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#103 《狩人の兄妹》

 

「こんだけの狩人が集まってんだぜ? 危険指定レベル18の妖獣だろうが余裕だろっ!」


 宿酒場――蓮華亭内で、人目もはばからずに高笑いする狩人の男のその声は、周囲の喧騒にのまれて消える。この男の連れであるもう一人の狩人以外に、今の会話を聴いていた者は少ない。


 しかし、その大きな声は……確かに蓮華亭内に響いていた。


「兄さん……実際のところ、イナリ山の主……妖獣――玉藻前は本当にイナリにはいないのですか?」


 蓮華亭の一角。店内を見回せる席に座る二人組。

 その机に置かれているのは、果実水と――(イナリ)酒と呼ばれる度のキツい酒のみ。

 騒がしい店内とは裏腹に、この机の雰囲気は落ち着いていた。

 立ち入り制限が解除されるイナリを目的とした狩人や冒険者が多く立ち寄るであろう宿酒場で、可能な限りの情報を手に入れるために意識を研ぎ澄ましていた。


「……その筈だが、狩人の俺達には冒険者共の新しい情報は入って来ねえ。万が一ってこともある、ギリギリまで情報は集めておかねーとな。ここには冒険者共も多くいやがるし、玉藻前の新しい情報もあるかも知れねーからな」


 狩人は、組合などと言った組織には属していない。

 魔物の出現、街の立ち入り制限、魔境化、魔神種の出現……という情報は全て自力で得るしかない。

 そんな彼等にとって、人の集まる宿酒場は情報収集にはもってこいの場所だった。雑音のような会話から有益な情報を盗み聞き、繋げることで、新たな情報となることがある。


「イナリ社の妖獣……玉藻前。兄さんは、どちらかと言うと居て欲しい――って思ってますよね?」


 意識を店内に向けたままで、少女が対面の男にそう訊ねた。


「まぁ、正直に言えばどっちでも良い。いなけりゃイナリ山の探索が楽。もし居たなら――」


 ビシッ――と、親指を突き立てた握り拳で、自らの首を斬る仕草を取る男。ニカリと笑って見せる。


「どんな手を使ってでも、討伐してやるさ」


 ――勿論、俺達二人だけでな。と、付け加えた。


「危険指定レベル18……果たして、倒せるのでしょうか」


 強気な男とは対照的に、少女の表情には不安と恐怖と言った色が見える。


「危険指定レベル18か……確かに、そんな超高レベルな化物、正面からやりあえば、まず勝てねえな」


「…………」


「だがよ、玉藻前は……コチラから手を出さねぇ限りは人を殺さない。……と、言われてるらしいぜ」


「『らしい』ですよね。その話は当然、私も知ってますけど……」


 ――結局のところ、玉藻前を討伐するには手を出すしかないのだから……返り討ちに遭うだけじゃないのか。

 と、少女は首を捻るが、男はニヤリと笑いながら話を続けた。


「その性格を利用すれば、なんとか討伐することは出来んだろ。これまでもそうやって、俺達は頭を使って高レベルの魔物を討伐してきた。仮に玉藻前が居たとしても……これまでと何も変わらねーよ」


「そう……ですね。はい。兄さんの言う通りです」


 兄の言うとおり、これまで二人は幾度となく高レベルの魔物や魔獣を討伐してきた。その中には格上の相手も存在した。

 そんな格上が相手の場合は、頭を使い、工夫する。自分達にとって有利な場所や状況を作り出し、敵を討伐する。

 そうやって、二人は死線を潜ってきたのだ。


 しかし――少女の不安が拭い去られることはない。


 妖獣――玉藻前。危険指定レベルは18。

 数字が大き過ぎる。二人がこれまで出会ってきた魔物や魔獣の危険指定レベルは十前半が良いところ。

『18』というレベルを冒険者組合から定められた妖獣に手を出して……もし、本気で自分たちの命を狙って来たら? 有利な場所で、有利な状況を作った上で弱点を突いても尚――まるで手の届かない域の強さだったら?


 少女は――これまで感じたことのない『嫌な予感』に支配されていた。


 そんな妹の不安を、男は表情を見ただけで感じ取る。


「フィリス……大丈夫だよ。もし本当にヤバくなったら逃げりゃ良いだけの話だ。俺達は魔物を討伐しなきゃ生きていけねー狩人だが、狩りをするために生きてる訳じゃねーからな」


「……はい」


 目の前の兄の言葉は、少しだけ少女を安心させた。


 妖獣――玉藻前の耳や九つの尾と言った部位素材は、どれだけの値が付く代物か見当もつかない上に、武器の素材として使用すれば……玉藻前の力を宿す強力な装備が手に入る。

 もし討伐出来るのなら、是が非でも討伐したい。狩人にとって、玉藻前とはそんな存在だ。

 しかし、討伐出来ればの話。

 目の前の宝に目が眩み、勝てない相手に勝負を挑み命を落とす。狩人に最も多い死に方だが、兄がそんな愚かな狩人ではないことを知っている。


「けどなフィリス。俺は玉藻前……決して勝てねえ相手じゃねえと思ってるぜ?」


 そう言いながら、男は少女の右手に視線を向ける。


「お前が、その大斧――幻竜王(バハムート)を使いこなせさえすれば……な」


「兄さん……これは――」


「分かってるよ。微量だが、幻竜王の素材が使われた斧。完全に使いこなすのは不可能に近いってことくらいな」


「はい。魔力を流し込むと、全身の魔力を持って行かれそうになります。……精々、二度振るうのが限界です」


 自身の収納空間に納めてある大斧。

 かつて大陸を襲った竜王の素材を微量に含んだ物。その斧の力を存分に発揮出来ていないにもかかわらず、三度も振るえない。

 自分の不甲斐なさに、少女はまたしても落ち込んでしまう。


 ――もし、この大斧を完全に使いこなせさえすれば……有利な状況下で兄と連携し、隙を狙えさえすれば、()()に玉藻前を討伐出来るんじゃないだろうか。

 しかし、この大斧を使いこなすことが出来ないのは、自分がよく分かっていた。


「そんな顔すんなよフィリス。その斧、俺には扱えねーし、二度も振るえれば十分だろ」


 男は、肩を竦めながら話す。


「そんな化物の武器……完全に使いこなして、尚且つ振り回せる奴なんざ、この世界に一人しかいねーよ」


「"戦乙女"……ですね」


 少女も、少しだけ呆れながら口を開いた。

 自分たちも、別に弱いと言う訳ではないが……あまりにも住む世界の違う存在の女性。

 その女性の持つ武器の完全に下位互換ではあるが、同じ素材の武器を持っている事実と、ソレすらも満足に扱えない自分。

 そして、そんな自分すらも、凡人よりはまだソレを扱えていると言う現実に、呆れた。


「おー、こわ。フィリス、この話はこれで終わりだ。明日の準備もあるし、今日はここまでだ。部屋に戻るぞ」


「はい兄さん」


 あまり減っていなかった果実水を一気に飲み干して、席を離れる兄の後を追う少女。

 知らない人間から見れば、二人はただ仲の良い兄妹のように写るだろう。


 しかし彼等は、これまで数多くの修羅場を潜り抜けてきた狩人であり、山岳都市イナリを訪れた――数多くの狩人の内の二人である。



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― 新着の感想 ―
[一言] おいおい、こいつら死んだわ(笑)フラグむんむんじゃん てかバハムートの斧とか…(笑)ありがとう!主人公の戦力増強だね!なんならクズっぽい兄は捨てて妹ちゃん!主人公についていけばいいよ! …
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