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#138 《戦乙女の竜種調査 弐》

 

「いただきます!」


 運ばれてきた『キツネうどん』という料理に手を合わせてから箸を使って口に運ぶ。

 ちゅるちゅると太めの麺を吸えば、ほんのりとした甘さと僅かばかりのしょっぱさが口いっぱいに広がり、何とも言えない気持ちになる。

 そして、麺の上にどかりと置かれた『お揚げ』を箸で適度な大きさに千切り、パクリと頬張った。


「ん〜ッ!! 美味し〜ッ!!」


 思わず、箸を持たない左手に力が入りブンブンと振り回してしまう。


 イナリの大通りに面した、とある料亭にローゼはやって来ていた。

 竜種に関しての説明を聞き終え組合を出ると、時刻は丁度お昼時だったためとりあえず昼ご飯にしようということで選んだのがこの店だった。

 大通りには様々なお店が立ち並び、どこに入ろうか散々悩んだローゼだったが、大当たりを引き当てた。


「チッ、何を呑気に飯などを……」


 だが、そんなローゼに対面する形で腰掛ける男、ロンデルは不機嫌顔だ。


「ってかなんで一緒に座ってるの? 外で待っててって言ったじゃん。せっかくのたまちゃんうどんが不味くなるでしょ?」


「時間が惜しいからだ! これからの行動の方向性を話し合わねばならんからだ!」


「……ったく」


 お昼ご飯くらいゆっくり食べさせて欲しいものだと腹を立てるが、ロンデルが言うことも正しい。

 ローゼは渋々、話を行う姿勢を整えた。と言っても、テーブルの上に書類を取り出したロンデルとは違い、あくまで会話を行うという心構えだけだ。

 食事をしながら書類を捲るなどと行儀の悪い行動は取らない。


 こうして、二人は今後の活動についての話し合いを開始した。

 まず初めに現在の状況を整理することから始める。

 今回の依頼は、王国の第一王女であるグライシャ・エーデルヴァイスからのもの。大陸で発生している竜種の狂暴化という現象についての調査が主な目的であり、可能であれば狂暴化した竜種の討伐も目的の一つとなっている。

 冒険者だけでも、王国騎士団だけでも手が足りず、両者が合同で行うことになった依頼だ。

 冒険者と王国騎士が二人一組(ペア)となることで、冒険者組合が管理している区域、国が管理している資材や施設などの利用を円滑に行える点も考慮されている。


「この報告書を見る限り、イナリの状況は王都で聞いた物とはかなり異なってしまっているようだな」


 組合から受け取った報告書をペラリと捲るロンデル。


「あの時の話では、イナリでは翼竜が狂暴化し活発に活動しているという話に留まっていた筈だがな」


 ロンデルの言葉を、食事を楽しみながらもしっかりと耳に入れるローゼ。

 時折、軽く頷いて見せる。


 王都を訪れて、王国騎士団長のクレアより今回の依頼の説明を聞いた時からそう日は経っていない。だと言うのに、ロンデルの言う通りイナリの状況は著しく変わってしまったと言える。

 存在する筈の無い竜種と、狂暴化。そしてやはり最も気になるのは、最近になって目撃された黒い鱗の竜だった。

 もしこの目撃情報が、もっと早くに挙げられていたならイナリの優先順位は数段上がっていた可能性がある。


「ともあれ、まずは調査を進めるしかあるまい。もしコレが本当に幻竜王誕生の前兆ならば、何としてでも阻止せねばならん!」


「ごちそうさまでしたっ!」


 ロンデルの言葉に被せるように、手を合わせて美味しく食事を堪能出来たことに感謝の言葉を口にするローゼ。

 そして静かに立ち上がる。


「どこへ行く!」


「どこって……トウロウ高地でしょ?」


 キッパリとそう言い放ち、さっさと歩いていく。


「ちっ!」


 軽く舌打ちをしてから、ロンデルもローゼの後を追うように立ち上がった。


 ◇◇◇


 イナリ山をぐるりと迂回し、北側に位置する『上門』から延びる街道を進むとトウロウ高地と呼ばれる場所にたどり着く。


「あのめちゃくちゃ大きいのがアラシ山だね」


 冒険者組合が運用している馬車から降りて、遠くに視線を向ける。


 トウロウ高地の中でも更に高く、聳え立つように存在感を放つ山が遠くに見えている。


「ふむ……今の所、特に変わった様子は見られんな」


 空は快晴。空気もよく澄んでいるようで、トウロウ高地一帯の見通しはかなり良い。時折吹き抜ける風がローゼの長い髪を揺らしている。

 少なくとも、二人の見える範囲に竜種は存在していないようだった。


「暫く進んだ所に湖があるみたい。とりあえずソコを目指そう」


「……良いだろう」


 トウロウ高地の地図を確認しながら歩き出す。

 アラシ山まではかなり距離がある。トウロウ高地に出現する竜種の調査を行いながらだと、とても一日でたどり着ける距離ではない。調査任務の間は、毎日キャンプを行う場所を決めて行動する必要があった。


 現状、トウロウ高地への立ち入りは制限されていないが、竜種の目撃情報が増えている事実は周知されているためか、周辺に人の気配は無い。

 少し歩いた所でようやく、遠くに魔獣の姿が見えてくる。とは言え、何も特別な物ではなく本来この場所に生息している魔獣だった。

 そんな、なんの異変もないように思えるトウロウ高地を暫く進む。


「ところで貴様、総団長を呼び捨てにしていたが、"絶"級冒険者だからと言って調子に乗らないことだ」


 もう暫く進めば野営場所に決めた湖に到着するといった時、ふいにロンデルがそんな事を口走る。


「なんなの? 急に」


「貴様が鳳凰を討伐した事実は認めよう。そして今回の合同任務もな。だが、総団長は貴様が気安く呼び捨てにして良いようなお方ではない!」


「なにそれ」


「貴様が冒険者の頂点だろうが、総団長の実力には遠く及ばないということだ! その事を理解しておけ!」


 やはり面倒臭い男だなと、ローゼは呆れてしまう。

 少しずつ日は傾き、随分西へと落ちている。心地の良い西陽を見ながら小さくため息を吐いた。


「はいはい。分かってます――」


 王国騎士団総団長クレア。彼女のことを名で呼んでいるのは単に仲が良いから。ソコに実力による上下関係など一切存在せず、考えたこともないローゼだったが、面倒臭い男と面倒臭い会話をコレ以上続けるのも面倒臭いため、そう流そうとした――のだが。


「ッ!?」

「なっ!?」


 一瞬、大きな影が二人の頭上を通過した。かと思えば、ゴウッッ!! と、物凄い突風が二人を襲う。

 それに続くように、ドシンと大きな地響きが足下から伝わってきた。


「な、なんだコイツは――」

「……」


 どうやら、二人の頭上を高速で通過した何かは、そのまますぐに目の前に着陸した。


「グルルルルル」


 咆哮ではない。目の前に降り立った何かは二人を静かに威嚇するように、声とも言える音を発している。


 見た目は竜種。巨大な体躯は黒い鱗で覆われていた。


「皇帝竜……ではない。なんなんだコイツは!?」

「……」


 ロンデルの問いに、ローゼも答えることが出来ない。

 目の前の竜種がなんなのか、ローゼですら知らなかったからだ。

 そんな二人のやり取りに刺激されたからなのか――


「――くっ!?」

「ッ!!」


「――ΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧΧ」


 その巨体よりも更に大きな六枚の翼を広げながら、耳を塞ぎたくなるほどの咆哮を放った。

 ビリビリと、二人の身体が痺れる。攻撃を浴びた訳では無い。ただ単に、威嚇による咆哮だ。


(こ、この竜種っ)


 緊張感に包まれる。

 眼の前の黒い竜種が放つ異様な雰囲気が、ローゼをすぐさま臨戦体制へと移行させた。

 そして黒い竜種も、咆哮を終えるとすぐに姿勢を低くする。


 体の痺れが取れるが先か、体を動かしたのが先かは分からないが、瞬く間に距離を詰めながら腰に差した白石桜の長剣を抜いた。

 ローゼの視線が捉えているのは、黒い竜種の瞳だ。

 白石桜の長剣では、この黒い竜種の鱗を貫通することは難しいと判断しての行動だった。

 本来なら、超速収納により武器を取り出したい所だが、著しく速度の落ちた超速収納では間に合わない。そして何より、そんな事に大切な魔力を消費している暇は無い。


 とにもかくにも、ローゼは目の前の黒い竜種を危険な存在と定めたのだった。


 黒い竜種の懐に飛び込み、右足で地面を強く蹴ることで全身に回転を加える。その遠心力も加え、敵の瞳の一つを切り刻むべく長剣を振り抜いた。


 しかし、黒い竜種との距離が詰まっていない。


 ローゼが地面を蹴り、飛び上がったと同時に黒い竜種も空へと上がっていた。


「そんなっ」


 頭上で大きく翼を広げた黒い竜種は、その禍々しい大きな口腔を力いっぱいに開いている。

 周囲の空間が歪む。

 ――咆哮(ブレス)が来る。直撃する。

 そう確信するには充分なほどに、絶望的な状況だった。

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