新しい家族と仲良くできそうです(強制)②
一週間は、グランチェーナー家に慣れるための期間だとエマ夫人は言った。
その間私は、朝からコルセットを締められて、ドレスで動くことを強いられた。「由緒ある伯爵家の娘なのですから」と言うのがおばーさまの言だ。
なんてこったい、これなら下町で暮らしてる方がずっと楽だったよ!
おかげでミヒャエルとちょっと仲良くなったけどね!
そのうちに、ミヒャエルとおんなじ家庭教師について勉強をするようになった。私はよっぽどジジイに見込まれたらしくて、歴史学やら経済学やらはご令嬢の勉強の域を超えたことすらやってたらしい。
ついでに剣術とか弓術とか馬術とか、絶対ご令嬢に必要じゃないことも交じってた。
「ちょっと、ミヒャエル!これどうなってんの?」
「自分で考えれば?」
「わかんないから言ってるんじゃん。教えてよおにーさまでしょ!」
「うわ……ニムにおにーさま呼ばわりされるのキモチワルイ」
失礼な!こんなにかわいい妹にオネダリされて、キモチワルイってどーゆーことだ!
でも、なんだかんだ面倒見てくれるミヒャエルは意外といいお兄ちゃんだ。二か月しか離れてないけど。
礼儀作法はエマ夫人から教わった。特に難しかったのは姿勢を正して歩くことと、礼を取ること。今までと全く違う筋肉の使い方してるから、筋肉痛がものすごく辛い。
「大丈夫。そのうち慣れるわ」
なんて言いながら、エマ夫人は容赦なかった。
本を頭に乗せて落とさないように部屋の中を往復すること五時間。やっぱりこの家で一番怖いのはエマ夫人だと再認識するには十分だったよね……。
でも涙が出ちゃう、ニムさんお嬢様じゃないもん。
「母上は元々家庭教師だったんだよ」
「かていきょうし……お父さんの?」
「いや、叔母上に礼儀作法を教えてたらしい」
「叔母上って、コンスタンツェ様だっけ?」
お父さんには年の離れた妹がいたらしい。でもってその人は五年ほど前に肺患いで儚くなったらしい。
会ったことないからわからないけど、綺麗な人だったとか。
エマ夫人は病弱だったコンスタンツェ叔母様の家庭教師兼話し相手としてグランチェーナー伯爵家にやって来て、ジジイに見込まれてお父さんと結婚したらしい。
……らしいばっかだな。また聞きだからしょうがないけど。
その頃お父さんはすでにお母さんにプロポーズしまくってた。ので、お父さんは断ろうとしたらしい。
「爵位なんてコンスタンツェの旦那が継げばいい」って言いきったのを、当時子爵令嬢だったエマ夫人が「権力が欲しいから、妻の肩書きと後継ぎだけくださいな」と笑顔で押し切ったのだとか。
エマ夫人強いな。
そして、グランチェーナー家にはもうひとり、鋼のメンタルを持つジジイがいた。
ジジイはエマ夫人を嫁に据えるからひとり後継ぎを作ったら後は好きにしていいとお父さんを放逐したらしい。
ジジイ……結婚して二年目くらいにめちゃくちゃやつれたお父さんが町中でお母さんに縋り付いて「今夜君と同衾できなきゃ僕は死んじゃう!」って泣きついたっていう事件の犯人はおのれか。
そんなジジイは私の成績を聞いて耳にタコができるくらい同じことを言い続けてくれる。
「礼儀作法やらより、勉学の方がよほど成績がいいではないか。剣術も上達が早いと聞くし、どうだ、今からでも男にならんか?」
「なれるか、ハゲ!」
今さら生えてきたらビックリだっての。ボケるには早いんじゃありませんかね、おじーさま?
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