表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/158

#14 姉の言っていたこと

 

 鋭い眼光と、狂暴な牙の見え隠れする顎。

 背には巨大な翼を持ち、鋭利な爪は刃物を連想させる。

 強靭な鱗は、生半可な攻撃は弾き返してしまう。

 さっきのコカトリスが可愛く見えてしまう程に巨大で、凶悪な竜種。翼竜だ。


「だ、駄目……。どうしてこんな所に危険指定レベル7の翼竜が……」


 そう話すのはルエルだ。

 目の前に降り立った翼竜を見上げ、明らかに動揺している。


 そして――


「あ、あああ……アンタ達は、さ、先に帰ってなさい、わ、わた……わた、わたしが」


 高飛車女の状態がかなり悪い。

 俺達よりも翼竜に近い位置に立っているためか、持っている剣はガタガタと震え、足はよろついているし、何より逃げ腰だ。

 とても、まともに戦える状況には思えないな。


「―――――――――――ッ!!」


 そこにまた、翼竜が大きな顎を開き、鋭利な牙が歪に立ち並ぶ口内を晒して咆哮を木霊させる。


「ひっ!」

「きゃっ!」


 俺達を敵、もしくは補食対象と認識しての威嚇だろう。


「あ、アンタ達は早く戻りなさいよ! 私がこいつを討伐するんだから!」


「り、リーネさん! でも……」


「早く行ってよっ!! 邪魔だって言ってるのよ!」

 

 いつもと変わらない刺々しい口調。

 しかし手足は震え、怯えているのが分かる。そんな状態ではまともに魔法や技能(スキル)を行使するのも不可能だろう。

 本人も分かっている筈。勝ち目など微塵もありはしないのだと。

 なのに、強がって、声を荒げて俺達をこの場から追い出そうとする。


「ちょ……シファ? なにを」


 ルエルの手を離し、前へ進む。


 まるで俺達から、翼竜の気を引き付けようと声を上げる高飛車女の。その前まで。


「ちょ、ちょっとアンタ! なにしてんのよ! 邪魔だって言ってるでしょ!?」


「……足震えてんぞ」


「……震えて、なんかない! それより! 退きなさいよ! ねえ!」


 高飛車女(こいつ)は、冒険者としての人間性はどうあれ、性格は悪い。そう思っていた。

 でも、今日分かったことがひとつある。

 高飛車女は、どうやら良い奴らしい。少なくとも、自分を犠牲にして他人を助け、護り、思いやることの出来る人間だ。

 コカトリスの時だって、人に強い言葉を使ってはいるが、結局は助けるためだった。

 そして今もコイツは、怯えながらも勇気を振り絞り、そこに立っている――


「リーネ……」


「え? 名前……な、なによ」


「俺は姉に育てられた。そんな姉のことを誰よりも尊敬しているし、大切に思ってる」


「…………」


「その姉が言っていたことがある」


 随分昔のことに思えるが、姉の言ったことは全て記憶している。


『シファ君。嫌いな人でもね、悪い人じゃないなら、ちゃんと護ってあげるのが、冒険者なんだよ?』


 俺は収納魔法で、ひとつの剣を取り出した。


 身の丈ほどはある大きな剣。大剣という部類に入る。

 黒と金を基調とした装飾の施された大剣だ。その大剣が今、俺の目の前に、魔法陣から出現し、地面に突き刺さった。


「な、なんなの? その剣……」


「大剣――幻竜王(バハムート)……」


「は? え? はぁ?」

「うそ……」


 剣を地面から引き抜き、一歩、二歩と進む。


「――――――――――ッ!!」


 そんな俺を見てか、翼竜が再び咆哮を上げたが、その咆哮には僅かに恐怖の感情が込められていた。


 幻竜王(バハムート)

 かつて存在した、竜種の頂点に君臨していた竜王の名だ。

 その竜の素材を元にこの剣が創られた。

 そう姉は言っていた。そして――


『シファ君。この剣を使う時は要注意だよ。圧倒的な攻撃力と破壊力、さらに貫通力も兼ね備えているけど、幻竜王(バハムート)の魂が宿っちゃってるから。長時間の使用は危険だからね』


 手にしてみて、その姉の言葉の意味を理解した。

 大剣から伝わる幻竜王の意思と感情。なるほど、気を強く持っておかないと、逆に俺が大剣に使われそうになってしまう。


 一歩、二歩と前進すれば、翼竜は同じだけ後退していく。

 この大剣を恐れているらしい。

 一介の竜種である翼竜と、竜種の頂点である幻竜の王では、力の差は歴然というわけだ。


 そのまま、どこかに飛び去ってくれれば楽なんだが。


 どうやら、そうもいかないらしい。


「――――――――――!!」


 翼竜が大きく口を開いた。

 さっきまでの威嚇の咆哮ではなく、これは咆哮(ブレス)だ。

 つまりこいつは、逃げるのではなく攻撃を選択した訳だ。


「ちょっと!」

「シファ!!」


 リーネとルエルの声を後ろに聞きながら、俺は大剣を掲げる。


「大丈夫だ」


 翼竜の口腔から放たれた炎の咆哮。


「はあっ!!」


 俺は大剣を振り下ろし、その炎の咆哮ごと――


 ――翼竜を剣戟にて分断した。


 炎の咆哮は霧散し、翼竜の体は中心から綺麗にふたつに別たれ、地響きと共に地に伏した。

 どうやら、無事に討伐できたようだ。


「うそ……」


 そう声を漏らすリーネ。

 目の前にいた翼竜が瞬く間に討伐されて消えた。それを理解して力が抜けたのか、リーネがその場にへなへなと座り込む。


「……おい、大丈夫か?」


「…………」


 まずいな。

 極度の緊張から解放された反動なのか、リーネが茫然とした表情で俺を見つめている。

 心なしか頬も赤い。


 少し休ませてやりたいが、そうもいかない。

 俺達も早く教官と合流しなければいけないのだ。

 ここは深層で、今回の俺達の行動は明らかに命令違反。ユエル教官になんて言われるか……。


「おい高飛車、休ませてやりたいが早く戻った方がいい。手を貸してやるから立ってくれ」


 そう言って、座り込むリーネに手を伸ばす。


「……ネ」


「は?」


「リーネ。さっきもそう呼んでたでしょ。高飛車はやめて」


 なんだこいつ。

 急にしおらしくなりやがった。

 お前そんなキャラじゃねーだろ! やめろよ、可愛く見えてしまうだろーが!


「お、おう。リーネ、早く戻るぞ」


「……うん」


 ともあれ、早く戻らないといけないのは事実。

 ちゃんとリーネの名を呼ぶと、素直に俺の手を取ろうとするが――


「はいはい! リーネさんには私が手を貸してあげる。さぁ、リーネさん?」


 割って入るようにしてルエルがリーネの手を掴んだ。


「はぁ!? いらないわよ! 自分で立てるんだから! 触らないでよ!」


「あっそ? じゃあ自分で立ってもらえる?」


「ふんっ!」


 ……お前らは本当に仲が悪いのな。



執筆の励みとなりますので、評価やブックマーク、是非お願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 武器を収納している描写を希望します。
[気になる点] 良い奴ではない。だいたい、まだ謝罪すらしてないのに有耶無耶にするのは良くない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ