不死者もどき(ダースト)
俺を殺そうとした襲撃者が脳裏をよこぎる。
姿は夜の闇で見えなかった……いやまるで闇そのもののような人だった。足音や気配など一切感じさせずに蚊でも潰すかのように腹を貫いてきた。
「あの人はダーストと呼ばれる不死者もどき」
「は……?」
間抜けな声が漏れた。
不死者? 死神の次は不死者?
「不死者って、ゾンビとかキョンシーとか?」
「そんなものが存在するはずないでしょう」
なんか腑に落ちない。
「あれらは死体が動いているのであって不死とは別物。私が言っているのは文字通りの不死の者のこと」
「バカな……死なない人間だと。死は――」
「――なににでも訪れる、だね」
アマニは俺が言おうとしたことを先回りした。
「もちろん“不死者もどき(ダースト)”は完全な不死じゃない。彼らは年齢も重ねるし一定以上の傷で死にも至る。不死者を名乗るだけあって普通の人間よりも圧倒的な生命力を有していることは間違いないけど、完全ではない。だから不死者もどき」
“不死者もどき(ダースト)”……あいつは完全に不死身ではないのか。それでも世間一般から見れば脅威であることに変わりはない。
「――おい、今彼らって言ったのか⁉ そんな化け物がまだいるのか⁉」
聞き捨てならない言葉にアマニは、
「正確な人数は不明だけど、複数いることは確認されているよ」
複数⁉ まるで二人や三人なんかでは収められないような言い方じゃねぇか!
「彼らは組織で行動して、完全な不死になる方法を探しているの。私たち死神はそれをなにがあっても防がなければいけない。組織の名は【退廃の魔巣】」
不死者と死神か……。水と油以上に相いれない存在だよなそりゃ。
基本的に淡々と話すアマニは不死者のことになると少しだけ感情が表れる。それがどんな感情なのかはよくわからないが。
不完全な不死者によって構成された【退廃の魔巣】
完全な不死になって何をしようというのだろう。どうせロクでもない事に決まっている。世界征服とかだろう。
子供じみた野望だが、それを現実にできさえすれば俺みたいな小市民にとって脅威でしかない。
銃やミサイルでも勝てないんじゃないか? 下手しなくても核兵器を投入した戦争にまで発展しかねない。
「ふぅ~」
一息ついてみたがやっぱあまりの突拍子のなさに頭が追い付かない。
死神だけでもお腹いっぱいなのに、不死者の組織との因縁まであるのか。
「一度に説明し過ぎたから混乱しているのね。……まずは目先の危機を脱することを考えたほうが鬼柳君にとってもいいはずよ」
さっそく何かさせられるの⁉
身構えるとアマニは机に立てかけられたカバンを指さし一言、
「遅刻」