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#148 《戦乙女の帰還》

 

『戦乙女だったりしない?』


 目の前の少女は、後ろで倒れているローゼを指して確かにそう言った。まるでローゼを探していたかのような口ぶり。


 "絶"級冒険者ともなれば、物珍しさから注目を集めてしまう存在ではある。ましてや、噂に聞くあの『戦乙女』ともなれば、知っている者からすれば興奮して我を忘れてしまう程なのは承知している。畏れ多くて近寄れない者や黄色い声援を送る者など様々ではあるが、それほどまでにファンは多い。と言うのも、話に聞く以上にローゼの容姿が美しく、そして強いからこそ『戦乙女』という存在の噂は冒険者の間だけに留まらず大陸を駆け巡るのだ。


 ただ――


「戦乙女? まさか、今にも死にそうな彼女がかの有名な戦乙女だって、そう言いたいの? あなたは」


 少女がローゼへと向ける視線は、そんなよくある物ではなく不気味な色を持つ視線。

 八つ目の竜種を見下したような態度でありながら庇う立ち位置からも、この女は敵であると確信を持つ。

 背後で倒れるローゼが、まさに戦乙女であることは隠すことにした。


「え、あれ? やっぱり違うの?」


「さぁ? 私は王国騎士として、その竜種の討伐のためにココにいるだけよ。後ろの彼女達が、その竜種に襲われていたのを助けていたところよ」


「ふーん。じゃぁ戦乙女はもう逃げちゃったってことかなぁ」


 あからさまに肩を落とす少女。


「どうして戦乙女に会いたいのかしら?」


 ローゼを探す理由を、クレアは訊ねる。


「どうしてって、一度戦ってみたかったんだよねぇ。それに殺しちゃっても良いって言われてるからさ、本気で戦えそうじゃん!」


 言葉を選ばない少女の発言に、クレアは心底驚いた。

 ローゼに限らず、"絶"級冒険者の実力は本物だ。だと言うのに目の前の少女は、本気で勝てると思い込んでいるようだった。単に"絶"級冒険者の実力を理解していない可能性も考えられるが、理解した上での発言のように思える。


「"絶"級冒険者は、大陸に四人しか存在しない最高峰の冒険者よ。そんな相手にあなたが勝てるとでも?」


「勝てるよ。冒険者なんてみんな一緒。私に勝てる人間なんていないんだぁ」


 可愛らしく笑って見せる少女。

 気になる発言が多いが、今はなにより少女の後ろで伏している八つ目の竜種を討伐してしまうことが最優先だ。

 見てみると、八つ目の竜種の傷が少しずつ癒えているように見える。自然治癒能力も有していたということだ。


「そんなことより、その竜種にとどめを刺したいのだけれど、良いかしら?」


 氷で長剣を創り出し、クレアは歩を進める。

 少女へ向かって歩く形になっているが、目的は八つ目の竜種の討伐だと強調するように、視線は竜種へと固定する。

 少女へは敵意を向けず、八つ目の竜種の息の根を止めるためゆっくりと歩き――少女とすれ違った。

 ――咄嗟に、クレアが長剣を持つ右手を振り上げる。

 甲高い音が響き、右手に重い衝撃が伝わってくる。


「あぁ、駄目駄目。あの成功体は駄目だよ。殺しちゃ駄目なの」


「――ッ!?」


 少女が振り抜いた大鎌を、寸前の所で長剣で受け止めたクレア。

 敵意は向けずとも、警戒を怠らなかったことで対応することが出来た。


 たまらず、クレアは大きく一歩後退する。


 少女の正体は分からない。問い質したところでまともな返答が得られるとも思えないが、どちらにしろコレでハッキリしたと少女のことを睨みつけた。


「私は王国騎士団総団長、クレア・イクシード。私への任務の妨害は明確な王国への反逆行為。あなたも処罰の対象となるわ」


 右手に持つ長剣の剣先を少女へと向ける。

 しかし、少女はそんなことはどうでも良いというように笑っていた。


「へぇ~総団長さんなんだぁ。もしかして強いのかなぁ?」


 少女の大鎌が不気味な光を放ち始める。

 クレアの言葉など、全く意に介していない。

 それどころか、今すぐにでも飛びかかってきそうな雰囲気すらあった。

 自然と、長剣を握る手に力が入ってしまう。

 しかし、思いもよらぬ言葉が少女から発せられる。


「なーんて、ウソウソ。私の目的は戦乙女とこの竜種だけだし?」


 少女から放たれていた殺気がたちまち霧散してしまう。


「騎士団長? のお姉さんにも興味はあるけどさぁ、今日はべつにいいかなぁ」


 そう言いながらクルリと回り、八つ目の竜種の方へと歩き出す。そしてすぐに立ち止まり、再び口を開いた。


「でもぉ、それでもお姉さんがコイツに止めを刺そうとするならぁ……その時は容赦なくブチ殺してあげるよ」


 寧ろ、そうしてくれた方が好都合だと言わんばかりな笑顔を見せる。

 クレアの王国騎士団総団長と言う立場を一切気にしている様子も無い。


「ま、お姉さんには無理だと思うけど♪ 後ろの三人を庇いながら()()()()()に勝てると思う?」


「ッ!?」


 すると、少女の後ろで伏していた八つ目の竜種がノソリと起き上がった。

 少しずつ癒えているのは見て分かったが、あまりにも早い。クレアが潰した瞳も、綺麗さっぱり元通りになってしまっていた。


「あっははは! めっちゃビビッてんじゃん! 頑張って追い詰めたのに残念だったね♪」


「あなた、いったい何者なの? その竜種とはどういう関係なの?」


「さぁ? 実は私もコイツのことはあまりよく知らないんだよね。詳しく聞かされてないし」


 少女の言葉から、やはりこの八つ目の竜種の誕生に何者かが関与しているとクレアは考える。

 そしてあれほどの力を有していた八つ目の竜種が、少女の後ろで静かにコチラの様子を窺っていた。先程までの態度からは考えられない変化だ。


「後ろの三人を庇いながら、私とコレに勝てると思うのかなぁ? 無理だと思うなぁ、私は」


 この場で、あの八つ目の竜種を討伐出来るかどうかを考える。

 先程の戦闘であの竜種の能力は把握出来ているが、少女の力が全くの未知数だ。特に、少女の持つ大鎌が並大抵の物ではないことが見て分かる。ソレを自在に操れるとするならば、少女の実力も少なくとも"超"級の冒険者に匹敵すると見ておいた方が良いだろう。


(いや、もしくは"絶"級冒険者にも匹敵するか……)


 クレアは、相手がたとえ"絶"級冒険者であったとしても勝てる自信がある。だが、後ろの八つ目の竜種の能力が厄介であり、瀕死とも言えるローゼを庇いながらとならば、圧倒的に不利になってしまう。


「得体の知れない竜種を仲間にして、いったい何が目的なの?」


 ならばせめて、少しでも情報を持ち帰るために質問することにした。


 クレアの質問に対して、少女は少しだけ押し黙ってから答える。


「……()()?」


 不快感、嫌悪感、そして憎悪。少女の顔からはそんな感情が読み取れる。


「仲間? 冗談でしょ? 私達が? 魔獣と仲間? 有り得ない有り得ない!! 気持ち悪い!」


「な!?」


 先程までの余裕な態度は何処かへ消え失せ、怒りのままに少女は叫ぶ。


「魔獣なんて! この世界から全部死んでしまえばいい!!」


 怒りのままに大鎌を握り、クレアへと向ける。


「得体の知れない物を仲間にしてるのはお前等だろ?」


 鋭い瞳でクレアを睨みつけながら言葉を続けた。


「友好指定種なんて物を作って魔獣や魔物と仲良くしやがって……しかも魔神種まで」


 強く歯を噛み締めながら、少女は大鎌を下げる。そして再び背を向けた。


「私達は全ての魔神種を殺す。その魔神種と馴れ合うお前等は全員敵だ。コイツはそのための道具だよ。仲間だなんて、ホント気持ち悪いっ」


 そう言いながら、少女はひとり森の中へと消えていく。そんな彼女を追うように八つ目の竜種も空へと羽ばたき、何処へと飛んで行ってしまった。

 トウロウ高地を覆っていた魔境化が綺麗さっぱり解消され、あちこちに存在していた竜種の気配も次々に無くなっていく。


「ふぅ……」


 ひとまず、トウロウ高地での戦闘は終わった。

 ひと息つきたい気分だが、悠長に休憩している時間など無い。

 すぐさまローゼの下へと駆け寄る。


「ロゼは!?」


「熱が更に上がって……呼吸も荒くて、回復薬も魔力薬も効き目が無いんです!」


 少女の言葉通り、ローゼの状態はかなり悪い。

 一刻も早く休ませる必要がありそうだった。


「すぐに出る。ロゼをイナリの組合まで連れて行くわ。貴方たち、悪いけどついて来てもらえる?」


 クレアはローゼを抱え、二人を連れてトウロウ高地を後にした。


 ◇◇◇


 ローゼをゆっくりと休ませる場所にクレアが選んだのは冒険者組合だった。道すがらに少女から聞いたローゼの状態から、支部長である紅葉に診てもらうのが良いと判断したのも理由のひとつだ。

 戦乙女を抱えた王国騎士団総団長がの姿は注目を集めてしまうようで、街の大通りと組合ではちょっとした騒ぎにまで発展してしまった。

 組合に入るなり、差し迫ったクレア達の状況を察した受付嬢がすぐさま支部長である紅葉へ取り次ぎ、二階の一室でローゼを休ませる運びとなった。


 トウロウ高地での出来事と事情を紅葉へと説明し、ローゼの容体を診てもらう。


「紅葉様、なにか分かりましたか? ローゼの容体は?」


 ローゼの体を調べていくうちに、紅葉の顔色が青くなっていくのが分かった。

 あまり良い返事を聞けそうにはないが、聞かずにはいられない。


「病気でも状態異常でもない。フィリスちゃんが言っていた通り、呪いやね」


 そう言いながら、ローゼの胸元をはだけさせる。

 ソコに綺麗な白い肌はなく、不気味な光を放つ蕾の結晶が肌の表面に浮かび上がっていた。ドクン、ドクンと脈打ち、まるで心臓のように鼓動している。


 クレアは目を見開く。


「これは……」


 紅葉は首を横に振る。


「血晶華の呪い。無理やね、治せんよ。どんな魔法、回復薬でも無理。次元の違う呪いやわ」


 キッパリとそう言い放つ。


「はぁ……いったい何処でこんな物貰ってしまったんか分からんけど。貰ってしまった以上はどうしようも無い」


 紅葉が、血晶華の呪いについて分かっている範囲で説明する。

 宿主の魔力を吸い続けて成長する華。

 コレにより、宿主は常に魔力を制限されてしまうことになる。

 仮に、宿主の魔力が失くなってしまえば、次に血を吸うことで魔力の代わりとする。宿主を殺さず、ギリギリ生かしながら種は蕾を付け、やがて華を咲かせる。


「……なんてこと」


 たまらず頭を抱えるクレア。


 つまりは、そのような状態であの八つ目の竜種と戦闘を行ったということだ。

 ローゼが遅れをとってしまった理由が分かったが、結果として魔力を使い果たしてしまい、最悪の状態になってしまった。


 王国騎士と冒険者合同の任務はまだ終わってはいない。

 いや、調査という点では今回の一件で終わったと判断しても良い。結局、大当たりはローゼが引き当ててしまったという訳だ。


「で、その八つ目の黒い竜が、今回の竜種の狂暴化の原因やった訳や」


「はい。というよりかは、各地で黒い新種の竜種が発見されていますが、八つ目の特徴を持った竜種は今回だけです」


「魔法の効かない竜種ねぇ」


 そう言いながら、紅葉は一振りの長剣を取り出す。

 黒と紫を基調にした長剣だ。

 発せられる雰囲気は不気味。

 その長剣を見たクレアがあることに気付く。


「それは……」


 似ていた。

 紅葉が取り出した長剣と、八つ目の竜種が放つ不気味な雰囲気。そしてトウロウ高地に後から現れた少女が持っていた大鎌が放つ不気味な物に。


魔喰い蛇(ニーズヘッグ)の素材を使用して造られた長剣」


「魔喰い蛇……。たしか、以前にイナリが大量の竜種に襲われた事件。ソレを手引きしたのが狩人(ハンター)ギルド『魔喰い蛇』の構成員だという話だったわね」


「そう。ま、結局のところ狙いは玉藻前やったらしいけど。しかも、上位の冒険者が王都に招集されてるタイミングを見計らっての用意周到さやったわ」


 紅葉の話を聞いてクレアは考え込む。


 竜種の狂暴化は意図的に誘発されての物だった。

 その狂暴化の調査を依頼するために、上位の冒険者を王都へ招集させ、その隙にイナリが狙われてしまった。紅葉の話によると、イナリを狙った理由は玉藻前。


「やはり、今回の件は全て狩人ギルド『魔喰い蛇』が関わっていると見るべきね」


「せやろなぁ。全く居所も分からん謎のギルドやけど」


(となると、あの大鎌の少女もギルド『魔喰い蛇』の構成員と言うことね)


 少女の『私達は全ての魔神種を殺す』と言う発言を思い出す。


「紅葉様、現在友好指定種とされている魔獣、魔物は誰ですか?」


「は? なんなん? 今更、アンタもよく知ってるやろ」


「念の為、確認しておこうと思いまして」


「せやね、まぁ現状は『仮』やけど友好指定種第三位――幻獣『玉藻前』。第二位――白竜姫『コノエ』。そして第一位の天女『織姫』やろ」


 玉藻前を友好指定種へと登録するように手続きが進められているのは、王国騎士団に所属するクレアも当然知っている。


「コノエ様と織姫様は魔神種ですが、この二人を倒す方法はありますか?」


「いや無理やろ。魔神種を倒そう思ったら、同じ魔神種をぶつけるしかないやろなぁ。まぁ、戦乙女の嬢ちゃんとアンタが一緒に戦えばもしかしたら……とは思うけどなぁ」


 そう言いながら、紅葉はベッドで眠るローゼへと視線を送り、ハッと再びクレアへと向き直る。

 紅葉の似合わない機敏な動きに、クレアは一瞬驚いた。


「そうや! 織姫や! 織姫なら、結晶華の呪いも治せるんちゃう!?」


「ッ!!」


 ()危険指定レベル29。魔神種、織姫。

 今は友好指定種として、回復薬や魔力薬といった人々の必需品を精製するために尽力してくれている。

 回復、治癒の魔法の全てを使いこなすと言われている。


 ローゼが貰ってしまった血晶華の呪いとは、魔神種であるこの世界唯一の吸血鬼。その姫君である吸血姫(ルシエラ)から持たされた物だと紅葉は語る。

 魔神種の力が宿る呪いに対抗するためには、同じく魔神種の力に頼る他無い、ということだ。


「織姫様……か」


 クレアは思わず俯いてしまう。


「ま、そうなるわね。あのお嬢様にお願い事なんて、アタシなら絶対嫌やし」


「いえ、今後の任務を成功させるにはロゼの力は絶対に必要になります。そのためなら、仕方がありません」


 そう言いながら、クレアはベッドに眠るローゼに視線を向ける。

 額には汗が浮かび、高熱にうなされているようだ。

 これほど弱ってしまったローゼの姿など見たことがない。


「暫く、ロゼのことをお願いします」


「ま、戦乙女には大きな借りがあるし、かまへんよ」


 クレアは紅葉に一礼してから部屋を後にする。


 ローゼを寝かせた部屋がある二階から一階へと戻ると、組合内には多くの冒険者が集まっているようだった。

 気絶した戦乙女が運び込まれたことによって発生した騒ぎは、どうやらまだ落ち着いていないらしい。冒険者達が物珍しそうにクレアへと視線を送っている。ただ、事情を訊ねてくる冒険者は一人もいない。

 一介の冒険者にとって、王国騎士団総団長と言うのは縁のない存在であり、"絶"級冒険者以上に遠い人物であるからだ。


(面倒なことになったわね……)


 また悩みが増えそうだと思いながら、クレアは冒険者組合を後にする。


 ――"絶"級冒険者『戦乙女』が任務を失敗した。

 そんな噂が、冒険者を伝って大陸中に広まるのに、そう時間は掛からなかった。


 ◇◇◇


 大陸の中枢に広がる王都。その遥か上空に、空を飛ぶ魔獣や魔物が不自然に避けて通る場所が存在している。不自然ではあるが、無意識にその場所を避けてしまう。

 ソコにはただ景色が広がるのみだが、確かに何かが存在している。


 ――恒星宮殿。


 外部から目視で確認することは出来ず、存在を発見することは難しい、雲の上に鎮座する宮殿がソコにはあった。


 ――コン、コン、コン。


 宮殿内の一室へと続く無機質なドアを叩く音が数回鳴り響くと、一枚の扉を隔てた向こう側から「ふぁあい」と言うなんとも気の抜けたような声で女性が応答する。


「失礼します」


 声の張りはともかく、主から許可を得たと判断した女性はドアを押し開き部屋へゆっくりと立ち入った。


 人一人が過ごすには少し広過ぎる部屋には、様々な上質な調度品が至る所に置かれている。

 部屋の奥にある大きな窓からは陽の光が眩しく部屋を照らし、朝になったことをこれでもかと主張していた。

 朝日に照らされたこの部屋は、本来なら幻想的な空間を演出している筈だが……床に散らかった様々な私物が、全てを台無しにしてしまっている。


「織姫様……今起きたのですか? いや、起きてください」


 相変わらずな主の部屋の有様に眉を若干吊り上げる。

 そしてそんな主はどうやら未だ柔らかなベッドに拘束されているようで、顔を埋めたまま返事をしていたらしい。


「人間から手紙が届いておりますよ」


 足の踏み場を探しながら、ゆっくりと部屋の中を進む。

 散乱した本や衣服を避けたつもりでも、どうしても小さな物は踏んづけてしまう。その度に足の裏に鋭い痛みが走り顔を歪めてしまう。


「ったく……つい先日掃除したばかりだと言うのに、どうすればここまで散らかすことが出来るのですか」


「うぅ~ん……うるさいわ。まだ起きるには早い時間でしょ? さっき寝たばかりなのに……」


 名残惜しそうにベッドから顔を上げた主。ベッドに広がる美しい翡翠色の髪を、少し煩わしそうに手で除ける。


「……もうとっくに朝です。夜更かしは肌に悪いですよ?」


 主の傍まで歩み寄り、ピコンと跳ねた寝癖を優しく整える。

 相変わらずの夜更かしのせいで、朝にはめっぽう弱い。

 だと言うのに、髪色と同じ輝きを放つ宝石のような大きな瞳は美しく、そして肌には疲れが一切見られない。


「織姫様、人間から手紙が届いておりますよ?」


「手紙? 知らないわ、どうでも良い」


 あまり興味が無いらしく、またしてもベッドにぼふりと倒れ込んでしまう。


「人間の王女、グライシャ・エーデルヴァイスからの手紙です。なんでも、織姫様の御力をお借りしたいようで、是非お会いしたいということみたいですが……」


 全く興味が無く、手紙を受け取ろうとしない主に代わり手紙の中身を確認する。


「はぁ? なにそれ面倒臭い。断ってちょうだい。そんなことよりも、『抹茶プリン』を早く持ってこいと伝えておいて」


 そう言いながら、もう一眠りするのかベッドに潜り込んでしまった。

『山岳都市』という場所で人気の『抹茶』。そのスイーツがどうやら気になるらしい。

 わがままで傍若無人。人間のことを虫けらか『物』程度にしか見ていない。

 しかし彼女――魔神種、織姫が友好指定種として人間と協力関係にあるのは、人間より贈られる『菓子』の為に他ならない。


「承知しました。では、この件は私がキッパリと断っておきます」


 そう言うと、手に持っていた手紙が白い炎に包まれて消える。


 主である織姫が潜り込んだベッドを軽く整え、部屋を後にする。パタリとドアを丁寧に閉めてから、ふぅ……と息を吐く。


「織姫様に頼み事とは……いよいよ人間も調子付いてきたな」


 愚かな人間に僅かな苛立ちを覚えながら、廊下を進む。

 歩く度に、肩辺りで切り揃えられた綺麗な白い髪がふわりと揺れる。

 自分も、主のようにもう少し髪を伸ばしてみようか、なんて思いながら毛先に指を絡ませた。


 魔神種である織姫に仕える彼女の名は……危険指定レベル25、白鳥姫――アルーレ・アルビレオ。

 織姫の住まうこの場所、『恒星宮殿』の管理を一人で担っている。


 主であり、そして妹のようでもある織姫のため――今日も奮闘する。

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