BreakLove 1
秋が終わり、冬に移る時期だった。翔は鼻歌を歌いながら歩いていた。
教室に入ると、優樹と翼が話していた。
「おはよう!」
「おはよう、翔」
優樹はスマホを取り出して翔に見せた。そのサイトはケータイ小説の類いであった。
「何それ?」
「ケータイ小説。彼女が翔に見せてみてって言ってたから」
「優樹の彼女って誰?」
翔と優樹の話に翼が首を突っ込む。優樹の彼女は意外に知らされていないようだ。
「俺の彼女は翔の元カノだ。中学生時代の話な。翔は覚えてないけど」
「へぇー、僕に彼女なんて居たんだ」
「お前、顔は良いからな」
優樹の言葉に翔は苦笑いをした。
「とりあえず、読んでみろ」
「うん!」
翔は言われていたことを思い出してスマホの電源を入れた。気になってはいたが、授業中はスマホ禁止なので家で読むことにしたのだ。
翔は家に帰り、直ぐ様スマホを開いた。優樹が勧めてきたあのケータイ小説を読むだけだろう。
翔は目を見開いた。その顔は真っ青と言えるだろう。それほど蒼白していたのだ。
内容を要約したものがこれだ。
私は体育祭で輝いている彼に惹かれた。彼は今にも空に羽ばたきそうな人だった。
私は学校内ですれ違うだけで充分だと思っていた。
友達と待ち合わせをしていた時だった。私は彼と自転車ですれ違った。私は驚いて後ろ振り向いてしまった。
それからだった。学校ですれ違う度に笑われるようになっていた。いつしか、私は『ストーカー』と呼ばれるようになった。
大好きな人に笑われるのは辛かった。
彼らが仕掛けたのか分からないが、周りで不思議な現象が起きていた。廊下に出る度に笑われること。誰かに呼び掛けられること。
もう私は嫌になってきて、死のうと思った――
翔は複雑な気分でコンビニに行って適当に夕飯を買っていた。
小説の内容を思い出すと、居たたまれない気持ちになった。胸が苦しい。
「翔じゃん、久しぶり」
話し掛けてきた男が誰なのか分からず、翔は首を傾げた。男は呆れた顔をして苦笑いをした。
「そっか、翔は記憶喪失だからな。俺は富田光一。よろしくな」
「うん、よろしくね」
翔は目の前の男を覚えていない。なぜならば、記憶喪失になってしまったからだ。本人はよく分かっていないが、記憶を無くすほど何かあったようだ。
「みんな、お前に会いたがってる。けど、お前が記憶喪失だからって会っても……」
「なんか申し訳ないね、僕が記憶喪失になったからね」
「僕?一人称、いや、性格まで変わっちまったのか?」
光一曰く、以前の翔は今の翔とは正反対の性格らしい。記憶喪失ってそんなにすごいものなのか、翔はよく分かっていない様子だった。
「まぁ、昔のみんなに会うのは無理だろうから新しい友達を教えてやるよ」
「新しい友達?」
「アイツも複雑な恋愛をしてる。お偉いさんの孫らしいけど、けっこう面白いヤツだぞ」
翔はその新しい友達に興味津々のようだ。その様子に光一は安堵のため息を漏らす。
「良かった、元気そうで」
「僕は元気だよ!」
「なんか、スゲーピュアになってる……」
高校生ではあり得ないほど子供のように無邪気な翔に光一は驚いたが、そんな様子も面白くて笑った。こんな翔も悪くない、と。
「じゃあな、翔。また電話しよう」
「うん!」
電話?翔は首を傾げたが、スマホには記憶喪失前のことも残されているだろう。
翔は弁当を購入し、急いで家に帰った。そして、スマホを開いた。
「メールなら残ってるはず……」
翔は光一に会ったせいか、記憶を知りたいという衝動に駆られた。メールなら記憶喪失前の会話が残っていると思ったのだ。
「あった!」
『明日は卒業式だな。翔のストーカーも泣くかな 光一』
『そうだな。後輩のクセに気持ち悪いよな。本当、死ねよ――』
『“翔”』
「僕、そんな……」
記憶喪失前の自分の性格の悪さに翔は驚いてその場で倒れ込んだ。別に気を失ったわけではないが、とても混乱している様子だ。
『光一だ。翔、大丈夫か?読まないだろうけどな。まさかアイツが――』
『自殺するなんて』
何があったのか分からない。翔は落ち着きを取り戻すために気分転換として先ほどのケータイ小説の続きを読んだ。
私は自殺行為に挑んだ。リストカットだ。私は手首をカッターで切ったはずが、深くまで行かず、血は出なかった。
死にたいのに、どうしてなの?もうあの人には会いたくないのに。
冬休みになった。私は呑気に過ごすことが出来た。あの人に会うことはないから安心した。
毎日重い足を動かして、学校に行った。辛かった。周りの視線もすべてが恐ろしい。
助けてよ。誰か、助けて――
こんな時に自殺類いの話が出て、翔は目を瞑った。頭を回転し過ぎたのか、すぐに眠ってしまった。
次の日。翔は支度をして学校に向かった。教室には優樹に惚気話をする翼が居た。
「おはよう、優樹、翼君」
「おはよう。聞いてよ、翔。コイツさ、朝から彼女の話しかしねぇの。気持ち悪いったらあらしない。翔、翼を止めてよ」
優樹は呆れた顔で翼を見た。翼はとても幸せそうな顔をしていた。体育祭で告白した学校一甘い仲良しカップルと言われるほどだ。翔にはよく分からないことだが、すごいことだと理解している。
この後、翼がその彼女を守って事故に遭うことなんて誰も知らなかった。
「今日は光一君と新しい友達に会う約束してるんだ」
「ふーん」
翔の言葉に優樹は全く興味がないようだ。それも気にせず、翔はとても嬉しそうに歩いていた。
校門のところに来ると、光一と金髪に染めた少年が居た。彼が光一が言っていた新しい友達なのだろうか。
「俺は篠原征也、よろしく。君が翔?」
「うん、よろしくね」
そんな時だった。目の前の交差点で悲鳴が聞こえた。
「翼!」
翼の噂の彼女である花菜が顔を蒼白して目を見開いている。彼女の目の前には、血だらけの翼が倒れていた。
「血……」
「翔、どうした?」
翔はその赤い液体に顔を蒼白させた。頭痛がする。
「血、やだ……血……」
「翔!?」
翔は光一達に引っ張られ、交差点から離れた学校の駐車場に来た。
「翔、どうした?まさか、思い出したか?」
「違う、でも……血はやだ!」
挙げ句の果てに翔は絶叫した。必死に止めようと、男三人は協力した。翔の頭にはとある情景が浮かんでいた。
屋上の手すりに座る女。振り向いて、笑った。
『先輩、さようなら……』
「ああああああ!!」
「翔、落ち着け」
征也は翔を押し倒した。翔はハッと目を覚ます。落ち着きを戻した翔の様子に光一と優樹は安堵した。
「翔、お前の話は聞いてる。やはり、血が関係することが記憶喪失の原因じゃないか?」
征也の言葉にその場に居た者は息を飲んだ。光一はなんとなく察してしまったのか、一歩下がった。
誰も知らない翔が記憶喪失になった原因。自身で突き止められるのも時間の問題だ。




