#80 《戦乙女と歌姫》
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「こ、降参です。僕達、"王都第一訓練所"の……負け、です」
カルディア大広場、その円形広場に立っていた"王都第1訓練所"の唯一の訓練生ライドのその言葉をもって、初戦の模擬戦は決着した。
"カルディア訓練所"の勝利を告げる声が大広場に響き渡ると、その場は歓声に包まれる。
これまで敗北を繰り返してきた"カルディア訓練所"の圧倒的な勝利は、大いに観客達を沸かせた。
毎年のこの生誕祭で開催される冒険者訓練所同士による模擬戦は、多くの観客が訪れる。
その大半を占めるのは、やはりカルディアの住民達であり、自身の暮らす街の冒険者訓練所が勝利を収める光景は、観客達を盛り上げた。更に、その訓練生1人が相手の訓練生3人を圧倒しての完全なる勝利となれば尚更だった。
一方で――歓声を響かせる観客達とは少しだけ違った反応を見せている者達も存在する。
たった今まで大広場の中央で行われていた模擬戦を、娯楽的目線ではなく、まるで値踏みするかのように見つめていた者達。
大広場の奥に設けられた休憩場所で観戦していた、各街からやって来ていた冒険者組合の、その支部長達だ。
年に一度に開催されるこの模擬戦は、冒険者訓練所を管理運営する冒険者組合にとっても重要な行事なために、各地の支部長達は出来る限り観戦に訪れる。
「こりゃ驚いたな。あの小僧の収納魔法、ありゃ『超速収納』だろ?」
試合終了が宣言された大広場中央で、何やら相手方と言葉を交わしているカルディアの訓練生へと視線を向けながら、支部長の一人が苦笑いを浮かべている。
そして、若干顔をひきつらせながら――
「まさか、ウチの第1の訓練生共が手も足も出ねぇとはな……」
そう口にした。
「『超速収納』だけではないようです。尋常ではない集中力は勿論、魔力の操作に質も、既に"上"級冒険者を凌駕しているように思います」
男の言葉を聞いて、円形広場から退場していく訓練生達へと向けていた好奇な目を細めながらそう話す女性。
大人びた雰囲気を漂わせる彼女は、更に言葉を続けた。
「後の2人。魔力で氷の刃を造り出した彼女と、最後に広場を覆い尽くす程の魔法陣を出現させたあの子も……驚異的な力を持っていますね」
そして視線を横へと流す。
「逸材ですね……支部長コノエ?」
彼女が問いかけた先には、小柄ながらもドカリと腰を下ろす幼女が満足そうな笑みを浮かべている。
「フッ、あやつらの力はまだまだこんな物ではないぞ? 今年の模擬戦は貰ったも同然じゃ。カルディアの実力を思い知ると良いわっ!」
ガッハッハ! と豪快に笑う美しい幼女――コノエ。
"王都第1訓練所"対"カルディア訓練所"の模擬戦の結果に満足していた。
「フフ。あれだけの実力を秘めた訓練生達を育成し、輩出したとなれば、『カルディアに訓練所は必要ない』などと言う者はもう出てこないかも知れないですね」
冒険者組合カルディア支部、支部長コノエの機嫌良さそうな態度を見た彼女も、同様に微笑んだ。
そして模擬戦を観戦していた各支部長達に聞こえるように、敢えて声量を大きくしてそんな言葉を口にする。
「「…………」」
彼女達と同じく、模擬戦の観戦に訪れていた各支部長達は少しだけ表情を険しくさせた。
『カルディア訓練所は必要ない』そう思っていた幾人かの支部長達は、"王都第1訓練所"対"カルディア訓練所"の模擬戦が、予想していた物とは真逆の展開になったために驚き、混乱していた。
そんな中での彼女の言葉は、彼等支部長達の居心地を少しだけ悪くさせたのだ。
「フッ。なぁに、残りの2戦も勝利を収め、二度とそんな言葉が組合から出てこないようにしてやるわ」
「あらあら。それほどまでに彼等のことを信頼しているのですね」
「当然じゃっ! あやつらの実力は、妾が実際に確認までしたのじゃからな」
フンスカと、偉そうに腕を組むコノエ。そして、ニヤリと笑いながら横に視線を流し、更に言葉を続ける。
「あやつらなら、お主の妹にも負けはせぬよ。エヴァ」
「それは……どうでしょうか」
ニコリと、満面の笑顔を返しながらそう答えた女性。
各冒険者組合支部長達のために設けられたこの場所で、支部長達に交じって模擬戦を観戦していた彼女の名は――エヴァ・オウロラ。
「妹には長い年月をかけて支援魔法を教え込みました。その妹の魔法は、カルディアの彼等にも決して負けてはいませんよ?」
"絶"級冒険者であり、模擬戦の代表に選ばれている訓練生の関係者という理由で、特別にこの場所での観戦を認められている。
「しかし……王都第1の訓練生3人を相手にたった1人で圧倒してしまった彼、誰かに似ている気がしますね。それに、あの収納魔法の技術は……」
そんなエヴァは、今まさに円形広場から退場していった青年を遠くに観察して、ある人物の姿を思い浮かべた。
どこか似た雰囲気と面影。それに『超速収納』などという収納魔法の高等技能から連想される人物など、彼女の中には1人しか存在しない。
「"戦乙女"ロー……」
「シファくんは私の弟だよっ」
エヴァが口にするよりも一瞬早く、煌びやかな金色の髪を靡かせる美女がひょっこりと顔を出した。
エヴァを含む全ての支部長達の視線が集まり、僅かなどよめきが発生する。
突如として姿を現した彼女――ローゼの登場……というよりは、たった今ローゼが発した言葉に対してのどよめきだ。
「なんじゃ、結局来たのか。ローゼよ」
「うん。一応シファくんの顔だけ見ておこうと思って」
ローゼは、少し照れくさそうな笑顔を浮かべながらコノエにそう言ったが、その笑顔はすぐに消え去った。
「やっぱり。ローゼに似てると思ったんです、彼」
ローゼの姿を確認したエヴァが発した、少し機嫌を悪そうな言葉を聞いたからだ。
「あれ? 居たんだ? エヴァ」
「ちょっ、居ますし! さっきも私に向かって話してたんでしょっ!?」
2人は、互いの顔を確認するなり口喧嘩を始めてしまう。
同じ"絶"級冒険者の2人。過去に何度か同じ任務に従事した経験もあるが、その度に喧嘩を繰り返してきた。
歳も近く、こうして口喧嘩を出来る程の仲なのだが、本人達は互いのことを全力で嫌っている。
「この猫かぶり歌姫っ! シスコン!」
「ふんっ! 武器を振り回すことしか能のない乙女のくせにっ!」
そうして発展した口喧嘩だが、いつしか下らない悪口の応酬へと変貌する。
「お主ら、本当に仲が悪いんじゃのう」
~
「ふぅ……それじゃ、私は行くから」
口喧嘩も一段落したと、ローゼは額に浮かんだ汗を拭いながら、立ち去る素振りを見せる。
「なんとっ! もう行ってしまうのか? おぬし、弟の活躍を見ていかぬのか?」
「…………」
立ち去ろうとするローゼに、コノエが驚きつつ問いかけた。
エヴァも、コノエ同様に驚いている。
「うん。少し覗きに来ただけだしね、それに――」
そう言いながら、ローゼはコノエ達に背を向けて歩き出し、少しして立ち止まる。
顔だけを僅かに向けながら、言葉を続けた。
「今年の模擬戦、優勝するのは間違いなく"カルディア訓練所"だよ」
「「「――ッ!」」」
そう言い切ったローゼ。
"戦乙女"の言葉を聞いて、多くの支部長達が言葉を失っている中で、コノエはニヤリと笑い……エヴァは目を細めた。
「だけど、今年の訓練生達は皆……高い実力を持っていることには違いないよ。私達、現役の冒険者も彼等に追い付かれないようにしないとね」
最後に、ローゼはそう言ってからその場を後にした。
支部長達が集まるこの場所で、少しばかりの静けさが戻るが、カルディア大広場は大きな賑わいを見せている。
中央円形広場で、次の模擬戦が始まる合図が響き渡ったからだ――。
お久しぶりです(小声)
かなり間があいてしまいまして申し訳ない。
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