嵐のあとで②
クリスティアン公子とヘレンの婚約が発表されたのは、翌年のことだった。
なんと、ヘレンはヴェルナー宰相ではなくクリスティアン公子の愛人だったらしい。
あの男に女をどうこうする気があったとは驚きだ。って本人に言ったら頭をはたかれた。
理不尽。
元女官長はご夫君の領地に引っ込み、子供たちに囲まれて幸せな生活を送っているらしい。
そのうち遊びにいらっしゃいと手紙が来た。たまには刺激が欲しいんだと。
この人たちの中の私の立ち位置っていったいどうなってるんだろう?やっぱ一回物申すべきじゃなかろうか。
私は先々月、宰相補佐官に抜擢され、日々こき使われている。
なにしろうちの上司(仮)ときたら、部下の贔屓目を差っ引いてもロクデナシだ。
仕事は部下に任せっぱなしで、渡された書類にハンコを押すことすらめんどくさがってしやがらない。おかげで未決の書類が山と積んであるのだから、無能にもほどがある。
そのくせ貴族特有の選民意識で自分がさも上等なもののように思っているからたちが悪い。
具体的にはハラスメントがヤバい。
おかげで人がいつかないったら。
ちくせう、鶏ガラデブめ。いつか白湯スープにしてやる!
あ、“鶏ガラデブ”はヤツのあだ名です。骨が浮くくらい細いくせに、腹だけはたっぷり脂肪を蓄えて突き出してる。
まさにニワトリ。
ブロイラー。
って、ニワトリに失礼だな。
あれは(物理的に)煮ても焼いても食えない。食いたくもないけど。
底意地の悪さがそのまんま顔に現れているセクハラパワハラモラハラ男。
ここ最近で一番やらかしてくれたのは、女性文官の制服を変えたことだ。
元々、深緑の詰襟の上着に、黒のロングスカートというのが女性文官のいで立ちだったんだけど、ある日「色気が足りん」って鶏ガラデブが言い出して、首元は飾り襟、胸元はがっつり開いててスカートは両側こそ長いものの前身ごろは太ももが半分くらい見える短さの実用性皆無の服に宰相権限で変えやがった!
あまりに破廉恥な装いに女官たちは卒倒し、文官長は黙ってエンリケ陛下とマデリナ王妃に制服の選択案を奏上した。
結果、大半の女性文官が以前の制服を選び、現在パワハラとモラハラに晒されている。
どうしてもの理由で新しい制服を選んだ子たちは、セクハラ被害にあっている。
嫌がるふりして実は喜んでるとか本気で思ってんのか?頭オカシイでしょ。変態以外の何者でもないわ。
このどうしようもない上司(仮)をどうにかしないと、文官塔から人がいなくなってしまう。
だから私は、女官から文官にジョブチェンジさせてくれた宰相の実の息子に尋ねた。
「肉片ひとつ残んないくらい殺っちゃっていいですか?」
クリスティアン公子は、実にいい笑顔で親指を立てた。
この時は、それが更なるジョブチェンジへのフラグだなんて思わなかったもんだから、私は宰相をそそのかしてとある計画を吹き込んだ。
――そう、ヘレンから聞いた乙女ゲームのシナリオを利用した、魔王討伐という名の、宰相抹殺計画を……。
お読みいただき、ありがとうございます。




