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死ねない俺は死神に寄り添う  作者: 清水紅蓮
変貌する日常
9/50

裸体の前には童貞など……

 どれほど時間が経ったんだ……?

 寝起きの頭を乱暴に掻いても答えが見つかるはずもない。手に持ったスマホで時間を確認しようとしたが、


「……じゅうでんきれてる」


 バッグから充電器を取り出そうと立ち上がり一歩踏み出したところでなにかに躓き勢いよく転倒した。


「ったぁ!」


 なんとか顔面からの着地は阻止した……。いったいなにに躓いたんだと確認しようとしてもそれは見えない。

 だんだんクリアになっていく思考の一方で、視界が全くクリアでないことに今更ながらに気づいた。


「暗い……」


 点いていたはずの電気が消えており、外にあったはずの太陽はすでに沈み切っているようで暗い。

 だいぶ寝込んでいたようだ。体感でほんの三十分ぐらいのはずだけど寝ているときの体感などあてにはできないか。


「ふぁ……」


 まだ眠いが日中掃除したから身体中が埃まみれのまま朝まで寝るわけにもいかない。


「風呂でも入るか……」


 そうすれば眠気も吹っ飛ぶだろ、そのあとにカップ麺でも食って今度こそ朝まで寝ればいいか。

 確かあったのは讃岐うどんと焼きそばとヌードルか……さて、どれを食おうか。今の空腹状態ならば焼きそばだがこんな深夜にそれは少しヘビーな気もする。ならばお腹に優しい讃岐うどんに決定だな。ヌードルは気分じゃないからいいや。


 その前にポットのお湯を確認するために台所に向かった。

 うへぇ、ここはリビングとは打って変わってまだボロボロだぁ。冷蔵庫も電子レンジもない。だがこの館に来る前に近所の家電量販店で買ったポットだけが場違い感を放ちながらもその存在感を大いに示している。


「お湯満タンだな」


 それなら補充する必要もない。


 そのまま風呂場にでも行こう。正直あの広い風呂にゆっくり漬かりたかったから気分が高揚していた。

 脱衣所もそれなりの大きさだが洗濯機がない。この家にはまともに家電がない。まず必要なのは冷蔵庫、それと洗濯機だな。金は……この家を探索してなにか金目の物を探そう。これだけ立派な家に住んでいたんだからそれに見合った貴重品だってあるだろう。


 なにはともあれそれはアマニと相談だな。

 脱衣所で服を脱ぎそれを適当に隅っこに放り投げる。


「ん?」


 俺が投げ捨てた隣には女性ものの別の服が――


「――へ?」


 開け放たれた扉から湯気が脱衣所に逃げるように出てくると同時に、全裸のアマニが俺の前に現れた。


「き、鬼柳君……?」

「あ、はい鬼柳です……」


 一秒、二秒、三秒と時が止まった。

 どうする俺よ⁉ ラブコメの主人公ならばここで一発拳グーやビンタ(パー)をもらって終わるんだが、いつまで待っても攻撃が来ない。俺がラブコメの主人公じゃないからか? 

 湯気で大事なところは見えないがそれでもアマニの裸体は目を奪われるものがあった。衣服から解放された身体は水滴をまとって一層艶めかしい。

 形のいい胸には曲線を描くように水滴がつたってぽたぽたと床に小さな雫をいくつも作り上げていた。

 一言で言うなら絶世の美女、可憐な乙女というとこか。


「鬼柳君? 扉の前で何をしているの? 悪いんけどそこ通してくれない?」

「あ、……え?」


 てっきり罵倒か悲鳴などが響き渡ると思ったが、アマニの声はいつも通りのなんてことはない口調で道を譲ってくれと言ってきた。


「聞こえなかったの? 早くどいてくれないと服を着れないじゃない、湯冷めしちゃう」

「ふく……?」

「原始人が初めてそんな言葉を聞いたみたいなリアクションだね。知らないわけがないでしょ」


 腰に手を当て訝しげな視線を向けてくる。


「まさか幼児退行したフリで私の裸体を見ることが目的なの? 鬼柳君も男の子だからそういうのに興味があるのは良いことだけど、お風呂上りは風邪ひいちゃうからやめてよね」


 俺の隣をスタスタと歩き去り脱衣所にもともとあった服に素早く着替えている。動きやすいような寝間着だが、下着は身に着けないようだ。


 え……なんでそんなに平然としているの? これ俺がおかしいの? それとも死神って裸見られても動じない生き物なの?


「いつまでも裸で立っていないでお風呂に入ればいいのに。それとも今日はやめとく?」

「い、いや入るよ」

「それならお風呂から上がったら栓を抜いといてよね。カップラーメンは好きなものを食べていいのでしょ?」

「お、お好きにどうぞ」

「ん、ありがと。じゃあ焼きそばたべよぉっと。まだ食べたことがなかったのよね~」


 去り際に「明日はもっと楽しみだな~」と期待で胸を膨らまていた。

 自分の裸を見られたことよりも風呂の栓を抜くことやカップラーメンのことを気にしてたぞあの女。

 手で胸や股間を隠すといった行為もしなかった。それどころか腰に手を当てるという無防備ポーズまでお披露目するしまつ。


 は、初めて女子の全裸を目の当たりにした……。


 画面ごしなら幾度もあるんだが間近で実物を見るのはこれが初めて……ヤバ、血液が下半身に流れていく。


 これはイケない――じゃないいけない! 恋人でもない同居人の全裸で興奮して戦闘準備するなどッ!


 平常心だ……心を落ち着かせろ…………そう、まるで平原に流れる小川のような清らかさと誠実さを身に宿して――よし、よし今の俺はどんな賢者よりも――


「鬼柳君! 言い忘れていたけど性欲の解消はお風呂では絶対にしないでよねぇ私も使うんだから! 使っていない部屋ならいっぱいあるからそのどれかでお願い!」


――アマニちゃんはさぁ……デリカシーを持と?


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