ある男との出会い②
「さて、ここじゃなんだから移動しようか。庭園でお茶などいかがです?」
「仕事中なので、お断りします」
「なるほど、真面目なんだね。ところで、どうして私がクリスティアンだと思ったのか聞いても?」
気取った仕種のお誘いを一瞥して、私は近くの柱にもたれる。動く気はないぞって無言のアピールだ。
苦笑して、クリスティアン公子は私の隣に並んだ。
「消去法です」
「もっと詳しく」
「文官の制服を着ていらっしゃいますが、生地が既製品より上質です。それ、式典用の礼服と同じ生地ですよね?でも、礼服はそもそも造りが違いますし、制服は清潔を保てるよう最低三着所有することが義務付けられているはずです。日常着る制服に金をかけられるとなれば、金銭的余裕がある貴族家もしくは商家の出身であることくらい予測できます。紫の瞳は王家の特徴ですから、商家出身の方は除外できますし、そうなると過去に王子か王女が嫁した貴族家の方でしょう。先祖返りで紫の目を持った方が何人かいらっしゃいますが、年齢的に合致する殿方はおふたりだけです。ヴェルナー公爵家のクリスティアン公子と、ケーニッヒシュタイン公爵家のノア公子。クリスというのが偽名で実はノア公子という線も考えましたが、騎士団所属のノア公子がわざわざ文官の制服を誂えてまで私に会いに来る理由が思いつきませんでした」
ちょっと、なんで話が進むにつれてドン引きしてんの。
自分で聞いといてそれはなくない?ちょっと、顔引きつってますよ!
なに、「なるほど、ミヒャエルが化け物扱いするわけだ」って。しっかり聞こえたかんな!まったくミヒャエルの野郎、人のこと周りにどう話してやがるんだ!
「聞いといてその反応は失礼じゃありませんかね?」
「すまない、少し驚いて」
少し?少しって顔じゃないだろ。
少しって言葉の意味知ってるか?いっぺん辞書引いてきてくれてもいいんだぞ?
「まあまあ。今日は君を誘いに来たんだよ。どうだろう、兄妹そろって文官に転職。君はあのお転婆なお嬢さんから解放されて、ミヒャエルはかわいい妹とずっと一緒にいられる。繁忙期以外は定時に帰れる仕事だし、条件としては悪くないだと思うよ?」
「上司が女官長くらいからかい甲斐があって優しい人なら検討の余地がなくもないです」
「それは……難しいかもね」
でしょうね。
そもそも文官は登用試験があるから、優秀な人しかなれないし。
それ以前に本気じゃないんだろう?
「それで、本当はなんのご用なんですか。まさか兄の話を聞いて顔を見に来たわけじゃないでしょう?」
「まあね。ミヒャエルくらい可憐だったらデートのお誘いくらいしたかもしれないけど、君の容姿じゃそそられないかな」
いくら公子サマでもはっ倒しますよ?
確かに母“の”嫁と言われ続けた麗しの亡き父のコピーみたいなミヒャエルに比べたら、私は女らしさも可憐さも足りてませんけど!
それでも女としての矜持ってもんがありましてね?そんな意地悪言ってっと「見た人間は地獄に落ちる」って評判の引きつった慈愛の笑みを浮かべちゃうぞ、こんにゃろう。
「それは冗談として」
冗談?まあいいさ、受け流してやろう。感謝するといいさ!
「ヘレンのこと、相当困ってるんだって?そろそろ被害が拡大しそうだから一番詳しい第三者から意見が聞きたくてね。女官長の許可は取ってあるから、明後日の十三時に文官棟まできてくれ」
へいへい、明後日の十三時ね。ん?明後日?
「私、明後日午後から休みなんですけど」
「うん。だから業務に支障が出なくていいだろう?」
「いや、義母と約束が」
「うん。ミヒャエルが説明しておいてくれるって」
ミヒャエル、あんにゃろう!呪う、絶対呪ってやる!
なんなら下剤ぐらい盛ってやるから覚悟しとけ!
「また明後日」っていなくなるクリスティアン公子が見えなくなるのを待って、私は思いっきり近くの柱を蹴りつけた。
痛い。
今日と明日はきっと厄日だ。
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