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ノノノ越界奇譚  作者: 雨枝蒼
【スフィア編】
34/56

2-5 二つのアタッシュケース③

更新滞って申し訳ないです


 顔を突っ込みしたくはない事案だが……、詩ノ崎は真正面から威圧してくるお客と目を合わせる。


「……証拠は?」


「何度も言わせるなよ、過激派が暴れたって証言は取れてんだ」


「そちらではなく、その過激派に襲われた話です」


 公表されていない異人組のことを知っているからこそ詩ノ崎には聞き捨てならなかった。静関公園で暴れた前にしても後にしても、お客の異人からはそんな不穏な話題は上がっていないし、香織がいる財閥が把握していないのは妙なのだ。

 詩ノ崎は言い聞かせるように言った。


「いつ、どこで、何があったのか。まずはそこをはっきりしてください」


「……必要なこととは思えないが」


「なければ何もお話しできることはありません」


 お客の感情が高ぶる。瞳の色が暗幕のように真っ黒なサングラスの上からでもわかるまで濃くなった。

 黙秘を貫いて査定物をまとめて帰るのかともよぎったが、お客は膝に乗せた拳を強く握ってこちらを見据えた。


「……盗難だ。二か月前に俺の家からコレクションを盗みやがった」


「過激派が行ったとする根拠は、証拠があるんですか?」


「ない、だが確信している。火災の五日前で時期が近いだろ」


 薄い、決めつけということか。

 だが詩ノ崎は知っている。盗難はなかったが、あの異人の集団は財閥の施設にも侵入したのだ、無関係と決めつけるのも早計。

 すると、お客が話を続けた。


「そこで調べてほしいんだ、ここ二か月の間にエリア5のものを取引した人間と日時、そいつの住所、すべてだ」


「……それは難しいですね」


 クスリとも笑うことができず相当嫌な顔をする詩ノ崎。お客の視線は下へアタッシュケースに収められた腕時計へ移った。


「盗まれたものは価値がある、そこの腕時計と“ヒイロ”以上にな。過激派がいた公園も探しもした。ネットのフリーマーケットというやつも監視しているがそこにも今のところ出品されていない」


「だからリサイクルショップのうちに?」


「もう残っているのがここしかないからな」


 なるほど、取引はデジタルではなくアナログな方法だと考えに行きついたわけか。

 だが、このお客はリサイクルショップを利用したことがないのだろう、売る場合には身分証明書が必要になる。果たして、ここで不用意に身分を明かすようなことがあるだろうか。

 怪しいものを持ってきたのは、詩ノ崎が知っている範囲でも直近では今日この一回だけだ。


()()九十九の言葉を借りてしまうが……)


 嫌味な言い方と自覚はあったが、詩ノ崎はキッパリと言い放つ。


「うちは探偵屋なんてものはやってませんよ」


「鼻につく言い方だな……、断るのもわかるがな」


 お客は面白くなさそうにそっぽを向いた。


「エリアの端から端まで扱えるリサイクルショップならこのくらいの調べもの簡単だろ……、なんならここで買い取っちゃいないだろうな?」


「何を盗まれたかわからないものに白は切れませんよ」


「それはいずれわかることだ、そうだな……」


 お客はアタッシュケースを引きずり寄せる。中に入っているのは“ヒイロ”、三つのうち一回り大きいものを鷲掴みにして見せた。


「“ヒイロ”、これで手を打たないか」


 詩ノ崎の片眉が無意識に動いた。


「……報酬で断っているわけではありませんが」


「これわかるだろ? 現金で買うには値が張るはずだがほしくないのか?」


 これでどうだと言わんばかりの言いぐさだが、未だ火の車の家計の状態では欲しくないわけではない。

 しかし内容が個人情報の開示。そう簡単には受けられない。


「財団、それか警察にこの話は?」


「ケイサツ? あそこはダメだ」


 盗難ならば出てくる至極当然な詩ノ崎の質問に、お客は馬鹿にしたように鼻で笑う。


「全ての人間の中でも非力な奴らが取り締まれると思えないがね」


「その非力な人間(俺たち)に頼むんですか?」


「癇に障るか? 事実を言っただけだろ。ケイサツとかいう集団より優秀だと見込んだんだ。ここの長には嬉しいことじゃないのか」


「同族を貶されて気分は良くなりませんよ」


 やはり依頼を突っぱねようかというタイミングでお客が“ヒイロ”を戻して腕を伸ばした。


「そうかい、それより査定が終わったなら金額を見せてくれ、腕時計だけでいい」


 詩ノ崎が“ヒイロ”を抜いた各種腕時計の査定額が打ち込まれたタブレットを見せるとお客は浅く二度頷く。その顔に不満という二文字はなさそうだった。


「こんなものか……、もうちょっと上げることは?」


「残念ながら、当店の基準に則ったものなので」


「まあそうだろうな。すまない、聞いただけだ。売るかどうかは少し考えさせてくれ」


 それでもお客は様子見の態度をとった。五桁の数字なら目を輝かすものだと思うが、品物の状態を見ても大事なものなのだろう、詩ノ崎はお客の考えに尊重した。


「わかりました」


 だが、逃すまいと詩ノ崎は自分の簡素な名刺を取り出すと、裏にボールペンを走らせる。ただのリサイクルショップへ査定に出さないはずであるが、他所に持ち込まれても戻ってくるように腕時計の品番と全ての値段を記した。

 もし持ち込まれても会社も品番もでたらめにしか見えないからガラクタとして処理されるだろうが。


「こちらを渡しておきます、何かあればこちらに電話を」


「ああ、助かる」


 お客は感心しつつ名刺を受け取った。

 この査定も終わりとなると後は、依頼に対してのこちらの返答だ。正直調べる内容の大半をカルネに任せるとして、報酬が調査の労力より上回っているのが気になった。

 あちらも“ヒイロ”を手放すのは惜しいはずだ。だからどうしても怪しくも見えてしまう。

 思考を整えるためそろそろ煙草休憩がほしいところだったが、お客から意外な申し出をされた。


「五日後にまた来る、調査の件はそのときまでに考えといてくれ」


 素手で“ヒイロ”をアタッシュケースに詰め込むとお客は早々に席を立ち、来た時と同じ荷物で一人、会議室を出ていった。

 値下げシールを貼っていた希乃はカウンターの向こうから来た時と同じ姿で出てきたお客に後ろめたいと思いながらも声をかける。


「お帰りですか?」


「ああ、五日後にまた来る」


 それだけ言い残しカウンターを抜ける背中に向かって希乃は退店の挨拶に頭を下げようとしたとき、「待ってください」と詩ノ崎が呼び止めた。


「名前を伺ってません、依頼をするつもりなら名乗るのが筋では?」


 お客は声には出さなかったが 「確かになと」 唇が微かに動かした。

 少し考えてからお客の目は詩ノ崎と希乃を完全に見据えた。


「“オオタカ”とでも呼んでくれ」


 二人に向けた背中に施された鷹の刺繍がこれ以上踏み込ませないと代弁しているようだった。


補足

各エリアに住む人間の名前


エリア1:輝人(グローリア)


エリア2:剛人(ギガント)


エリア3:???


エリア4:???


エリア5:浮人(スフィア)


エリア6:氷人(クリスティア)


エリア7:獣人(ビースト)


エリア8:???



変更点

火災の二日前 → 火災の五日前



次話の更新までまた時間をください

Twitterで更新か呟いたりしてますので、よろしければそちらで

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