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ノノノ越界奇譚  作者: 雨枝蒼
【スフィア編】
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2‐25 断つ爪

 詩ノ崎が所持しているガントレットは六種類。

 ガントレットに使う金属をそれぞれ違うものにすることによって、あらゆる状況や環境、作戦に対応することができた。

 中でも瞬時に装着できるガントレットは血なまぐさかった傭兵時代から見れば使用頻度が高い。それはいつ、どこで起こるかわからないという他エリアにおいて瞬時に戦闘態勢に入れるというのは、攻撃面でなんの特徴が持っていないものだとしても非常に重宝した。

 同時にその汎用性のせいで、他五種は使用することは少なかった。使う機会が少なければ手入れの頻度も減る。前線を退いてリサイクルショップの経営で多忙となった今ではいつも使っているガントレット以外は錆びついてしまった。


 だが、今その侵食から蘇った紅色のガントレット――、《爪紅(つまべに)》が唸りだす。


「お前それは……“ヒイロ”の!」


 オオタカは使われている金属に目を見開いた。

 気がついたところで、詩ノ崎は何もしないオオタカをいないものとして、眼前の脅威を前に拳を握る。


「邪魔だっ!」


 掴んでいた根を拳で折ると、エヌマニごとルルを貫こうと伸ばす根には手刀で一文字に払った。

 鼻血を出しながらルルが膝から崩れそうなところは希乃が受け止める。


「ルル!」


「頼んだぞ!」


 ベガと鍔迫り合いをしているマンドラゴラに間合いを詰める詩ノ崎。

 マンドラゴラは片手間に根を一本、向かってくる詩ノ崎に差し向けてきたが、それを態勢を低くしながら、さらに《爪紅》でいなして方向を変えさせた。


「ふんっ!」


 姿勢の低くした詩ノ崎がマンドラゴラの胴体に回し蹴りを一発いれた。限界が近いベガから距離を離すために入れた蹴りは、木の軋む音を出して、マンドラゴラを吹っ飛ばす。

 ベガが片目を辛そうにつぶると、片膝をついた。


「すまねえ、ベガ!」


「いえ、主様が無事なら」


 一言言葉を交わすとすぐさま、飛ばされたマンドラゴラに近づく。でなければ、すでに構えていたマンドラゴラの左腕の根の標的にされるところだ。

 今度の根は多角的に、正面と床から伸ばし詩ノ崎の足をからめとろうするが、詩ノ崎は止まらない。

 《爪紅》が周りの空気を揺らがせる。自らが熱を作り、纏う。

 根は《爪紅》の熱によって容易に、演武を踊っているかのように手刀の一刀のもとにすべて焼き切られた。


「……!!」


 左腕の根の動きが止まる。自らの根が輪切りにされたからか、纏わりついているのが人だから痛覚があるか。顔のないマンドラゴラが動揺しているようだった。

 詩ノ崎が止まった根を足場に乗り越えて、纏わりついた根で厚くなったマンドラゴラの右肩に手刀で突く。マンドラゴラが右腕を前にしてガードしても、熱せられた《爪紅》は右肩の根に届いた。


「ちっ……!」


 詩ノ崎の見立てではマンドラゴラの寄生部分は右腕だ。右肩から切り離すつもりのところが、巨腕の先についた金属塊に当たりわずかに逸れた。

 マンドラゴラの右腕で振り払って詩ノ崎に距離を取らせる。まだ右腕の機能停止までも低下させるまでも至れていないものの、元の身体となった栢の鎖骨を焼いて、切断されている。


 詩ノ崎が《爪紅》を振るうも、マンドラゴラが身体のあちこちを斬らせながら金属塊で受けつついなされる。マンドラゴラが《爪紅》に対してはすべて右腕、それも唯一耐えられる詩ノ崎のガントレットだった金属塊だけで対応してくる。

 そして、剣戟を繰り広げている詩ノ崎にマンドラゴラの左腕の断面を見せたままの根が伸ばしてくる。

 一本だけなら片腕のガントレットで受け止められるものの、複数ならば詩ノ崎がその場を動かなければならない。直撃となると先端を切って平になっても戦線離脱は免れないのだ。


「鬱陶しいんだよ!」


 左腕の根を避けきった詩ノ崎が動きを止める。マンドラゴラの右横、マンドラゴラが巨腕の右腕を裏拳で横に振るったところを、詩ノ崎が頭を下げてることで回避して見せた。

 フェイントでマンドラゴラの攻撃を出させきってから、詩ノ崎がもう一度右肩に手刀を振りあげる。

 肩の傷口に合わせるように放ったが、マンドラゴラが急いで戻していた左腕の根の一本が阻んだ。

 残りの三本は詩ノ崎自身へ。片腕で一本を受け止めてから、二本は跳びながら身体を捩じらせて辛うじて直撃を避けた。


 着地を狙った根を一本切り伏せると、マンドラゴラに向き直る。

 両腕の武器が邪魔だ。伸縮自在に伸ばしてくる左腕の根と、詩ノ崎のガントレットを取り込んだ右腕の鉄槌。どちらも勝負を決める必殺を両腕についてるのに対して、詩ノ崎は右腕の《爪紅》一つ。

 どうにかマンドラゴラの隙を突きたい。


(それができれば苦労しねえわな)


 考えを一蹴した。一番のマンドラゴラの隙だった《爪紅》を初めて振るった瞬間。あそこできっちりと仕留めなければならなかった。現にもう、《爪紅》の捌きかたを理解してなのか、受けきれなかったときの身体の切り傷はだんだんと減っていた。

 ならば、行動パターンを読むしかないが、詩ノ崎にマンドラゴラの根が向かってくる。

 思考中に水を差された詩ノ崎がイラつきを覚えたが、足を止めるわけにもいかない。マンドラゴラの右腕の間合いに入らず、考えを纏めていくしかなかった。

 根を捌きながら、途中何かが風を切った。


「オラ!!」


 風音は変わらず、雄たけびと共に上空からマンドラゴラの頭を何かが殴りつける。その衝撃で詩ノ崎への攻撃をやめてしまう。


「なめるなよ!! こっちは……な!」


 オオタカの爪がマンドラゴラの頭をさらに揺らす。


空の戦士(ラーフ)だぞ! 俺の翼は逃げるためのものじゃねえ!」


 さっきまで戦意喪失していたオオタカのヒットエンドフライ。マンドラゴラの右腕も空を切るばかり、どっしり構えていた足が衝撃にふらふらとして、翻弄される。

 気迫は凄まじく、数発当てただけで元の顔の頬からルージュが塗られた口元が見えだし、右腕まで繋がる首の幹はひび割れだした。もう何発も耐えられる大きさのひびではない。

 マンドラゴラの根はオオタカにも向けられる。オオタカの影を追いだして、根は地上に出られるではないかと思うほどの長さに達する。


「ここで決めるぞ!」


 攻撃の意識が散らしたマンドラゴラに、詩ノ崎はすぐに距離を詰めた。オオタカも詩ノ崎の一声に合わせてマンドラゴラの背後に回り降下しだす。

 挟撃の形を取れた。一方の攻撃を集中すれば、一方の攻撃が当てられる。だからきっと、マンドラゴラがとる対応は……。


「そうだよな」


 根はそのままオオタカに、右腕は詩ノ崎に。

 オオタカが翼を前に畳んで、大きくひび割れた頭を狙って趾を突き出す。根はオオタカの身体当たることなく、ついに四本全てを抜けていった。


「くたばりやがれ!!」


 直撃を確信したその瞬間、マンドラゴラの左腕から新しい五本目の根が射出された。


「!!」


 気づいたオオタカが上昇しようと翼を広げたが、右翼のど真ん中に突き刺さる。

 オオタカの強襲が失敗したと同時に、詩ノ崎はマンドラゴラの右腕がぶつかろうとしていた。

 詩ノ崎が《爪紅》を構えればマンドラゴラが繰り出すはまたしても振り下ろし。幾度となく見たその攻撃を詩ノ崎は一歩身を引くことで紙一重で避けると同時に、手首を斬り上げた。

 散々阻んできた金属の塊は、マンドラゴラから手ごと離れたことで目の前の障害はなくなった。

 マンドラゴラが急いでオオタカの翼があったところから根を巻き戻すのだが、その時には詩ノ崎の《爪紅》の切り上げから繋げてマンドラゴラの右肩に振り切る。

 繋がりかけていた幹の割れ目に新しく、栢の身体ごと幹を一刀両断にしたと思われた。


「……あ?」


 詩ノ崎が思っていたよりもわずかに遠い。距離にして半歩足りていない。

 斬られたのは正面に巻き付く幹が巻かれている分が大半で、背中の幹が辛うじて宿主の身体にしがみつく。

 ここで初めてマンドラゴラが避ける、という選択をしたのだ。

 この一閃で決めた気でいた詩ノ崎。

 マンドラゴラが巻き戻し終えた根が詩ノ崎の脳天に狙いを定めていた。


「ああああああああああああ!」


 マンドラゴラの背中に手刀が振るわれた。血まみれになった細い腕で、血とともに桜色にネイルされた爪が砕ける。

 目覚めたマーネが一足でマンドラゴラに飛びついていた。


「いい加減、目覚めて! 栢!!」


 まだ再び開きだした脇腹の出血を気にする素振りも見せず、背後に回り込んで潜んでいた爪が届いた。

 マンドラゴラの目が背後で一撃にかけたマーネに向けられる。マーネの爪を代償にしても、マンドラゴラの幹につけられたのは浅いひっかき傷。


 ただ、それだけ……、マンドラゴラの気が一瞬だけマーネに取られた、詩ノ崎にとって充分過ぎる。


「もらうぞ、その右腕」


 振り上げた《爪紅》は、背中の幹まで容易く焼き斬った。


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