張っているんだ。
ボクは安堵に胸を撫で下ろしつつ気合を入れ直すと、手頃な木の陰に騎獣を繋ぎ、前庭の生垣で身を隠しながら館へと近づいた。
生垣から顔を覗かせて素早く周囲を確認すると、警備に当たる数名の教団員を発見した。
だけど、皆んな座り込んでいたり壁にもたれかかったまま居眠りをしていたりと……はっきり言って、警備は穴だらけで侵入し放題だ。
(うむぅ、コレが騎士団員達なら『地獄の特別訓練』確定なんだけどな……まあ、おかげで楽に潜入できそうで助かるけどさ)
ボクは、熟睡している教団員の脇をソッとすり抜けると、朽ちて壊れた窓から館へと潜入した。
◇◆◇◆◇
か細く聞こえる泣き声を頼りに、ボクは薄暗い屋敷の中を探し回った。気づかれないよう、時にやり過ごし、時に意識を奪いながら……
そうするうちに、三階の一番奥まった場所で、ようやくそれらしい部屋を見つけた。
その部屋の前には、見張りの教団員が二人立っていたが、共に漆黒の衣装を纏い、同色の三角垂の覆面で顔を隠していて……
(ブフォッ!……く、黒いローブに黒い覆面だと!?……今どき、マンガやアニメでも見かけない『元祖・邪教集団!』って感じで……なんだか痛々しいな。それに、実際あんな物すると、視界が悪くなって見張りにならないと思うんだけど……でもまあ、いいか。ボクにとっては好都合だしね!)
ということで、ボクは早速、周囲の状況確認に入った。
薄暗い通路には、松明の灯火が等間隔に並んでいて、不安定に揺らめくその灯りが明暗のコントラストを一層引き立てている。
うん、これなら気づかれずに背後を取れそうだ……
ボクはその闇に紛れて教団員の背後へ近づくと、手刀を打ち込んでその意識を奪った。
不意に倒れた仲間に狼狽えていたもう一人の教団員にも、素早く手刀を打ち込んでその意識を刈り取った。
フッ、この手刀、簡単に見えて結構難しいんだよ?
みんな『首の辺りに打ち込む』ってことは知ってるだろうけど、『怪我をさせずに意識を奪う』となったらコレがまた……って、いや、そうじゃない、早く姫さまを助けないとね。
ボクは、倒れた二人を暗闇へと引きずっていって簡単に縛り上げた。意識を取り戻した時に仲間を呼ばれちゃうと厄介だしね。
その後は素早く室内に滑り込むと、そこで寛いでいた教団員にも手刀を打ち込んで眠らせてやった。
ふっふっふっ、これだけ打ち込めば手刀のLv.も……って、違う違う、そうじゃない! 早く姫さまを連れ帰らなきゃ……
他にも隠れた教団員がいないか探ってみたけれど、床に魔法陣のような模様の描かれた陰気な部屋には、ボクと姫さま以外の気配は感じられなかった。
「さあ、姫さま、助けに来ましたよ。一緒に帰りましょう」
粗末なベビーベッドの中で泣き続ける赤ん坊に話しかけながら、そっと優しく抱き上げた。
すると赤ん坊は次第に泣き声を弱め、ボクと目が合うと泣き止んでくれた。
まだ、言葉は理解できないだろうけど、いっぱい怖い目にあっただろうから少しでも安心させたくて、ボクは笑顔で姫さまに話しかけた。
「もう、大丈夫ですよ。ボクが必ずお守りします」
すると、涙で潤んだ瞳でこちらを見つめていた姫さまが、フワッと笑った。
(うわぁぁ! かわいいなぁ〜。こんな状況じゃなかったら、めっちゃ遊んであげるんだけどなぁ〜)
だけど、今はそういう訳にはいかない。早く連れて帰ってあげなくちゃ……
そう思いながら、出入り口のドアノブに手をかけた瞬間、ボクはあることに思い至ってハッとその手を止めた。
その時、脳裏に浮かんだのは、ボクがここに来るまでに経験した密林地帯での厳しい道のりだ。
そのことを思い出し、腕の中でニコニコと笑う姫さまを見つめながら『無傷で連れ帰ることができるだろうか』……と不安になった。
(本当はいけないんだけど、緊急事態だし、いい……よね……?)
「さぁ、姫さま、少し眠りましょう。次に目が覚めた時はお城に帰ってますからね」
優しく話しかけながら、ボクは姫さまに手をかざした。
その手から溢れ出した眩い光が姫さまの全身を包み込むと、その温かな光の中で、姫さまは安心したように眠り始めた……
◇◆◇◆◇
姫さまを連れて、ボクは館を後にした。
来た時と同じ進路を引き返し、第三騎士団の待つ砦へと騎獣を急かす。
しかし、行きとは明らかに違う点があった。
それは、体中に刺さった矢。そこから止めどなく流れ続ける紅血だ。
(くっ、失敗した……あっさり潜入できたから、脱出も大丈夫だと……)
あの後、姫さまを連れて部屋から出た途端、ボクは全方面から射掛けられた矢によって、体を射抜かれてしまった。
その時、ボクが出来たことといえば、せいぜい体を丸めることだけで……
その後、矢の嵐が収まった隙をついて逃げ出して来たんだけど、ボクはもう……
(頼む、早く着いてくれっ、もう、持ちそうにない……)
道とは言えない獣道を進み、やっと開けた視界の先に目指す砦が現れた。
「はあっ、はあっ、……かっ、開門!……開門せよ!!」
ボクは、最後の力を振り絞って声を張り上げた。その声に応えて、頑丈な鉄製の扉がゆっくりと開いていく。
待ちきれず、扉が開き切る前に砦の中へと駆け込むと、精神力だけで来た体がついに限界を迎えた。
ボクは、騎獣の背中から滑り落ちるように降り立つと、両腕でおくるみを抱え込んだまま、その場に膝をついてうずくまった。
「……っ、シューハウザー様!」
「救護班っ!! 手当てを急げ!!」
救護班が駆け寄ってきて、ボクを担架に横たえようとしたが、ボクはゆっくりと上体を起こすとそれを止めた。
「はぁ、はぁ、……もう……いい、……手遅れ……だ」
浅い息で喘ぎながら何とかそう言葉にすると、慌ただしかった砦内がしんと静まり返ってしまった。
あぁ、今世は……ここで皆んなとお別れだ……
何度も転生を経験していると限界が分かるんだ。逆に、ここまで持った事の方が奇跡なんだということが。
(ヴァリター、……ヴァリターは……何処だ?)
霞み始めた碧眼を細め、ボクは副騎士団長のヴァリターを探した。
すると、人垣を掻き分けるようにして飛び込んできたヴァリターが、ボクの姿を見た途端、ビクッと体を震わせると、ぎこちない足取りでボクの前までやってきて、その場にくず折れるように膝をついた。
そんなヴァリターに、ボクは痛みに震える両腕で、庇うように抱え込んでいたおくるみを託した。
「……姫……さまを……頼む……」
おくるみの中で静かな寝息を立てている赤ん坊には、傷どころか返り血すらも付いていない。
(よかった……もう、これで姫さまは大丈夫だ……)
そう思った瞬間、体から力が抜けていく……
「ううっ、シューハウザー様……あ……貴方という方は……」
「ヴァリ……ター、……後……は……」
頼んだ……と声にならない声で告げると、ボクはゆっくりと目を閉じた。
体の感覚が無くなり、座っているのか倒れてしまったのかも分からない。ボクを呼ぶ嗚咽混じりの声が、やけに遠くに聞こえる。
(皆んな……そんなに泣かないで欲しい。ボクは……ボクは大丈夫だから……)
しかし、そんなボクの心の声は皆んなに届くことはなかった。
次第に皆んなの声が遠退いて、やがて、深い眠りの中に落ちていくように、ボクは意識を失った……
……
……
……
こうしてボクは『ルアト王国第三騎士団長 ガッロル・シューハウザー』としての一生を終えた。
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((。´・ω・)。´_ _))ペコリン