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とんでもないのがやってきました①

 とまあ、こういう経緯でもって私ことニム・グランチェーナーは新人女官ヘレンの教育係になりました。

 そりゃ、ヘレンは出自が貴族のお嬢さんじゃないから、そのうちなにかしらやらかすだろうとは思っていたさ。でも、これは想定外。


 ほら見て、新人ちゃん。グリュー殿下も、婚約者のシュペート様も、女官長も先輩方も、ついでに騎士のみなさんも、なんなら私も引いてるよ!

 ねえ、なんでそんな恰好で来ちゃったの!?


「ちょ、女官長、お仕着せ渡さなかったんですか?」

「まさか。渡したに決まっているでしょう!」

「じゃあなんで着てないんですか!」

「わたくしが知るわけないでしょう!」


 派手派手しいドレスでやってきたヘレンを前に、女官長とひそひそ仲良くケンカする。

 どこぞの猫とネズミかな?なんて現実逃避のひとつもしたくなっちゃうよね!


 ねえ、そのショッキングピンクのてらてらした服、一体どこで手に入れてきたの?


「あのぉ……」


 遠巻きにされてようやくなんかおかしいと思ったらしい。ヘレンはそろっと手を挙げた。


「あたし、なんか間違えました?」


 存在そのものが間違ってるって言わなかった私えらい。ついでに、一瞬で立ち直った女官長もえらい!


 コホン、と咳ばらいをひとつ。女官長は私の背中をどついた。痛い。たたらを踏んでこらえる間に、自分は優雅に前に進み出る。ちくせう、後で覚えてろよ。


「はじめまして、ヘレン。わたくしは王宮女官長を務めているクララ・シュタイナーと申します。彼女はニム・グランチェーナー。あなたの教育係を務めていただきます」

「よろしくお願いします!」


 元気よくお返事して、頭を下げるヘレン。

 おお、見事な最敬礼。これが下町のお店だったら好感度爆上がりなんだけどなー。ここ、王宮なんだよなー。

 まさか、私に礼儀作法まで教えろとか言わないでしょうね、女官長?


「ええ、よろしく。ところで」


 そんなことを考えて遠くに意識を向けてる間に、女官長の目がギラッと光った。お説教ターイム。突入かな?突入かな?


「お渡ししたお仕着せはどうしました?」

「え?」

「職務中は着用が義務付けられていると申し上げたはずですよ」


 女官のお仕着せってのは、くるぶし丈のドレスだ。オールドローズの赤は、王宮内で女官だけが身に着けることができる色。ご婦人方の社交パーティーでだって、この色のドレスを着る人はいない、特別な赤だ。

 つまり、女官のプライドの証明だな。貴族女性が肌を見せるのがはしたないってんで、襟元までボタンで詰まってる。でも、ある程度動けなきゃお話にならないので、コルセット以外の補正具は使えない。私はコルセットも使ってないけど。ナイスバディ万歳。


 そのプライドの証明を馬鹿にされたって思ったんだろうね。先輩方はかなり険しい顔でヘレンを睨んでる。こりゃあ、私の時以上に荒れるぞ。


「お仕着せ?……ああ!」


 ピリピリしてる周囲に気付いてないのか気付く気がないのか。ヘレンはにっこり笑って言い放った。


「だって、今日はご挨拶だけだからこっちの方がいいと思って」


 なに言ってんだこいつ。

 女官長が再び固まったぞ。振り返ると、他のみんなもびっくりしすぎて動けなくなってるじゃないですか。やだー。


「ヘレン、この後城内の案内とかするから、一回部屋に戻って着替えてきて」

「え、今日?」


 今日だよ。ったく、どこの世界に初日に挨拶だけで返す職場があるってんだ。


「一時間で戻ってこなかったらその分残業させるから」


 さっさと行け。とっとと行け。

 渋るヘレンを追い立てて宿舎に行かせると、私は女官長に向かって最大限の圧力をかけて慈愛の微笑みを浮かべた。


「女官長、ちょっと」

お読みいただき、ありがとうございます。

やっとヒロインが登場しました。

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