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#22 疲れを癒すのも大切なことだ

 

 見通しも悪く、足場も悪い。

 そんな森の中を、俺達は歩き続けた。

 魔物や魔獣がどこに潜んでいるか分からない。そんな緊張の中での森の調査は、思った以上に俺達を疲れさせたらしく、皆の足取りは次第に重くなっていく。

 しかし、そんな俺達をあざ笑うかのように、この森のどこにも魔物や魔獣の姿は無い。


 ミレリナさんの話によれば、この森には確かに多くの魔物や魔獣が生息していたという話だ。教官がツキミに持たせた資料(リスト)を見ても、それは確かなことだと分かるし、この森の中には、魔物や魔獣が生息していたと思われる痕跡はいくつも存在していた。


 だが、どれだけ歩いても魔物達の姿は無い。


 このカルディア高森林に生息していた魔物や魔獣は、その姿を消した。

 ここまで来れば、そう結論を出すしかないように思える。


 どうやら、この森をこれ以上調査しても、新たな発見を得られそうにも無い。


 俺達はいったん適当な場所を見つけ、意見を交換し合うことにした。


「どう思う?」


 グラムが手頃な木に背中を預け、皆にそう訊ねた。


「……ここまで探しても見つからないんじゃ、もうこの森には魔物も魔獣はいないんじゃない? 流石にさ」


「けどよ、この規模の森に生息してた魔物達が全部いなくなるってあり得んのか?」


「現にいないじゃん」


「いや、まぁ、そうだけどよ」


 確かに、グラムの言いたいことも分かる。

 1体や2体の話でもない。この森に生息していた全ての魔物達が姿を消した。

 何故だ?

 仮に、鳳凰に追いやられた魔物か魔獣によって、この森に住んでいた魔物達が捕食された。もしくは、生息地を奪われて追いやられたとする。

 その場合は、新たにこの森を生息地とする、より上位の魔物か魔獣が存在する筈だ。

 しかし、その姿も影もない。


 ならば残る可能性は、この森に住んでいた魔物達が自ら姿を消した。ということになるが、その理由は? この森に住めなくなった? そんな雰囲気でもない。


 ……駄目だ。

 俺程度の頭ではこの難題に答を見つけられそうにない。


 こういう時に頼りになりそうなのはミレリナさんだが……。


 チラリと、ミレリナさんに視線を向ける。


「あ、あう……」


 うん。駄目っぽい。


「アライオンはどう思うんだ?」


 とにかく、これ以上この森を調査しても意味は無さそうだな。

『生息していた魔物や魔獣全ていなくなっていた』という事実を、調査結果として報告するしかないだろう。


「そうだな、これ以上この森を歩き回っても、特に意味は無さそうだ。とりあえず、森から出よう」


「……それもそうだな」

「うん、賛成」

「(コクコク)」


 おそらく、この森の中のほとんどは見て回れたと思う。

 調査任務としては、これで十分だろう。


 俺達は、森から出ることにした。



 ~



「うわ、マジかよ……」

「わー、私達そんなに長く森の中にいたんだ」

「…………」


 森から出てみれば、かなり日が傾いていた。

 西から差す日の光に、目を細める。


 森の中は薄暗かったからな、少し時間感覚が狂ってしまっていたのだろう。


「どうすんだ? この森の調査は終わったとして、このままシロなんとかって村まで向かうか?」


 シロツツ村な。


 今回特に調査すべき所はこの森と湖だが、担当する範囲(エリア)としてはそのシロツツ村近くまでが調査すべき場所だ。

 なので、シロツツ村まで行って帰ってくる経路を選択した訳だ。


 さて、グラムの言うとおり、この森の調査はこれで終わるとして、このままシロツツ村まで向かうかどうかだが。


 グラム、ツキミ、ミレリナさん。

 3人の表情を窺ってみた。

 うん。皆かなり疲れてるな。表情には出さないようにしているようだが、疲労というのはどうしても顔に出る。

 特にグラムの疲れが酷そうだ。

 見通しの悪い森の中、先頭を歩くのはかなり疲れたのだろう。


 そのうち日も暮れそうだし、こんな状態で夜の街道を進むのも気が進まない。

 やはり、今日の調査はここまでにした方が良さそうだな。


 となると、冒険者には定番のアレだな!


「野営しよう!」


「ま、そうなるわな。街まで戻るのも効率悪そうだし」

「……げ、やっぱり?」

「はわわわわわっ!」


 ちょ、ミレリナさん!? いきなり収納から寝袋出さないで! まずは手頃な場所を探さないと駄目だから!



 ~



 森のすぐ近くに、丁度良い大きさの岩場を見つけたので、その岩の陰で野営することにした。

 焚き火を囲み、各自で持参した食べ物を取り出す。


「お! アライオンは弁当か? やっぱ姉ちゃんが作ってくれたのか?」


「ま、まぁな」


 ユエル教官が作ってくれたとは、とても言えない。

 いや、それよりも……。


「すげーカラフルな弁当じゃねーか! 栄養にも気を使ってくれてんだなぁ! お姉さん、大事にしろよ?」


「ま、まぁな」


 教官の弁当のクオリティがえげつない。

 そして、そんな見た目の弁当は勿論。

 ――美味い。


 教官、アンタ本当に完璧だわ。



 ~



「じゃあアライオン、時間になったら起こしてくれ」

「ごめんね、先に休ませてもらうね」

「あ、あの! おやすみ……なさい」


「ああ。ゆっくり休んでくれ」


 食事を終えて、明日に備えて早めに休むことにした。

 とは言え、街の外である以上見張りは必要だ。ツキミとミレリナさんにはゆっくり休んでもらうこととして、見張りは俺とグラムが交代で引き受けることになった。

 まずは俺からだ。


 岩場の陰で寝袋にくるまる3人を見守りながら、俺は焚き火の番だ。


 皆、森を歩き回った疲れが溜まっていたらしく、すぐに寝息が聞こえてきた。


 どうやら、カルディア周辺調査3日間の初日は無事に終わりそうだ。


 少し、今日のことを思い出してみた。


 カルディア高森林に魔物や魔獣の姿が無いことには驚きだったが、それはそれでれっきとした調査結果だ。

 何故、どうしてそうなったのかは気にはなるが、原因を調べるのは任務に含まれていないので、この森で俺達に出来ることはここまでだろう。


「ふごぉぉぉぉぉお……」


 グラムのいびきが少しうるさい。


 しかし、グラムがまさか、あそこまで薄暗い森を怖がるとは思わなかったな。

 死霊系が苦手なのだろうか?

 ……死霊系と言えば、姉に連れられて行った『幽闇の古城』を思い出す。

 おぞましい死霊系の魔物が徘徊する恐ろしい場所だった。

 確か、あの時もこれぐらいに夜が深まった時間帯に古城に侵入していたんだったな。


 姉いわく、『夜じゃないと、ここの魔物は姿を現さないんだー。昼間は嘘みたいに魔物の影も形もないんだよ?』だったな。


 …………………………。


 ―――ッ!


 反射的に森の方を振り向いた。


 月明かりに照らされた『高森林』が、今もそこに変わらずに存在している。


 姉の言葉で、ひとつの可能性に思い至った。


 魔物や魔獣が姿を消したこの高森林に異常が起こっているのは間違いないだろう。

 俺達の調査結果は『生息していた魔物や魔獣は全ていなくなっていた』だ。

 しかし、それでは不十分だ。


 何故なら、今、この時。この夜の深くなったあの高森林は?


 昼間は魔物はいなかった。

 だが、夜は?


 考えが甘かった。


 ――高森林の調査は、まだ終わるべきではない。



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