表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ねない俺は死神に寄り添う  作者: 清水紅蓮
変貌する日常
2/50

変化は知らず知らずのうちに

「………ふぁああああああぁああ、顎外れそ」


 それにしてもリアルな夢だったな。まるで本当に俺が死にかけていたかのような夢だった。死にかけたことないからよくわからないけど。

 ま、それは夢の話だ。俺の腹にはもちろん傷跡など一つもないし、服や身体も自分の大量の血で汚れてなんかいない。


 だけどあの恐怖だけはなぜか今でもはっきりと覚えている。血には汚れていないが、俺が身に着けている服は汗でびっしょりと湿っていた。


 涼しくはないが、この汗の量は異常だろ。……汗なのかも疑わしい、汗だよな……? おねしょでしたなんてオチじゃあないよな?


「いつまで寝ているの? 早く朝ごはん食べて学校行きなさい」

「母さん、ただ起こすだけでも部屋に入るときはノックしてくれよ」


 口にたばこを咥えたまま歩き回るのも危ないからやめてほしい。

寝癖がついた頭をぼりぼりと掻きながらいつものやり取りを母さんとする。ほんとに思春期の息子の部屋をなんだと思っているの? 地雷よりも危ないものがいっぱいあるんだからな。


「とりあえず飯食うからそこどいて」

「バカおっしゃい。お客さんの前でそんなだらしない格好で出てこないで。先に制服に着替えてから降りといて」

「お客さん……?」


 こんな朝っぱらからか? ずいぶん無遠慮にぐいぐい来る新聞配達もいたもんだ。

 毎朝寝ている格好で朝食を摂取するが、今日ぐらいは先に制服に袖を通した。

「ふぁぁ……」

 若干眠気は残っているものの寝ぼけて階段で足を踏み外すわけがない。

 食卓には俺と妹の朝食が用意されてある。目玉焼きとソーセージ、昨日の残りの筑前煮。いつも通りのご機嫌でもなんでもない朝食。


 いつも座っている椅子に座りなにも言わずに食べ始める。うまくもないし不味くもない。


「朝から腑抜けた顔してんじゃないよ。――アマニちゃんおかわりはどうする?」

「ありがとうございます。お願いできますか?」


 聞きなれない声がする。


「このぐらいで遠慮するんじゃないよ。アマニちゃんはうちのバカ息子の恩人なんだからね。いつでもご飯食べに来な」

「命の恩人だなんてとんでもない……私はただ私の仕事を彼に手伝ってもらうために助けただけですから」

「いいのいいの! こんなヘボい息子でもお役に立てるならなにさせてもいいからね!」


 無言で箸を進めている傍で俺の人権が無視されてなにかとんでもない会話が繰り広げられていた。

 だんだん意識がはっきりすると同時に昨日の出来事が無駄に鮮明に脳裏によみがえってきた。


「ふふっ」


 出来事が出来事なだけに突拍子過ぎて自分でも笑っちゃう、昨日死にかけてこの女に助けてもらったんだよな? 

 それからの記憶がさっぱりない。


「なぁ」

「なぁに?」

「…………死神?」

「昨日そう自己紹介したはずだけど。でも私はあなたの名前を知らないからまずは名乗ってくれないと……死にかけていたんだから昨日は仕方ないとしても、ちゃんと名乗らないと失礼でしょ?」

「……どうもアマニさん。鬼柳弐虎きりゅうにこです」

「にこ……? 可愛い名前だねニコちゃん」

「名前で呼ばないでくれ……結構コンプレックスなんだよ。今のはノーカンにしてやるけど、あと三回までなら許してやるから二度と言わないでくれよな」

「ニコちゃん言わないでくれ?」

「あと二回だぞ⁉」


 しかも勝手に『ちゃん』までつけやがって……やめてくれ、そのあだ名は俺に効く。


「なら鬼柳君と呼ばせてもらうからね。私のことはアマニでいいからそう呼んで。でも私は主やご主人様でも一向に構わないから」

「……母さん、なんでこんな頭のおかしい女を家に入れたの? 隙あらば俺を尻に敷く気満々だよ? ――痛い! まな板で息子の頭ぶつんじゃねぇ!」


 しかも側面で力いっぱい叩きやがって!


「黙んな。人情もない男に育って……倒れているところを助けてもらっといてなんだその言い草は! こんな華奢な子に家まで送ってもらっておいていっちょ前の口きくんじゃない」

「う、うぅ……」


 この母親に反論できるはずがない。

 俺が昨日不審者に襲われてそこをアマニに助けてもらったのは事実だ。命の恩人は過言でもなんでもない。そんな相手に朝食を振舞うことぐらいはして当然なほどのことをしてもらったのだから。


 俺が家に帰ったのが昨日だとしたらアマニは昨晩泊まっていたのも何も問題ない。女の子の一人歩きは危険だし、あの不審者もまだ近くにいる可能性が高いからな。


「いいえ。これも仕事のようなものですので気にしないでください。それよりも鬼柳君にお怪我がなくてよかったです」

「良い子だねぇ。最近の若い子なのに立派だぁ。それに比べてあんたときたら……アマニちゃんに迷惑かけて」

「死にかけたばかりの息子に容赦なさすぎだろ……」


 だけど確かにまだお礼は言っていない。

 机に手を付き頭を下げようとしたが、


「待って! お礼はいらないから」


 アマニの声に俺は頭を下げようとしたが中断した。

 礼はいらないって、それぐらい受け取ってもらってもいいんじゃないか。


「まずはご飯を頂きましょう。冷めてしまってはお母様に悪いから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ