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ノノノ越界奇譚  作者: 雨枝蒼
【グローリア編】
21/56

1-21 ターゲット②

「ノノ!」


 帰ってきて早々、暗がりの玄関でマーネが希乃に抱きついた。


「めちゃくちゃ派手にやられてるし、ちょっと待ってて服持ってくるから。あとルル、あたしの帽子返して」


 ルルが震える手で差し出された帽子を乱暴にひったくった。最初の頃の純白がなくなってしまった帽子にマーネは唸りに唸って、


「しょうがないか……」


 溜息だけでルルに対して何も言うこともなく、玄関から出て行った。

 希乃とルルが戻ったリビングにはニヤけた九十九、ソファーで神妙な顔付きでいる香織とその従者。

 そして、香織が座っているソファーの横には見慣れない黒い鞄がこれ見よがしに置かれている。


「こんばんは、希乃。災難だったわね」


「香織先輩……、なんでここに」


 希乃は驚いて香織のあいさつを返せなかった。

 香織はそれに特に怒ることもなく、持参した紅茶の入ったティーカップに口をつける。


「隣のこいつに話があったからよ。おかげで敵の素性がわかったからいいものの、これで無駄骨だったら……」


 キッと対角線にいる九十九を一瞥する。


「そんなに目で見ないでよ、香織ちゃん。こっちは思い出したくないことまで話したんだし、もう少し仲良くなっても良いじゃない」


「そういうとこよ、小悪党は私の質問だけに答えていれば良いの」


 なるほど、写真の人物は案の定九十九が知っている異人のようだ。

 詩ノ崎は誰もいない食卓テーブルに車のキーと煙草一式を置いて様子を見る。

 希乃とヒナピリウルが五体満足に戻って来られた。もう連れ去ろうとした輩を追う必要がなくなった。

 しかし、ただで情報を渡すのも気持ちがよくない。そう頭を悩ませていると香織が 「ところで」 と視線を詩ノ崎と傍にいたヒナピリウルに向ける。


「無事に二人が戻ってきたことだけど、これからどうするつもり?」


「事が事だからな、収まるまでルルを預かることに専念するよ、お嬢の依頼通りな」


「……そうね、その方がこちらとしても助かるわ」


「狙いはルルだし、捕まえるのは軍に任せるのが一番だろうから余計なことはしない方がやりやすいだろ」


「わかってるじゃない」


 詩ノ崎はわざとらしく不服そうに鼻を鳴らす。そこに九十九が笑いながら顎に手を当てる。


「希乃ちゃん見る限りだと、無理矢理ルルちゃんを狙ってここを攻めてきたりしそうだけど、籠城とかできる?」


「変なの使われなければなんとかなんだろ。合同軍が来るまでなんとか……」


「ちょ、ちょい待って!」


 三階の自室から希乃に貸す服を持ってきたマーネが目を丸くした。


「何? 攻め込まれるとかあたしきいてないんだけど」


「いや、そもそもルルが狙われてるって確信したのついさっきだったし、話すタイミングもなかったしな。そこは悪かった」


 誠意がない詩ノ崎にマーネは詰め寄ろうとしたが、九十九がいやらしくも口を挟む。


「ちなみに僕は察しがついてたよ、ルルチャンを人手が足りないから預けるなんて建前ってことくらい。希乃ちゃんもわかってたでしょ?」


 突如話を振られた希乃は遠慮がちに一回だけ頷く。


「私はついさっき狙われた後からですから、マーネさんとそんな大差は……」


 唯一話について行けなかったマーネが顔を赤くして、髪の毛から猫耳まで逆立てた。


「あーもう! 腹立つ!」


 おどおどとしながらも答えた希乃には行かず、床が抜けそうな勢いで地団駄を踏むマーネとそれをケラケラと九十九が笑う。

 危機感がないやりとりだ。天倉のメンツに愛想が尽きてるようで香織は溜息をついた。


「内容がわかってない哀れな獣人(ビースト)はほっといて」


「喧嘩なら買うよ???」


「希乃はどうするの、ここに泊まらせるの?」


「いや、家に帰す」


 こういう場面はヒナピリウルを預かる以前に、雇ったときから決定していたことだ。

 即答する詩ノ崎を希乃は見やる。


「え?」


「そうだね、今回はその方がいいだろうね」


「ええ!?」


 希乃には予想外のことで九十九の同意にも声をあげた。


「……私も天倉の一員です」


「そうだけどな、今回は相手の目的がルルだけなら希乃まで危険な目に遭わせる必要はないよ」


「でも」


 食い下がる希乃に九十九がいつもの笑顔でさわやかに言い放つ。


「この作戦で希乃が入る余地はないってことだよ。あとは、単純に守るのが増えると足手纏いだからかな、わかってくれるよね?」


「……っ!」


「九十九……! あんた、言葉を考えなさいよ!」


 マーネが希乃のために準備した服を落として、九十九の後頭部を拳で下に殴りつけた。音がするほどの強さに九十九は頭をさする。

 けれど、そのマーネは九十九の言葉を否定せず、聞いていた香織も詩ノ崎も嫌悪の視線を向けるだけで特になにも言わない。

 つまり、そういうことだ。


「……わかりました」


 察した希乃から表情が抜け落ち落胆の色を見せると、隣でオロオロとしていたヒナピリウルを抱きしめる。


「あとは詩ノ崎さんが守ってくれるから……、ごめんね」


「え、まっ……」


 ヒナピリウルは唇を動かして何か言葉を出そうとしたが、希乃は聞かずに踵を返して更衣室に引っ込んでいった。


「あ、ちょっと。服!」


 ハッとしたマーネは床に落とした服を拾って希乃の後を追う。

 二人が消えた更衣室を見送って、香織は詩ノ崎に訊ねた。


「よかったの?」


 冷めた表情とは裏腹にどこか責めているような口調だ。それを詩ノ崎は甘んじて受け入れる。


「危険な目に遭わせない、巻き込ませない。ここの取り決めだ」


「一回やっちゃってるってのもあるからね、しょうがないよ」


 九十九は肩をすくめてから、静かに立ち上がった。

 マーネに殴られた後頭部をさすりながら向かったのは台所のシンク、コップ一杯分の水を汲んだ。

 離れて尚、香織は逃さず突っかかってくる。


「それでもあんたの言い方は悪意しかないわ、希乃が殴ってもよかったのに」


「そういう役回りだからね、詩ノ崎がはっきり言わないからだよ」


 苦笑してからただの水を九十九は一気にあおった。

 九十九の指摘にはまともには取り合わず、詩ノ崎は詩ノ崎で別のことに意識が向いていた。車で覚えた引っかかりは忘れていない。


「そういや九十九、その写真知ってたんだよな、やっぱり氷人(クリスティア)なのか?」


「一人が隊長さんでね作戦のときに会ったことがあるよ。あっちは僕のこと覚えているかはわからないけど」


「そうか、氷人(クリスティア)か……」


 九十九はっきりした答えに詩ノ崎はちらりとどうしたら良いかと、口をあうあうさせながら足をオロオロと器用なことをするヒナピリウルを見た。

 ベガ曰く、外周の“還元”のために賢者が追ってくる可能性があるくらいには生け贄としての生きが良いらしい。

 けど実際やって来たのは、エリア1とは縁も所縁もないエリア6の異人の氷人(クリスティア)。九十九の断言と、希乃の証言で構成員は輝人(グローリア)ではないのは確かだ。

 ヒナピリウルの誘拐の依頼主が賢者とも考えたが、別にまどろっこしいことしなくても良いはずだ。財団に頼めるくらいには親交はあるし、決して首を横には振らない。


(なんか、勘違いしているか……?)


 こんがらがってきた頭の巡りを良くするために詩ノ崎はニコチンを摂取しようとしたが、その行為に香織が訝しげな目を向ける。


「快、あんたもう追わないって話してなかったかしら」


「んなわけないだろ、こっちは襲われる可能性だってあんだから。……そういうお嬢は何まだティータイムやってんだ。用が終わったなら帰れよ」


 淹れたての紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。

 襲撃される可能性があるのにも関わらず、紅茶のおかわりと新しいカップケーキを食べているほど猶予はないはずだが、香織は不敵に笑う。


「ええ、もちろんよ。作戦の方がうまくいきそうだったら帰るわ」


「……何言ってんだ?」


「こっちの話よ、忘れなさい」


 関係ないとばかりにそっぽ向いた香織に、詩ノ崎が問い直そうとしたところで更衣室の扉が開いた。

 着慣れていない服を着て少し申し訳なさそうしている希乃が姿を現わしたのだ。




「本っ当に、わがまま言ってすみませんでした」


「いいよ、そう何度も。こっちも配慮が足りなかった」


 姿を現わしてから顔を赤くしている希乃と煙草を吹かしている運転している詩ノ崎。

 何度も頭を下げる希乃に、詩ノ崎は八の字の眉をしながら宥める。


「それによ、ルルをここまで守ったのは紛れもなく希乃だ。お前は充分に役目を果たしたんだ」


「て言っても逃げただけですけどね」


「ルルが無傷で帰ってきたなら上々だろ、こう言うのは嫌いだが、希乃は傷つくことはねぇからな」


 フロントガラスを挟んで遮断棒が下りて、帰路の行く手を阻んだ。半分ほど開いた窓からはけたたましく警報器が鳴り響く。


「それによ……、まだ子どもだ。危険なことに自分から行く必要はねぇよ」


「子ども、だから……」


「大人が守るのは当たり前のことだ」


 ――― 俺らは特にな。

 誰も彼も自責が背中に積み重なっていくのは世の常だが、子どもに背負わせるにはあまりにも重すぎる。

 詩ノ崎だけではない、マーネも、カルネも、へらへらしている九十九も。

 詩ノ崎はフィルターギリギリになった煙草を携帯灰皿の奥底へ落とした。


「わかってはいたはずなんです」


 横目で希乃の方を見ても未だ合わせない。

 警報器の赤ランプで明滅に晒される顔は俯いて、組んだ指を見つめている。


「いつも自分は守る側じゃなくて守られる側だって。この一年間色々ありましたけど、思い返せば私はおまけなことが多かったので。九十九さんが言っていました、詩ノ崎さんと香織先輩は会議室でいつも計らっているって」


 詩ノ崎の脳内メモに九十九への恨みがまた一つ追加される。

 希乃は息を吸い込まず淡々と話して、


「けどやっぱり、私――――――――――――――――――、――――――――――――、―――――――――――――」


 無遠慮に車窓の明かりを運ぶ音と踏切警報機の発する警報との不協和音で、吐露した思いを打ち消した。


「すまん、もう一度言ってくれるか?」


「あ、いえ」


 鳴り止んで我に返ったのか希乃はそれ以上に顔を赤くする。


「何でもないです。あの、気にしないでください」


「……そうか」


 聞こえなかったものは深くは追求せず、無言のままタイヤをはまらないよう慎重に踏切の上を通過した。

 道は珍しく他の車が少なく、一大事じゃなければ快適な夜のドライブだ。


「そういや、配達中のルルはどうだった」


 本人がいない今なら言えることがあるだろうとするのと、聞けるのが今日最後であるからだ。沈黙を嫌った訳ではないにしても、今の詩ノ崎の思考にそんな余計な言い訳が流れる。

 希乃は「そうですね」と言うと、考えをまとめようと顎に手を当てる。


「なんだかんだ興味があるものが多かったようです」


 聞きたかったのはそこじゃないが、希乃が嬉しそうに微笑む表情で詩ノ崎は野暮だとふっと息を漏らす。


「ああ。やっぱりか」


「はい。最初に人の多さに気分を悪くしたりしましたけど、後半は慣れてよくキョロキョロしてました」


「そうか、人混みに疲れるのは考えてなかったな。地方の出身だから慣れてないのは当然か」


「地方って、ベガさんが前に言ってた外周部のことでしたっけ」


「そうだ、人が少ないところだってよ」


 詩ノ崎自身は行ったことはないが、聞いてる限りだと閉鎖的らしい。地球より先を行ってるエリア1でも中心部と外周部でギャップが生まれるのだと、カルトチックな習わしがまたその印象を強くする。


「あとはマンションでも怖がっても上りましたし、偶々見えた廃墟も行きたがって。やっぱり輝人って建物に興味あったりするんですね」


「跡地もルルが?」


「そうですね、泣きそうなってて思わず」


 困りながらも希乃は微笑んだままだが、詩ノ崎は疑問を呈した。


「おかしくねぇか、元々行くことがなかったのになんで狙撃されんだ?」


「え?」


 建物に囲まれた道路を抜けて河川を渡る橋に差し掛かろうとしている。昼は見通しが良いが、この時間は暗闇が水面を隠して今にも邪悪なものが這い出そうだ。

 希乃は運転席に乗り出し、運転する詩ノ崎を凝視する。


「……詩ノ崎さんはルルが、襲った人たちの一味だって言いたいんですか?」


「……」


 やっと出てきた希乃の詩ノ崎は答えに窮した。

 雇っている以上、詩ノ崎もヒナピリウルを信用している。倉庫に潜り込もうとしたヒナピリウルに言ったことも嘘偽りはない。

 だが、わかっている素性があまりにも少なすぎる。推測から進めないからどうしてもその可能性は捨てきれないのだ。結果、詩ノ崎の頭に少しのヒナピリウルへの疑念が生まれてしまった。

 しかし、これには何でも笑って過ごす温厚な希乃でも許さなかった。


「絶対にあり得ないです!」


 聞いたことのない喚きに詩ノ崎が思わず前から助手席に視線を流して、そして目を見開いた。これまで一度としてなかった希乃の剣幕。それを間近に見て不覚にも気圧された。


「だって私のこと沢山心配してくれたんですよ、襲われたときだって死にかけたことだってあったのに」


「……ちょっと待て」


「命を狙われているってわかっていても庇った私の手当てを優先させようとして、マーネさんに追い出されたときみたいに逃げようともしなかったんですよ」


「だからちょっと……」


「それなのにわからないことが他の人より多いからってすぐに疑って!ルルは天倉の一員じゃないんですかっ!!」


 希乃の叫び呼応したかのように車が突如止まった。

 怒りが止まらない希乃が慣性でフロントガラスへ吹っ飛ぼうとしたが、シートベルトがそれを受け止める。

 詩ノ崎が急ブレーキをかけたのだ。

 河川にかかる橋の終わりが見えている、しかし構わず路肩に一時停止した。


「ど、どうしたんですか!?」


「あ、いやすまん、何もないんだが」


 ギリギリ決壊しそうな目尻に溜まる涙、さらに唐突な急ブレーキで唖然としていた。

 けど、詩ノ崎にはそれを構っていられなかった。


「今さっきなんて言った?」


「えっ、だから、ルルは天倉の一員でしょって」


「違う」


 詩ノ崎はハンドルに腕をかけて、圧迫感のある巨体を助手席に近づける。


「その前だ」


「え、その前……」


 希乃の考え込む間、詩ノ崎の耳は心臓の鼓動と車のエンジンの音をやけに拾ってくる。


「ルルの命が狙われてるって……」


 静かに言った希乃が「違うんですか?」と切り取った会話の箇所を心配するが、詩ノ崎が愕然としたのはそこではない。

 詩ノ崎の推測が的外れだったことだ。


「いや、俺はてっきり拉致だと……」


「私も最初そう思ってたんですけど」


 一周回って落ち着いたのか希乃が目尻に溜まった涙を手の甲で拭った。


「駅でベガさん守ってもらわなかったら弾が当たってましたし、その前の爆発も私じゃなくてルルが近かったんですよ。だから、命を狙われてるって思って……」


「んな、バカな……」


 思わず詩ノ崎が口を突く。

 ヒナピリウルの儀式は生け贄、つまり生きていないとならない。取り仕切っている組織の元賢者が断言したことだ、このことに間違いなど絶対にない。

 それにもし殺すつもりなら最初から出来たはずだ。的が小さく手に持った希乃のスマホだけを壊すより、二人の頭を打ち抜く方が簡単なのは明か。けれどそれはしなかった。なら目的は最初の人攫いの方がしっくりくる。


(それならなんだ、相手の目的は? ヒナピリウルの生け捕りじゃなければ……)


 敵の目的“誘拐”が正しいなら後は、それ相応の“誰か”だけだ。

 だから推測を修正するまでの時間はかからなかった。


「詩ノ崎、さん?」


 名を呼ばれて隣を見た。希乃の目の奥には剣呑な光がなくなった代わりに、どこか憂慮しているような暗い光を宿していた。


「その、音が段々近づいているんですけど」


 詩ノ崎と希乃、二人が顔を上げて背後を映すバックミラーを見れば、すぐに正体はわかった。

 バイクがアクセルをフルスロットルに吹かせ、ハイビームを停車するこちらに放つ。

 詩ノ崎は悪寒を感じるや否や、希乃に警告するより早く速度を上げ、急ハンドルで反対車線へ。

「掴まれ!」


 アクセル板を力いっぱいに踏み抜く。バイクが近づいてくれば、躊躇なく轢くつもりだ。

 だが、最高速に達する前にボンネットに向かって何かを投げつけられた。


「くそっ」


 タイヤが高速でこする甲高い音と連続して車体に刺さる音は同時だった。詩ノ崎が反射でバイクから遠ざかろうと左にハンドルを切り、助手席への飛来物を全て運転席側で引き受ける。

 しかし、スピードを緩めなかった車は歩道と車道を分かつ石のガードレールに衝突した。

 後部のタイヤが浮くほどの衝撃を受けた車が、前に座る二人の目の前に白く柔らかい布を拡げる。


「大丈夫か希乃!?」


「なんとかっ……」


 エアバッグがしぼんでいく。視界は良好になって見えてくるのは変形するまでになった車の損傷。

 特に不味いのは希乃が座る助手席側、ドアの歪み方はすさまじく、サイドもフロントもガラスは内に割れてライトも潰れた。だが、それでも希乃が呻く程度で済んでいるのは一重に肉体のおかげだった。

 怪我のない希乃を横目に詩ノ崎はすぐにバックしようとまたアクセルを踏んだが、エンジン音が不気味に唸るだけ。

 ただの鉄の塊となった車に詩ノ崎は舌打ちをする。


「くそ、勘弁してくれよ……」


 勢いよく振り返って見えるのはバイクにまたがっている奴が着用するは厚手のレインコート。希乃を襲った奴らそのままの服装だ。

 加えてフードを被っていない代わりに素顔がメタリックな仮面で覆われ、手袋を履いている。跡地で襲った奴らとは違って徹底的に素肌を晒さない襲撃者。

 いや、ただならないオーラにそれとは別格だと見た。

 ぶつかった衝撃に目を瞑っていた希乃も恐る恐る振り返る。


「ぅあ……、本当に」

「これで確定かよ、畜生」


 自分の察しの悪さに心底腹が立つ。詩ノ崎は敵に鋭い眼光を向け、希乃は不安げに目を離せないでいる。

 走行不能となった車内、二人は確信したのだ。


 ターゲットは当理希乃だと。

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