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#102 イナリ山の秘宝

『姉に言われるがままに特訓をしていたら、とんでもない強さになっていた弟』書籍第1巻が1/15に発売されました。

アース・スターノベル様のホームページに、特集ページがありますので、気が向いたら覗いてみてください。


この作品がここまで続けられているのも、皆様の応援あってのものです。

改めて、ありがとうございます!


更新頻度が不定期となっておりますが、変わらない応援をお願いします!

 

 狩人(ハンター)の二人に遭遇した俺達は、イナリへの道を急ぐことにした。

 別にゆっくりと進んでいた訳ではないが、あの二人の言っていたことが少し気になり、更に速度を上げることにした。


 狩人の二人に討伐された翼竜は、翼の鱗や牙、更に爪と……あらゆる部位が回収された状態で横たわっている。さっきの兄妹、やけに慣れた手つきだったな。


「ルエル……狩人について、詳しく教えてくれ」


 地に伏す翼竜を横目に、速足に進みながら問いかけた。


「……そうね、私もあまり詳しい訳ではないけど、知っている範囲でならね」


 ――やっぱり聞いてくると思った。みたいな表情だな。


「狩人は冒険者と違って、『組合』のような組織には属していないわ。全て自分の判断で行動する。主な活動は魔物や魔獣の討伐に、秘境の探索」


 チラリと、一瞬だけ玉藻前がいるであろう場所に視線を向けてから、更に話を続けた。


「収入源は、討伐した魔物の素材や秘境で手に入れた貴重品を売却……と言った所でしょうね。冒険者(私たち)のように、組合を経由しての依頼をこなしたりはしないわ」


 つまりは、全て自力でこなしている連中。と言うことだろうか。そう考えると、尊敬出来なくもないようにも思える気がするな……。

 もし俺が冒険者になっていなかったら、その狩人になっていた可能性もあったのかも知れない。と一瞬思ったが、我が親愛なる姉が、それは許さないだろうな。


「そしてどうやら、玉藻前のいないイナリ山は……その狩人達の格好の狩り場になってしまったようね」


「…………」


 うん。さっきの二人の口ぶりから察するに、ルエルの言う通りだと思う。


 イナリ(やしろ)の宝……か。


「玉藻前」


 周囲に人の姿が無いことを確認してから呼びかけた。

 するといつものように――ドロンと青い炎が何処からともなく出現し、玉藻前が姿を現した。


 街道を走る俺達と並ぶように出現した玉藻前が、ジッとコチラを見つめてくる。

 どうやら、俺からの言葉を待っているようだ。何を訊かれるのか、予想がついているらしい。


「イナリ社に宝があるのか?」


 玉藻前は、前を向き直りながら答えてくれた。


「お主ら人間にとって、果たしてソレが宝と呼べる程の価値があるかどうかは分からぬが……イナリ社には、我にとってはとても大切な物がある」


「イナリ山は、鳳凰の聖火に焼かれたと聞いたが?」


「確かに、イナリ山は聖火に包まれ……木々は焼け、地は焦げ、岩は砕けた。しかし、山はかつての姿を取り戻しつつあると思うし、何よりイナリ社は無事じゃ」


 たしか、玉藻前は鳳凰との戦闘に敗れ、カルディアの方まで逃げ延びた筈。

 鳳凰はその後も、姉達に討伐されるまでイナリを占有していたと言う話だったが……どうしてイナリ社が無事だと分かるんだ?

 そう疑問に思うが、この玉藻前の表情はイナリ社が無事だと確信しているように見える。


 まぁ、俺はイナリのことを何も知らない。イナリ社が無事かどうかは、実際に行ってみれば分かるか。


 そして、その玉藻前にとって『とても大切な物』が、狩人の二人が言う宝ということだろう。


「玉藻前がカルディア高森林で身体を休めていたことは、全ての冒険者組合で共有されていた情報よ。そんな中でイナリへの立ち入り制限が解除されれば、イナリ社を探索しようとするのは狩人達だけでは無い筈。……冒険者も、多く訪れるでしょうね」


「…………」


 ルエルの言葉に、玉藻前はただ黙って頷いていた。


 高森林を出る前に、イナリ社は人間に無遠慮に立ち入って欲しく無い場所と言っていたのは、そういう理由らしい。


「そんなに大切な物なのか?」


 玉藻前がそこまで心配する『大切な物』とはいったい何なのか、正直気になる。

 いったいどれだけ大切な物なんだよ――と、そんな俺の質問に対して玉藻前は――


「……う、うむ」


「え?」


 頬を赤らめて、小さく頷いた。


「え、ちょ、何? どういう反応? それ」


「い、いや、何でもない! とにかく! とても大切な物なんじゃ、我にとっては! 済まぬが、イナリまでよろしく頼む!」


「あ! ちょ、おい玉藻前――」


 ドロン――と、再び青い炎の中に消えていった玉藻前。


 い、いったいイナリ社には何があるって言うんだ? いったいどれ程の大切な物だって言うんだよ。


 隣を走るルエルも、眉を潜めて首を傾げている。

 とにかく、先を急ぐことにしよう。


 ~


 そして――


「お待ち下さい。あなた方……イナリの住民ではございませんね?」


 カルディアを出発してから暫くが経った頃、相変わらず続いている街道の先を遮るようにして立つ男に、足止めされてしまった。


「この先は山岳都市イナリとなりますが、今現在……住民以外のイナリへの立ち入りは制限されております。明日の正午にその制限は解除されますので、出直して下さい」


 装いから、この男は冒険者組合員だと思う。


 どうやら、イナリに到着したようだ。そして、今はまだ立ち入りが制限されているとのこと。

 玉藻前の希望通り、立ち入り制限が解除されると同時にイナリへと入ることが出来そうだ。


 とりあえずは一安心。

 俺とルエルは互いに顔を見合わせながら、ホッ――と胸を撫で下ろした。


 次に、視線を前へと向けてみる。

 組合員の向こうの、更に奥――一際大きな山が見える。その山の麓には、所狭しと建物が並び建っている。山岳都市イナリだ――ここからでも、その綺麗な自然溢れる街風景が覗き見える。大都市だ。

 そして、あの大きな山が――イナリ山か。

 所々、山肌が剥き出しになっているのは鳳凰の聖火による物だろうか。


「コホン。もしイナリへ用があるのでしたら、近くにある宿酒場で一泊していくと良いでしょう。あなた方と似たような方々が、既に利用されていますよ」


「こ、これはどうもご丁寧に」


 組合員が視線で示す方、街道の脇にポツリとある宿酒場。

 おそらく――東陸街道からやって来た冒険者達に利用してもらう目的で、ここに店を構えているのだろう。

 街道の途中にも似たような店は存在していたな。比較的危険指定種が多い渓谷周辺には流石に無かったが……。


 とにかく、俺達もその宿酒場で部屋を借りることにしよう。


『蓮華亭』と書かれた看板が目に止まった。


「おいルエル! ここ蓮華亭だぞ」


「え、えぇ。蓮華亭は大陸全土に支店を持つ有名な宿酒場よ」


 ――知らなかったの? みたいな眼差しを向けられるが、気付かない振りをしながら扉を押し開く。


 中は、カルディアにある蓮華亭と似たような雰囲気。

 数多く並べられた椅子と机には、既に多くの者達が腰を据えている。

 ガヤガヤと、とても騒がしい。


 そしてこの場にいるほぼ全ての者の装いは、一般人のソレとは違う。


 冒険者、もしくは――


「狩人か……」


「そうね。冒険者証の無い者は、そう思っておいた方が良いわね」


「とにかく、今日はここで一泊するからな」


「えぇ、構わないわ」


 部屋を確保すべく、受付のある奥へと歩き出す。

 途中、近くのテーブルでの会話が、耳に入って来た。


「イナリ山か……たしかイナリ社は、簡単には見つけられねえって話だろ?」

「あぁ。妖術……って噂だ。並の奴には、見つけることはまず不可能――だが」


 ピタリと、思わず足を止めてしまった。

 そこで行われている会話が気になってしょうがない。


「イナリ山の妖獣がいねぇ今、その妖術も弱まってるって話だぜ?」

「けどよ、もし……その妖獣が戻って来てたらどうするんだよ」


「あぁん? そん時はお前……その場にいる全員で妖獣を討伐すりゃ良いだけの話だろ。こんだけの狩人が集まってんだぜ? 危険指定レベル18の妖獣だろうが余裕だろ。分け前は、そんとき考えりゃ良いさ、多少揉めるかも知れねーがな」


 ガッハッハッハ! と笑い声を上げる男。頬がかなり赤く染まっている所を見ると、相当に酔っているらしいな。


「シファ……気持ちは分かるけど、今狩人と揉めるのはあまり良くないわよ。私達はもう、冒険者なんだからね?」


「分かってるよ」


 気を取り直して、俺は再び歩きだした。



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新頻度が遅くなりすぎると読者が離れやすいので注意です。 とても面白いので、そのぶん寂寥感というものがありまして(笑)他の作品に移っちゃう人が多いですね。 イナリ編が結構進みましたね、この…
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