表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/150

#2 愛の鞭という名の地獄

 

「シファ君……ここはね、『炎帝の谷』って言う、凄い怖い所なの。怖い魔物がうじゃうじゃいて、とても危険。冒険者じゃない人は滅多に寄り付かない所」


 姉に冒険者になることを許してもらうための特訓に明け暮れて数年。


 姉に連れられてやって来た場所は、激しく燃え盛る渓谷だった。

 丘の上から見下ろしてみても、谷の底がどうなっているのかは分からない。

 いったいどんな原理で燃えているのか、全く想像が出来ないが、俺はあまりにも『世界』を知らない。

 冒険者になれば、そんな『世界』をいくらでも見ることが出来るのかと思うと……ますます俺の冒険者への憧れは強い物へと変わる。


 だが、姉からの、俺が冒険者になる許可は……まだ降りない。

 許してはもらえたが、まだ駄目らしい。


 そして今日も――


「冒険者になりたいのなら、この谷の魔物くらいは一通り倒せなきゃ駄目だよ」


 どうやら、今日からの俺の特訓場所はこの『炎帝の谷』になったらしい。


 見るからに恐ろしい場所だ。

 これまでの姉との特訓で、俺もそれなりに強くなったつもりでいるが、果たして……。


「……どう? 怖い? 嫌ならやめてもいいんだよ? シファ君はずっと私が養ってあげるんだから、別に冒険者にならなくてもいいんだよ?」


「それこそ駄目だよロゼ姉。俺も男だ、いつまでもロゼ姉に頼ってばかりではいられない。もしもの時は俺がロゼ姉を護ってやらなくちゃいけないんだ」


「はぅあ! ……わ、わかったよシファ君」


 とにかく、俺は冒険者になりたいのだ。


「うぅ……それじゃ頑張ってね。あ、谷の奥にある祠には近付かないようにね。あくまでも、谷の魔物を一通り倒せるようになればそれでいいから」


 姉は冒険者で、俺の大切な家族だ。

 その姉が近付くなと言うのなら、従うだけだ。


「それじゃシファ君、行ってらっしゃい。私は近くで待ってるから、お腹が減ったら休憩に戻ってくるといいよ。そーれ!」


「へ?」


 ――ポン。と。


 優しく、愛のある手で背中を押された。


「ええぇぇぇえええぇえぇええ!?」


 とても綺麗な青空を背景に、美しい姉が笑顔で手を振る姿を見上げながら。

 俺は谷へと真っ逆さまに落ちて行った……。


 ~~~


「シファ君……ここはね『雷鳴の丘陵(きゅうりょう)』って言う、物凄く恐ろしい場所なの。環境は見ての通り最悪で、魔物も狂暴。冒険者か、冒険者が同行していないと立ち入れない場所だよ」


『炎帝の谷』で数ヵ月を過ごしてから、俺は姉に連れられて別の場所へやって来ていた。


 広く、小山のような台地が連なる丘陵。

 少し前までは天気は晴れ晴れとしていたのだが、この場所にやって来た途端、嵐に見舞われている。

 姉の話によると、この丘陵の嵐は決して収まることが無いのだと言う。ゆえに『雷鳴の丘陵』と呼ばれているらしい。


 どうして俺がここに連れられて来たのかは、もう分かっている。


「冒険者になりたいのなら、この一帯の魔物は簡単に倒せるようにならなくちゃ駄目だよ」


 やはりか……。

 冒険者になるには、並大抵の努力では駄目のようだ。

『炎帝の谷』の魔物は一通り倒し、さらに自信を身に付けた俺だが、それでも姉は首を縦に振らなかった。


 今度こそ、必ず――。


 ~~~


 それから、俺は様々な場所へと姉に連れられた。

『炎帝の谷』『雷鳴の丘陵』に続き、『氷姫の雪山』『幽闇の古城』と。

 今思い返して見ても恐ろしい場所の数々。

 冒険者はあんな場所を散策するのが普通なのだろうか?


 だが丸1年かけて、俺は姉に言われた通りそこに住む魔物を倒していった。


 そして、ようやく落ち着ける我が家へと姉と共に帰って来たのだが――


「よいしょっ!」


 机に腰かける俺の目の前に、大量の本が山のように積まれていった。


「冒険者になりたいのなら、強さだけじゃなく知識も、だよ!より深い知識を身に付けておかないと、冒険者にはなれないんだよ?」


 これだけの本を、いったいどこから持ってきたのだろうか。

 見たところ、どれも冒険者についての本や、それに関係する本のように見える。

 戦闘技術や武器の取扱い、魔力操作など、こと戦闘に関する本が殆どのようだ。


 近くの本を手に取ってみる。


「『超級冒険者への道のり』」

 という表題(タイトル)の本だった。


 超級とは、おそらく冒険者の階級のような物だろう。

 そしておそらく、超級とはかなり上位に位置する階級だ。


「流石にこの本はまだ早いんじゃ……」


 最初はやはり、初心者の心得とかそんな物について学ぶべきなんじゃ?


 しかし。


「何言ってんのよシファ君。冒険者は皆、頂点を目指すものなんだよ?」


 まぁ、分からなくもない。

 やるならやっぱり、1番が良いもんな。

 でもやっぱり、最初は基本について学ぶのが良いのではないだろうか?

 そう思いながら、本の山に視線をさまよわせるが、それらしい表題(タイトル)の本は見つからない。


 そしてふと、少し気になる本を見つけ、手に取ってみた。


「『上級冒険者でも足を踏み入れてはいけない危険地帯7選』? ……へー、そんな所もあるのか」


 冒険者ですら危険な場所って、どんな所だよ。

 あの燃え盛る谷や、雷降り注ぐ丘陵に、何から何までが凍てつく山と、おぞましい存在が蔓延る古城よりも危険な場所ってことだよな。

 物凄く興味が湧いてしまった。


 しかし。


「おぉっとぉ!! こ、これは違うよ? 間違って紛れ込んだみたい。ごめんごめん。私が預かっとくね」


 表紙を捲ろうとした瞬間に引ったくられてしまった。


 我が姉でも間違えることがあるとは……。珍しい。

 まぁ確かに、まだ冒険者にすらなっていない俺が、上級冒険者ですら危険な場所を知った所で何になる? って話だしな。


「そ、それじゃシファ君は、ソコにある全部の本を読破するまで外出は禁止だからね。ご飯は私が持って来てあげるから」


 魔物との戦闘に明け暮れる日々が終わったかと思えば、今度は勉強浸けか……。


 冒険者とは、本当に崇高な存在らしい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ただの監禁じゃねーかw 「ミザリー」って映画思い出した…
[気になる点] これはアレだ。本の中に自分が連れていかれた場所が書いてあって、非常識に育つやつだwww
[一言] これは非常識に育っちゃうわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ