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魔女旅シリーズ

魔女は笑顔で旅をします

作者: 夕日色の鳥

魔女旅シリーズ三作目です。

挿絵(By みてみん)


 魔女は旅をします。


 過去にどんなことがあっても、魔女は今を生きているから。


 魔女は今日も、笑顔で旅をします。


 母親と同じ、白い髪をなびかせて。







「いーところねー」


 魔女エレナは箒に乗って、空を駆けています。

 雲1つない青空に、エレナの白くて長い髪がなびき、その青と白に、夕日のように真っ赤な瞳が、とてもよく映えました。


 下には森が広がり、地平線には山の峰々が聳えているのが見えます。


「あれは、村かしら」


 エレナは遠くに、森を切り開いた小さな村を見つけました。


「えっ!あれは!」


 ですが、その村は火災に見舞われていました。

 村の入口近くの森が燃え、今にも村に燃え移ろうとしていました。

 エレナが目を凝らすと、村の反対側から人々が逃げているのが見えます。


「大変っ!」


 エレナは急いで村に向かいました。




「良かった。

まだ村には燃え移ってない」


 エレナは村の上空に着くと、懐から手鏡を取り出し、森を燃やす炎にそれを向けました。

 鏡にすべての炎が映ると、エレナは魔法の言葉を紡ぎます。



【ひなげしの葉

鏡花の蔓

深緑の針子

糸張りの夢


安息を刈り取る無情な炎に

安寧の安らぎを】



 すると、どこからか一粒の雫が零れました。

 そして、それは二粒三粒と、その数を増やしていき、あっという間に雨となって、村に降り注いだのです。


 森を燃やす炎が完全になくなると、雨も役目を終え、その瞳を閉じました。



 エレナが様子を見ようと村に降り立つと、村人が駆け寄ってきます。


「いまの雨はあんただか?」


 村人は訛りの入った声でエレナに話し掛けてきました。


「ええ。

みなさん、お怪我はありませんでしたか?」


 エレナは笑顔でそれに応えます。


「ああ!

おかげさまで、村のもんはみんな無事だ!

ありがとな!ありがとな!」


 そう言って、村人はエレナの手をとります。

 エレナはそれに応じながら手鏡を村人に向け、その感謝の気持ちを受け取りました。

 魔女は、魔法で救った人々からの感謝の想いで生きているのです。


「ほんとに助かっただ!

ぜひ村長に会ってくれ!

みんなあんたに感謝してるだ!」


 村人に促されて村に入ると、村長の家に着くまでの間にも、たくさんの村人がやって来て、エレナに感謝を伝えます。

 エレナは一人ひとりに笑顔で丁寧に応え、感謝の気持ちを受け取りました。


 村人に案内された一軒家に入ると、腰の曲がった老婆が出迎えてくれました。


「ようこそ、お若い魔女さん。

おらがこの村の村長だぁ」


「はじめまして。

魔女のエレナと申します」


 エレナが帽子を取り、床に膝をついて、老婆と目線を合わせて挨拶をすると、老婆は細い目をめいっぱい見開いた。


「エレナ。

似とるねぇ。

おらがちいせぇ頃に、おんなじように村を救ってくれた魔女さんに。

その魔女さんも、あんたみたいに真っ白な、キレイな髪をしてた」


「えっ」


 エレナは村長の言葉に驚きます。

 村長はエレナの頭をそっと撫でました。


「あの時は、たいしたお礼も言えねがったけども、今度はいっぱいお礼させとくれな」



ーーあったかい。会ったことないけど、おばあちゃんみたいーー



 エレナはしばらくそのまま、村長に頭を撫でられていました。


 そして、エレナはその日はそのまま村長の家に泊まることになり、村人総出で歓迎されました。

 まだ都には近かったのですが、どうやら田舎すぎて、都の魔女狩りの手が及んでいなかったようです。



 この日までは……。







 翌日早朝。


 エレナは久しぶりにふかふかのベッドで、ぐっすりと眠っていました。


 そのエレナが眠る村長の家の前。


「魔女への返礼は今後、その一切を禁ずる!

また、魔女を見つけ次第、速やかに報告すること!

報告者には協力金として、金貨10枚をやろう!

ただし、魔女を匿った者は処罰される!


以上!」


 紙に書かれた条項を読み上げる帯剣した騎士。

 都の魔女狩りの手の者です。


 村人たちはざわつきます。


 すでに村に滞在する魔女。

 それを差し出せば金貨10枚。

 差し出さずにバレてしまえば処罰を受ける。


 だが、エレナは村の恩人。


 村人たちの心は揺れていました。


 その心を、村長の言葉が固めます。


「分かっただ。

もしも、こんな辺鄙な村に魔女さんが来るようなことがあれば、すぐに報告しますだ」


「うむ。

殊勝な心掛けだ」


 騎士は村長の言葉に納得したようです。


『魔女はいまこの村にはいない』


 村長のその心を村人たちは受け取り、喉元まで出かかった言葉を飲み込みました。




「だが、騎士に嘘をつくのは許されない」


 騎士の男は、腰に下げていた剣を抜き、近くにいた子供の首に突きつけました。


「な、なにをっ!」


 村長も村人も、その行動にひどく動揺します。

 剣を突きつけられた子供は、恐怖から、まったく動けなくなってしまいました。


「昨日の火事。

我ら魔女狩り騎士団はこの近辺で演習を行っていた。

そして、火事を観測し、消火に向かっていたが、突然の雨で火は消えた。

他の者は幸運だったと都に戻ったが、私は不審に思って、この村まで様子を見にきたのだ。

そして、その村に、1人の魔女が降り立った」


「は、はじめから、知ってただか!」


「試したのさ!

貴様らのようなゴミクズでも、都の意向には従うのかをな!

ま、その結果がこれだ。

しょせん田舎者はクズの集まりだな」


 騎士は吐き捨てるように言いました。

 村人たちは怒りで、今にも騎士につかみかかりそうでしたが、何とか堪えます。

 騎士に手を出せば咎人となり、村ごと消されることを、彼らは知っているのです。


「さあ!

さっさと魔女を出せ!

探すのは面倒だ!」


「魔女などおらん!」


「ほう。

では、この子供を殺すか」


「なっ!

やめとくれ!」


「さよならだ、ガキ!」



「まって!」



「出てきちゃいかん!」


 騒ぎで起きたエレナが、そこには立っていました。


「ああ、魔女だ。

間違いないな。

おまえが昨日の火事を消したんだろ?」


「そうです」


「よし。

一緒に来い。

村を出たら、ガキを離してやる」


「わかりました」


 騎士に促され、エレナは騎士に向かって歩いていきます。


「ダメじゃ。

行ったら殺される。

行ったらダメじゃあ」


 騎士とエレナの間にいる村長が、エレナにすがるように言います。

 エレナは村長とすれ違う時、少しだけ足を止め、そっと村長の頭に手をのせ、にこっと、優しく笑いました。


「大丈夫。

あとは任せてください」


「あ、ああ……」


 その言葉は、村長が子供の頃に村を救ってくれた魔女と同じ言葉でした。



「ダメじゃあぁー!!」


「えっ!」


 村長は精一杯走り、エレナを追い抜くと、騎士に向かって、杖を振り上げました。


「村も魔女さんも、おらは守るだ!」


「……ふん、邪魔だ」



「あっ!」


「「「「「村長っ!!」」」」」



 そして、騎士は剣で、村長の胸を貫きました。



「あ、そ、そんな……」


 エレナはその場に、力なく膝をつきました。


「クズめ。

剣を汚しやがって」


 騎士は剣を引き抜くと、布でごしごしと血を拭います。

 村長は支えをなくし、その場にくずおれてしまいました。


「あ、あ、」


 力なくうなだれるエレナの中に、怒りの炎が点っていきます。



「……よくも、よくも!」


 エレナは懐から手鏡を出すと、騎士の男に鏡を向けました。


「うおっ!」


 騎士の男は身構えますが、


「な、なんでっ!」


 手鏡は、騎士の男を映し出そうとしません。

 まるで、復讐のための魔法をエレナに使わせないかのように。


「ったく、ビビらせやがって。

対人戦闘で使えないなんて、魔女もゴミだな」


 騎士の男は子供の手を引っ張り、エレナの元まで歩いていきます。



 が、



「いてっ!」


「こ、子供を離せ。

魔女さんを連れていくな!」


 エレナを村長の家まで案内した村人が、木の棒で騎士の腕を叩き、騎士は子供をつかむ手を離しました。

 その隙に、子供の母親が子供を引き戻し、抱きしめて後ろに下がります。


「てめえら、都に逆らうのか」


 騎士の男は剣を構え、村人を威圧します。

 村人はそれを意に介さず、エレナに優しい顔を見せました。


「魔女さん。

あんたはそんな魔法を使っちゃダメだ。

あんたの魔法は、人を幸せにする魔法だ」


 その言葉は、エレナを育て、魔法を教えてくれた、魔女の師匠の言葉でした。

 その魔女は、エレナの母親の弟子の魔女でした。

 自分に何かあった時は娘のことを頼みますと、エレナの母親に言われ、エレナを育てた魔女。

 彼女もまた、その言葉をエレナの母親から教えてもらったのです。



『魔女の魔法は、人を幸せにする魔法であれ』



 それは、エレナの行動原理となる言葉でした。




「いーい度胸だ。

まずはてめえからたたっ切ってやる」


 騎士の男は剣を振り上げます。


「ほお?

誰からだ?」


「は?」


 騎士の男が周りを見回すと、村人たちが棒や鍬を持って、男を取り囲んでいました。


「え?いや、えっと」


 そして、騎士の男はぼこぼこにされて縛り上げられました。







「……魔女さんや」


「おばあちゃん!」


 村長のか細い声が聞こえ、エレナが駆け寄ります。

 騎士の男を縛り終えた村人たちも集まり、村長を囲います。


「泣いてくれるかい、こんなおいぼれに」


「おばあちゃん!

ごめんなさい!

私、私のせいで!」


 エレナは村長の手を取り、優しく包みます。

 村長の胸からは血がとめどなく流れ、それは、もう魔法でもどうすることも出来ない状態でした。


「そんなことなかよ。

魔女さんはおらたちの村を助けてくれただ。

おらたちはそのお礼をしただけだ。

それの何がいけない。

あんたのしたことは間違ってねえ。

胸を張るだ」


 村長の声はどんどん弱々しくなっていきます。


「村なら大丈夫だ。

おらの心を継いだ奴らが、きっとなんとかする。

なぁ、みんな」


 村長が呼び掛けると、村人たちは任せろと、口々にそれに応えました。


「だから、こんなばばあのために、そんなに泣かんどくれ。

せっかくの美人が台無しじゃあ。

最期に、あんたのキレイな笑顔を見せとくれ」


 村長に言われて、エレナは涙を流しながら、精一杯口角を上げて笑ってみせました。


「ふふ、ええ顔じゃあ……」


 そして、村長は息を引き取りました。


 最期は、満足そうに笑っていました。






 その後、村長の葬儀はしめやかに執り行われ、村長の息子でもあった、エレナを案内した村人が、次の村長に就任しました。


 ちなみに、騎士の男は服を脱がし、縛り上げて、川に流したそうです。

 途中で獣に喰われでもしない限り、死ぬことはないだろうとのことでした。

 ただし、身分証もないため、都には戻れないので、これから生きるのには苦労するとのことです。

 エレナは、騎士の命を取らなかったことに、村長の意志が継がれていることを感じました。




「もう行くだか?」


「はい、お世話になりました」


 旅の支度を終えたエレナに、新しい村長が声をかけます。


「あの、この度は、本当に、」


「笑顔だ」


「え?」


 エレナの言葉を、村長が遮ります。


「そんな申し訳なさそうな顔すんな。

おらのかぁ(母)は、あんたの笑顔が好きなんだ。

おらたちは後悔なんかしてねぇ。

だから、あんたも笑え。

笑って、これからも魔法で人を笑顔にしてやってくれ」


 村長に言われて、エレナは顔を伏せます。


 そして、熱くなる目頭から雫がこぼれるのを我慢して、とびっきりの笑顔で顔を上げました。


「はいっ!」









 魔女は1人で旅をします。


 たまに寂しくもなるけれど。


 でも、その顔に悲しさはありません。


 魔女は今日も、笑顔で旅をするのです。






挿絵(By みてみん)

魔女エレナ



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― 新着の感想 ―
[良い点] ここの土地の人はいい人だった! 世の中、捨てたもんじゃない! ( ;∀;)
[一言] どうなるのかなってすごくハラハラしながら読んでました! 村の人たちがとてもいい人たちなのに対して、騎士の徹底した屑っぷりが良かったです。 エレナが魔法で人を傷つけないように、気遣う村人たち…
[一言] 泣けました……>< 悲しいこと、辛いことがあっても笑顔で旅をする、 そんなエレナちゃんに素敵な未来が待っていますように。
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