幕間 マデリナ王妃の呆れ
「なんですか、その頭のおかしい話は」
女官長クララからの報告に、わたくしは頭痛をこらえきれませんでした。
ズキズキと痛むこめかみをほぐして、ニムという女官がまとめたという報告書に目を落とします。
≪女官ヘレンの陰謀について≫と題されたそれには、ヘレンは乙女ゲームのヒロインで云々、ひたすら理解の及ばない内容がつづられていました。
わたくしの四人の息子たちがその“乙女ゲーム”の“攻略対象”であり、ヘレンの選択次第ではリーフプラウ王国は滅亡しかねない、とも。とうてい許容できる内容ではありません。
しかも、どの選択をしたとしてもかわいい将来の義娘たちは不幸になるではありませんか。
例えば、ゼクト。
彼と恋仲になればマリアとの婚約を破棄し、新年祝賀パーティーの席でマリアの悪行を断罪し、マリアは処刑。ケーニッヒシュタイン家は貴族籍を剥奪ののち国外追放。
言い方は悪いですが、たかが女官へ嫌がらせをしただけでこの処遇とは片腹痛い。
本当にこんなことをするのなら、ゼクトは国王になどなれないでしょう。
ヨハネだって似たようなものですね。あら、選択を間違えればゼクトとヨハネが相討ちですって?王位継承者がいなくなってしまいますよ。
あらあら、ラインガウは魔王退治に行くのですか。
そもそもリーフプラウの王位継承権を持たないあの子がどうやって王になるのかと思えば、魔王を倒して名声を得るとは随分と強引な話ですこと。
大体、魔王というのは魔族の王――いわば一国の主です。
よほどの悪政を敷き、人間に害なすのでなければ討伐なんて話が出る存在ではございません。
おまけに倒すのは勇者の仕事で、魔術師のラインガウは補助しか行えないというのに。
それとも、王族だから王になれると単純に思っているのかしら?
だとしたら、とんだ薄らバカ――あら、言葉が乱れましたね。それにしても……。
「このヘレンという子。地下牢あたりに幽閉するにはちょっと罪状が足りませんねぇ」
「ま、マデリナ、それはちょっと行き過ぎなんじゃ……」
「なにか?」
「いえ、なんでも……」
我ながら悪い顔で笑うわたくしに、エンリケが少し困った様子で忠告しようとしてきたので黙らせます。
まったく、使えない夫ですね。そこが可愛いのですけれど。
それにしても、不穏な言葉が並びすぎていて妙に不安があおられますね。
ゼクトを選んでもヨハネを選んでもどちらかが死ぬ。グリューを選べばどちらともが。ラインガウに至っては勇者を殺して王家の権威を失墜させるのですか。
その後は王族が皆殺しと。
ヘレンが誰に狙いを定めているのかわかりませんが、こんな話を聞いてなんの手も打たないわけがないでしょう。彼女は顔はかわいらしいけれど、おつむの出来はよろしくないのね。
行状を聞いている限りはあの子たちがヘレンに恋をするなんてありえないでしょうが、一応注意を促しますか。
「クララ、念のためヘレンの見張りを強化しておいてください」
「グランチェーナー伯爵令嬢から報告があった時点で強化しております」
「そう。あなたがそう言うなら信じましょう。それから、明日の晩餐は全員で摂るように予定を調整させたいわ。クリスティアンを呼んでくださる?」
「かしこまりました」
すっと一礼して、クララは退室した。相変わらず、そつのない人。
余談ですが、翌日の晩餐の席で、ヘレンと乙女ゲームについて聞かせた息子たちは青くなって震えあがりました。
ええ、もちろんその後の剣術や体術の訓練内容を三倍にしましたよ。
王族がかように軟弱でどうしますか。
まだまだ国を任せるには早いようですし、王太子の選抜はもう少し先送りしておきましょうか。
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