#24 興奮してしまう時は、誰にでもある
収納空間という別次元の空間から物を取り出す魔法『収納魔法』。
収納から物を取り出すには、どうしても魔法陣を介する必要があり、その魔法陣を隠すことは不可能だ。
これは姉も言っていたことだし、事実姉も、収納から武器を取り出す際には必ず魔法陣を出現させていた。
この夜の闇の中でのその魔法陣は、嫌でも目立ってしまう。
なので俺は、収納魔法を発動させながら木の陰から飛び出した。
デュラハンの標的を、俺のみに向けさせる。
陰から飛び出し顔を向けた先には、軍馬に跨がったデュラハンが大剣を振りかぶった状態で待ち構えていた。
俺が飛び出してくるのを予想していたのだろうか。――という疑問は、確信に変わった。
何故なら、その大剣は的確に俺を捉えているらしく、俺の顔面に正確に、振り下ろされつつあるからだ。
待ち伏せ。という作戦を取れる程度の知能が、どうやらコイツにはあるらしい。
しかし、別に驚きはしない。
姉に連れられた場所にも、この程度の魔物や魔獣は存在していた。
素早く周囲の状況を、視線だけで確認してみた。
まず、コイツ以外に魔物の姿は見えない。
そして、周りには障害物となる木がそこら中に立っている。
これでは間合いの長い武器は使いにくそうだ。
次に、ようやく俺はデュラハンの大剣に意識を向けた。
遅い。素直にそう思った。
クルリと、その場で体を翻し、立ち位置を少しズラす。
するとデュラハンの大剣は、今まで俺が立っていた場所の地面に激突した。
それを確認するよりも早く、俺は飛び上がってデュラハンとの距離を一気に詰めた。
収納魔法で俺が取り出したのは――『小太刀・吸血姫』だ。
姉曰く、『やっぱり小太刀は小回りが利くから狭い場所での戦闘にはピッタリだよねー。それにこの小太刀は魔法的存在にも効果があるから、絶対持ってた方がいいよ! いざというときのためにっ』
我が親愛なる姉に感謝しつつ、俺は小太刀をデュラハンの顔……ではなく、青い炎に突き立てた。
すると、青い炎の勢いは急速に衰えていく。
まるで心臓のように激しい動きを持っていたその炎は、小太刀に吸われていくかのように、徐々に、その生命力を失くしていった。
小太刀・吸血姫。
確か、姉が昔、何かの討伐任務で向かった先で、偶然知り合った吸血鬼のお姫様から分けてもらった血液を混ぜて鍛え上げられたのが、この小太刀だと言う話だ。
この小太刀は、対象の魔力と生命力を喰う。
「……は、はわわっ! もしかして、倒しちゃったんですか!?」
そこに、ひょっこり顔を覗かせたミレリナさんが、まるで信じられない光景でも見たかのような反応を見せている。
「あぁ、なんとかな。どうやら青い炎みたいなのが弱点だったようだ。ソコを攻撃してやれば、簡単なものだった」
「え……いや、でもデュラハンは死霊系なのに、どうやって……? 物理系統の攻撃は効かない筈なのに」
死霊系には、物理攻撃の効果は薄い。
中には、完全に効果が望めないものも存在する。デュラハンは、どうやら後者だったようだ。
「あぁ、それなら――」
別に隠す必要もない。
俺は、ミレリナさんに小太刀を見せ、これがどういった武器なのかを一通り説明した。
勿論、これは姉から譲り受けた物だと付け加えた上で。
――すると。
「きゅ、きゅ、きゅ……吸血姫ルシエラぁぁあぁあぁあっ!?」
「えぇっ!? なに! どうしたん!?」
突然叫び出した。
ミレリナさんの声が、夜の森に木霊する。
「はわわっ! ごめんなさいっ!」
慌てて自らの口を塞ぐミレリナさん。
今の絶叫、森の魔物にも聞こえているだろう。
もしかすると魔物がここに集まって来るかもしれない。
「と、とにかく場所を変えよう」
話は後にして、俺達はひとまず場所を変えることにした。
~
森を徘徊している魔物を記録しつつ、俺達は安全な場所を探す。
勿論、魔物との戦闘は極力避けたいため、木の陰に身を隠しながらの移動だ。
今回の教練はあくまでも調査だ。これでいい。
そうして、大きな木の陰になる手頃な場所を見つけた。
俺達は、そこで少し休憩することにした。
すると、未だに少し興奮した様子のミレリナさんが、出来るだけ声を抑えつつ話し出した。
「し、シファ君っ。吸血姫ルシエラのこと、知ってるんですか!?」
「い、いや? 姉から聞いただけだから、俺は知らないが」
「シファ君っ、吸血姫ルシエラは、危険指定レベル28の伝説級の魔神種ですっ! お姉さんは、その吸血姫を討伐したんですかっ!?」
「い、いや? 血を貰っただけって言ってたから、討伐はしてないんじゃないか?」
目を爛々と光らせながら迫るミレリナさんに、若干気後れしてしまいながら答える。
するとミレリナさんは少しホッとしたような表情を見せた。
「ちょ、ちょっとその小太刀、ソコに置いてもらっていいですかっ?」
「い、いいけど……」
言われたままに、俺は小太刀を地面に置こうと手を伸ばす。
――が。
「あぁっ! ちょっと待って! 汚れてしまいますっ! こ、これの上に置いて下さいぃ」
慌てて俺の手を制してから、ミレリナさんがどこからか取り出したハンカチを、地面に広げて敷いた。
この上に置けということかな……。
「…………………………」
黙って置いてみた。
可愛らしい花柄のハンカチの上に置かれた小太刀。
黒い刀身に、赤と金の装飾が施された小太刀だ。
「は、はわわっ! これに、吸血姫の血が使われているんですねっ」
「よ、良かったら手に取ってみたら?」
「ひ、ひいぃ! そんな、畏れ多いですっ!」
そ、そんなに大騒ぎすることなのか……。
「はぁ……。魔神種の一角、吸血姫……見てみたいです」
小太刀にうっとりとした表情を向けるミレリナさん。
まさかこんな場所で、ミレリナさんの本性を知ることになるとは。
ミレリナさんはおそらく、魔物魔獣オタクというやつだ。
そんな彼女にとって吸血姫とは、どうやら崇めたくなるほどに崇高な存在らしい。




