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ある男との出会い①

 彼に初めて会ったのは、昨日の夕方だった。

 ゼクト殿下のお茶会を邪魔しようとしたヘレンを捕まえて、通常業務に戻った後。


「君が、ニム・グランチェーナー?」


 廊下の角から突然現れたそいつは、私の顔をじろじろ眺めて首をかしげた。


 なんだこいつ、やたらとキラキラしいな。


 亜麻色の長い髪をゆったり編んで背中に垂らして、藤色の瞳をやんわり細めた優男。着ているのは文官の制服だけど、素材が明らかに上質だ。

 微笑みを浮かべているけど、目が笑ってなくてこっちの動きを観察してる感じがする。顔は綺麗だけど、好みじゃないなぁ。


 要するに、トータルして、気に食わん。


「どちら様ですか」

「便宜上クリスと名乗ることが多いかな。そっちがヘレンだね。噂通り可愛らしい」

「まあ。クリス様ったらお上手ですね。でも、ほんとのこと言ってもお世辞にはならないんですよ?」


 いや、ヘレンってばなに言ってんの。その人たぶんそうとういいお家の人だよ、対等に口きくのも失礼だってわかってる?わかってないよね。


 それにしても、クリス。クリスねえ。

 確か、紫に近い色の目は王家に近しい血縁に多いって聞いたな。保有する魔力の質が理由だっけか。


 今、王族でも紫を持っているのはマデリナ王妃とグリュー殿下だけ。

 ゼクト殿下は紺色だし、ヨハネ殿下とラインガウ殿下はエンリケ陛下譲りの赤みがかった茶色。


 あと紫の目を持ってるって言ったら、何代か前の王族が降嫁した貴族家の先祖返りが数人いたか。

 その中でこの年頃の男って言ったらふたりくらいしか心当たりがないけど、この人はたぶん……。


「クリスティアン・ヴェルナー?」


 無意識に口に出した名前に、彼は反応した。

 目を見開いて、まじまじ私を見つめる。

 居心地悪いからやめてくれませんかね?


 「どうしてそう思ったの?」


 おっと、ご自分がクリスティアン・ヴェルナー公子だってことは否定しないんですね。


 ていうか、運ぶ途中のグリュー殿下のお勉強道具、なんで私が持ってたの全部ヘレンに押し付けてんですか。


「ごめんね、ヘレン。少し彼女と話があるから、その大切な道具たちを殿下のところへ届ける名誉を引き受けてくれるかい?」

「ええ、もちろん!」


 ヘレンがちょろいのか、この人がヘレンを扱うのが上手いのか。


 それにしても、ほんとヘレンて顔面に弱いよね。それも、カッコいいでもかわいいでもなく、綺麗な顔に。

 ひょっとしてミヒャエル辺りを紹介したらもうちょっとおとなしくなるんだろうか。


 ヘレンはちょっと心配になるくらいふわふわした足取りで殿下の部屋に向かっていった。


お読みいただきありがとうございます。

断罪はもう少し先です……。お付き合いいただければ嬉しいです(^^♪

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