#7 実力の一端
「お、おい。悪いことは言わねぇ、やめとけって。身内を馬鹿にされたのに腹を立てるのは分かるけどよ、相手が悪いって。あの"音剣のセイラ"の妹だぜ? 怪我するだけだって」
自己紹介も一段落して、俺達訓練生は場所を移動することになった。
ユエルという教官に連れられて訓練場へと向かっている最中、俺にそう気遣ってくれる男。
確か、名前はレーグだった筈。愛剣メテオフォールでオーガを倒した男だ。
こうしてわざわざ忠告してくれるあたり、悪い奴ではないらしい。
「音剣のセイラってのがどれだけ凄かろうが、俺には関係ない。悪いな、わざわざ忠告してくれてるのに」
何を言っても無駄だと、遠回しに告げる。すると、それ以上レーグは何も言わなくなってしまった。
他の訓練生達は、早く俺達が戦うところを見てみたいらしく、非常に浮かれた表情をしている。
どうやら、ほとんどの者は俺が敗北するものだと決めつけているようだ。
勿論、俺は簡単にやられるつもりは毛頭ない。
せめて、姉を侮辱された分、一発くらいは殴ってやらないとな。
「あなた、名前……なんていうの?」
そして、またしても俺に話しかけてくる者がひとり。
「え? シファだよ。さっき名乗ったろ?」
蒼白い髪を背中まで伸ばす女性。
控えめに言っても、誰もが美少女と認める容姿をしている。
相変わらず、俺を値踏みするかのような青い瞳を向けている。
ルエルという名前の女性だ。
「違うわ。姓の方を訊いているのよ?」
「あぁ。アライオンだ。シファ・アライオン」
変な奴だな。
わざわざフルネームを訊ねてくるとは。
「……ふふ。そ、シファ・アライオンね。私はルエル。ルエル・イクシードよ」
「? あ、あぁ。よろしく」
別に俺は名前なんて訊ねていないが、改めて自己紹介をされてしまう。
非常に魅力的な笑みを向けてくるが、真意が読めない。
変な奴だ。俺のルエルに対しての印象は、そんなところだった。
「じゃ、決闘、頑張ってね。一応応援してるから」
『決闘』などという大それた物でもないのだが、ひとりでも俺を応援してる奴がいるというのは存外、気分が良い。
そうこうしているうちに、やたらと拓けた場所に出た。
ここが訓練場なのだろう。
こうして少し歩いてみて分かったが、この冒険者訓練所という場所、外から見る以上に広い造りになっている。
この訓練場なる広場も、かなり広い。ここなら激しい運動も十分可能に思える。
「それではまず最初に、シファ君とリーネさんの模擬戦から始めましょう」
~
「ふんっ! やめるなら今のうちよ?」
離れた位置に俺と対面する形で立つ高飛車女が、剣を片手に言ってくる。
「……お前がさっきの言葉を訂正するならな」
「……ふんっ」
やはり訂正するつもりはないらしい。
「それでは、ルールを確認しておくわ」
俺達の丁度中間の位置に立ったユエル教官が、口を開いた。
「まず、当然だけど命を奪うのは禁止。そして今後の日常生活に支障が出る負傷を与えるのも禁止よ。以上を破らないのであればどんな魔法、技能も使用可能。自分の武器であればいくつ使用しても構わない。時間は無制限……以上よ」
「勝敗は、どう決めるのよ?」
「どちらかが敗けを認めるか、戦闘の続行が困難だと私が判断した時ね」
敗けを認める、か。
この高飛車女の自信っぷりから察するに、そこらの同年代の者よりも高い実力を持っているのだろう。
レーグも俺に忠告してきたし、自己紹介の場ではコカトリスという魔物を追い詰めたとも言っていた。
心してかかろう。
「あんた、武器を構えないの?」
「? あぁ、大丈夫だ」
「はぁ? 舐めてるわけ?」
どちらかと言うとそれは俺のセリフだ。
武器は収納魔法でいつでも取り出せるし、状況に応じて使用する武器は選ぶ。
この女のように予め武器を出しておけば、相手に間合いを予想されるし、対策もされてしまう。
俺はそう姉に教わったのだが……。
「なぁユエル……教官?」
「なにか?」
「武器は予め手に持っておかないと駄目なのか?」
この模擬戦のルールに、そんな項目が設定されているのなら話は別だ。
反則敗けはごめんだからな。
「ふふ。そんな決まりはないわ。ご自由に?」
よし。ならば何の問題もないな。
「……なによ、意味わかんない」
その高飛車女の呟きこそ、俺には意味が分からないが、向こうが手を抜いているのなら好都合。
勝って、手を抜いたことと姉を侮辱したことを後悔させてやる。
「それでは、準備はいい?」
集中しよう。
じっくりと相手のことを観察してみる。
高飛車女の持っている武器は、細い剣だ。細剣ってやつか?
見たところ、力技で押してくるタイプには見えない。
確か、技能『音剣』がどうのとか言っていたな、となるとやはり……。
「始めっ!!」
模擬戦開始の合図。
教官のその言葉が耳に届いた瞬間、高飛車女は即座に行動を開始していた。
前方への加速。そしてすぐさまこの女は、俺の懐へと到達していた。
「は、速ぇぇぇええ! なんだあの速度っ」
「これが音剣!?」
本日のメインイベントを、すぐ横で能天気に観賞していた他の訓練生達が、次々に驚愕の声を上げているのが分かった。
そして――
「終わりね……悪いけど私、手加減できないの」
という高飛車女の呟きを一言一句違わず聞き取れる程に、俺は冷静なのだが……その反面、正直困惑している。
これ、速いのか?
避けられる気しかしないのだが?
手加減できないの。なんて言いながら、実は手加減していたりするのか?
ともあれ、命中する訳にはいかない。流石に当たれば痛そうだし。
半歩下がり、体を捻り、傾ける。
これで十分だろう。
高飛車女の、足下からすくいあげるように振り抜かれた細剣は、俺の目の前の空を斬った。
「……なっ」
声にならない声。
どうやら本当に驚いているらしい、流石に今のが避けられない程、俺は弱くないぞ。
俺は即、収納魔法を使用し、姉から譲り受けた剣を取り出すことにした。
小さな白い魔法陣から伸びてくるように、あっという間にその姿を現したのは――『聖剣デュランダル』だ。
姉曰く、『大概のことはこの剣でなんとか出来るよ? 斬ってよし。刺してよし。殴ってよしの、三点セットだよ?』とのこと。
まぁ、汎用性の高い剣だ。
「え? ちょ、なにが……えぇ!?」
慌てているな。
どれだけ俺のことを舐めていたのやら……。
「はぁっ!」
姉を侮辱された俺の怒りを込めて、剣で高飛車女を斬り払う。
「きゃぁっ!!」
しかし足がもつれたのか、高飛車女がその場で転ぶ。
――外した。
「きゃ、きゃぁぁぁぁああああ!!」
と思えば、俺の剣撃の余波で高飛車女が吹き飛んでいった。
可愛らしい悲鳴を上げているのが逆に腹が立つ。
が、これはチャンスだ。
すかさず、聖剣デュランダルを収納に戻し、別の武器を取り出した。
剣が姿を消したのとほぼ同時に姿を現したのは――『霊槍オーヴァラ』だ。
姉曰く、『魔法的存在に一番有効なのがこの槍。後はね、投げる! この槍、凄く投げやすいよ!?』
吹き飛ぶ高飛車女に向かって、俺は、霊槍オーヴァラを投擲した。




