表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない俺は死神に寄り添う  作者: 清水紅蓮
変貌する日常
6/50

男子なら誰だってうれしい

なんとか遅刻寸前で教室に入れた。

校門で俺にカバンを手渡したアマニは気づいたらどこかに消えていた。初めて会った時も突然現れたし死神は神出鬼没なのだろう。


さて、不死者に立ち向かう死神チームではなく、今の俺はただの高校生。担任の特に変わりない日常だよというホームルームを聞き流すと隣から紙パックのジュースを手にした茶髪の女子に話しかけられた。


「今日は遅かったね。寝坊?」

「そんなところだ」


死神と不死者についてトークしてたよなんて口に出したら保健室通り越して病院にレッツゴーさせられる。


「それにしてはいつもよりも目が起きているね」

「全力で走ってきたからな。眠気覚ましにはなった」

「あ、ホントだ。いつもより覇気がある」


一応こいつも女子なんだから少しぐらいは距離感を考えてほしい。

隣の席に座っているだけの女子である西原藍にしはらあい。制服を少しだけ着崩している陽キャ女子グループの中心人物なんだが、誰にでも分け隔てなく接する性格から隣の席の俺にも積極的に話しかけてくる。そのおかげもあってか、その陽キャ女子グループのメンバー全員から俺は他人以上友達未満という位置として認められた。


「じゃあご飯食べてないの? それで午前中もつ?」


朝食はがっつり食べたんだが、遅刻したというのに腹が減っていないというのはおかしいだろう。食パン咥えて「ちこくちこく~」なんてリアルでいたら三度見はする。そもそも我が家は母上様の意向で朝は必ず白米だ。


「半日何も食べなくても別に死なねぇよ」

「わたしは耐えられないけどなぁ。お腹空いていると授業も集中できないもん。なんでもいいからお腹に入れといたほうがいいよ?」


心配そうに俺を覗き込んでくる瞳の所為で逆らいづらい……。


「お菓子ならあるけど食べる?」


差し出されたチョコのお菓子を躊躇いなく受け取るとそれを口に放り込んだ。……あんま甘くない。ポリフェノールが多めの健康志向のチョコだ。

好きじゃない味だ。口には出さないけど。


「良薬は口に苦し、健康にいい食べ物はおいしくないからね」

「そんなに健康に気を付けるならチョコ食わなければいいだけだろ。さきいかとかいいんじゃないか、顎とか鍛えられるぞ」

「オシャレって知っている?」


そうか……さきいかはオシャレじゃないのか……。俺は好きなんだけどな、暇なときにクッチャクッチャと行儀悪く咀嚼するの楽しい。あんまり大きな音だと母さんにハエたたきで叩かれるけど。


「そんなに口に合わなかったんなら一口飲む?」

「もしそれを飲んだら俺はどうなるんだ?」

「お昼には学年中にわたしと間接キスした事実が出回って少々息苦しい学校生活を送ることになる」

「代償が中途半端に鬱陶しい」

「それはわたしに対する挑戦なのかな……」


女子のプライドを傷つけてしまったようだ。いくら好きでもない相手でも自分が女として見られてないと機嫌が悪くなるらしい。


かといいそれをフォローできるほどのトーク力を俺が有しているわけもない。

それを見かねた西原はしょうがないなぁと笑い、カバンから別の飲み物を取り出した。


「もう一つあるけど飲む?」


あったんなら最初っから出していてほしかった。口には出さないけど。


「それはありがたくいただく。いくらだ?」

「いらないよ。あ、どうしてもというなら宿題出してもいい?」

「難しい事は無理だぞ?」


数学とかはマジで無理、せめて歴史にして。スマホで検索すれば一発で答えを導いてくれるから。


「難しいなんて言ってみ? クラスの人たちに鬼柳に犯されかけたって言いふらしちゃうから」

「血も涙もないのかお前には!」

「冗談! 冗談だからそんなに怖い顔しないでよ!」


冗談でも洒落にならないことを口に出すんじゃない。その油断が俺の寿命を縮めることになるんだぞ!


「宿題はね、私の良いところを三つ考えてきてもらえればいいよ」

「かわいい、明るい、優しい、接しやすい。これでいいか?」

「即座に四つも答えてくれたのにわたしと噂になることに否定的なんだね」


そんなの決まっているだろ。


西原はとにかくモテる。モテまくる。極上めちゃモテ西原とはこの西原藍のことだ。


クラスの中心から端っこまで分け隔てなく明るく話しかけてくれる顔面偏差値が高い女子が嫌いな男子なんているはずがない。


当然そんな西原を狙う男は多い。だいたいは自分に自信がある人気者やお調子者が積極的にアピールしているが、それ以外の地味な男子にもあわよくばと狙われている。


とにもかくにも西原から飲み物を受け取るとそれをものの十秒で飲み干した。


「はやっ!」

「走ってきたから喉は渇いてたんだよ」

「もっとありがたみを持っていただいてほしかったなぁ」

「すごくありがたくいただいたぞ?」

「それが聞きたかった」


友達のもとへ戻った西原をぼんやりと眺めながらアマニの話を思い出す。


死は誰にでも訪れる……か。


そのてんだけは俺と西原は平等だ。それどころか人類は皆平等にすぎない。


「不死者……か。なにか楽しくてそんなに長生きしたんかねぇ……」


その言葉に応じる人は誰一人いない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ