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#30 《戦乙女の鳳凰征伐》

 

「よっ……っと」


 よく晴れた快晴の中、冒険者組合に借り受けた馬から勢いよく飛び降りたローゼ。

 それに続くように、シェイミとセイラの二人も、跨がっていた馬から降り、地面に足をつける。


「うぅ……流石に熱い」


 遠くに視線をやり、セイラがそんな言葉を口にする。


 王都の冒険者組合で依頼を引き受け、開始してから丸二日経つ。


 王都から馬を走らせている内に、次第に気温が上昇していくのを肌で感じつつ、今に至る。

 そして、目的の場所近くにたどり着いた今――

 肌で感じる気温は異常な程に高くなっていた。


 よく晴れ、照りつける太陽――のせいではなく、その原因は別にあった。


 ローゼ達三人は、目の前の視界いっぱいに広がる砦。その一部分の門へと足を運ぶ。


「お待ちを。この門より先は、山岳都市――イナリでございます」


 すると、門の前で佇む二人の男性のうちのひとりが、ローゼ達の行く手を遮るようにして立ち塞がった。

 二人の装いは紛れもなく、冒険者組合指定の制服。であることから、彼等は冒険者組合に所属している者であることが分かる。


「現在、山岳都市イナリは非常事態につき、この都市の管理は冒険者組合に一任されております」


 山岳都市――イナリ。

 イナリ山を中心に栄えた、大自然溢れる都市。

 風情豊かな街並みと、清んだ空気が非常に心地が良いと評判であり、わざわざ地方より観光に訪れる者が多かった。


 ――しかし。


「鳳凰の出現により、都市は一時的に"危険指定区域"に定められております。定められた者以外は立ち入ることが出来ません。御用件を、伺いしても?」


 鳳凰の出現により、封鎖されていた。


「――コホン」


 ひとつ、ローゼは咳払いをして、喉の調子を確かめる。

 そして、威厳を保つためにキリッとした顔付きをなるべく意識しながら、口を開いた。


「"絶"級冒険者――ローゼ・アライオンです」


 自身の首輪に刻まれた紋章を示し、そう言った。


 冒険者にとって、自身の等級を示すその紋章は何よりの身分証明になるからだ。

 しかし、五角形の紋章はソレ以上の意味がある。


「「――ッ!」」


 見せられた紋章に、組合員は思わず息を呑み、目を見開いた。


 更に――


「冒険者組合より、難易度"絶"級任務――鳳凰の討伐又は撃退の依頼。その指名を受け、ここまで参りました」


 冒険者組合の紋様が印字された黒い用紙を、組合員に見せるように掲げるローゼ。


 組合員はその用紙を恭しく受け取ると、食い入るようにして目を這わせる。

 ――間違いなく本物。

 そう確信して、組合員はゴクリと喉を鳴らす。


「し、失礼しましたっ! "絶"級冒険者ローゼ・アライオン様」


「それで? 状況を説明してくれる?」


「は、はいっ! 現在、都市は鳳凰の聖火に包まれ、自由に都市内を行動するのも難しい状況ですっ。都市に鳳凰の姿はなく、おそらくイナリ山に潜伏しているものと思われます」


「都市の住民は?」


「はっ! 鳳凰出現時に、冒険者組合イナリ支部の組合員と冒険者の活躍により、そのほとんどは近くの街や村に避難しております。……ただ、鳳凰の聖火の被害で冒険者に若干名の死者が発生しました」


 その言葉に、ローゼは少しばかり表情を曇らせたが、それは一瞬。

 すぐに表情を戻し、鋭い口調で言葉を紡ぐ。


「これより、鳳凰の討伐を開始します」


 そこで、再び組合員は息をのみ、喉を鳴らす。


「――門を開けなさい」


「はっ!」


 組合員の手により、砦の門が開け放たれる。


 すると、開かれていく門の隙間から徐々に溢れゆく光に、ローゼ達は目を細め、更には晒される熱風に眉を歪ませた。


 果たして、門の内側に広がる光景は――



 ――金色の、世界だった。



 ~



 イナリ山を囲むようにして栄えた都市であるイナリは、鳳凰の聖火に支配されていた。


 建ち並ぶ建造物から豊かな自然に至るまで。その全てが、鳳凰の聖なる金色の炎――聖火に包まれている。


 もう、かつての美しい街並みはソコには無い。


 最早これは、街と呼べる物ではなく、鳳凰の巣だ。


 どこに視線を向けても、見えるのは金の炎――聖火だった。


 鳳凰の姿はどこにもない。


「ロゼ姉さん、やっぱり鳳凰って……」


 滴る汗を拭いながら、セイラが視線を向けたのは――


「うん。さっきの人が言っていたとおり、イナリ山だね」


 聖火に包まれた街並みの奥。

 この街の名前にまでなっている山が、しっかりと視界に入っている。

 しかし、そのイナリ山までもが今は聖火に包まれ、金色の炎の山と化していた。


「うー。でもこの火の中じゃ、近付けなくないですか? こうして立っているだけでも、正直溶けちゃいそうだし……」


「別に近付かなくても良いよ。鳳凰にこっちまで来てもらおう」


「え……どうやって?」


「簡単簡単。この街の聖火を丸ごと消滅させちゃえば良いんだよ。そうすれば、鳳凰は姿を現す筈だよ」


「……うーん。その方法が私には皆目見当もつかないんですけど、ロゼ姉さんなら出来そうですね」


「で? 肝心の鳳凰はどうするの?」


 やれやれと肩を竦めながら、ローゼとセイラの話を黙って聞いていたシェイミが口を開く。

 シェイミのその質問こそが、今回最も肝心要の問題でもある。


 鳳凰の討伐だ。


 今回の任務に限って言えば、撃退でも依頼は達成することが出来るが、この三人にその選択肢は無い。


 もとより、鳳凰を討伐するつもりでここまでやって来ている。


 しかし――


「鳳凰は討伐不可能と言われている不死の幻獣よ。……その理由は恐ろしい程の再生能力にある。流石のロゼでも、鳳凰を討伐するのは難しいんじゃない?」


 そんなシェイミの疑問に、ローゼはニヤリと笑った。


「大丈夫だよ。セイラちゃんとシェイミが協力してくれるなら、鳳凰は討伐出来る」


「どうやって?」


「ま、力技だけどね。セイラちゃんの音剣と私の連撃で、鳳凰を消耗させる。そこにシェイミが渾身の破滅魔法を放てば、流石の鳳凰も再生が追い付かなくなるでしょ? それで、最後は私が息の根を止めて見せるよ」


「…………」

「…………」


 唖然とした表情で、セイラとシェイミがローゼを見つめていた。


 ――口で言うのは簡単だ。二人とも、そう思っている。


 だが、当のローゼは本気でそれを実行するつもりなのが、言動と表情から読み取れる。

 そして、これまでそんなことを実際にやり遂げて来た。だからこそ彼女は"絶"級なのだ。


「作戦を説明します」


 そこで、ローゼが真剣な表情で話し始める。


 変わった空気に、二人はローゼの言葉に意識を向けた。


「聖火は私が消滅させます。すると、必ず鳳凰はイナリ山より現れます。そして、再び街を聖火に包もうと街まで降りて来るでしょう」


 一言一句逃してはいけない。


 そう思いながら、二人は必死にローゼの言葉に聞き入っている。


「鳳凰の姿を目視で確認次第、シェイミ・イニアベルは"破滅詠唱"を開始――と同時に鳳凰の攻撃を魔法により牽制、更に空への逃亡を防いで下さい」


「ッ!」


 それは、無理難題にも等しい注文だった。が、不可能ではない。

 魔法を詠唱しながらの、別の魔法の行使。

 並の冒険者には不可能に思えるその技能(スキル)だが、シェイミならば可能だ。

 それを、ローゼは十分に理解している。


 だが、それは非常に難しい技能でもある。


 それも、ローゼは理解している筈だが、有無も言わせぬ視線をシェイミに向ける。


 ――やれ。と。


「次に、セイラ・フォレスは音剣により鳳凰を連撃して下さい。鳳凰は再生するでしょうが、構わずに連撃を続けて下さい。鳳凰の再生力に衰えが生じるまで、休まずに」


「…………」


 それって……いつまで?

 セイラのキョトンとした表情は、そう語っている。

 恐ろしい再生力を有する鳳凰が、その再生力を衰えさせる時とは、いったいいつのことなのか。


 セイラは本気でそう思った。


「連撃には私も参加します。そして、私が合図したらセイラ・フォレスは鳳凰より離脱。それを確認次第、シェイミ・イニアベルは"破滅魔法"を放って下さい。不測の事態は、私が対処します」


 "絶"級冒険者とは。

 大前提として、他に類を見ない戦闘力を有している。

 そして、これまでの冒険者としての活動で成し遂げた偉業は数知れず、作戦の立案と実行力、"超"級冒険者すらも従わせる発言力に信頼。

 その全てを兼ね揃えている。


 作戦の概要を伝えたローゼは、静かに二人を見やる。


 同じ説明を二度もするつもりはなく、ましてや反対意見など許さない。

 ローゼの瞳には、そんな意志が見え隠れしていた。


 そもそも、絶大の信頼を寄せるローゼの命令だ。

 二人は黙って従うだけだった。


「じゃ、二人とも準備してね」


 頷く二人を確認してから、ローゼは即座に収納魔法を行使する。

 輝く魔法陣が出現したかと思えば、右手にはいつの間にか武器が握られていた。


 自身の身長よりも遥かに長く、幅の広い刀身。


 薙刀――風神(シヴァ)


 ――ユラリと、ローゼは腰を落とし、薙刀を構えた。



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