#112 討伐護衛
「まずは自己紹介だね。私はラキア。ラキア・カルベルだよ。気軽にラキアって呼んでよ!」
組合内に設けられた休憩スペース。そこの机に腰を落ち着けると、彼女はそう名乗ってきた。
「俺は」
「私はルエル、そして彼はシファよ、よろしくね。気軽にシファ、ルエルと呼んでくれて構わないわ。ね? シファ」
「あ、あぁ」
俺が名乗ろうとした所に被せてくるルエル。まるで俺に自己紹介させたくないみたいな強引さに呆気に取られてしまった。
「シファくんに、ルエルちゃんだね。うんヨロシク!」
「それで? 依頼について詳しく話してもらえる?」
自己紹介よりも、早く依頼の話を聞かせろ。といった具合にルエルが話を進めさせる。
「うん。依頼……というよりかは魔獣討伐に行くんだけど、君達も私に協力してくれないかなっていうお誘いなんだよね」
「魔獣討伐……となると討伐報酬か」
「そういうこと。討伐証明部位を持ち帰って、組合から報酬を貰うんだよ」
そうだな。なにも依頼書が発行されている依頼を引き受けるだけが冒険者の仕事じゃないもんな。
掲示板に貼られてる量の依頼書を見たせいで、そのことがすっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
「俺は良いと思うぞルエル」
「ちょっと待って。私達もっていったいどういうこと?」
「実は、君達以外にも幾つかの冒険者パーティーにも声をかけさせてもらったんだ。アレだね、臨時パーティーだね」
臨時パーティーか。幾つかの冒険者パーティーで結成した、その時のみの臨時の冒険者パーティーだ。
「魔獣討伐って、どんな魔獣を討伐しに行くんだ?」
「そうだねぇ、場所はイナリの上門から出てぐるりとイナリ山の裏まで回る道中の魔獣を討伐しようとおもってるんだ。危険指定レベルは5〜7くらいだね」
ピクリと、彼女に向けるルエルの視線が厳しくなるのが分かった。
「貴方が声をかけた冒険者の等級がどの程度かは分からないけれど、少なくとも私達は"初"級冒険者よ。レベル5以上の魔獣は、初級冒険者の手には負えないわ」
うん。一般的にはそうだ。
危険指定種は"中"級以上の冒険者が対処するのが普通だからな。
「だ、大丈夫大丈夫! 君達はあくまでも私の補助としてついて来てくれれば良いから」
「ラキアは"中"級冒険者なのか?」
「そうだね、一応見せておかないとね」
そう言って、ゴソゴソと服の中を漁り出すラキア。
そしてチラリと俺達に見せた首飾りには、三角形の紋章が刻まれていた。
「私"上"級冒険者だから、安心してよ」
ニカッと自信満々に笑って見せた。
◇◇◇
結局、俺達はラキアの申し出を受けることにした。
魔獣討伐はこのあとすぐに向かうらしく、準備が整い次第イナリ上門に来てくれということだ。
「なんか信用出来ないのよねあの人」
ルエルが口を尖らせている。
ラキアとの話を終えて、既に準備は整っていた俺達だが、軽く相談してからこうして上門へと向かっている。
ラキアは、話が終わるとすぐに上門へと向かったようだ。
「わざわざ私達に声をかけたのが、余計に気になるのよ」
こんな調子で、魔獣討伐の話に乗ることに賛同してくれたものの終始ご機嫌斜めだ。
「まぁいいじゃん。俺達以外の冒険者との関係を築いておくのも大切なことだろ? それに、ルエルの言うとおり何か裏があるのなら尚更放ってもおけない気がするしな」
「貴方は警戒心が足りな過ぎる気がするわ」
「その分、ルエルが色々と気にしてくれてるからな。頼りにしてるよ」
「……何よそれ」
ハァ、とため息を吐くルエルだが、少しだけ機嫌は直ったようだった。
イナリの街を抜けて、約束の上門へと辿り着く。
ラキアと、彼女が声をかけたと思われる数名の冒険者が既に集まっていた。
ラキアは単独のようだが、集まっている冒険者は俺達を除いて四人。俺達と同じく二人組のパーティーが二つのようだ。
「これで全員だね。詳しい話はそれぞれに済ませているけど、この上門からイナリ山の裏手までに生息している危険指定種の討伐の手伝いをしてもらうから」
上門から北に伸びている街道から逸れて、イナリ山の裏までぐるりと行って帰ってくる。道中には様々な魔獣が生息していて、その中の大物の危険指定種一体を討伐するのが今回の狙いらしい。
具体的に何を狙っているという訳でもなく、お金になる危険指定種一体くらいは討伐証明部位を持ち帰りたいね。ということのようだ。
「基本的に危険指定種の相手は私がするから、君達はそれ以外魔獣を私に近付けないようにして欲しいんだ」
護衛みたいなものだ。
危険指定種と出会した時に、彼女が戦闘に専念出来るように魔獣を近付けさせなければ良い訳だな。
「報酬だけど、危険指定種の討伐報酬は6割が私。残りを君達で平等に分配。それ以外の魔獣の討伐報酬は、討伐したパーティーの物だから」
集まった冒険者達から文句を口にする者は出てこない。
危険指定種の相手はラキアが引き受けるにもかかわらず、その報酬の一部を貰えるんだから、美味しい話にしか聞こえない。
「じゃ、みんな自己紹介してから早速向かおっか!」
◇◇◇
ラキアを先頭にして、それぞれの冒険者ペアが左右から少し後ろの位置でついていく。俺達は一番後ろだ。
他の二つの冒険者パーティーとも軽く会話したが、どうやらどちらも"初"級冒険者のようだった。
「どうだルエル。何か気になる所でもあるか?」
相変わらずルエルはラキアのことを信用出来ないらしい。
さっきから前を歩く彼女のことを注意深く観察しているのだ。
「いえ、特には……強いて言うなら、親切過ぎることくらいかしらね」
それはこの魔獣討伐のことを言っているのだろうか。
たしかに、考えようによっては彼女からのこの依頼、"上"級冒険者の彼女が"初"級冒険者の俺達を、魔獣討伐へと連れて行ってくれてるようにも見える。
実力も経験値も上の"上"級冒険者が一緒なら、か弱い"初"級冒険者の俺達は安心して討伐に向かえるからな……。
「おっと、魔物だね。上位ゴブリン。危険指定レベル3。私はまだあまり魔力を使いたくないから、頼めるかな?」
前方から棍棒を抱えた二体のゴブリンが近付いて来る。
彼女の言葉に頷いた二組の冒険者が前へと出る。二体のの上位ゴブリンに対して四人の"初"級冒険者。
それぞれ二体一という状況を作り出し、確実に仕留めて見せた。
「うん、お見事。やっぱり手堅く仕留めるのが一番だよね……って、げっ」
見事上位ゴブリンを討伐して見せた冒険者に、うんうんと感心していたラキアだったが、その表情が青ざめる。
見ると、更に前方から飛来してくる影がある。
「うわっ……コカトリスじゃん。危険指定種かぁ……大物ではないけど、流石に君達に相手させる訳にも行いかないもんね」
危険指定レベル4。危険指定種であるコカトリスは"初"級冒険者には荷が重い。勿論、倒せない相手では無いと思うが、それなりに苦労してしまうだろう。
なら、"上"級冒険者である彼女の出番だが、あまり乗り気ではないらしい。
「よし、じゃぁ俺が」
なら俺がサクッと片付けよう。
そう思って前に出ようしたのだが。
「シファはそこにいて」
「――ッ!? え、ちょ! ルエル!?」
肩を掴まれ静止させられた。
代わりにルエルが素早く駆け出し、上位ゴブリンを討伐し終えて安心しきっている冒険者達に空から迫るコカトリスへと向かう。
「お、俺の出番は……?」
「うわっ、はやっ」
ラキアを追い越し、自分達へと素早く向かってくるルエルの姿を見て、冒険者達もようやく背後にコカトリスが迫っていることに気がついた様子。
そしてルエルはそんな彼等には目もくれずに素早く跳躍し、今まさに翼と口から毒の霧を吐こうとしたコカトリスの体に軽く触れる。
すると――パキィンッ!! という涼し気な音と共ににコカトリスは一瞬にして凍りつき、地に落ちた。
「え?」
「いったい何が……」
「さぁ、先へ進みましょう」
着地したルエルが、少し乱れた髪を軽く整える。
まるで何事も無かったのような涼し気な表情だ。
「凄いねルエルちゃん。それどんな魔法? あまり見たことない魔法だよね? 相手の体に魔力を送り込んで魔力を氷へと変えたってこと? だとしたら凄い魔力操作能力だねぇ」
興味津々と言った具合に、凍りついたコカトリスとルエルに交互に視線を向かわせるラキア。
他の冒険者達には何が起きたのかサッパリ理解出来ていないようだ。
「……詮索されるのはあまり好きじゃないわ」
「うーん、そっか……そうだよね、それじゃ先へ進もっか」
『ごめんねー』と軽く謝罪の言葉を口にしてからラキアは再び前へと進む。
今のルエルの態度を見せられてか、他の冒険者達からも何か聞かれることは無かった。
「なぁルエル。別に俺がやれば良かったんじゃないのか?」
ルエルがあそこまでしなくても、俺なら剣を投げて討伐すればそれで終わった話だ。
「そうだけど、出来れば今回貴方は大人しくしておいて欲しいわ」
「え、なんで?」
「敢えて言うなら……一応ってところかしら」
「何だそれ……」
「ごめんなさい。私の考え過ぎかも知れないから、これが終わればちゃんと話すわ」
「おーい、早く行くよー!!」
少し遠くなってしまったラキアからの声を聞いて、俺達も再び足を動かした。
◇◇◇
出会す魔獣や魔物を俺達冒険者が討伐しながら進むこと暫くした所で、全員足を止めて木陰に見を潜める。
陰に隠れながら前方に視線を向けると、少しばかり拓けた空間に一体の魔獣の姿があった。
「嘘だろ、大物ってアレのことか? どうしてこんな所に?」
一人の冒険者が声を震わせている。
大きな翼をバタつかせ、どこか落ち着きがないように見える。時たま『グルル……』と小さな咆哮が聞こえていた。
危険指定レベル7、翼竜だった。
「そ、翼竜。ちょっと目撃情報があってさ、もしかしたらいるかもって思ってたんだけど……やっぱりいたね。ラッキー」
この口ぶりから察するに、初めから目当ては翼竜のようだった感じだが……いなければその時は別の危険指定種を討伐しようとしていたらしい。
「安心してよ。翼竜は私ひとりで片付けるからさ。君達は騒ぎに釣られてやって来た他の魔獣達を近付けさせないようにしてくれたら良いから」
「勝てるのか?」
「え? ちょっと勘弁してよ、勝てるよー。でも他の魔獣まで相手する余裕は無いかもだから、ヨロシクね」
スックと立ち上がり、翼竜を睨みつけるラキア。
なら俺達も、ちゃんと与えられた仕事をしよう。そもそも、これが今回の俺達への依頼な訳だからな。




