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#43 姉との距離、ルエルとの距離

 

 玉藻前は唐突に姿を消した。

 しかし、我が姉とリーネの姉(セイラ)が言うには、本当に『姿を消した』だけらしい。

 姿は見えずとも、近くには存在しているようだ。


 照れ隠し――みたいな物なのだろう。

 玉藻前の言っていた『俺の護り神』の意味は分からないが、別れの挨拶も済んだことだし、俺達は今度こそ帰ることにした。


 そこに背を向けて、歩き出すと――


『本当にありがとう』


 と、初めてこの森にやって来た時と同じく、透き通るような玉藻前の声が耳元で囁かれるように聞こえた。

 どうやら皆にも聞こえたらしく、俺達は揃って顔を見合わせる。


 うん。感謝されるのは素直に嬉しい。

 自然と頬は緩み、俺達はそのままカルディア高森林を後にした。


 ~


 森から街道に出て少し歩くと、王都()方面へ向かう街道と、カルディアへと続く街道の岐路がある。

 ここを北に進めばナントカって街がある。――相変わらず名前は思い出せない。

 その街を越えて更に進むと王都らしい。

 姉とセイラは王都に向かうようだ。


「じゃぁシファくん。私達はこのまま王都に向かうから」


 まさか本当に俺の顔を見るためだけに、ここまでやって来たとは思わなかったな。

 しかし、また姉とは離ればなれか……。

 そう思うと、やっぱり少し寂しいんだよな。


「え、ちょっ、シファくんもしかして……さ、寂しかったりするの?」


「べ、別に」


 と言ってみたりするが、我が姉にはそんな俺の強がりはお見通しだ。

 表情でバレてしまうらしい。


「はうっ! やっぱり私もカルディアまで行くよ! セイラちゃんっ、悪いけどそんな訳だから、シェイミにはそう伝えといてくれるっ!?」


「んな訳にいくかぁっ! 何馬鹿なこと言ってるんですかっ! 姉さん仮にも"絶"級冒険者でしょっ? いい加減弟離れしてくださいよ」


「いやだってシファくんが――」


 と、俺達の目の前で些細な言い合いが始まる。


 姉の冒険者としての顔。

 こうして、姉が他の誰かと仲良さげに話している姿は新鮮だった。

 これが――俺の姉だ。

 ここまで俺を育ててくれて、冒険者になるために必要な知識と力を与えてくれた。冒険者訓練所という場所も。

 姉に、何から何まで与えられた俺は――その恩をどうやって返せばいいのだろうか。

 今の俺に答は出ないが、せめて、姉と並んで戦える程の力を付ければ……その答も出てくるのかも知れないな。


 ――小さい時から憧れていた姉は、今となっては更に憧れる存在になってしまった。

 "絶"級冒険者の姉に対して、俺はまだ冒険者ですらない。


 ――ってかこの二人仲良いな。


「じゃぁシファくん、私に会えないからって泣いちゃ駄目だよ?」


 それは流石に無いけど。


 どうやら本当に行ってしまうようだ。

 短い時間だったが、こうして姉の顔を見れただけでも玉藻前を助けに来た甲斐があったもんだ。


「ロゼ姉、今日は助かったよ。セイラさんも、本当にありがとうございました」


「あはは、セイラで良いよ。訓練所生活頑張ってね? 妹のリーネもいると思うけど、仲良くしてやってよ」


「…………」

「…………」


 なかなかに反応に困ることを言ってくれる。

 こういう時は、無言の笑顔を向けておくに限る。

 俺とルエルは、ニコリと微笑んだ。


「じゃぁルエルちゃんも、今日はゆっくり話すことも出来なかったけど、またね」


 そう言えば、我が姉とルエルの姉も面識があるんだったか?


 って、許嫁の件! 訊かないと!

 すっかり忘れてた。


 と思っていたところに――


「ロゼさん、私の姉――クレア姉さんにも、もし会えばよろしく伝えといて下さい」


「りょーかーい。って言っても、クレアを呼びつける権利は私にも無いからね。いつ会えるかは分からないよ」


 え? それってつまり……

 え? そういうこと? ルエルの姉も? "絶"級ってこと?

 いや、そうとも限らないか。冒険者じゃないって可能性もあるからな。


 なんて考えている内に、姉達は本当に行ってしまうらしい。

 ここで引き止めるのもアレだし、許嫁の件はまた今度聞かせてもらうことにしよう。


 俺達は手を振りながら、互いに反対側の街道を進んで行った。



 ~



 カルディアへと続く街道を、俺はルエルと並んで歩く。


 俺よりも一歩下がった位置で、ルエルは俺の速度に合わせて歩いている。

 ちなみに、ルエルの両手の火傷は姉が治してくれた。


 これと言って特に会話がある訳ではないが、不思議と気まずい雰囲気ではない。

 これまでの訓練所での生活で、俺が最も多くの時間を共にしたのがルエルだ。多分、ルエルにとってもそうだ。


 何かあれば、ルエルはいつも俺の所へとやって来てくれる。今回もそうだった。

 思えば、俺が初めて訓練所へやって来て、リーネと模擬戦をすることになったあの時もルエルだけは、俺の味方をしてくれたんだよな。


 チラリと横を見ると、それに気づいたルエルがニコリと笑う。


「今日はありがとうな。ルエル」


 今日は。とは言うが、これまでのことも含めてだ。


「ふふ」と、笑う声が聞こえた。


 こうして改めて礼を言うと、結構照れる。

 出来るだけ顔を見せないように歩くことにした。


 もうそろそろカルディアに着くだろうか? なんて考えていた時だ――


「シファは訓練所を出たら、どうするの?」


 と、ルエルが問いかける。


 訓練所を出たら、か。

 それはつまり、無事に訓練所を出所できた時の話だろう。

 となれば、冒険者になる訳だが。どうやらルエルはその後のことを言っているらしい。


「冒険者には『固定パーティー』という物が存在するのを知ってる?」


 勿論知っている。

 というより、教練で習っただろ。

 冒険者に存在する基本的な編成状況のひとつだ。

単独(ソロ)』『固定パーティー』『臨時パーティー』そして『指名パーティー』だ。

 今回のサリア達はおそらく『臨時パーティー』。単独もしくは固定パーティーを臨時で集めた物だろう。


 そして『指名パーティー』を使えるのは"絶"級冒険者のみ。

 固定パーティーだろうが単独だろうが、個人を指名してパーティーの編成を行える絶級特権による物だ。


 うん。しっかり覚えてるな。


「今日のお返しは、冒険者になったら私と固定パーティーを組むことで返してもらおうかしらね」


 と、いつの間にかピッタリ横に並んだルエルが俺の顔を覗き込んでくる。


 やれやれだわ。

 これまでのルエルの行動から考えると、コイツは勝手についてくる。ごく自然な形で、いつの間にか俺とセット品みたいになってるに違いない。


 そんな俺の態度で察したのか、ルエルは満面の笑みで俺を追い越して行った。


 見てみると、いつの間にかカルディアの街は目の前にあった。

 ゆっくり歩いたつもりだったが、あっという間だった。


 そして――夕焼けに照らされたルエルの髪を見ながら思う。





 ――どうやら、夕飯の時間には間に合いそうだ。





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[一言] 絶級同士の姉仕組んだ許嫁 正妻はいい...玉藻前かわいい良いよ玉藻前
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