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#115 《魔喰い蛇》

 

「またねー!」


 ヒラヒラと左手を軽く振りながら、去っていく二人の"初"級冒険者の背中に別れの言葉を告げる。


「…………」


 次第に暗くなりつつある中で、ラキアは二人の背中が見えなくなるのを確認してから歩き出す。

 行き先が決まっている訳ではない。強いて言うならば、人気の少ない所を選んで歩く。

 そうして暫く歩いていると、自分のすぐ隣に人の気配があることに気付く。しかし足を止めることはしない。


「ラキア。冒険者ごっこは楽しかったか?」


 男の声が隣から聞こえた。

 構わず歩き続ける。隣の男の気配は、ラキアの速度に合わせてついてくる。ピッタリと横に並んでいるのだと理解した。


「楽しい?」


 ハッ――とラキアは鼻で笑ってしまう。


「楽しい訳ないでしょ? マジで気持ち悪いよ。ちょっと私が庇ってやるだけで泣いちゃってさ……ホントぶっ殺してやろうかと思っちゃった」


 思い出すだけでも寒気がしてしまう。

 何が楽しくて冒険者の振りをして冒険者と共に行動し、更には冒険者を護らなければならないのか。

 出来ることなら、目的のためだとしてもこんなことは二度と御免だ。


「まぁでも……収穫はあったから良しとするよ」


「しかし驚いたぞ。お前が冒険者のためにあのような行動に出るとはな」


「しょうがないよ。あの少年と一緒にいた女のコがさ、かなり疑り深い性格だったんだよね。でも、そのおかげで確信が持てたよ。ガレスの情報もあるしね」


 思わず顔がニヤけてしまう。

 無理をしてでも冒険者の振りをした甲斐があったという物だ。


「玉藻前……戻ってきてるみたいだよ。しかもあの少年に憑いてる」


「ほう……」


「火炎竜の攻撃から護ったんだよ、青い炎でさ。ホント有り得ないよね、魔獣のクセにさ」


 吐き気がする気分だ。魔獣と人間が馴れ合うなど想像するだけでもおぞましい。

 魔物や魔獣など、殺してしまうか、利用して殺すかのどちらかだ。そして討伐部位を素材として強力な武器や魔道具を獲得し、更に魔物や魔獣を殺す。

 それが、自分達の存在意義だ。


「なら、優先順位は変わったな」


 男の問い掛けに、ラキアは嬉しそうに答える。


「うん。玉藻前を討伐して部位を奪う。玉藻前が死ねばイナリ社を見つけるのもすぐだよ」


 当初の目的はイナリ社だった。しかし玉藻前が戻ってきている事実と、その妖獣に深く関わっている冒険者の出現で目的が変わった。


「ふっ、人間を護る玉藻前など討伐するのは容易か……」


 軽く笑うことで、肯定の意思を示す。

 危険指定レベル18の妖獣が人間に入れ込んでいる。『憑く』とはそういうことだ。そしておそらく、あの少年も玉藻前のことを良く想っているのだと予想がつく。

 この人間と玉藻前の関係を利用すれば、討伐する方法など幾らでも思い付く。


「それで? その玉藻前が憑いた冒険者の実力はどの程度の物だ?」


 少年と火炎竜の戦いを思い出す。


「かなり強いね。超速収納ははっきり言って反則だと思うよ。ってか『戦乙女』以外に使える人いたんだね」


 戦闘の光景を思い出して真っ先に思い浮かぶのは、やはり超速収納だった。激しい戦闘中でもお構い無しに持ち替えられる武器は厄介極まりない。

 だが――


「でも大丈夫かな。彼、実戦経験はあまり無いみたいだよ。私の腕が吹き飛んだ時の顔……思い出しただけでも笑っちゃいそう」


 いくら強力な技能(スキル)を有していたとしても、経験の差は技能の差を容易く覆す。

 状況を用意した上なら、仮に一対一であの少年と戦闘になったとしても、負けることなど考えられなかった。いや、寧ろ好都合とさえ思える。


「そうか。だが一応コレは渡しておこう」


 そう言いながら、男はラキアに一つの瓶を手渡した。

 豪華な装飾の施された小瓶。中では、白銀色に淡く輝く液体が揺れている。


織姫の霊薬(エクシア)だ。持っておけ」


「あはっ! ありがとー! 流石、気が利くね」


「ギルドが王都で奪った物だ。大切に使えよ」


 大方の情報共有はコレで済んだ。男も、この霊薬を渡すのが目的の主だったようで、歩く速度が緩やかになっていく。


「あ、そうそう」


 そう言えば言い忘れていたことがあったと、ラキアは立ち止まる。


「火炎竜を寄越すタイミング、完璧だったよ。次もヨロシクねー」


 ラキアの言葉に軽く笑った素振りを見せてから、男は夜の闇へと紛れて消える。

 仕事に従事する時はいつもこうだ。ほんの僅かな時間のみで、必要な情報を共有する。冒険者組合に目をつけられている以上、ギルドメンバー同士が一緒にいる所を見られるのは色々と不都合が多い。


(私は組合に顔が割れてるしね)


 冒険者組合の組合員には、中には厄介な者も存在している。

 そんな組合員の前にはあまり出たくはない。だからこそさっきも、討伐証明部位を少年に代わりに持って行かせたのだ。


 少年は自分に何の疑いも持っていないように見えたが、少女の方はやはり、少しの違和感を覚えているようだった。


(ま、どうでも良いか。後は利用させてもらうだけだしね)


 そして徐に、服の中から首飾りを取り出した。

 三角形の紋章が刻まれた石が嵌め込まれている。

 コレを見るとまた吹き出しそうになるくらい笑えてくる。本当に冒険者は馬鹿ばっかりだ。

 コレを見せるだけで、馬鹿な冒険者は仲間だ先輩だと擦り寄ってくる。ソレが本物か偽物かなど疑いもしないのだから尚面白い。

 勿論コレは本物だ。だがラキアの物ではない。馬鹿な冒険者から奪った物だというだけ。


(ま、流石にコレを組合に見せる訳にはいかないけどね)


 経験乏しい馬鹿な冒険者は騙せても、組合を騙すことは不可能だ。どういう訳か、組合員が見ればその冒険者証が本人の物かどうか分かるらしい。

 この仕組みの謎を知ることも出来たら、自分たちのギルドは更に動きやすくなるのだが、今は難しい。


 ラキアは、冒険者証を左手で握り潰す。

 不要になった物をいつまでも持っているのは嫌いだ。


 利用するものは利用し、いらない物は始末する。

 ラキアの所属する狩人(ハンター)ギルド――魔喰い蛇(ニーズヘッグ)とは、そういう所だ。


 ぷらぷらと、冒険者証だった物の破片で汚れた手を払いながら歩き出す。


 ()()は、自分たちのやっていること全てが、魔神種を根絶やしするために必要なことなのだと……信じている。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界に機械技術、何より義肢技術が発達していたら右腕サイボーグ化のラキアが拝めそうでワクワクしましたね。
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