新しい家族と仲良くできそうです(強制)①
「あなたがニム?私はエマ・グランチェーナー。あなたの……お父様の妻よ。この子はミヒャエル。あなたの兄にあたるわ」
少しどころでなく困った顔で、エマ夫人は言った。
そりゃあ、そうだよね。私だって自分の両親が結婚してなかったなんて思ってなかったさ。しかも、いきなり現れた兄貴とは二か月しか誕生日が離れてないときた。
しかもなんだよこいつら、めちゃくちゃ麗しいんですけど!?
「初めまして」
金髪碧眼の優しそうな美女と、お父さんそっくりの美少年。ぎこちない挨拶を交わして、私たちは無言でお茶を啜った。
「ええと、アルブレヒト様のことは残念だったけれど、家族として仲良くできたら嬉しいわ」
「……そうですね」
と、言われましても。
正直、今日初めましての人を家族だなんて思えないよ?ていうか、あなたの息子さんは仲良くしようだなんて全く思ってらっしゃらないようですけど?
ギラギラした目で睨むのやめてくんないかな。せっかくの美貌が台無しだよ、オニイチャン。
「妹?こいつがこれから我が物顔で我が家をうろつくって言うんですか?」
「うろつきますけどなにか?」
「生意気だな。平民の、しかも女のくせに!」
「その女が伯爵様になんて言われたか知ってます?男だったらよかったのに……だって。後継ぎとして不安がられてるんじゃない?」
「きっさま……あだぁ!」
「ンだこら、喧嘩売ってきたのはそっちだろうが!……いたぁ!」
ちょっと挑発したくらいで簡単に乗ってくるミヒャエル。
男尊女卑が強い典型的なお貴族様だな。腹が立って売られた喧嘩を買ってやろうとしたその時――私とミヒャエルそれぞれの頭を強打したのは本の角だった。
やったのはもちろん、にっこり笑顔のエマ夫人。
いやね、他に人なんていないから、消去法しなくてもエマ夫人がやったことは明白なんだけど。
「ふたりとも、少し落ち着きなさいな。兄妹は仲良くするものですよ。でないと――吊るしますよ?」
んんっ!?なんかわかんないけどエマ夫人怖いよ?
ていうか、本の角って人の頭叩くもんじゃないからね!
しかも吊るすってなに?どこから?どうやって?
「ごめんなさい!」
ミヒャエルは即座に謝った。吊るされたことがあるらしい。そんなにヤバいのか?
「よろしい。ニム?」
あ、矛先がこっちに来た。
笑顔のエマ夫人、ジジイとは別の意味で怖いんだけど。ここは素直に謝っとくのが得策だな。
「ご、ごめんなさい」
「はい、よくできました。ふたりとも、仲良くできますね?」
「「はい……」」
分厚い本の背表紙で手のひらをポンポン叩くエマ夫人は、笑顔を崩さない。
もしかしてこの家の一番の権力者はこの人なんじゃないだろうかと思いながら、私はミヒャエルと仲良くすることを約束させられた。
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