#87 カルディア生誕祭 ~エピローグ~
模擬戦の終了が宣言され、集まっていた観客達もそれぞれの目的のために大通りへと散っていく。
王国騎士団第一部隊のレイナ・ジオリアとかいう女性も、どこかへと去っていった。
そして、またしても俺達を訪ねて来た人物がいた。
「うむうむ。見事な試合じゃったぞ! まさに完勝! 完全勝利というやつじゃなっ!」
冒険者組合カルディア支部、支部長コノエ様だ。
模擬戦の試合結果に大層満足しておられる様子。
「他の支部長共も驚いておったぞ? 訓練生とは思えない実力とな」
無邪気な笑顔を見せる支部長コノエの言葉に、俺も一安心。
この様子だと、やはり俺達の実力を示すことには成功したようだ。
支部長コノエに、大きな貸しを作ることにも成功した。そう思って良いだろう。
自然と、俺達の頬も緩むのだが……。
「じゃが……」
支部長コノエは、途端に不敵な笑みを浮かべる。
「そこにおるユエルが出場しよった当時は、更に物凄い試合じゃったぞ?」
「「「――ッ!?」」」
ピクリと、俺達は思わず目を見開いた。
「そうじゃなぁ……あの時は確か、シェイミやエヴァにワイゼなども訓練生をしておった頃じゃな」
昔を懐かしむような表情の幼女。そんな幼女がどこにいるんだと思うが、実際に目の前に存在している。
シェイミとは、ミレリナさんのお姉さんのことだろう。
そしてエヴァは、ついさっき試合をしていたユヴァのお姉さんか。
どちらも今の冒険者達の先頭を走る人達。と言って差し支えない。
「いや『物凄い』と言うのは、どの訓練所の訓練生達も、お主らのように飛び抜けた実力を持っておった者が存在しておってな。どの試合も最後のお主らのような試合で、非常にハラハラしたのを覚えておるよ」
そんな調子で、支部長コノエは機嫌良さそうに語り出そうとするが――
「支部長、模擬戦の後始末が残っているのでは? モタモタしていると今日中に終わりませんよ?」
「おおっ! そうじゃった! 急がねば祭が終わってしまうわ」
教官に話を中断されていた。
「それじゃ貴方達。私も仕事があるから今日はこれで失礼するわ。祭は今日の夜までだから、ゆっくり楽しみなさい」
そう言って支部長を連れて歩き出す教官だったが、少しして立ち止まり、振り返る。
「貴方達、本当にお疲れ様。そして、本当にありがとう。感謝しているわ」
「うむ。妾も同じじゃ。感謝しておる」
それだけ言って、模擬戦の後始末を始める組合員の下に向かっていったのだった。
その場に、俺とルエルとミレリナさんだけが残された。
「えっと……じゃぁせっかくだし、3人で祭でも回る?」
思えば、まだこの2人とは祭を楽しめていない。ということに気がついた。
既に時刻は昼を過ぎ、太陽もかなり傾いてしまっているが、カルディアの街は未だに生誕際の真っ最中だ。
「あら? 貴方から誘ってくれるなんて、珍しいこともあるのね」
「は、はわわわわっ! よ、よろしくお願いしますぅぅ!!」
「よ、よろしく」
3人でカルディアの街を回ることにした。
~
ルエルとミレリナさんと回る生誕際は、正直に言って楽しい物だった。
まぁ、ミレリナさんの色んな反応を見ているだけで楽しいのだが……。
楽しい時間はあっという間に過ぎる物で、気付けば日が暮れようとしていた。
祭で賑わっていたカルディアの街も、すっかり後片付け雰囲気だな。
そして、俺達がやって来たのは宿屋『蓮華亭』だ。
1階が酒場となっているこの蓮華亭で、軽い食事でもしよう。ということになったのだが……。
「ちょっとぉ! シファアライオぉン!? あんた、私の"歌"聞いたんでしょぉっ!? だったら、感想を言いなさいよ感想をぉお!」
――バン! バン。と、俺達の目の前に座る女性が机を叩きながら、手に持った大きなカップを口に運ぶ。
――グビ、グビと喉を鳴らしている彼女の名は、ユヴァ・オウロラだ。
「す、済まん! お前達の顔を見た途端、『一緒に飲む!』って聞かなくてよ」
彼女の隣に座るカイルが、非常に申し訳なさそうな表情で両手を合わせた。
その隣で頭を抱えているバーゼに、俺達も苦笑いだ。
「で? 御感想は?」
完全に酔ってるわコイツ。
ユヴァの手に持っている飲み物、カルディア酒。高揚作用のある飲み物だ。
蓮華亭で軽く食事して帰ろう。と思って入ってみれば、彼等とばったり出会した。
と言っても、カイル達は既に席に着いて食事を始め、ユヴァは既にご覧の有り様だった訳だが。
そして、ユヴァに半ば無理矢理に席に連れられた俺達は、こうして相席することになったのだ。
「そ、そうだな……上手かったと思うが」
正直あまり覚えてない。歌が聞こえたのは分かっているが、模擬戦に集中していたせいか、あまり記憶に残っていないんだよな。
とは言え、正直に話してしまえば、高揚状態のユヴァがどんな反応を示すのかは……安易に想像出来る訳で、当たり障りのない返答で誤魔化すことにした――のに。
「シファは、貴女の歌なんか聞いていなかったわよ」
「え?」
「は、はわわわわ……」
隣から発せられた冷たい声に、思わず変な声が出てしまった。
「な……な……なななな」
口をパクパクさせるユヴァ。
唖然とした表情のカイルとバーゼ。
『おい、何言ってんだよルエル。いやそうじゃなくて、その言い方はどうなんだ?』
「だってその子、少しシファに馴れ馴れしいのよね。模擬戦の時にも思ったけど」
少し声量を抑える俺。に対して、ルエルはツーンとした態度で遠慮がない。
そして――
「な、『なんか』って言った! カイル! この人、私の歌『なんか』って言ったわよ!」
高揚状態ということもあってか、ユヴァが顔をみるみると真っ赤に染めていく。更には――
「だったらもう一度聞かせてあげるわよっ! いいっ!? よく聞いておきなさいよねっ! シファアライオンもよ! いいっ!? わかった!?」
立ち上がり、歌い出そうとする。
「おい! 2人共止めろ! マジで歌うつもりだぞ!」
俺は慌てて、バーゼとカイルに向かって叫ぶ。
こんな所で歌い出されちゃ迷惑極まりない。下手したら追い出されてしまう。
「は、はわわわわっ」
ミレリナさんの慌てふためく声は、ユヴァの騒がしい声にかき消された。
その後も、俺達6人の騒がしくも楽しい時間は……少しだけ続いたのだ。
~
「騒がしくて済まなかった」
街も暗くなった時間。
軽い食事を終え、蓮華亭を出た所でバーゼが軽く頭を下げる。
そのすぐ横のカイルは、眠ってしまったユヴァを背負って疲れ切った表情だ。
「いや、楽しかったよ」
苦笑いをうかべながら、俺はすっかり眠りこけているユヴァへと視線を向けた。
ともあれ、これでとりあえずはお別れだ。
カイル達は今日もこの蓮華亭に泊まり、明け方と同時にラデルタへと帰るらしい。
「この生誕際で、お前達と出会えて本当に良かった。模擬戦では負けてしまったが、俺達もまだまだ強くなるつもりだ」
「勿論、俺達もだ」
バーゼが再び、右手を差し出してくる。
「また、冒険者となってから再会しよう」
「あぁ。ユヴァにもよろしく伝えておいてくれ。歌も、また改めて聞かせてもらうよ」
「う、うむ」
しっかりと右手を握る。
そして3人に別れを告げて、俺達は蓮華亭に背を向け、歩き出す。
カルディアの街は、生誕際の余韻を残しつつも、いつもの風景に戻りつつある。
今、この瞬間を持って、年に一度のカルディア生誕際は……終わりを告げた。
明日からはまた、いつもの教練が始まる。
そして――
教官との同居生活も当たり前となり、訓練生としての生活が"日常"となってしまった楽しい日々は、気が付けばあっという間に過ぎ去っていた。
月日は廻り、姉に連れられて訓練所へとやって来た季節が、目の前にまで迫っている。
訓練所での生活は――
――1年を、経過しようとしていた。




