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#100 第一歩

 

 姉からの指名依頼を受けて、俺達は早速イナリへと向かうことにした。

 時刻は昼時を既に回ったくらいの時間。玉藻前を連れて高森林の中を歩いているところだが……。


「おい、ちょっと引っ付き過ぎだぞ、玉藻前」


 必要以上に体を引っ付けてくる玉藻前。

 初めて出会った時と違い、今は少し歳上の女性の見た目をしているため少々照れ臭い。っと言うか歩きにくい。


「なに? いや、コレは仕方の無いことなのじゃ。我はお主らに護られる立場じゃが、同時にお主のことを護るようにと言われておる」


「だ、誰に?」


 一応、確認してみた。


「お主の姉上にじゃ」


 おい姉よ、心配し過ぎだぞ……。

 俺ももう冒険者になったって言うのに……姉にとってはまだまだ『心配な弟』と言うことだろうか。


 ――姉に言われた。そう言われてしまえば、俺は少し断りにくい。


 ため息が溢れてしまう。


「だけど玉藻前、ずっとその調子じゃシファも疲れてしまうわ。危険な魔物や魔獣と遭遇してからでも遅くはないわよ」


 と、そんな俺達を見かねたのか……ルエルがやんわりと玉藻前を引き離してくれた。


「まぁ、俺達の実力は玉藻前も知ってるだろ? そうそう護られるようなことにはならないと思うぞ」


「むぅ……」


 後ろの尻尾がしゅんとしてしまった。


「と、とは言え……いざって時にはよろしく頼むな! 玉藻前!」


 俺達の実力を玉藻前が知っているように、玉藻前の強さも俺達はよく知っている。その玉藻前を戦力として数えて良いとなると、ハッキリ言って怖い物なしだろ。


 玉藻前の尻尾が元気を取り戻したのを確認して、俺達は森の中を進む。


 ~


「依頼書、確認しました。それではこの瞬間をもって……カルディア高森林の立ち入り制限を解除させてもらいます」


「はい。御苦労様です」


 高森林から少し歩いた街道に立つ冒険者組合員に、姉からの依頼書を見せると、組合員はその依頼書に一通り目を通してからそう言った。俺達の後ろに立つ玉藻前の姿もしっかり確認している。


 玉藻前が高森林を離れることで、姉の『絶級特権』も役割を終える。

 ちなみに高森林を徘徊していた死霊系統の魔物は、全て姿を消している。と言うか、あの殆どは玉藻前の妖術で作られた偽物なのだと。

 思い返してみれば、ミレリナさんと調査を行った時も……実際に俺達を襲ってきたのはデュラハンだけだった。

 聖火の傷を月の光で治療するために姿を晒さなければならない夜に、人を高森林の奥に寄せ付けないための策だったそうだ。


「それでは、道中お気をつけて」


 組合員は、軽く礼をしてから街の方角へと帰っていった。


「さて……」


 改めて、俺は玉藻前へと向き直る。

 ここからはもう高森林の外。コレは正式な冒険者としての依頼任務だが、玉藻前は危険指定レベル18。出来れば、あまり人の目に止まりたくはないな。


 ――となると。


「もう一度確認しておくぞ。玉藻前の姿を隠す妖術は、ずっと使い続けることは出来ない。そして完全に気配を隠そうとすればするほど、その時間は更に限られてくる。でいいんだよな?」


「うむ、その通りじゃ。気配を消そうとするほど、消費する魔力が大きくなってしまう」


「よし。なら、姿を隠すのはどうしても必要な時だけにしよう。出来るだけ目立たないように行動すれば、その妖術を使う場面も少なく済む筈だ。問題ないよな? ルエル」


 多分コレで良い。

 玉藻前の見た目は目立つが、魔物や魔獣のような凶悪な外見をしてる訳でもない。

 いきなり討伐してくるような奴はいないとは思うが、“上“級冒険者のサリアのような者も存在するし、基本的に玉藻前の姿を人前に晒すのは避けた方が良いだろう。

 冒険者相手になら、姉からの依頼書を見せれば一応は納得するとは思うが……念のためだ。


 玉藻前は姿を消せるが、魔力を消費すると言う。本当に必要な時に姿を消せなくては意味がないしな。


「えぇ、私もその方針で良いと思うわよ」


「よし、じゃあ出発だ」


 冒険者となって初めての大きな依頼任務。少し慎重になりすぎているかも知れないとも思うが。ルエルも同意してくれた。

 基本方針を改めて確認してから、俺達は再び歩き出した。

 まず向かうべき方角は――北だ。


 ~


 カルディア高森林を出て北に暫く街道を進む。

 過去に行われた危険指定種掃討任務のおかげか、カルディア周辺はかなり安全が確保されている。

 一時は、夜間に野盗が出没していたようだが、いつの間にかそれもパッタリと無くなったとかなんとか。


 よく晴れた空の下、魔物や魔獣に襲われることなく街道を進む。ここら辺は訓練生の時にも何度か来たことがあるため慣れた物だ。

 周囲は背の低い草に囲まれた草原地帯。見晴らしもよく、魔物の姿を見落とすこともないが、結局魔物とは一度も遭遇することなく日没の時間となった。


「一応は、可能ならば夜間の行動は避ける。問題ないな?」


「ええ。だけど、玉藻前の姿を隠して移動したいなら、夜間にこそ行動するべきだと……私は思うわよ?」


 確かに、その点については少し迷った所でもある。

 しかし夜間というのは、思っている以上に気を張る必要があり、疲れてしまう。昔の調査任務で、夜の高森林を調査した時にそれを思い知った。


「分かってる。だが、休める時には休もう。こうして村や街がある時は、ちゃんと休むべきだ」


「えぇ、分かってるわ」


 ――姉ならどうするのだろうか。夜だろうが何だろうが、さっさと進んでしまうんだろうか。


「じゃあ玉藻前、暫くの間……妖術で姿を隠してくれるか?」


「うむ。分かっておる」


 ――ドロン。と、玉藻前は青い炎に吸い込まれて、姿を消した。が、ほんの少しの気配は残っている。玉藻前の存在を知っている俺達だから分かる――ほんの少しの気配。


「よし、じゃあ村へ入ろう」


 カルディアの北に位置するこの場所にある――シロツツ村。今日はこの村の宿屋で休むことにした。

 俺達は、シロツツ村へと足を踏み入れた。

 主に薬草の栽培が盛んな村だ。カルディアで売られている薬草も、ここからやって来ているらしい。

 街で買うよりも、安値で薬草を購入することが可能だ。村を出る前に、買っておいても良いかも知れない。


 誰も俺達に注目していない所、玉藻前の気配は村人には察知されていないな。

 問題なく、宿屋へと到着した。


「あいよ、二人部屋で8000セルズ。一人部屋は5000セルズだよ」


 カウンター越しに宿屋のおっちゃんがそう言った。


「…………」


 こ、この場合はどうすれば良い?

 玉藻前の姿は見えていないし、形は俺とルエルが二人で泊まりに来たと言うことになっている。

 一人部屋を二室? それとも二人部屋を一室か?


 ――チラリと、ルエルの顔を窺ってみた。


「うふ」


 小さく首を傾げつつ、笑顔を見せてくれた。


 いつもならこんな時、何かしらの助言をくれるのがルエルだが……なるほど。今回は何も言う気はないということか。


(二人部屋を一室じゃ! シファよ!)


 と、悩む俺の耳元に響く声。玉藻前だ。


(お互いを護るためにも、同じ部屋で寝るのは当然と言えるぞ)


 確かにな……。


「二人部屋をお願いします」


 8000セルズを店主に手渡した。


 ~


 早朝、俺達は出発することにした。

 ちなみに昨日、玉藻前は部屋に入るなり姿を現した。なんやかんやあったが……結局はルエルと玉藻前が同じベッドで寝ることになった。


 そして村で有用そうな薬草を買ってから、村の北側から街道へと出る。


 ここから先は、教練で行ったことの無い土地。

 姉との特訓では色んな場所に連れて行かれたが、その時はただただ姉の後ろをついて回っていただけだ。

 冒険者になった今、俺を引っ張ってくれる姉も教官も……ここにはいない。パーティーの仲間であるルエルと、相談しながら進むしかないのだ。


「よし……出発だな」

「ええ」

「よろしく頼む」


 改めて、俺達は一歩を踏み出した。


 ~


 更に北へと進むこと暫く、早朝だけあって人通りはまばら。

 そして――俺達の目の前には北と東へそれぞれ伸びる街道があり、脇には看板が立てられている。


 北へ続く街道の看板には、“王都方面――レグリスの街、グランゼ大街道へはコチラ“。と書かれている。

 一方、東へ続く街道の看板には、“東陸街道――炎帝の渓谷方面、※危険指定種警戒“との文字。


「危険指定種警戒……とは書いているけど、渓谷に近寄らなければ、それほど遭遇率は高く無い筈よ」


「あぁ。東の街道を進もう」


 炎帝の渓谷を突っ切る道順ではなく、この街道を利用して東から迂回してイナリを目指す。


 ――俺達は、東の街道へと足を向けた。



お久しぶりです。

第一巻が、1月15日にアーススターノベル様より発売します。イラスト担当はスコッティ様です。各ヒロインの魅力が最大限発揮されております! 姉とか姉とか姉とか!

興味のある方は是非、手に取ってみて下さい。


本当に、皆さんのその評価のおかげです。これからも、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新、楽しみにしてました! 書籍化作業と連載と、忙しいと思いますが、お身体に気を付けて頑張って下さい!
[一言] やはり休息は大事ですね。それもまた冒険者の務めでしょうか。 (殉職したマチ○○中尉も「休息もパイロットの務め」と仰せだった)
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