#4 冒険者になるために
「それじゃ御者さん、よろしくお願いします」
姉のその言葉で、俺達の乗り込んだ馬車はゆっくりと動き出した。
街から少し離れた山奥にある我が家から、街へ。これから向かうのだ。
何のために? 決まってる。冒険者になるためだ。
姉の言いつけを守り特訓に励んだ後に、姉の持つ魔法や技能を教わっていたのだが、これらを扱えるようになるまでにも相当の月日がかかってしまった。
意外にも、姉の最も得意な魔法は『収納魔法』だと言う。なので姉は、その収納魔法をより念入りに俺へと伝授してくれたのだが、これを極めるのもなかなかに難しかった。
そうこうしている内に月日は経ち、俺は15歳になった。もう立派な成人って訳だ。
もう俺くらいの歳で冒険者になってるやつもいるのだろうか? もしいるのなら少し悔しい気もする。
けど大丈夫だ。姉はこう言っていた。
『うん! これならシファ君を冒険者としてどこに出しても恥ずかしくないよ! きっと大丈夫だよ』
そう。俺は冒険者として恥ずかしくない男にまで成長したのだから。後は冒険者になれさえすれば――。
~
「シファ君、着いたみたいだよ?」
馬車に揺られることしばらく。
普段は徒歩で街まで向かっている分いつもより早く着いた筈だが、この瞬間が待ち遠しかったためか随分長く感じてしまった。
馬車から姉が先に降り、俺を手招きする。
それに従うように俺も馬車から降りた。
「こ、これが……」
俺達が降り立った目の前には大きな建物。
確か、冒険者になるためには冒険者組合という場所で手続きをしなければいけなかった筈。おそらくこれがそうなのだろう。
建物を見上げ、大きな看板に刻まれている文字を読み上げる。
「冒険者……え、訓練所?」
『冒険者訓練所』看板には、そう書かれていた。
「ロゼ姉。場所間違えてんぞ?」
4年も姉と特訓をしたと言うのに、どうして今さら訓練所なんて所に来る必要がある? そんな必要はない。これは我が姉の珍しいミスだ。
「チッチッチッ。何を言ってるのかな? 何も間違えてないよ? シファ君はまず、ここで実際に冒険者としての訓練を行うべきなんだよ? あ、御者さん。もう大丈夫です、ありがとうございました」
馬車に代金を払い帰らせているところを見ると、どうやら本当にここが目的の場合だったらしい。
「シファ君はここで、同じ訓練生と特訓することで、仲間との連携とか相性とかも学ぶべきなんだよ。それも冒険者として必要なことなんだよ?」
……正論だ。
確かに俺がこれまで行ってきた特訓はあくまで個人の実力を上げる物でしかなかった。
冒険者となれば、『パーティー』なる物を組んで複数人一組となり強力な魔物を討伐することもあると言う。
姉との連携には自信があるが、それ以外となると、正直怪しい。
「た、確かに。ロゼ姉の言う通りかも……」
「でしょ? さっ、ほら早く入って! 必要な手続きとかはもう済んでるから! 始まっちゃうよ?」
「おっ、ちょ、ロゼ姉、押すな」
「さあさあさあ! 入った入った。私のことは気にしないで訓練に励むんだよ!」
背中を押され、半ば無理矢理に建物の中へと押し込まれた。
扉が閉まる寸前に、姉の小さく「頑張って」という呟きに釣られて振り返るも、既に扉は閉まってしまい姉の顔を確認することは出来なかった。
「はぁ……」
さて、姉の決めたことなら仕方がない。
大人しくこの場所で訓練に励むとしよう。
建物の中は、やはり外見通りかなり広いようだ。
見たところ、ここは受付を行う所らしく、すぐソコに受付担当者らしい女性が立っている。
「あの……」
あまり姉以外の人と話したことがないため緊張したが、なんとか声を発することが出来た。
と言っても、さっきの俺と姉とのやり取りを見ていたこの女性は、既に俺に気付いていたみたいだが。
「……あなたがシファ君ね?」
「え? そうですけど……」
姉と同じ歳程の綺麗な女性。
鋭い目付きだが、どこか優しそうな印象。銀色の短めの髪が特徴的だ。
小さく「付いてきて」と言ってから歩き出したので、俺は黙って付いて行くことにした。
「あなたで最後なのよ。少し遅刻よ?」
「す、すいません」
どうやら俺は遅刻してしまっていたらしい。
姉からは詳しい説明は一切無かったのだが、なんとなくは分かる。
ここは『訓練所』で俺はここに『訓練生』として入所した訳だ。
そして、他にもいるであろう『訓練生』と共に、冒険者としての訓練に励むということだ。
これも、俺が冒険者になるための姉からの条件の一つということなのだろう。
「……本当はね。本来この訓練所は、誰でも入れる所では無いのよ? あなたのお姉さんには困ったものよ、ほんと」
歩きながら、そう話す女性。
ため息をついたかと思えば、少し楽しそうな顔を見せる。
というより、姉のことを知っているような口ぶりだが……。
「え、それってどういう……」
「着いたわよ」
少し廊下を歩いた先にある扉の前で足を止める。
「さぁ、あなたも入って」
扉を開けて先に入った女性に案内されるように、俺も足を踏み入れた。
入ったその部屋は、小さな机が数多く並べられ、その机には俺と同じような歳の男女がそれぞれ腰かけていた。
軽く見回してみて、20人程だ。
皆、『訓練生』なのだろうが、これが多いのか少ないのかは俺には分からない。
「さ、空いてる席に座りなさい」
促されるままに、俺は一つだけある空席へ向かう。
全員の視線が俺に向けられているのが分かる。怪訝な視線や、珍しい物を見る視線に、少し怒りが含まれている視線。
……遅刻してごめんなさい。
そんな視線の中、俺はなんとか自分の席へと向かうが――
「――うおっ!」
思いっきりスッ転んだ。
転んだ。と言うよりは転ばされた。
突如横から伸びてきた足にひっかかって。
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