嵐のあとで①
結論から言うと、私たちへの罰は大したものじゃなかった。
ヘレンは女官長の言っていた通り、ヴェルナー家へ行儀見習いに出されることになった。実質宰相の愛人だ。
私は文官になり、文官塔へ入るように言われた。
ふたりとも、今後は王族に必要以上に関わらないことが条件の寛大な処罰だ。昨夜、ヘレンを会場に入れてしまった騎士ふたりには、二日間の自宅謹慎が言い渡されたらしい。
やった内容が内容なので、これ以上の罰は国民から不満が出る可能性が高い。そう考えての措置だそうだ。
「国王陛下の御心のままに」
去年エマ夫人が作ってくれたブルーグレーのドレスの裾をつまんで、私は一礼する。
寛大な処分には感謝する他ない。だって、私ひとり別の職場に移されるだけで家族にはなんのお咎めもないんだから。
でも、守るべき家族のいないヘレンはそうではないらしい。「嫌よ!あたしは王妃になるんだから!そういう運命なのよ!」と叫んで暴れて、今は拘束されている。
不届き者に処分を言い渡すということで主だった貴族が列席しているが、みんなが白い目で見ているのがわからないのだろうか?わかってないんだろうな。
「平民のくせに図々しい」「頭がおかしいんじゃないか?」さざめく貴族たちを嗜めるため、エンリケ陛下が口を開こうとしたその時。
「陛下、妃殿下、御前での無礼をお許しください」
「あ?ああ、許そう」
陛下の許しを得て喚くヘレンの前に立ちはだかったのは、女官長だった。彼女は大きく振りかぶった拳で、ヘレンの頬をぶん殴った。
うん、そう。殴ったの。
パーじゃなくてグーで。
騎士たちに拘束されてたヘレンは逃げられずもろ受けちゃって、その場にいた男性陣はドン引きしてた。
私だってドン引きだよ、なにやってんの女官長!?
「いい加減になさい。あなたは自分の行動に責任を持つべきです。この三月と少し、殿下方や婚約者様方がどれほどの迷惑を被ったか、考えたことがありますか?昨日、あなたを会場に入れてしまった騎士や、そこにいるニムさんが処罰を受けるのだって、元を正せばあなたの行動が原因なのですよ。……いいですか、ヘレン。いつまでも、夢見る子供でいてはいけません。誰もがいつか、大人にならなければいけないのです」
「でも、あたしは……っ!」
「お黙りなさい」
女官長の頬を、一筋涙が伝った。彼女はハンカチでさっとそれを拭き取ると、再びエンリケ陛下とマデリナ王妃に向かって深々と頭を下げた。
「陛下、妃殿下、この度のこと、ヘレンを管理しきれなかった責任はわたくしにございます。責任を取って、女官長の職を辞することをお許しくださいませ」
「…………許します」
女官長の突然の申し出に、おろおろするエンリケ陛下に代わって許しを出したのは、マデリナ王妃だった。
ヘレンは、もう一言も発しなかった。
ただ、新緑の目を見開いて、頭を下げ続ける女官長の背中を見ていた。
一週間後、まるで人形のようにおとなしくなったヘレンは、ヴェルナー家の馬車に乗せられて旅立っていった。行き先は、王都のタウンハウスだそうだ。
ヴェルナー宰相もクリスティアン公子もそこで暮らしているから。
そうとうショックを受けているようだから、少し心配だ。
見送りには私と女官長しか来なかった。
グリュー殿下からは、「道中気を付けて」と女官長が伝言だけ預かってきた。
女官長は引き継ぎで忙しそうだ。次の女官長には、副女官長が繰り上がることになった。
私は引き継ぎらしい引き継ぎなんてないから、もっぱら宿舎を出て実家に帰るための準備をしていた。
一昨日実家に戻って、今日は文官としての初出勤。
慣れない制服に身を包み、挨拶に行った先でクリスティアン公子は「ヘレンのことは悪いようにはしないから」と言ってくれたから、今後の生活は保障されるだろう。
「嵐のような子でしたね」
馬車を見送ってぽつりとつぶやくと、女官長はふっと笑った。
「あなたも似たようなものですよ」
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