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ジョブチェンジが決定しました……

 なーんて思ってたけど、ほんとに厄日だったわ。


 ヘレンと一緒に拘束されると思ったのに、私はひとり別室に連れてこられた。ヘレンはいったん、貴族用の牢に入れられたそうだ。

一応まだ、教会のゴリ押しは有効らしい。


そして今目の前にいるのは、昨日会ったあの男。クリスティアン・ヴェルナー公子。


「まさか、話を聞く前に行動を起こされるとは思わなかったよ」


 さすがに少し疲れた顔をして、クリスティアン公子は乾いた笑いを零した。私もですって思いっきり同意しておく。


「パーティーは延期ですか?」

「そうだね。一度ケチが付いたパーティーをそのまま続けるなんて、王家の沽券に関わるから、きっと今頃陛下たちが挨拶をしているはずだよ。ここに来る前に覗いたら、各家の使用人たちが慌てて馬車の用意をしてたから、もうじき解散になるだろうね」

「……すみません。もう少し気を付けておくべきでした」

「君ひとりの責じゃないさ」


 クリスティアン公子、慰めてくれてるつもりなんだろうけど胡散臭い。どうしてこの人はなにをしても胡散臭くなっちゃうんだろう?

普段の行いが悪いからだ、きっとそうだ。


人払いをした部屋には、ティーセットの乗ったワゴンが用意されていた。私はそれを使ってお茶を淹れ、クリスティアン公子に差し出す。クリスティアン公子は「ありがとう」と言って受け取り、口をつける。

私が毒を入れるとか考えないんだな、とぼんやり思った。


自分の分を淹れて、ソファに座る。どうしても飲む気になれなくて、ゆらり立ち上る湯気を目で追った。

柱時計の秒針が働くたび、心臓が拍動する。

ちょっとだけ胸が痛い。

気分はそう、なぶり殺しにされる小動物だ。殺るなら一思いに殺ってくれと叫びたくなる。


「そんな顔をしなくても、今すぐどうにかできるような罪じゃない。ヘレンには時間が与えられるはずだ」


 なんの慰めにもならないことを並べられても、私の気持ちは晴れない。

こういう時は、思いっきり叫ぶか、娼館でイイコトでもすれば気が晴れるんだけど、今外に出してはくれないだろうし……。


「とりあえず、サンドバッグになってくれません?」

「え?」

「十発――いえ、六発でもいいのでやらせてください」


 目の前のサンドバッグに聞いてみた。一応階級とかあるんで事前の承諾は欠かせない。


「どうして、そうなったのかな?」


 サンドバッグが気にすることじゃありません。

 にたぁっと笑うと、クリスティアン公子は青い顔をしてソファから腰を浮かせた。

 やだなぁ、逃げられるとお思いで?


「ちょ、ちょっと落ち着いて。私はサンドバッグじゃないから!そうだ、ヘレンはどうなったのかな、ちょっと聞いてくるよ!」

「ヘレンなら、王宮を出ることに決まりましたよ」


 立ち上がりかけたクリスティアン公子の肩を押さえつけて座らせたのは、いつの間にかいた女官長。

 ナイス!って拳を握り込んだところで、「ニムさんもお座りなさい」と命じられる。仕方ない。相手は一応上司だから従わざるを得ないんだ。


「ヴェルナー宰相が、行儀見習いという名目で愛人を探していたので、引き取っていただくことになりました」

「はい!?」

「なんですって!?」


 私の横に腰を下ろした女官長の言葉に、私とクリスティアン公子はそれぞれ驚いた。

 女官長は渋い顔をしていたから、この決定を下したのはきっと女官長が逆らえない立場の人――おそらく、マデリナ王妃なんだろうけど。


「ヘレンは会場に入るためにグリュー殿下の名前を出していました。招待されていないけれど、用を言いつけられたのでと騎士を騙して入り込んだのです。そのうえ、王妃に対する不敬な発言と、パーティーの妨害。その前にも殿下方の婚約者様に対しての誹謗中傷を行ったことの確認も取れています。王族……いえ、マデリナ王妃を怒らせたのですから、これでも寛大な措置なのですよ」


 やっぱり、マデリナ王妃の決定だった。

 ってことは、権力はマデリナ王妃にあるってことで……ひょっとして、マデリナ王妃がエンリケ陛下を床に“おすわり”させていたとか、夜な夜な言葉責めしてるとかってウワサは本当のことなのか?

 気になるけど、聞きたいけど、ニムさんは空気が読める子だから今は聞かないことにする。

 私ってえらい。


「それから、ニムさんも」

「私!?」


 まさか今からでも牢に放り込まれるとか!?


「ヘレンが婚約者の皆様を誹謗中傷したビラなどをひそかに回収していたのはあなただそうですね。ですが、わたくしはその報告は受けておりません」


 ぎくり。


「そ、そうでしたっけ?」


 私、秘密を握ってお話したり力業でなんとかするのは得意でも嘘は苦手なんだよな。

 きっと高速で目が泳いでる。カジキもびっくりのハイスピードだ。


「今回のことで、ヘレンを泳がせていた女官派の落ち度を責められました。それも、ハト派に。なんてことでしょう、なんたる屈辱!みすみすあの鳥ガラデブに部下を持っていかれるなんて!それも、ふたりも!」


 うん!?今なんっつった?


「ちょ、女官長、まさか私までヴェルナー家で行儀見習いとか言いませんよね!?お二号さんどころか三号さんとして下げ渡されるなんて絶対嫌ですよ!」

「違います。あなたを引き取りたいと言ったのは文官長です」


 文官長?サイロン伯が、私を?なんで?

 サイロン伯爵夫妻は有名なおしどり夫婦で、愛人のあの字もないような家だ。行儀見習いという名の愛人なんて、彼には必要ないだろう。

 ということは、仕事の方の補佐とか?いや、サイロン伯爵は名前だけの文官長だ。仕事は決裁書類にサインをするだけ。実質文官たちを動かしているのは……。


 ま さ か。


 嫌な予感がして油が切れた自動人形のようなぎこちない動きでクリスティアン公子を見ると、彼はにっこりした。


「思った以上にサイロン伯はうまくやってくれたようですね」


 やっぱりお前かー!!


 女官長は疲れた顔でため息をついた。


「ニムさんは来週から文官に転職していただくことが決まりました。明日、国王陛下から直接沙汰が下されますからそのつもりでいてください」


お読みいただき、ありがとうございます。

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