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君の運命を



 栞奈は自分の体に違和感を覚えていたのだ。最近、やたらと鼻血が出る。たまに血の痰が出たりするのだ。それでも栞奈は気にしていなかった。



 体育の授業で卓球をやっていた時、目の前の世界が揺らいだ。ぼんやりとして、栞奈はそのまま倒れて意識を失った。花菜と清香、陽太、翔太が駆け寄った。

 放課後にも栞奈は目覚めなかった。それを聞きつけた裕也も見に来ていた。


「栞奈……」


 裕也は誰も居ないと確認して、栞奈の額にキスをした。すると、栞奈がゆっくりと目を覚ました。


「大丈夫?栞奈」


「先生……」


 栞奈の声が聞こえたのか、養護教諭の河口が入ってきた。


「松山さん。最近、変なことありませんか?具合いが悪いとか……」


 栞奈は必死に思い出す。最近よく出る鼻血、たまに咳をする血痰。今回の貧血。それを河口に話した。


「病院に行った方が良いわ。ちょっと、危険かもしれない」


 河口の言葉に栞奈は肩を震わせた。裕也と翔太の顔も蒼白している。

 親に来てもらい、栞奈は病院に連れて行かれた。最近起きている症状を話すと、医者は難しい顔をした。そして、色んな検査をさせられ、診断室に戻った。医者は栞奈に言った。


「自分の病気を知っても耐えられるか?」


 栞奈はその意味を理解するのに時間が掛かった。きっと、死へと直結する病気になってしまったのだと察することが出来た。栞奈はゆっくりと首を縦に振った。


「栞奈さん、君の家族で奇妙な病気で亡くなった人は居るか?」


「お父さんが病気で亡くなったそうです。急に言葉が出なくなってそのまま……」


 栞奈が小さい頃、父と一緒に部屋で遊んでいた。そんな時だった。


『か……ああ!』


 急に言葉が出なくなって倒れた。救急車に運ばれて、父はそのまま亡くなってしまったのだ。

 それはあまりにもショッキングで、今でも鮮明に栞奈の記憶に焼き付いている。

 栞奈と母の話を聞いた医者は栞奈を見つめた。もう答えなどとっくに掴んでしまったような表情だった。その瞳が少し青く見えるのは気のせいだろうか。


「貴方の病気は、オスラー病です」


「えっ……」


 高校生の栞奈が理解には理解が出来ない病気だった。なんとなくだが、鼻血が出やすく、肺の血管の形が変だということは分かった。


「入院して、肺の血管の手術、鼻血の治療などをします。よろしいですか?」


 栞奈は迷わず頷いた。早く元気になって、みんなと一緒に居たいんだ。



 次の日の夕方。栞奈の入院を聞きつけたのか、ドリーム団全員が揃っていた。


「栞奈ちゃん、大丈夫?」


「花菜……大丈夫だよ」


 栞奈は笑顔で居るが、花菜は不安でいっぱいだった。そんな花菜に気付いた翼は前に出て栞奈の頭に触れる。春翔は察して駆け寄った。


「翼先輩!それはやめて下さい!」


「花菜には幸せになってもらいたいんだ。それに大したことじゃねぇよ」


 人の人生を、人の命を救った代償が大きい翼の能力『世界操作』。それを知らない人にはどういうことなのか分からない。


「やめてよ、翼。運命を変えたら……」


「花菜、俺は生きるから大丈夫だ。俺はお前に幸せに生きてほしい。お前の幸せを奪わない世界を俺が操作するさ」


「やだ……やめて……」


 花菜の声を完全に無視して、翼は栞奈を見つめた。


「先輩……?」


「大丈夫、全部が元通りになるから」


 強烈な黒い光に包まれた。そこには黒い羽を生やした翼が居た。その瞳は青く、決意を表していた。力を注ぐように眩しい光が現れる。

 光が収まった時には、翼は元の姿に戻っていた。翼は栞奈に微笑んだ。


「これで元通りだ。お前は自由になれる。花菜を幸せにしてやってくれ」


 翼はそう言って、医師を呼んだ。医師達は驚いた。完全に治っていたからだ。肺の奇形も普通の形になっていたのだ。

 翼は一人の医師に呼ばれた。談話室に連れて行かれた。


「君、悪魔だよね」


 早速核心を打たれて翼は肩を震わせる。そんな翼に医者は笑った。


「大丈夫。俺も『不老不死』の悪魔さ。悪魔の子ってけっこう落とされてるよね。ちなみに、俺は飯塚蓮斗。よろしくな」


 まさかの展開に翼は戸惑ったが、なぜか安堵する。仲間が居るという感覚がしたからだ。


「この仕事で相当金貯めたし、どこか海外に行こうかなって思ってるところだよ。君の能力は?」


「……『世界操作』です」


 翼の能力名に飯塚は目を見開いた。名前を聞くだけでも強い能力だと理解できてしまうのだ。


「君の能力は強すぎる。使えば、寿命も削れる。栞奈さんを助けるために使ってしまったんでしょ?君が成人なるまで生きれるか分からないくらい削れたと思う」


 飯塚の言葉に翼は息を飲んだ。花菜と結婚して、幸せな家庭を築くことも出来ない。


「あと数年しか生きられないよ」


 飯塚の言葉に翼は唇を噛んだ。そんな時だった。談話室の扉が勢いよく開いた。そこには翔が居た。


「翼、お前……」


「驚いた?人間じゃない俺が怖くなった?」


 焦燥感が目に見える翔に翼はそう言った。無理に強がったように思えた。翔の後ろにはドリーム団がちゃんと居た。

 突然だった。翔が翼を抱き締めたのだ。


「怖いわけねぇだろ。親友は親友なんだ……お前は一緒に生きてきた人間だ……」


 抱き締める翔の声は震えていた。その温もりに力が抜けたように翼は泣き喚いた。そんな様子を花菜は男の友情だと思って見ていた。

 翔は離れて翼に言った。


「俺らはみんな、お前の友達だ。誰も怖がりはしねぇよ。みんな、お前が好きなんだからな」


 翼が自分が悪魔だと知って最も恐れること、人間との共存だった。自分が悪魔だとバレてしまえば、人間は怖がって寄って来なくなると思って怖かったのだ。

 皆の笑顔に翼は涙を拭って笑った。


「ありがとう、みんな……」



オスラー病って恐ろしいみたいですよ。

悪魔の翼が能力で治すのがやっとって感じの難病を探したらこれがピッタリだったんです。

感動で終わったと思えば、またシリアス展開へ。


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