タブーラブ
栞奈と裕也、陽太と清香は人気の無い路地裏に居た。いつも栞奈達はここに集まっているのだ。
「栞奈、応援リーダーになったんだって?」
「うん!」
裕也に聞かれて、栞奈は嬉しそうに答えた。そんな楽しい一時を過ごしていた時だった。
「父さん?」
裕也は毎日嫌ってほど聞いている声に肩を震わせた。声の方に振り向くと、金髪に染めた青年が居た。
「征也……」
「父さん、大人のクセに高校生と一緒に居るなんて馬鹿みたいだな」
栞奈達はまさかの息子の登場に、退こうと足が後ろに動く。栞奈は征也と目が合って肩を震わせる。
「君達、何者?」
栞奈と清香と陽太は戸惑いながら自己紹介をした。征也の目はとても鋭い。
「へぇー、君って栞奈って言うんだね」
ニヤリと笑った征也の肩を掴んだのは裕也だった。
「家に帰ったら話す。栞奈、良いか?」
裕也の言葉に栞奈は頷いた。本当は誰にも知られたくない。しかし、裕也と一緒に居るにはこうするしかないのだ。
裕也は征也を連れて帰っていた。残された栞奈達は不安でいっぱいだった。
裕也は自室に征也を招き入れた。征也はそんな裕也を怪訝そうな顔で見つめる。
「どこから話そうか。言わないと約束してくれるなら全てを話すよ」
征也は重く頷いた。裕也は嘆息を吐く。
「じゃあ、話そうか。俺らの関係を……」
入学式の日。彼女は道に迷っていた。俺はそんな彼女に道を案内してやった。
『方向音痴だね』
『なっ、方向音痴じゃないです!』
初日から教師に反抗する生徒が居て、俺は面白いと思った。
『名前は?』
『松山栞奈です……』
それが彼女との出会いだった。その時の俺はただの反抗する生徒としか思っていなかった。
彼女の方向音痴さのせいか、彷徨う栞奈の見掛けることが多く、仕方なく道案内をしてやった。
まさかの社会科担当のクラスが彼女のところだったとは思ってなかった。奇妙が悪い偶然がたくさん重なっていた。
俺は毎日彼女と居ることが楽しかった。彼女もとても楽しそうだった。
そんなある日。悲劇が起きた。
『目障りなんだよ、死ね!』
俺が駆け寄った瞬間、赤月美那に殴られ、栞奈は頭から血を流して倒れていた。それを見て、俺は赤月が睨み付けた。
『ふざけるな。そんな酷いことしてるヤツの方が余程目障りだ!』
すぐに救急車を呼び、運んでもらった。
彼女を傷付けたものは全て許さない。俺はこの手で復讐してやる。そう思っても、権力の問題上許されるわけがない。
俺は入院中の彼女を必死に支えた。彼女のメンタルはボロボロだった。
それからというものの、赤月は何もして来なくなった。俺らは安心して過ごせるようになった。
しかし、今年の春にまた赤月は栞奈達に被害を与えた。なぜか栞奈の担任が俺に押し掛けてきた。去年の噂を知ってるらしい。
久しぶりに元々居た西宮高校に来た。栞奈と清香の体にはたくさんのアザがあった。
久しぶりに会えて喜んでいると、陽太という少年が押し掛けて来た。自分も救いたい、と。
栞奈の担任と話していると、近く居たはずの赤月が居なかった。みんなで栞奈の担任を追いかけると、屋上の手すりに掴まっている赤月美那が居た。その瞬間、赤月は飛び降りたのだった。
「それを見てしまった栞奈を支えるために、俺は毎日彼女に会いに行ってる」
征也はそんな裕也の話に愕然とした。自分の父親が高校生に恋してるとか別で、とにかく支えようと奮闘する裕也に驚いた。
征也がいつも見ている裕也は、偉い家の息子で、生きること関して無気力そうなイメージがあった。それがある時から焦燥に変わったのはこのせいだったのか。
「もちろん、栞奈を愛してる。自分でもヤバいヤツだと自覚してるよ」
親の勝手で決められた結婚だった裕也にとって、この恋は初恋と言っても過言ではない。それほど、彼は周りの大人に縛られて生きてきたのだ。
「好きという気持ちを初めて知ったよ。今更かよって感じがするけどな。栞奈は既に担任も虜にしてるよ。あの儚さと反抗するギャップは偉大だね」
教師を虜にしてしまうほど人気があるのだろうか。実際に惚れてる男がここに居る。
「母さんが帰って来たな。じゃあ、解散な?これは絶対に内緒だ」
裕也は征也の頭をポンと撫でて部屋を出た。征也は母親に呼ばれるまでそのままだった。
「ここが親父が元々働いていた学校かぁ……」
征也は西宮高校の前に立っていた。どこからか、女子の歓声が聞こえる。
あのポニーテールをしてる子が栞奈か。そう思って、彼女達がここへ歩いて来るのを待っていた。
栞奈達は征也に気付くと、一歩後ろに下がった。征也は仕方なく栞奈達のところへ歩いた。
「そんなに怖がらなくていいよ。普通に仲良くしたいだけだしな」
そんな征也の優しい言葉に栞奈は目を丸くした。
「ねぇ、俺ん家来る?」
「えっ……篠原先生の家に?」
栞奈の反応に征也は腹を抱えて笑っていた。
「やっぱり、父さんかぁ。じゃあ、ついて来てよ。陽太と清香も」
征也の言葉に怪訝そうな顔をして陽太と清香は顔を見合わせて首を傾げた。栞奈は裕也の家に行けることしか考えてなかった。
征也に連れて来られた場所に栞奈達は目を見張った。目の前にあるのは、洋風チックな大豪邸だった。
「これが、先生の家?」
「俺のお祖父さんが元県知事でお金持ちだったんだ。先生のお父さんってことだ」
「先生のお父さんが、元県知事……」
栞奈は深く頷きながら、征也に案内された。玄関の広さも廊下も一般家庭とは全く違う。外国にでも迷い込んだ感覚だった。
やっとリビングと思われるところに着いた。リビングというより、大広間と言った方が正しいくらいの広さだ。
「サヤ、ヤバいね。これが先生の家……」
「あんなイメージだったから、なんかあり得ない」
裕也のイメージとは、少し若く見える普通の眼鏡教師だった。親がそんなに強い人だとは思っていなかった。
「すごいでしょ?あっ、誰か来た」
「えっ?」
誰かの足音が聞こえた。栞奈は先生の奥さんではないことを願った。
「なっ!栞奈達来てたの?征也!」
「良いじゃん、家紹介したって」
裕也はそんな征也に嘆息を吐いた。如何にも帰ってきたというスーツ姿は普通にカッコいい。
「お前、教師のクセに偉いところ住んでんな」
「陽太。教師に向かってそんなことを言うな」
陽太のツッコミに裕也は更に突っ込んだ。
「せっかくだし、栞奈。俺の部屋に来るか?」
「はい!」
栞奈だけ裕也と一緒に歩き出した。そんな裕也を見て、残された征也達は察した。まさか、と。
栞奈は裕也の部屋に連れて来られた。裕也は鍵を締めて、栞奈を大きなベッドに倒した。そんな突然の行動に栞奈を戸惑っていた。
「先生……」
「この家は見られたくなかったなぁ」
――裕也。お前は俺達に絶対に従うんだぞ。お前は俺の息子だからな。
「もう抑えられないんだよ。お前は俺にとって、初恋の相手みたいなもんなんだよ」
――裕也。お前の結婚相手はこの人だ。キレイだろ?
「俺は、普通に生きたかったんだよ。俺も自由に生きたかったんだよ……」
――歌手になりたい?馬鹿げたことを言うな。お前はお母さんみたいな立派な教師になるんだ。
幼き裕也を縛り続けた両親が、裕也にとって憎き存在であった。自由に生きることも許されない、夢を追うことも許されなかった。全ての主導権は父親だったのだ。裕也はそんな父親が大嫌いだった。
――お父様。僕ね、たくさんの人を助けるヒーローになりたい!
――そうか。なら、教師はどうだ?教師にならたくさんの子供達を救えるぞ。
「先生の辛さなんて、私には分かりません。全く違う世界にしか聞こえませんけど、自由に生きることを許されないのはいけないことだと思います。私もそうでしたから」
栞奈は必死に裕也を慰めようとする。しかし、栞奈には大人の世界なんて分からない。別世界の話にしか聞こえないのだ。それでも、愛しき人を助けたいのだ。
「先生、私は貴方に何をされても構わない。この場で、行為に挑んだって良い。私は大丈夫ですから」
「栞奈……」
裕也は立ち上がり、ベッドに座って頭を抱えた。自分がしようとした行為は犯罪だ。彼女は未成年者であるのだから。
一方、栞奈は期待していたのか、不機嫌そうに座り直した。それを見かねた裕也はこう言った。
「栞奈。お前は体育祭リーダーだろ?あまり危険なことはしたくない。それは、また今度な?」
「……はい!」
これは禁断の恋だと分かっている。それでも二人は心から愛し合う。お互いにとって、これは初恋に等しいのだから。




