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死ねない俺は死神に寄り添う  作者: 清水紅蓮
変貌する日常
3/50

死神のイメージ

朝食を急いで食べ終わり、俺とアニマはわずかな時間を使って現状確認をするために俺の部屋へ。

なにげに女の子を自分の部屋に入れるのは初めてのことで内心落ち着かない。大丈夫か? 散らかっているのはしょうがないけど、危険な本とかは全部隠してあるよな? 


部屋に入れると適当な座布団を二枚用意し床に置く。

 ベッドに二人並んで座るのは恋人とするものだ。出会ったばかりの人間と死神がするようなことではない。


「ありがとう」


 短くお礼を言うとそこにちょこんと正座する。


「少し窓開けるぞ」


 窓を少しだけ開けると心地よい風が俺を包み込んだ。これだけでも生きているという実感が出来る。

 まさか道行く人は昨日この街で高校生が不審者に襲われて死にかけたなんて思ってもいないだろうな。


 それもそうか。

 俺だってそれまでは死神が実在することを知らなかったんだから。知らないだけで世の中は怪奇に満ち溢れている。

 アマニの前に脚を組んで座ると視線だけで準備が出来た、それを確認してアマニが口を開き話し始める。


「まずは伝えた通り、鬼柳君は死の運命からは脱することが出来た。それは間違いない。死神である私が保証する」

「死神の太鼓判が押されたんならひとまず安心だな」


 刺された腹部を撫でてもそこにはやはり傷はない。


「死の運命から脱したということはその原因となる傷も消えたということ。傷跡がないのはもう確認したよね」

「ああ。おかげで昨日の出来事は夢だと思ったからな」


 だが俺を助けた死神は目の前に存在している。それどころか俺を家まで運んで朝食まで食べていた。昨晩の夕食も食べたのか、いやどうでもいいか。


「死神ってもっとこう、骸骨がデカい鎌を持っているイメージだったが、ずいぶん風貌が違うな」


 アマニはせいぜい俺と同年代の普通の女子に見える。紅い目に紫交じりの黒髪、日本人には見えないが、それでも十分人間として紛れていてもおかしくない姿だ。着ている服も黒い襤褸などではなく風に翻りそうなほど軽い黒いコートと人間がデザインしたような服でしかない。


「いつの話をしているの……鬼柳君だって日本人のくせに和服を着ていないことと同じよ」

「死神も時代と共に服装や常識が変化しているってこと?」

「森羅万象、なににでも終わり(死)はあるから」


 それもそうかもしれない。死神だって生きているんだもんな、既存の物ばかりに囲まれて生きていてもつまらないだろう。


「じゃあ骸骨のイメージは?」

「たぶんだけど、タロットカードが普及したからじゃないかな」


 あーなんかわかる。

 タロットカードのDEATHって死神が描かれているイメージだもんな。

 それでも目の前の死神とのギャップがあまりにも……控えめに評価しても幻想的な雰囲気や整った容姿でめちゃくちゃ美人。自分では主張したりせずに周りが担ぎ上げるように人気者になるタイプ。


「鬼柳君は死神はどんなことをしているかわかる?」

「それは……あれだろ? 寿命を全うした人の魂を天国に導いたりするんだろ? これも勝手な人間のイメージでしかないけど」

「それでだいたい合っているよ。……そう、死神の役割は人間の魂を冥界に導く橋渡しのようなもの。自分からは人の命を刈り取ることは決してない」


 人間の想像もバカにできないな。これなら神様だって存在しそうだ。


「それならなんで俺を助けたんだ? 死神の役割とは真逆の違反行為でしかないだろ……なんのメリットがあって」

「もしかしてあの時の死にたくないという言葉は嘘?」


 いつの間にかアニマの手には処刑剣が。いつの間にそんなデカい剣を……?


「そ、そういうわけじゃないけど」

「冗談だよ。そんなに怖がらなくてもいいでしょ」


 冗談か~ビビらせやがって。自分が死神であることを認識してくれない? ヤンキーが殺すぞって脅してくるのとはわけが違うんだぞ?


「死にたくないでしょ?」

「当然だ」

「なら永遠に生きていたい?」

「死神はよくわからないけど、人間には到底無理だ。さっきアマニが言っていただろ、何にでも死はあるって」

「それは答えていることになっていないよ。永遠に生きていたい?」


 そんなの答えは決まっている。思考するまでもない。


「ごめんこうむる」

「……よかった。鬼柳君が死に関しては普通の感性を持っていて」


 静かに安堵するように、アマニは微笑んだ。


「ありきたりなことだけど、死は誰にでも平等に訪れなければならない。そこには人種、国籍、時代や性格、貧富の差もない。誰にでも降りかかる解放と理不尽――それが『死ぬ』という意味」

「死は解放とはよく言ったものだよな」

「もし人類が不老不死を体現できるようになったら、どうなると思う?」

「……誰も死なない見かけだけでも優しい世界が完成?」


 アマニは静かに首を横に振った。


「正解は逆。この世界こそ終わることがない永遠の地獄へと変わる。人が死ねば終わる戦争は死ねないことによって落としどころがない戦争に。減ることがない人口は毎年増えていく一方、それに伴って有限資源はたやすく食いつぶされていくの」


 見てきたかのように話すアマニに俺は軽口をたたくことも憚られた。日が当たり気温が高くなった部屋のはずが、背筋が凍るように寒気を感じる。


「鬼柳君を襲ったあの人」

「ッ!」


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