ヘレンがとうとうやらかしました……
マデリナ王妃の誕生パーティーは盛大に行われた。
王宮で一番大きい広間にいっぱい人が詰め込まれてて、なんか別の生き物が蠢いてるみたいでキモチワルイ。
あ、でもドレスは綺麗だな。パステル系が多いのは今期の流行りか。
ま、私は出ないから関係ないんだけど。
十四にもなって婚約のひとつもしてないってのは伯爵家のおじょーさまとしてどうなんだと思わなくもないが、ジジイの方針らしい。あと一年くらいでミヒャエルが家を継いでくれるから、その後に期待だな。
ところで。
どうしてあの子はあっちにいるんだろうね?今朝グリュー殿下に確認した時は、招待客のリストには名前がなかったんだけど。
「しかもあのドレス、めっちゃ見覚えある……」
初日に着てたド派手ピンクのフリフリレースじゃん。
ドレスを新調する金なんて持ってないんだろうけど、だからって前に着たドレスをリメイクもしないで着てくるなんてありえない。
青ざめたのは、私だけじゃない。シュタイナー伯爵夫人として出席していた女官長も、一緒に仕事してヘレンの言動が普通じゃないってわかってる女官たち(パーティー参加組)も、みんな化粧の意味がないくらい真っ青だ。
マデリナ王妃はすっごい顔で睨んでるし、グリュー殿下も頭を抱えてる。
他の王族の方々やその婚約者様たちも、心なしか顔が引きつってますね。
「げっ」
ヘレンを探していただけだった私は、女官のお仕着せのまま会場に潜り込んでいた。
探してる相手がヘレンだと知ったとたん、入り口の警備をしてた騎士の兄ちゃんが入れてくれたのはこういうわけだったか……。
人込みの中とはいえ、浮いてる自覚はあったから、女官長が私の位置を把握してることくらいは予測済み。なんだけどね?
女官長は今でこそ小うるさいオバチャンだけど、昔はそりゃあ綺麗だったらしい。
社交界の華のひとりだったことを彷彿とさせる微笑みを浮かべられると、悪いことしてないのになんだか怖い。
女官長は怖い微笑みのまま私を手招き、そのまま流れるようにヘレンとドアを指さした。つまり、「ニムさん、アレを回収してどこかに捨ててきなさい」ってことだ。
すごい。身振りだけでなに言ってるのか全部わかる。めちゃくちゃ怒ってるな。
でも女官長、ちょっといろんなものが漏れすぎじゃない?隣でご夫君が怯えてますよ。
まあ、私も女官長が怖いんで指示には従いますけどねー。
「王妃様、お誕生日おめでとうございます!」
人波を縫って近づいた私がヘレンの手を掴むのと、彼女が言葉を発するのは同時だった。
「あ、お会いするのは初めてですよね。あたし、ヘレンって言います。これから仲良くしてくださいね!」
慌てて口をふさいで会場から引き摺り出すも、後の祭り。
むしろ出口にたどり着くまでの高貴な皆様の視線の冷たいことといったら!
私もう泣きそうだよ。
ちょっと女官長、ちゃんとフォローしといてくださいよ!
涙目で睨むけど、女官長はもっと泣きそうな顔してたから、これはどうにもならないかもしれん。
ああ、天国のおとーさまおかーさま、親愛なるエマ夫人とミヒャエル。私の命はヘレンの道連れになって明日断頭台の露と消えるかもしれません……。
「ひょっふぉ、あひふうんふぇふふぁ!」
「でっ!」
私を入れてくれた騎士の兄ちゃんに手伝ってもらって、会場からだいぶ離れた人気のないところにヘレンを連れていく。
途中で口をふさぐ役を代わってくれた兄ちゃんは何度も噛みつかれて悲鳴をあげてた。
すまんね、身代わりご苦労!
「なにするはこっちのセリフ!外国の要人もいるような場所で、アンタ、なんてことしてくれてんの!」
「え?だって、挨拶は大事でしょ。特に将来親子になるんだから、きちんとしなきゃと思って」
きちんと?あれがきちんとなら貴族の挨拶はどんだけレベルが高いんだろうね!?
「だからって、アンタ……あんなことしでかしたら誰もアンタのことかばえないよ」
もうおしまいだ。この子のヒロインごっこも、私の女官生活も。
近づいてくる足音に覚悟を決めて、私はヘレンを逃がさないようぎゅっと手を握った。
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