#1 英才教育
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評価も是非……。
『冒険者になりたいなら、これぐらい出来なきゃ駄目よ?』
頭の中で反響する、姉の声。
この世界の誰よりも美しくて、俺の大好きな姉。そんな姉の言葉を心に刻み込んでから、目の前の巨大な岩に向かって、剣を振り抜いた。
「とりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「――ふぉわあ!!」
結果……俺の振り抜いた剣は、硬い岩肌に阻まれ、甲高い音と共に、手の中から弾かれた。
衝撃で手首が痺れて痛い。
「はぁ」
――ドサリとその場に座り込み、傍らに視線を向ける。
ソコには、俺の斬りかかった岩の倍はあるであろう大きさの岩が、綺麗に一刀両断された姿で転がっている。
姉がやった物だ。
「冒険者は皆、こんなことが出来るのか……」
俺の冒険者への憧れは、より一層大きな物へと変わっていく。
~
『冒険者になりたいなら、これぐらい倒せなきゃ駄目よ?』
美しい声色の姉の言葉を心に刻み込んでから、目の前の怪物を見上げた。
な、なるほど。冒険者という奴は、こんな怪物だって簡単に倒してしまうのか……。
ギョロリとした鋭い眼光に、巨大で逞しい体躯。触れば怪我してしまいそうな表皮に、翼。
竜ってやつだ。
姉は『竜を見たらすぐに逃げなさい』と以前に言っていたが、冒険者にとっては取るに足らない存在なのだろうか?
すぐソコには、目の前の竜よりも一回り大きい竜が息絶え、地に伏している。
姉が倒した竜だ。
俺の冒険者への憧れは、猛烈な物へと変わった。
~~~
俺は人里から少し離れた場所で、姉と二人で生活している。
二人だが、何不自由ない生活をさせてもらえている。と言うのも、姉が冒険者で、俺を養ってくれているからだ。
冒険者とは何なのか、俺はいまいちよく分かっていないが、たまに街に出た時にソレっぽい者を見かけるし、耳にもする。
~が遂に~を討伐した。とか、~が遂に~に昇格した。とかだ。
街で見かける冒険者は皆、楽しそうで、生き生きとしていた。
冒険者を見ている内に……俺は冒険者になりたいと、思うようになっていた。
そして――
「ロゼ姉! 俺も冒険者になりたい!」
「えぇ!?」
唐突な俺の告白に、我が姉、ローゼ・アライオンが目を丸くしている。
「え、えっと……その……え、えぇぇ!? 本気?」
普段は冷静な姉が、ここまで取り乱すのも珍しい。
オロオロと金色の髪を揺らし、美しく光る金色の瞳は泳いでしまっている。
やはり、冒険者とは誰でもなれるようなものでは無いのだろうか?
だが、俺もいつまでも姉に頼ってばかりではいけないし、いつかは自立して、一人で生きていかなければならない時が来る。
俺の決意は固い。
そう熱烈に伝えると、姉はしぶしぶと俺が冒険者を目指すことに納得してくれたのだが――
「分かったよシファ君、でも、冒険者になりたいのなら――」
~~~
と言うのが1年前の話なんですが……。
俺は未だに巨大な岩を一刀両断することは出来ないし、竜を一人で討伐することも出来ない。
いつも、竜に戦いを挑み死にそうになる所に姉が助けに入ってくれた。
あの恐ろしく強い竜を簡単に倒してしまう姉の姿を見て、俺はますます姉に憧れたのだ。
しかし何故なのか、姉は俺を助ける度にいつも――
『どうだった? シファ君! お姉ちゃん凄いでしょ? 更に好きになった? ねぇ?』
と必要以上に自慢してくる。
確かに凄いし、姉のことは好きなので、素直に答えると――
『ぐっ……流石私のシファ君……めんこい、でも冒険者になりたいのなら誰よりも強くないと駄目!』
と。
そして――
少し離れた場所に立つ姉。その右手には、豪華な装飾の施された長い槍が握られている。
……なるほど、今日は槍か。
「さぁシファ君! 冒険者になりたいのなら、私くらいとは互角に戦えなきゃ駄目なんだからね!」
これが1番難しいのだ。